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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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調査前の会話

幸彦は用件を伝え終え、軽く組手の指導をした後帰っていった。


康太はあらかじめ件の報告者の魔術師、そして現地周辺を拠点にしている魔術師たちの名前を教えてもらい今後の方針を確認していた。


そしてそのあとのことを考えて気が重くなる。


もしただの犯罪者が相手だった場合、康太がどのように行動するか、それが一番の問題だったのだ。


他の魔術師からすればなんだそんなことと思われるかもしれないが、魔術師として経験の浅い康太からすれば見て見ぬふりというのは簡単にできるものではない。


「師匠、師匠ってこういう状況になったことありますか?一般人がやってる可能性のある犯罪とか・・・そういうの」


「さっきから妙に浮かない顔をしていたと思ったらそんなことか・・・もちろんあるぞ。全部ぶちのめしてきたがな」


「え・・・?関わらないほうがいいんじゃ・・・」


「私が協会の言うことを素直に聞くと思うか?」


小百合の言葉にそういえばこの人はこういう人だったなぁと今更ながら康太はあきれてしまう。


だから協会でも腫れもの扱いされているというのに、本人はそれでもいいと思っているのだ。おそらく一生この生き方は変わらないだろう。


「今回の件にも言えることだがな、基本的に行方不明の場合はほとんどさらわれた奴らは生きていない。生きていたとしてもひどい状況だろう。そんな状況を前にしてお前が平静を保てるとは思えん」


「それは・・・まぁ・・・そうかもしれませんけど」


それは犯人が魔術師であろうと普通の犯罪者であっても変わらない。誘拐して身代金が目的だというのであればまた話は違ってくるのだろうが、短く見積もっても三年前から続いている誘拐、しかも手掛かりが全くない、死体も発見されていないとなれば当然だがそれだけやることがあるということである。


そのやることというのがどういう意味を持つのか、康太にも何となくだがわかる。


猟奇的、あるいは狂気に染まっているような異常な行動。その先にあるものが一体なんであるか、全容を想像することすら康太には難しいがそれが非人道的であるということくらいは理解できる。


そのような状況を目の前にして平静で、冷静でいられる自信はない。状況を正しく理解し、なおかつ魔術協会の思惑の通り見て見ぬふりをできるほど正しい判断を淡々と下せる自信はない。


そういう意味では小百合の判断は正しい。康太は魔術師としても人間としてもまだ未熟なのだ。経験豊富な人間であればそういう状況を見ても冷静に判断できるのだろうが、実際そんな風にできるのは限られた人間だけだ。


「でもそれだと協会からいろいろ言われるんじゃ・・・」


「もちろん言われるだろうな。昔からそうだがいろいろ言われる。魔術師として正しい行動を取れだとか、もっと考えて行動しろだとか、大局を見ろだとか、そんなことを延々と言われてきた」


小百合の行動は魔術師としては褒められたものではない。魔術の存在が露見する可能性を少しでもつぶすのが魔術師だ。


自分から事件に関わろうとすれば当然その可能性を引き上げることになってしまう。そんなことはしないほうがいい。それが魔術師の考えなのだ。


小百合はそれを自分から破っている。どんな思惑があってどんな理由があるのか、それは彼女にしかわからないことだ。


「だがな、魔術師のためとは言っているがそんなものは協会の都合だ。私はそんなものは知らん。やりたいときにやりたいようにやって何が悪い。自分から犯罪を犯したならそりゃ後ろ指をさされるのも仕方がないと思うが、犯罪者を止めることが悪いことだとは思わん」


「そりゃ・・・そうですけど・・・そうなんですけど・・・」


魔術師としては間違っていたとしても、小百合の行動は人としては間違っていないのだ。


見て見ぬ振りができないタイプの人間。良くも悪くも先のことを考えていない人間だ。いやもしかしたら先のことを考えたうえでその行動をしているのかもしれない。


「お前には前にも言っておいたと思うがな・・・私の行動基準は基本的にその時の気分だ。やりたいと思ったからやった。ただそれだけのことだ」


「気分で片づけられちゃ協会の人もたまらないでしょうけどね・・・」


「だが事実だ。康太、お前がどんな行動基準で動くのかは知らん。それはお前の中にしかないものだから口出しもしない。だが自分が堂々とできるやり方にしておけ。それがどんなものでも自分で後悔するような行動はするな」


「・・・それが他の人から止められてもですか?」


「そうだ。結局のところ他人からの評価というのはあくまで目安でしかない。自分の中で折り合いをつけられるかどうか、それが一番大事なんだ。自分が納得できていればたとえ他人から後ろ指をさされても気にしないでいられる。そういうのは大事だ」


