演技と思惑
康太の顔面に拳が直撃するのを、その場の多くの人間が目撃していた。そしてそれはちょうどその場に居合わせた教師陣も同様だった。
自分の部活の担当を持っている教師以外は何か問題がないように校内を巡回している。その巡回している教師が数人、このタイミングで康太たちの近くを通っていたのだ。
康太がつかみかかられて殴られる現場を丁度目撃していた教師は泡を食った様子で急いでその場に駆け寄ってきた。
索敵によってその情報を得ていた康太は殴られてそのまま地面に倒れ込み、そのまま動かなかった。
そして女性が小さく舌打ちをしたのを康太は聞いていた。やはりこちらの女性の方が状況をよく理解できている。対して康太を殴った男性の方は殴り倒した後も康太にまだ追撃を加えようとしているのか康太の方に歩み寄ってくる。
康太に思い切り蹴りを加えようとした瞬間、周りにいた教師陣が男性に掴みかかり無理やり人数差を使って抑え込もうとした。
「何やってんだこいつ!おい!人呼んで来い!」
「あ!?離せコラ!」
「大人しくしろ!この!」
「おい大丈夫か?」
教師の一人が倒れたままの康太に話しかけてくる。もちろん康太には意識がある。殴られる瞬間に肉体強化の魔術を使って耐久力をわずかではあるが増した上に拳の動きに合わせて首を動かしたためにほとんどと言っていいほどにダメージはなかった。
だが派手に殴られたように見える動きをしたために周りの人間からすれば生徒がやってきた客に一方的に激しく殴られたように見えただろう。
しかもその後に倒れてからも蹴り上げようとしていたところを止められたためにもはや言い逃れはできない。
教師陣だけではなく文化祭という事で巡回していた警備の人間も駆けつけて男の方は校外へと連れ去られ、女性の方もそれに続くようにその場から離れていった。
既に警察を呼ぶか否かという話にも進んでいるが、この状況で警察を呼ぶというのはあまり教師陣としてもしたくないのだろう。どうしたものかと悩んでいた。
「上手いことやり過ごしたわね康太」
教師陣が康太のことを心配している中、その場にやってきたのは文だった。
教師陣に自分が保健室に運びますと暗示をかけながら言うと康太に肩を貸しながらゆっくりと立たせる。
と言ってもそれもパフォーマンスではっきり言って康太には介護が必要ないという事は文も十分理解していた。
「あぁすればたぶん教師と警備の人間に顔覚えられただろ。誰かが写真撮ってればよかったけど」
「それなら問題ないわ。携帯でだけど私が写真撮っておいた。女の方は帽子で顔隠してたからよく撮れなかったけど男の方はバッチリよ」
「へぇ・・・よく撮れたな・・・結構相手の反応からしてギリギリだっただろうに」
「そのあたりはあの双子に手伝ってもらったわ。あんたが殴られる未来を見たって言ってたから助かったわよ」
その言葉に康太は納得して視線の先にいる双子を見つけ笑みを浮かべる。殴られそうな瞬間に携帯を取り出して写真を撮ろうとしてもまず間に合わないだろう。だがあらかじめ殴られることがわかっているのであれば康太の方にカメラを向けて殴られる瞬間を撮影すればいいだけだ。
後はこれを教師や警備の人間に渡せばまず間違いなくあの男はこの場にやってくることはできなくなるだろう。
「結局あの二人の目的は?文化祭を荒らすことってわけじゃなさそうだったけど?」
「ブライトビーを仲間に引き入れたいんだとさ。何ともわかりやすくてばかばかしい理由でちょっと拍子抜けしてたよ。少なくともあんな奴がいるようなところに行こうとは思えないな」
「確かに・・・でも女の方は終始冷静だったわね・・・何考えてるのかわかんない感じだったわ」
「確かに・・・ていうかそれ以前に俺がこの高校に通ってるってこと何処からつかんだんだか・・・別に活動報告とかは上げてないはずなんだけどな・・・」
