今後の対応
これで相手が殺し屋もどきの魔術師を差し向けたのであれば、相手が強烈な敵意をもって接してきているというのが理解できただろう。
確実に敵対心を抱いているのであればほかの勢力にそれをリークするなり、自分の味方を増やそうとするなりやりようはいくらでもあった。
だが今回相手がやってきたのは情報漏洩を利用した康太を仲間にするというものだった。
もっとも情報をリークした先が偶然康太を仲間にしようとしていただけという可能性もある。
正直なところまだ相手の行動が読めないのだ。
相手がやってきたのは一回だけの情報漏洩。それにブギー・ホッパーが簡単に情報の出所を吐いたこともあって、おそらく情報が出てくることも織り込み済みでの行動だったことだろう。
となれば何が目的であるのかを正確に把握する必要がある。そうでなければ本部の上層部の掌の上でいいように踊らされるだけだ。
幸いこちらの被害はほとんど出ていない。強いて言えば見たくもない血を見ることになり、やりたくもない拷問もどきをやる羽目になったということくらいだ。
その程度の精神的苦痛であれば普段の師匠である小百合との訓練で慣れ親しんでしまっている。自分の身を切ってまで行動するだけの価値は今回の件にはない。
無視することで相手の出方をうかがうのだ。幸いにして相手が有名なおかげで調べることには事欠かない。
本部長の勢力、そしてフェン・トゥーカを中心にして調べていき、なおかつ次のアクションにおける相手の動向を探っていけば向こうが何を目的にそんなことをしているのかも図りやすくなるだろう。
本当にただの個人間の情報のやり取りだった場合とんだ肩透かしになってしまうがそんなことを気にしても仕方がないというものである。
とりあえず今は放置するしかない。名前は既に分かっているのだ。相手もこちらの出方をうかがうために少しの間は行動をやめるだろう。その間にこちらは情報を調べ、なおかつ迎撃の準備をすればいいだけの話だ。
そしてそんなことを小百合たちに話すと
「まぁ妥当なところだろうな・・・こいつが日本に来てただでさえ向こうもお前への警戒が強くなっている。相手が動いたとはいえ、ここで話を大きくすれば向こうの混乱を呼び逆に相手が動きやすい状況を作るだろう」
こいつといいながら自分の横でゲームで遊んでいるアリスに視線を向けながら小さくため息をつく。
ため息をついている割に一緒にゲームで遊んでいるのだから案外仲良くなったのかもしれない。
康太の考えていたようなこととはまた別の視点から今回の康太の静観、というか無視の行動を評価してくれているようだった。
「意外ですね、師匠ならてっきりやられたらやり返せとかいうかと思ってました。直接乗り込んで殴りに行けくらい言われるのを覚悟してたんですけど」
実際小百合なら言いかねないうえに言われても断るだけの準備はしていたのだが、思ったよりも理知的な言い分に康太は目を丸くしていた。
もともと小百合はそれなり以上に頭が回るほうだ。状況判断やその判断速度は目を見張るものがある。むしろ早すぎて康太が追い付けないレベルなのだ。
「お前は私を何だと思っているんだ・・・こいつが日本に来てお前への警戒レベルはそれなりに上がった。敵に回すリスクがかなり高まったんだ。相手が今回攻撃ともとれる、歩み寄りともとれる手を使ったのもそれが原因かもしれんな」
「俺を敵に回すイコールアリスを敵に回すっていう風に考えてるってことですか?」
「一般的に同盟というのはそういうものだ。片方に手を出せば片方が黙ってはいない。ただの協力関係の場合もあるがお前たちが結んだそれを相手がどうとるかは相手次第。少なくとも手を出さないほうにかけて攻撃を仕掛けるほどハイリスクローリターンなことをする魔術師はそうそういないだろう」
もし仮に康太に直接攻撃を仕掛けたとして、アリスが戦闘に参加する可能性がどれほどあるだろうか。
彼女自身の気分にもよるだろうが、決して高い確率とは言えないだろう。
康太とアリス、そして文は確かに同盟を結んでいるが明確にその同盟の内容や誓約を決めていないのだから。
常に味方であり常に協力するというようなものではなく、必要な時は手を貸すという割とギブアンドテイクの関係なのだ。
無条件での味方というのはあまり当てはまらないような気がする。
だが相手からすればアリスが味方に付いている時点で康太には手を出しにくい。アリスが出張ってこないだろうことを予想して康太に攻撃を仕掛けても、康太そのものの戦闘能力に加え万が一アリスが襲ってきた時のリスク、そして康太を倒すことで得られるものにそれだけの価値があるか。
少なくとも康太はそんな価値はないと考えていた。
なにせ仮に康太を倒してもDの慟哭を手に入れられるわけでもなければアリスと同盟を結ぶ権利がもらえるとかそういうことでもないのだ。
はっきり言って康太を敵に回すのは採算が合わないのである。
「良くも悪くも、私はコータやその周りに影響を与えるということだの。日本に来てよかったよかった」
「・・・まぁ・・・そうだな。お前が楽しそうで何よりだよ」
康太がこうして悩んでいる間にもアリスは日本を満喫している。彼女が日本にやってきてまだ一か月も経過していないが彼女は日本という国に順応している。
彼女が日本に来てよかったと思うべきか、それともよくなかったと思うべきか。その考えをしても意味がないことは康太にもわかっていた。




