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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十三話「救いを与えるのは生か死か」

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魔術の反動

封印指定二十八号ことアリスが日本にやってきてからもうすぐ一か月がたとうとしていた。


小百合のもとで修業をする康太や文、そして日本のありとあらゆる娯楽を満喫しようと彼女は日々新しいものに目を向けていた。


果たしてそれが正しいのかどうかはさておくとして、とある土曜日、康太はアリスに頼み込んでいた。


「頼むアリス!探し物手伝ってくれ!」


「・・・なに・・・?私は今機動戦士シリーズを見るので忙しいのだ。見てわからんか」


「康太、やかましいから話はあとにしろ。どうせ大したものでもないだろうが」


小百合の店にいつの間に買い込んだのか大量のDVDボックスが並ぶ中、アリスは意気揚々とそれらを鑑賞している。そしてその横には一緒になってその映像を楽しんでいる小百合もいた。


探し物を手伝ってくれという些細な願いさえ彼女の趣味を前にしては無力なのだろうかと康太は悔しそうに歯噛みしていたが、ここで引き下がるわけにはいかないのだ。


「いや、大事なものなんだよ。さすがになくすのは俺としても嫌だから力を貸してくれ!」


「・・・はぁ・・・このままだと観賞会が邪魔されてしまうな。サユリ、すまんが一時停止しておいてくれ。少し行って手伝ってくる」


「全く我が弟子ながらなんて迷惑な奴だ。せっかくジャブロー攻略戦がいいところだったというのに」


たとえ天地がひっくり返ったとしてもその言葉だけは小百合には言われたくなかったなと康太は眉をひそめていた。


だがここで悪態をついてはアリスが協力してくれる可能性もなくなってしまうかもわからない。

ここはおとなしく引いておいたほうがよさそうだった。


「で?何を探したいのだ?」


「いやぁ・・・俺が最初に使った武器なんだけどさ・・・割と最近も訓練には使ってたんだけどどっかいっちゃって・・・」


「・・・まさかとは思うがこの商品の中から探せというわけではあるまいな?」


「あはは・・・お願いします・・・」


「お願いしますといわれてもな・・・これはさすがに・・・」


康太が探してくれと言っているのは小百合の店の地下室だった。つまり魔術師に関する道具ならばいくらでも置いてあるのだ。そんな中から康太が使ったものとはいえ自分が探すのは面倒。


そこで手伝いといったのだから文字通り手を貸すことにした。アリスが全力で探し出せばおそらく比較的早く目的のものを見つけ出すことができるだろうが、生憎とアリスは今DVD鑑賞に忙しい。


探し物程度でアリスの邪魔をすることはできないのである。


アリスは近くにあったメモ帳を手に取りそこに術式を書き示すとそれを康太に渡していた。


「お前向きの魔術だ、探し物に向いているから使ってみるといい」


「・・・アリスさんや・・・手助けはしてくれないんですかね?」


「何を言うか。魔術を一つ教えてやるのが手助け以外の何だというのかの?これは覚えて損はない。何よりさっきも言ったがお前向きの魔術だ。しっかりものにするのだぞ」


それではさらばと言い残してアリスはその場から出て行ってしまう。さっさとDVDの続きを見たいのだろう。


その欲求にまっすぐなところは康太としては喜ぶべきところなのかもしれないが魔術の術式が記されているとはいえこれを渡すのが手伝いというのはいささか情けなく思えてならなかった。


康太は術式解析の魔術を発動し、そこに記されている魔術の解析を試みるとそこには肉体強化に属する魔術が記されていた。


ただ今まで康太が何度となく使用してきた肉体強化とは違う。それは属性系統の肉体強化だったのだ。


具体的には風属性の感覚強化の魔術。さらに細かく言えば嗅覚を強化するタイプの魔術だった。


物探しに嗅覚を頼るというのは何というか安直な気がしてならなかったが、警察犬だって人間の何万倍の嗅覚を利用して探し物などをしているのだ。犬並みとまではいわなくともその嗅覚を限界まで高めれば確かに探し物程度は見つかるかもわからない。


康太は知覚系、五感やそれに属するものに関する魔術との相性がいい。おそらくこの五感を強化するタイプの魔術との相性も良いことだろう。


だが問題はこれが風属性の肉体強化の魔術であるという点だ。


今まで風属性の魔術は比較的扱ってきた。実践ではまだ一度も試したことがないとはいえ、安定して扱うことはできるようになってきている。


そんな中アリスに渡された肉体強化の魔術。はっきり言って練度が低い肉体強化にはあまり良い思い出がない。


肉体強化は基本的に自分の体に直接作用する魔術であるために失敗がダイレクトに自分の体にやってくるのだ。


当然その分習得も早くなるが、なかなかにつらい思いをしなければならなくなるのは目に見えているだろう。


とりあえずやってみないことにははじまらない。康太は風属性の魔力を生成するとアリスからもらった術式を体内で作りだして発動する。


うまく一回目で発動することができ、康太は嗅覚強化の魔術を発動した。運悪く発動してしまったのだ。


感覚が急激に強化されると人間の体はその変化に追いつかず、強い衝撃を伴って不快感や嫌悪感を抱く。地下に漂うありとあらゆるにおいに康太は鼻を抑えて目を回していた。


「・・・あぁ・・・やっぱりこうなってたわね?」


「んあ・・・!?ふび・・・?ふびか?助けてくれ・・・!臭い・・・!」


「私が臭いみたいないいかたしないでよね全く・・・」


いつものように小百合のところに修業に来た文だったが、鼻をつまんだ状態で悶絶している康太の様子を見て、というより上でDVDを鑑賞していた小百合とアリスから大まかな事情は聞いていたのだろう。残念なものを見るようなまなざしで康太を見ながらため息をつく。