康太のことを監視、あるいは調べている魔術師がいてその魔術師から情報を買ったのかもしれない。
康太は良くも悪くも目立つ。いろいろと魔術協会の方でやらかしてしまっているために協会に行くと必ず康太の方に視線が向くようになってしまった。
最初は小百合の弟子だからという理由だったのだが、最近は康太自身の実力面が悪い形で評価されてしまっているために妙な注目を集めてしまっている。
康太自身の実力はそれほど高くないのだが、それでも協会の中での評価となると話が変わってきてしまうのだ。
「二人の実力としてはどんな感じだった?殴られてみた感想をどうぞ」
「男の方は多分そこまでって感じだな。自制できるだけの容量が少ない。あれが演技だっていうなら大したもんだよ。まぁあそこであんな演技をするメリットがないから演技じゃないだろうけど」
「・・・女の方は?」
「要注意だな、男の方より女の方が数段格上って感じだった。視線は確認できなかったけどそっちの方に特に意識を向けてたと思うぞ。全体をよく見るだけの余裕があった」
あくまで康太が感じたものだが、文としても恐らく同様の感想を抱いたのだろう。康太の話に納得しながら耳を傾けていた。
もしあの二人がまたこの場にやってくるようなら今度は自分が対応したほうがいいのかもしれないなと文は考えていた。
「あ、あの、八篠先輩・・・大丈夫ですか?」
「思い切り殴られてましたけど・・・」
康太が文の肩を借りてやってくるのを見て土御門の双子は心配しているが、あれが完全に康太の演技であるというのを見抜けなかったのだろう。
予知の魔術と言えど万能ではないようだ。いやどちらかというと予知の魔術がどうのこうのではなく二人の見る目がなかったというだけかもしれない。
この場に小百合と真理がいたなら康太の三文芝居を笑っただろう。その上でもう少しこうしたほうがいいとかこうしたほうが相手をだませるとかいろいろとダメ出し兼アドバイスをしたことだろう。康太の演技力なんてその程度のものだ。恐らく相手も康太の行動を察知していただろう。特に女性の方は康太が倒れこんで気絶したのが演技であるというのを見抜いていたはずだ。
「あれは演技だよ。大体ただ殴られたくらいで気絶するほど軟な鍛え方してないっての・・・それに師匠や奏さんの拳の方がずっと痛かったな」
普段から戦闘というか一方的な暴力に近い訓練に晒されているせいか、康太は物理攻撃に対しての耐性はそれなり以上に得ている。
普段の訓練で培われているのは攻撃の避け方だけではない。攻撃の受け方も含まれているのだ。
人間としての肉体がある以上、どうしても物理的に避けられない攻撃というのは出てきてしまう。それは普段の訓練でもそうだが実戦においてもいえることだ。
特に康太の場合自分自身の攻撃である炸裂鉄球などを使った際なども割と頻繁に自分にも攻撃が当たる。
その為どのように攻撃を受けるかが重要になってくるのだ。
攻撃に対して自分の攻撃を当てたり、身を引いたり捩ったり、魔術を使って耐久力を増したりとただ受けるだけではなくできることは山ほどある。
普段の肉弾戦の訓練のおかげでいくつかの魔術は瞬間的に、それこそ反射に近い形で発動することもできるようになっている。
防御のためだけに魔術を使う事も康太はすでにできているのだ。
「なんつーか・・・さすがっすね・・・俺やったら普通に喧嘩になってたかも・・・」
「そこで手を出したら両成敗だろ。あの場ではしっかりあいつに悪者になってもらわないと・・・これであいつが昼間にここにやってくることはまずないだろ」
「でしょうね・・・問題はあいつらが夜にやってくる可能性だけど・・・」
「その場合は止めようがないんだよな・・・ぶっちゃけあんな奴らの仲間になるつもりゼロだからどうしたもんかと・・・」
昼間は教師陣や警備員の力によって半ば強制的にご退場願ったが、夜となるといろいろと面倒なことになるだろう。
