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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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幸彦の頼み

「周囲の地区より件数が比較的多い、それ自体は別に問題はないけどただその場所が問題ってことですね」


「そういうこと。門が設置してある教会の近くでそれが起きてるってのが問題なんだ。それが本当にただの一般人の勝手な行動で生まれた状況ならいいんだけど、もし魔術師がそれを引き起こしてるとなると、日本支部の管理体制を疑われちゃうんだよ」


魔術協会日本支部や本部からつながっているいわゆる門は、それこそ日本全国ありとあらゆる場所、世界各国に存在している。


門を生成できる場所には教会が作られ、魔術協会が管理することで強い結びつきを作ると同時にその一帯を管理することになっていた。


当然今回の場合、門を有する教会の近くで『不自然に』行方不明者の数が多くなっているということから魔術協会が動いたということになる。


発見した原因が原因だけに無碍にはできない内容だ。現段階でもまだ行方不明者が増えているということなのだから。


確かに幸彦の言うように人助けにつながるかもわからない。


「教会付近なら比較的行くのは簡単そうですけど・・・近場の魔術師の協力は得られてるんですか?」


「一人は確約してくれているよ。さっき言った知人が行方不明になってしまった魔術師だ。被害者やその背景やら全部調べ上げたらしいよ・・・資料を見た支部長が目を丸くしてた」


「・・・その人も良くやりましたね・・・いやそれくらいやらないと協会が動かないってわかってたからそこまでしたのか」


「たぶんそうだろうね。知人がいなくなって気が気じゃなかったというのもあるんだろうけど、個人で作ったにしてはすごいデータだったよ。ただかなり時間がかかったらしいけどね・・・時間にして約三年くらい」


「三年!そんなにかけたんですか・・・」


本人からすれば行方不明になった知人を調べていくうちに地区における行方不明者の数が妙に多いことに気が付き、何か関係があるのではないだろうかと調べたのがきっかけだっただろう。


だがそうして調べれば調べるほどに行方不明になった人物に何の共通点もないということが分かっただけだった。


だが周囲の地区に比べるとその地区を最後に行方をくらませた人物の数はおよそ三倍近い。


日本では年間十万人近い行方不明者が出ているというが、その全体平均と見比べてもだいぶ大きい値が出ているのだ。


調べた結果こういった値が出ていることから、その魔術師の行動は決して無駄ではなかったということだろう。


結果的にそのデータを見て事態を重く見た魔術協会が動き、ほかの人間に依頼という形で出しているのだから。


「依頼を受ける上で協会からの支援は何か得られますか?」


「門の使用許可、それと情報収集に限られるけど周辺一般人への魔術行使の容認ってところかな。協会の専属魔術師もだいぶ出払ってるからね」


「そうですか・・・にしても三年以上行方不明者が増え続けてるっていうのは・・・だいぶおかしな話ですね・・・いや気づいたのが三年前ってことはもっと前からって可能性もあるのか・・・」


「そうだね。実際どれくらいの期間でそれが始まったのか明確にはわからないそうだよ。さすがに数字だけで出てくるデータだけだとムラもあるからわからなくてね」


数字は正直だ。どのような状況でも客観的なデータを出してくれるために総合的な判断を下すには最も適しているといえるだろう。


今回のように行方不明者の人数がほかの地区と比べると多いというのも数的データによって割り出されたものだ。


だが問題なのはその始まりがどのあたりであるか把握することにある。


年間十万人近い行方不明者を出している日本だが、その数はその年によって変動する。当然だ、何も毎年決まった数がいなくなっているわけではないのだから。


そのために初期段階に限ってはどのあたりから行方不明者が増え始めたのか、その判断がしにくいのである。


「その周辺にいる魔術師は何人なんです?」


「その報告してきた魔術師に、教会で門の管理をしている魔術師・・・ていうか神父さんだね。あとほかに三名ほど近くを拠点にしている魔術師がいるよ」


「・・・合計五人・・・いや報告してきたやつを除いて四人か・・・ていうかあそこにいる神父さんって一応魔術師だったんですね」


「そうだよ。ぶっちゃけ専属魔術師よりも位はさらに上の魔術師だね。門の管理ができる魔術師はそれだけ数が限られるんだ。実力もそうだけど信頼されていないとなれないんだよ」


「へぇ・・・そんなすごい人だったのか・・・」


康太がよく使っている協会の門。あれは日本世界各地の教会とつながっている。その教会を管理している神父なども一応魔術協会の魔術師だ。


いつも何気なく挨拶して素通りしているあの神父が高位の魔術師だったとは驚きである。


今度からはもう少し敬意をもって門を使わなければならないなと思いながら康太はほかにもいろいろと考えていた。


あの門は魔術協会が保有する中でもかなり重要な拠点施設の一つだ。条件さえそろえば簡単に違う場所に行き来することができる。


当然だがそれだけその管理をするのは難易度が高く、何より協会からの信頼度も関係してくる。

問題行動を起こすような魔術師はまずなれないと思っていいだろう。


「となると報告者と神父さんは除外でさっき言ってた三人だけになりますね・・・その三人に関しての情報はありますか?」


「協会のほうで管理しているからね。ある程度の情報はあるけど・・・あくまで協会が管理している中で拠点をその近くに置いているのが三人ってだけなんだ。その点だけ注意してほしい」


