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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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弟子同士の関係

『もしもし佐伯です』


そう言えば真理の名字は佐伯だったなと思い出しながら康太はとりあえず話を進めることにした。


「康太ですけど、姉さん、今お時間大丈夫ですか?」


『はい、今お昼休みですから平気ですよ、どうかしましたか?』


彼女が大学生という事もあってもしかしたら忙しいかと思ったのだがそう言う事もないようだった。昼休みなのであれば自分たちと同じ、可能な限り早く話を切り出した方がいいだろうと康太は一瞬文の方を見た後で小さく息をつく。


「あの、昨日戦ったライリーベルの事なんですけど・・・」


『あぁあの子ですか・・・それがどうかしましたか?』


「実は俺の修業風景を見学したいと言ってきまして・・・どうしたものかと・・・」


康太の言葉に電話の向こう側の真理の声がかなり悩んでいるというのがわかる。唸るような声を出して彼女自身どうすればいいか、どう答えればいいか迷っているようだった。


ここまで露骨に悩んだ声を出している真理は非常に珍しいなと康太は少しだけ申し訳なく思っていた。


『え・・・えぇっと・・・彼女は確かエアリス・ロゥのお弟子さんでしたよね?』


「はい、今ちょうど一緒にいるんですけど・・・」


『・・・うー・・・ん・・・一応仲のいい人同士であれば一緒に学ばせたり、訓練の風景を見学したりというのはよくあることなんですが・・・あの二人だと・・・』


可能な限り魔術師的な単語を使わずに伝えようとしているのは康太でもよくわかる。さすがは真理だと言いたくなるところだが今問題なのはそこではない。


仲の良い魔術師同士であれば互いの弟子の交流という意味もあるが、互いの研鑽という意味でも訓練を共にすることがあるのだという。


スポーツなどで言う練習試合や合同練習のようなものだ。普段の自分たちのそれとは違う手法の訓練を目の当たりにすることで自分自身学ぶことがあると気づくように仕向けるというものである。


その考え自体は決して間違ってはいない。むしろ康太としてもいろいろと学ぶことができるかもしれない。


問題なのは、康太の師匠である小百合と、文の師匠であるエアリス・ロゥの仲がとことん悪いという事である。


そして真理の反応と、昨日までの小百合の様子から康太も何とはなしにそのことを理解していた。


『師匠のいない時、私との訓練の様子であればいくらでも見てくれて構わないのですが・・・師匠との訓練の場合だと・・・さすがに私の一存では・・・』


「やっぱり難しいですか・・・?」


『むしろ康太君も得るものが多くあると思うので私としては推奨したいくらいなんですが・・・師匠がなんていうか・・・』


真理としては康太の訓練を見せる代わりに、文の訓練を見せるということまで考えているのかもしれない。そうすれば互いに得るものがある。特に未熟な康太としては得るものの方が大きいと考えているのだろう。


真理からはむしろやるべきだという意見を貰えるのだが、康太の師匠はあくまで小百合だ。小百合がどのような反応をするかによってはすべてダメだと言われる可能性もある。


『私の方から話だけは通しておきましょうか?その方がお願いもしやすいと思いますし・・・』


「いいんですか?でもそれじゃ姉さんが・・・」


『いいんですよ、可愛い弟弟子の頼みです。今日の放課後にでも頼みに行ってみてはどうでしょうか?』


こういう時に常識人であり優しい兄弟子を持つとありがたい。今度何か御馳走しなくてはと思いながら康太はありがとうございますと頭を下げていた。


後の問題はこの件に関して小百合がどのような反応をするかという事である。


「どうだった?」


「とりあえず姉さん・・・俺の兄弟子が師匠に話を通してくれるらしいけど・・・どうなるかはわからないな。お前が直接師匠にお願いする以外に手はないと思うぞ」


「それくらい当たり前よ。こっちが頼む立場なんだから直接頼みに行かなきゃ。何かお土産とか持っていったほうがいいわよね・・・何がいいかしら・・・」


こういうところはしっかりしているのだなと、康太は少し意外そうに見ていた。案外常識があるのかとも思ったのだが、常識があっても苦手意識は拭えない。


なんというか先日の戦闘が強烈過ぎていつ電撃を流されるのかとびくついてしまうのである。


「そう言えばあんたの兄弟子って・・・確かジョア・T・アモンの事よね?あんたのお姉さんなの?」


「いや、実の姉ではないぞ?なんて呼んだらいいかって思ってたら姉のように呼んでくれて構わないって言われたから姉さんって呼んでるだけで」


「ふぅん・・・あの人そう言う趣味があったんだ」


文も真理のことをある程度知っているのだろう。小百合の弟子だからという理由の方が大きいかもしれないが、別に真理は特殊な部類ではない。むしろ康太の周りにいる魔術師の中では至極常識的な人間なのだ。


