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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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三つの選択肢

「あれは・・・あんたが・・・?」


口に当てられていた女性の手を振り払い、恐れを含んだ声でそう聞くと、目の前にいる女性はそうだと肯定して見せる。


何故あんなことを


そんなことは言うまでもない。あの二つの事故は康太を殺すためにこの女性が起こしたものなのだ。


どうやって?そんなのは康太は知らないが自分でやったと言っているのだ。今この場で嘘をつく必要など彼女にはない。なぜ今この場所でそんなことを言ったのか。


「お前は見たところただの子供だ・・・中学生か?何年生だ?」


「・・・中三です」


ここは逆らわない方がいい。まだ自分の生殺与奪はこの女性に握られているのだから。


それを理解している康太は下手に反撃しようとはせず、彼女の動向を探ると同時に何か手はないものかと部屋の中を観察していた。


観察とは言ってもいつも自分が使っている部屋なのだ、何が置いてあるかくらいは把握できる。はっきり言って武器になりそうなものなどない。この状況を打開できるとは思えなかった。


「そう、ただの中学生が私の攻撃を二度も避けて見せた・・・ただの偶然か、それともお前の運か・・・どちらにせよ私はお前に興味が出た」


「・・・で・・・俺を殺すんですか?それとも生かしてくれるんですか・・・?」


康太の言葉に女性は笑いながら三本の指を立てて見せる。そしてこういった、お前に選ばせてやると。


「選択肢は三つ、死ぬか、一生をベッドの上で過ごすか、私の弟子になるかだ」


「・・・弟子・・・?」


思わぬ選択肢に康太は眉をひそめた。さっきから訳が分からないことの連続だ。なぜ自分が偶然事故に遭わなかったからと言ってこの女性の弟子にならなければいけないのか。


自分を殺そうとしたような相手の弟子になろうとは思えない。ここでそんなことを考えられたらそれこそ頭のネジが二、三本吹き飛んでいる。


「そうだ。さっきも言ったように魔術は隠匿されなければならない。だがお前が魔術師の弟子になり、魔術師になれば、わざわざお前の記憶を消す必要も、お前を殺す必要もなくなる。どうだ?悪い提案ではないぞ?」


彼女のいう提案が悪いものか否かなど今の康太には判断できなかった。だが少なくとも他に手段があるのはわかっていた。


「それ以外にも手はあるでしょ・・・あんたが記憶を消すのが苦手でも、他の魔術師ならできるんじゃないのか?」


そう、彼女は自分は記憶を消すのが苦手だと言った。失敗すれば一生ベッドの上だと。それだけ荒い記憶消去しかできないからこそ弟子にしようとしているのだ。


だがそれなら別の魔術師とやらを呼べばいい。記憶消去という魔術を覚えている他の魔術師に頼めば記憶を消すことくらいはできるはずだ。


魔術は隠匿されなければいけない。そう言う規律が存在しているという事はよもや魔術師がこの女性一人という事はないだろう。


「・・・なるほど、どうやらそこまでバカという事でもないらしい・・・だが残念だがそれも無理だ」


「どうして?魔術師はあんただけってことはないんだろ?」


「無論だ・・・問題はそっちじゃない。記憶消去や操作の魔術は非常にデリケートだ。一定時間以内に見た光景や記憶したものでなければ操作や消去はできん・・・お前が件の事件を目にしてからもう数時間経過するところだ。とてもじゃないがもう記憶操作はできん。」


時間制限付きの記憶操作。魔術などと大仰なことを言っておきながらなんと不便なものだろうか。つまりそれができるのはあの時、あの光景を康太が見てすぐしかなかったのだ。


もっとも康太はその後すぐに大通りに出てしまった。夜で人通りが少なかったとはいえあのような場で隠さなければいけないような魔術を使うのは忌避するべきだったのだろう。


だからこそこの女性は事故に見せかけて康太を殺すことにしたのだ。


康太の不運は三つ、魔術の現場を見てしまったこと。そしてその時事を起こしていた魔術師が目の前にいる彼女であったこと。そしてその後に大通りに出てしまい、彼女の攻撃を受けた後に警察にその身柄を確保されてしまったことだった。


魔術の現場を見てしまったのはいうまでもなく、もし記憶操作などを得意とする魔術師がその場にいたならこんなことにはなっていないだろう。


塾の同級生が警察を呼ばなければそれこそ単独での行動もあり得た。あの時点で殺すことが困難であると悟り、他の魔術師に協力を得られる可能性だってあったかもしれない。


だが衆目の目に晒され、警察に引き連れられてしまったためにそれは不可能になったのだ。


すでにあの状況になってしまった時点で康太を殺すことはできなくなり、康太の記憶を操作することもできなくなってしまった。


だからこそ彼女は今こうしてこの場にいるのだ。

「そう苛立つな、私はお前に選択肢をすでに与えている。それをお前が選ぶだけだ。」


「勝手に妙な争いをして、それを偶然見たから殺す、それが嫌なら弟子になれなんて理不尽にもほどがあるだろ・・・!大体何で俺を弟子に・・・!?」


康太の問いに目の前の女性は悩むような動作をして見せる。その表情がどのようなものかは仮面のせいでわからないが、どうして康太を弟子にしようとしているのか、その疑問に答えるつもりはあるようだった。


「・・・お前がただの学生だったのなら、普通に殺してしまうつもりだったんだがな・・・どういうわけかお前は二度も私の攻撃を避けて見せた。意図的にせよ偶然にしろ、二度連続で避けて見せた。今まで魔術師として生きてきたがこんなことは初めてだ」


端的に言ってしまえばお前に興味がわいたという事だと結ぶと、仮面の女性はくっくっくと笑って見せる。


興味がわいた、ただそれだけの理由。別に康太に何かの才能を見出したとかそう言うわけでもない。なんと独善的な理由だろうか。


理不尽にもほどがある。偶然現場を見ただけだというのにそんな勝手な事情を押し付けられてどう反応したらいいのかわからない状況だが、康太は若干腹立たしかった。


「なに、弟子になると言ってもお前が魔術を一つでも修得すればいいだけだ。そこから先魔術の道を歩むかどうかはお前の自由。私はお前の運を試したいだけだ。」


「・・・運を・・・?」


そうだと呟いた後で仮面の女性は康太の首筋に手を当てる、そしてこう告げてきた。


先程と似たようなこの言葉を、康太へと向けて。


「死にたくなければ、一生をベッドの上で過ごすか、私の弟子になれ」


凛とした声と共に放たれた言葉は静かに康太の耳へと入ってきた。先程までの憤りもある。まだ理不尽に対して不満はある。


だがこの人は本気だ。断ったら本気で殺すつもりだ。


答えなければならない、この場で死にたくないのであれば。


康太は直感的にそう考え、その後のことなど全く考えず康太は口を開いた。


「・・・わかりました・・・あなたの弟子になります・・・!」


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