「体に直接作用する魔術は発動に気を付けること。普通の肉体強化の時に学んだんじゃなかったわけ?」


「いや・・・!まさか・・・!ここまで来るとは・・・!」


肉体強化が及ぼす肉体面への強い影響はもちろん理解していた。それを理解したうえで嗅覚程度なら問題ないと思っていたのだが康太の認識が甘すぎた。


まるで鼻の穴に直接悪臭の塊をねじ込まれたかのような強い匂いを感じる。刺激臭とまではいわないがいろいろなにおいが混ざりすぎて脳が処理に追いついていないのかにおいを痛みとすら認識し始めている状態だ。


「でもそれだけの出力でちゃんと発動できてるってことは風属性の魔術はだいぶものにできてるってことね。なかなかいい傾向じゃない?」


「そんなのいいから何とかしてくれ・・・!鼻が曲がりそうだ」


「そんなのあんたが自分でキャンセルすれば・・・ってあぁそうか。まだ練習中だからそういうのもできないのか」


すでに発動してしまった魔術とはいえ自分の任意のタイミングで術式を解除するくらいは本来できるのだ。だが康太の場合初めて発動してしまった魔術であるために練度が全く足りていない。そのためあらかじめ用意した魔力を消費しきらない限り魔術が強制終了されない状態になってしまっているのである。


「ここってそんなに臭いの?」


「やばい、カビみたいなにおいと汗とか体臭とか血の匂いとかが染みついてる・・・めっちゃつーんてくる・・・!」


「修業場のにおいとはいいがたいわね・・・これで少しは和らげばいいんだけど」


そういって文が取り出したのは途中で買ってきた菓子の類である。主に甘い洋菓子が入っており何の強化もしていない人間の鼻でもしっかりその甘い匂いを感じ取ることができる代物だ。


「うぷ・・・うぇぇぇええぇ・・・!やばい・・・!これは死ねる・・・!破壊力倍増ってレベルじゃないぞ・・・!」


「あらダメだった?においの上書きはできないか・・・」


それが普段の嗅覚であったのならにおいの上書きというよりより強い匂いでそれを打ち消すこともできたのだろうが今の康太の嗅覚は無駄に強化されてしまっている。


近くにある甘い匂いと周囲にある悪臭すべてをかぎ取ることができてしまっているのだ。


トイレの芳香剤のようなものだ。悪臭をより強い香りで打ち消そうとすると逆ににおいが混ざり合って大変なことになる。


吐きはしなかったが康太に強烈な不快感が襲い掛かっていた。これほど多くのにおいがする中で特定のにおいをかぎ取るというのは至難の業だ。


においで探すというのはなかなかに妙案だったように思えるが、それは操れてからの話ということだ。


「とにかく魔術を強制キャンセルしなさい。魔力放出するなりして魔術が使えない状態にするのよ。あんたなら簡単でしょ」


「うぐ・・・了解・・・!」


文の指示通り康太は体の中から魔力を徹底的に抜いていく。体の中にあった魔力すべてを放出することでこれ以上魔術が発動できない状態にするのだ。


そしてその行動は思惑通り康太の発動してしまっていた嗅覚強化の魔術を強制終了させてくれた。


急激に嗅覚が上昇するという状態から解放され、涙を浮かべながら康太はその場に横たわる。


「ぶはぁ・・・ようやく息できる・・・!」


「ったくもう・・・もうちょっと気を付けて発動しなさいよ」


肉体強化の魔術の訓練でとにかく発動し続け不快感を覚え続けた康太だったが、あの時のそれとはまったく種類が別だった。


無属性の肉体強化の場合、得られる効果が平滑的であるためか、失敗した時に発動する不快感も全身にまんべんなく訪れる。


それこそ五感に加え頭のてっぺんから足の先のすべてに至るまで強烈な不快感を覚えることになるだろう。

だがこの魔術は少々毛色が違った。嗅覚だけに特化した強化をするせいなのか、その効果によって得られる不快感、というか強烈すぎる情報が鼻と脳をかき乱す。


普段得ているにおいがどれだけシャットアウトされているのかというのがよくわかる状況だ。


「人間ある程度においには慣れたりするものだと思ってたけど・・・どうやら嗅覚強化するとそういうのもなくなるのね」


「なくなるっていうか・・・常ににおいを意識し続けることになるな・・・これ出力調整しないと満足に動けないぞ・・・」


人間というのは順応性の高い生き物だ。同じ場所で同じ匂いを嗅いでいれば徐々にではあるがそのにおいを認識できなくなる。要するに慣れてきてしまうということだ。


嗅覚強化の場合その慣れができないほどに強烈なにおいを感じ取れるため、探し物や探し人には適しているかもしれないが康太の言うように出力調整ができないと自滅するだけの魔術になってしまう。


土曜日なので2回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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