それはおそらく彼女自身がいつも胸に刻んでいることなのだろう。


小百合は気分で行動しているといったが、実際はそんなことはないのではないかと思えてならなかった。


幸彦曰く小百合は人助けの一つや二つしたことがあるのだとか。その時もきっと気分でやったといったのだろう。


だとしても、いやだからこそ小百合は協会から腫物扱いされているのだ。その時の気分で行動を変えられてはたまらない。


だが彼女の中には、魔術師デブリス・クラリスの中にはしっかりとした行動基準があるのだ。

気分というのはおそらく彼女の本心を隠すためのブラフなのだろう。


自分の行動基準。康太もそろそろ魔術師としてそういったことを本格的に考えていくべきなのだろうなと考え始めていた。













「へぇ・・・そんなことが・・・」


「あぁ、だから手が空いてたら手伝ってほしいんだよ」


「また俺必要なのかよ・・・この前俺ほとんど役に立たなかったじゃねえか」


「そうでもないって、今回は調査がメインだからそれなりに役立つことはある」


学校の昼休みの時間帯、康太は文と倉敷を呼び出して学校の屋上にやってきていた。


理由はもちろん幸彦から依頼された特定地域における行方不明者の発生原因の調査の件である。


なるべく早い段階で発生原因などを確認したいために索敵系および調査系で必要になる補助魔術を使える文は必須だ。そして一時的にではあるが天候を変えられるという点で、そして雑用やその他もろもろ役に立つということで倉敷を呼び出したのである。


「私は構わないわよ。どうせ休みの日とかも基本は訓練ばっかりしてるし、こういうのも実戦の内でしょ」


「俺も最近はエアリスさんの手伝いも少なくなってきたし・・・一応いいけどさ、平日は無理だぞ?俺も部活とかいろいろあるし」


「それは俺らもだよ。一応平日はほとんどやらないことにしてる。とりあえず土日でいろいろ調べてみようと思ってるんだよ。っていっても今のところできることって言ったらその魔術師連中への聞き込みと現地調査位のものだって。においで探索ってのも無理あるしな」


康太の持つ嗅覚強化の魔術を使えば被害者のにおいを嗅いでの追跡も不可能ではないかもしれないが、さすがに何日も経過しているにおいだと追いきることができないだろう。


今まで使用して分かったのだが、においというものはたいてい数日もすればその場から消えてしまう。しかも徐々に弱くなっていくために、ものによっては一日で嗅ぎ取れなくなるものもある。


直接触れたものや汗などの分泌物などがあればにおいが強くなるが、それでも数日が限度である。


状況によってはさらに日時は短くなる。具体的には雨などが降ってにおいが洗い流されてしまう場合だ。屋内の追跡なら嗅覚強化はだいぶ有用な魔術なのだが、屋外の追跡では嗅覚強化はあまり良い成果は得られないだろう。


「実際行方不明者の調査って具体的にどうすればいいのかもわからないしね・・・地道な聞き込みとか被害者家族関係に話聞きに行くとかその程度しかできそうにないし・・・少なくともあんた向けの依頼じゃないのは確かね」


「もともと幸彦さんのところに来た依頼だからなぁ・・・話聞く限り俺らはあくまで支部の魔術師の手が空くまでの臨時っぽいし・・・ある程度調査進めておけばいいんじゃないか?」


事実今回幸彦は康太に対して手助けを依頼しただけであって正式に今回の件の権限をすべて譲渡したわけではない。


あくまで臨時の助手のような形だ。もっとも助手とは名ばかりでいろいろと経験を積ませるのが目的でもある。


そしてもう一つ目的があって、幸彦は康太の着眼点に期待しているのだ。


康太は魔術師になってまだ日が浅い。そのため一般人に近い感性を持っている。魔術師では気づくことのできないものも、康太のような一般人の目からすれば異常ではないかと気づくことができる場所がある可能性があるのだ。


康太は確かに能力的には捜索は向いていないが、そういった気付きという点でいたほうが良いのである。


「それもそうね・・・その資料ってのはもらったの?」


「今日店に届くことになってる。早めにある程度の情報は知っておきたいからってことで用意してもらった。まぁコピーだけどな」


「それでも十分よ。でもすごいしっかりした資料なんでしょ?読み込むのも苦労しそうよね」


「大丈夫だって、前のアリスの時の資料に比べれば少ない・・・と思いたい」


若干願望が入っているが、実際アリスの時に渡された封印指定二十八号に関する資料は膨大な量だった。


封印指定二十八号の資料はそれこそ数百年にわたって存在した情報の集大成だ。それだけの量になるのも仕方がないという話である。


対して今回は発覚が三年前。それから作り上げた資料ということもあってかなりの量はあるだろうが封印指定二十八号の資料に比べればその数は少ないだろう。


とはいえ、行方不明者に関する情報がすべて載っているとなると読み解かなければいけない情報はかなりのものになるだろう。


その特定地区の行方不明者が増えているとはいえ、その行方不明者すべてが今回の件に関わっているというわけではないのだ。


それこそただ偶然その時期に失踪した可能性だってある。今回の件に関わっているか否かを判断しながら情報を読み解かなければならない。


誘拐などであれば警察が動き、ただの失踪であればどこか別の場所で生活していることもあるだろう。

そういった痕跡を一つ一つ探していたのでは時間がいくらあっても足りない。問題なのは姿を消すだけの理由があったか否かということである。


前者の誘拐だった場合はそれこそ何か目的がある。身代金や性的行為をするのが目的だったりと誘拐にはいろいろ目的がある。これらの場合高い確率で短期で解決するか長期化するかの二択だ。こうなってくると面倒である。どれが件の問題なのか判別が難しい。


失踪の場合はそうでもない。家庭環境や仕事の環境など挙げればきりがないが失踪する人間には失踪するだけの理由がある。


そういった背後要因を読み解いていくことでその失踪が妥当なものだったのか否かを判別することで今回の件に関わっているかどうかを判断するのである。


容易なことではないがこういったことはコツコツ地道に調べていくほかないのである。


土曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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