傍若無人な師匠を持ってしまったこの状況で、あの人がいるだけで自分が一体どれだけ救われたことか。


恐らくこの苦労は自分にしかわからないだろうとその苦労と真理のありがたみをかみしめながら康太は携帯を握りしめていた。


これは本格的に今度何か御馳走しなければいけないだろうなと真剣に思案する中、文は康太の携帯を眺めていた。


「とりあえず携帯の連絡先教えて。何かわかったりしたら連絡するから。一応私からも師匠に頼んでみるわ。あんたも普通の魔術師の訓練とか見たいでしょ?」


「え?あ、あぁそりゃそうだけど・・・」


普通の魔術師の弟子ではない康太からすれば、普通の魔術師としての訓練というのは非常に興味がある。


他の同世代の魔術師がどのような修業をしているのか、そして自分がどれだけ突拍子もない修業をしているのか、気にならないはずがない。


逆にそれを見ることで自分がどれだけひどい状況にあるのかという事を目の当たりにするかと思うと見たくないという気もほんの少し湧いてくるが、それを見ないことには自分が異常であるという事を正しく認識できないのだ。


自分の置かれている状況を客観的に見るためにも、見ておいて損はない。


文と連絡先を交換した康太はあることを思い出す。青山と島村にこの状況をどう説明したものかと。


彼らからすればチェックしていたかわいい子がいきなり康太を呼び出したような状況だ。彼らにどのようにこの状況を伝えればいいのかと康太は非常に悩んでしまっていた。


そしておそらくだがこれからも文から呼び出されることは増えるだろう。その時にいちいち彼女との関係性を問いただされてはたまったものではない。


ただでさえ魔術師であることは隠さなければいけないのだ、何かしら設定を考えておかなければいけないだろう。


「なぁ鐘子、一つ頼みがあるんだけど・・・」


「頼み?なによ」


「これからお前に呼び出されること多くなるだろ?その度にいちいち言い訳するのめんどくさいからさ、なんか設定的なもの考えないか?呼び出されても問題ないような、周りから干渉されないような・・・そんな感じの」


康太の言いたいことを理解したのか、文はそれもそうねと考え始めていた。実際彼女としても康太を呼び出すにあたっていろいろと面倒な障害があるのは事実だ。


他のクラスメートたちからも二人であっているところを見られたらその関係性について問いただされることもあるだろう。それなら何かしら公的な理由を作っておいて損はないと考えたのだ。


暗示などを掛ければそのあたりを気にしないようにさせることも十分可能だろうが、人の目が多い学校で魔術を使えばどこの誰に見られていても不思議はない。


万が一にも魔術師であるという事が悟られないように最低限の嘘は必要なことなのだ。互いの安全のためにも。


「それなら・・・私たちは親戚同士ってことにすればいいんじゃない?」


「親戚?あぁなるほど、よそ様の家庭環境なら周りも口出しにくいか」


「そう言う事、家の都合とか用事でいろいろと話をするなら呼び出しても不思議はないじゃない?」


昨今他人の家庭環境などにはあまり首を突っ込まないのが吉とされる風潮があるために、康太と文が親戚関係であるという風になれば変に首を突っ込んでくる輩も減るはずだ。


ただ単に親戚というだけなら男女が近くにいても特に気にしないという事である。


苗字が違うのも少し遠い親戚ならば不思議なことではない、とっさに考え付いた嘘としてはなかなかに上出来な内容だと言えるだろう。


それなら青山や島村にも問題なく説明できる。連絡先を教えるかどうかは正直躊躇うところではあるが。


「じゃあ今日からお前は俺の親戚ってことで・・・あ、でもそれだと名字で呼ぶのはちょっとおかしいか・・・?」


親戚づきあいなどでは基本的に互いを名字で呼ぶようなことはあり得ない。ほとんどが下の名前で呼ぶためにウソがばれる可能性があるのだ。


「それなら下の名前で呼ぶ?えっと・・・康太君?」


「君付けとかすごい違和感だな・・・呼び捨てでいいよ」


「じゃあ康太・・・よろしく」


「あぁ、よろしく文ちゃん?さん?」


「呼び捨てでいいわよ」


互いに名前で呼ぶというのは非常に強い違和感があっただろうが、このまま違和感を引きずるというのは互いの関係が露呈しかねない。


少しでも早く慣れなければと互いに思いながら、とりあえず康太と文は互いに親戚関係という嘘をつくことにした。


同級生の魔術師という事もあってあまりいい関係が築けるとは思っていなかったが、少なくとも現段階では仲良くやっていけそうだと康太は安堵の息をついていた。


校舎裏に呼び出されていきなり電撃を流されるという事は回避できそうだった。これからどのような関係になるかはさておいて殺伐とした空気にならないのは非常にありがたいことである。


「ちなみにあんたの両親って普通の人?」


「あぁ、うちは俺以外は全員普通の人だ。俺だけが魔術師」


「・・・どういう状況でそうなったのか気になるけど・・・まぁあの人の弟子って時点でお察しかしら・・・」


あの人というのが小百合のことを指しているのがすぐにわかるところが悲しいところである。


小百合はどれだけ悪名をとどろかせているのかと気になるところではあるが、それ以外にも疑問があった。


「文の所は家族はどうなんだ?普通?」


「私の所は両方魔術師よ。私は魔術師の家系の人間なの」


そんなのいるのかと康太は眉をひそめていた。その後も自分の家族関係やらの話をして嘘に真実味を持たせるために互いに情報を交換し合っていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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