「あぁなるほど。協会が管理していない、いつの間にかそこにいた四人目、ないし五人目の魔術師がいる可能性があると」


協会に所属する魔術師は大体自分の拠点や活動の中心地を魔術協会に報告している。そうすることで周囲の魔術師と連絡を取りやすくしたり、万が一問題があったときに即座に協会と連携を取りやすくするのが目的である。


だが大多数がそうしているということはその逆の例外もまた存在していることになる。


手続きの面倒さからか、それとも魔術師として潜んでいた方が行動しやすいからか、どちらにせよ魔術協会に拠点などを報告せずに活動している魔術師もまた存在している。


そのため先ほど話題に上げた報告者、教会の神父、さらにほか三人の合計五人の魔術師以外にもまだほかに魔術師が存在している可能性もあるのだ。


行方不明者のすべてが魔術師の仕業であるという確証はない。それを調べるためにも現地に向かわなければいけないのだ。


「もし魔術師が原因ではなかった場合は、どうしますか?」


「・・・正直言って魔術協会としては関与しない方針を取っている。ただの犯罪者が相手だというのなら魔術協会が口を出す案件ではなくなる・・・それがどういう意味かは分かるね?」


「魔術師が事件を起こしていたのならその事件から魔術の存在が露見する可能性がある。でもそうでないのなら別に問題はないから関わる必要はない。むしろ関わればそこから存在の露見の可能性が上がる。そういうことですね?」


魔術協会の主な目的とでもいえばいいか、絶対的な大原則は一般人に魔術の存在を露見させないという点にある。


今回の行方不明者の増加が魔術師がかかわっていた場合、客観的な数字としてその異変が第三者に知られ、事件を紐解いていくにつれて魔術の存在に行きつく可能性があるのだ。


そのため魔術師が今回の件に関与していたのならば、魔術協会としては事件の解決を活動として行わなければならない。


だがこれがただの一般人による、魔術も何も知らない犯罪者による犯行だった場合は話が変わってくる。


別に犯罪者がどこで何をしようと魔術協会としては関与する必要がないのだ。関与する理由がないのだ。


むしろ関与してしまえばその関係から魔術の存在の露見につながりかねない。つまり一般人が犯罪者だった場合、その場にどのような理由があっても、どのような悪逆非道を尽くしていようとも、康太は魔術師として『見て見ぬふり』をしなければいけないのである。


それが世間的には正しくなく、康太の正義感や良心を偽ったものだったとしても、康太はそうしなければいけないのだ。


わざわざ幸彦が注意してきたのにはそういうわけがあるのである。


康太もそのことくらいは理解している。だがそんな状況を目にしたらどうするかはわからない。


康太は別に特別正義感が強いというわけではない。善人というわけでもないし、康太自身も特別優しい人間でもないと思っていた。


だがそれを目の当たりにして冷静に見逃せるかは話が別だ。体の中にいるデビットの残滓もどのような反応をするのかわからない以上、確定的なことは何も言えないだろう。


だがそうするほかない。康太だってわかっているのだ。文がこの場にいたら大局を見誤らないようにしろなどというかもしれない。


「わかってくれているようで何よりだよ。まぁ難しいとは思うけど・・・これからそういうことは増えていくだろうから、今の内から慣れておいた方がいい」


幸彦もその行動が人道的に正しいとは思っていないようだった。むしろ彼の性格からすれば魔術協会の意向に逆らってでも助けるべきであるというだろう。


だが彼の立場から、そして魔術協会の方針からそうすることはできないのだ。


何よりもそうした方がいいと思っている。多少の行動はするが、直接的にかかわるようなことはしないのが彼の行動基準なのである。


「調べるのに期限はありますか?あるなら早めに動きますけど」


「実際はないに等しいね。三年以上前から続いてる可能性があるからとにかくしっかりとした調査結果がほしいみたいだ。人員に余裕ができたらそちらに回すっていう風に確約も取れてるし、時間ができた時に調査してくれればいいよ」


「わかりました。タイムリミットがないのはありがたいですね」


今までの依頼などはある程度期限が設定されていたのに対して今回の依頼はその期限が設定されていない。


つまり自分の好きなタイミングで好きなように調べていいということだ。それはそれで自由度が高くて困惑してしまうが、状況を考える限り早いうちから答えを出すというのは難しいのはわかる。


まずは提出されたという資料を見て状況の詳しい把握に努めるべきだ。そのあとに現地にいる魔術師たちに話を聞いてその拠点などの確認、それからそのあたりに潜伏している可能性のある魔術師たちの捜索という形になるだろう。


やることを順序立てていけばそこまで難しいことはない。人手が必要であることも考えて文や倉敷などに協力を求めるべきだろう。


アリスが一緒に来るかどうかはさておいて一応これからそういう行動をとることくらいは教えておいた方がいいだろう。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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