匂いの手がかり
「さて・・・どう?この中にいる?」
康太と文はとりあえず更衣室のカギを返しに来ると同時に職員室をぐるっと回って男性教員たちのにおいを嗅いでいた。
日常的ににおいを嗅いで個人を判別できるようになるといってもそれはあくまで魔術の練習という意味でのことだ。どの匂いが誰のと詳しく覚えているわけではない。
ただ先ほど女子更衣室の中で見つけたにおいだけは確実に記憶していた。女子のにおいの充満する中で唯一といっていいほど見つけられた男のにおいだ。康太の印象に強く残っているために嗅ぎ分けるのはそこまで難しくはない。
「今のところいないな・・・先生ではないってことか・・・まぁそれはそれで喜ばしいことか?」
生徒に物事を教える教師が生徒に対して劣情を抱きその衣服を盗んだとなればかなりの問題になるだろう。
それこそ普通にくびになるレベルだ。そんな人物に今まで物事を教わっていたとは思いたくない。
だがそうなってくると教師ではない別の誰かということになる。この学校内でそう言ったことができる教師以外の人物となるとかなりその幅は狭まってくる。
「用務員さんか、警備員さんね。ただ後者は昼間にあまり見かけないから可能性としては低いけど」
「ってことは用務員が怪しいか・・・一応チェックしておくか」
三鳥高校には教職員以外にも働いている人がいる。それが学校の備品や細かなところの点検、また清掃などを行う用務員、そして門での出入りの監視や夜間における見回りをする警備員である。
文の言うように警備員は昼間はほとんど門におり、学校の敷地内に入ることは非常にまれである。その時があるとすれば夜間の見回りの時だけだ。
それに比べると用務員は比較的校内での出歩きが容易である。備品の取り換えや点検などという名目ならばどんな場所にも入ることができるだろう。
怪しさが一気に増してきたなと思いながら康太たちは用務員室に向かっていた。
普段学校で生活しているのならおそらく全くと言っていいほどに来ないだろう場所であるだけに探すのに少し手間取ってしまった。
文の魔術で中に誰もいないことを確認してから鍵開けの魔術で中に侵入する。
用務員室にはいろいろな備品が置かれていた。それらは微妙に破損していたり、経年劣化してもう使えそうになさそうな道具なども置かれている。
時期によっては使われるのだろうかストーブの類も配置されており夜勤などを行う人物が寝泊まりできるようにするためか布団なども用意されていた。
部屋の中を確認すると同時に康太は嗅覚強化の魔術を発動する。この用務員室の中も女子更衣室と同様だが異様なにおいに満ちている。
カビのにおいに加え錆、男の強い匂いが漂ってくるのだ。女子更衣室のほうがまだまともなにおいだったなと思いながらも康太はそのにおいを正確に嗅ぎ取っていた。
「ビンゴ、においの中に混じってるな、例の奴」
「ナイスよ康太。これでほぼ確定かしら・・・?うちの用務員さんって確か三人くらいいたわよね?」
「あぁ・・・問題はその三人の中の誰かってところだな・・・シフト表とかあればわかりやすかったんだけど・・・そういうのはないか」
この三鳥高校では三人の用務員が交代制で勤務に当たっている。そのためその三人の中でだれが犯人なのかまだこの段階では特定できないのだ。
だが校内の男の誰かというところから、校内の用務員三人の中に犯人がいるということが分かっただけでも大きな前進だといえるだろう。
「とりあえず今日来てる用務員さんにあってみましょうか。そうすれば容疑者候補が三人から二人になるかもしれないし」
「もしかしたら一発で当てるかもな。そしたら後のことは任せた。尋問とかそういうのは性に合わん」
「ははは、面白い冗談いうわね。あんたにしてはナイスジョークよ」
「・・・ジョークのつもりはなかったんですけどねぇ・・・」
以前のあの光景を見て康太が尋問が性に合わないというのはさすがに無理があった。途中からノリノリでやっていたのを文はその目で見ていたのだ。いまさらそんなきれいごとを並べたところで信じられないというのが人情というものである。
とはいえ康太の言うこともあながち嘘ではない。性に合う合わないは置いておいて、康太がやったことのある尋問(物理)に比べて、これから二人がやろうとしているのは尋問(話し合い)だ。
物理的な痛みや脅迫を用いて話を聞くようなことができない以上康太の出番は激減するといっていいだろう。
こういう時はしっかりと魔術の修練を重ね、暗示系の魔術も多く覚えている一人前の魔術師が必要なのである。
つまり今回の場合であれば文が尋問をする形になるだろう。といっても康太や奏がやるようなハードかつスプラッタなものではなく、誘導尋問に近い平和的な内容であるのは間違いない。
だからこそ康太は性に合わないといったのかもしれないがそのあたりは割愛しておくことにする。
「まぁとりあえず探してみるか・・・そんじゃ文よろしく」
「なによ、探すのもやらせるわけ?」
「俺の索敵じゃ範囲狭すぎるしな。そっちの方が早いだろ」
「・・・ちょっとはましになったと思ったけど・・・まだお粗末ね・・・」
自分の未熟さは百も承知。現状で満足するつもりはないがまだ文のいる高みに行くには経験も訓練の時間も短すぎるのが現状である。