文化祭中という事もあり警備員が夜も見張りをするらしいが、それにしたって夜は魔術師の時間だ。その気になれば一般人の警備員くらいいくらでも欺くことができるだろう。なにせ康太にだってできるのだ。その程度のことができないようならなおさら康太が仲間になるような気が無くなるだけの事である。
「魔術師としてこっちに来たなら魔術師として応対すればいいだけだけど・・・そこに先輩たちが絡んでくると面倒ね・・・無駄に話が広がるのは嫌でしょ?」
「当たり前だ。ただでさえ俺の周りいろいろごちゃごちゃしてるのにこれ以上めんどくさい状況が増えてたまるか。ってまぁ今の状況でも十分めんどくさいんだけどさ」
康太の魔術師としての名前『ブライトビー』が協会内で多く知られるようになってきたせいで康太の関わったことのないような人物までもが康太を仲間に引き入れようとして来ている。
ただネームバリューを得たいだけならまだいいのだが、康太のその身に宿す魔術Dの慟哭のおこぼれを貰おうとしている可能性も否定しきれない。
もっとも康太がDの慟哭を有していることを知っていて、なおかつその実情を知る人物となるとかなり限られる。
そして康太からするともしあの二人が魔術師として夜に学校にやってくるのであればそれはそれで好都合だと思っていた。
「来るなら来るで聞きたいこともあるからとりあえずは静観ってところかね・・・一応今日の夜は見張りくらいはするか」
「ふぅん・・・なんか気になることでもあるの?」
「あいつらが俺の何を魅力に感じて味方に引き入れようとしたのかが気になってな。情報の出どころ含めてちょっと話をするだけの価値はあると思ってる」
「なるほどね・・・確かにその理由を知っても損はないかもね。それによってはあんたの協会内での情報も知れるわけだし」
協会内は文のように康太の実情を知る者たちばかりではない。むしろほとんどの魔術師は康太の実情を知らないものばかりだ。
康太の実力も今までの経緯も、文からすればかわいそうとまで思えるほどの不運っぷりなのだが実際協会内では多くの事件に関わりそれらを解決してきた優秀かつ謎の魔術師として知られている。
特にこれと言って魔術師として大々的な活動をしているわけでもないのになぜか大きな事件を解決したり、本部からの依頼を受けたりと噂に欠かないだけの実績を上げているとはいえ、変に知名度だけが上がってしまっているのだ。
魔術師の評価というのはなにも協会が下す評価点だけがすべてではない。多くの魔術師にその存在と実力、思想などを認知されて初めて名実ともに揃った実力であると言えるだろう。
康太の場合いきなり大きな事件に巻き込まれたせいで無駄に知名度と評価点だけが上がり実力が伴っていないのだ。今回の問題はそこにある。
あの二人が康太の何を魅力に感じて仲間に誘おうとしたのか。康太が問題視しているのはそこなのだ。
先にも記したように康太は妙に名前だけが売れてしまっている魔術師だ。各事件の結果を知るものはいてもその過程を知っている者は少ない。
特に封印指定に関する事柄に関しては結果さえ詳細を知るものは少ないのだ。
魔術協会の中でも割と上位の役職についている魔術師であれば康太の残してきた足跡を追うこともできるだろう。
その過程や結果もある程度ではあるが知ることができるはずだ。もし先程自分を勧誘に来たのが他の支部の人間や、支部長自身、あるいはその懐刀であるというのなら何の疑問も持たなかっただろう。
だが康太を誘いに来たのはチンピラに近いただの魔術師だった。保有している魔力量を見ても、魔術師としての対応を見てもはっきり言ってそこまでレベルが高いとは言い難い。
女性の方に関しては一般的な魔術師としての素養を十分に有しているようだったがそれでも自分の師匠や兄弟子と比べるとかなり劣る。
そしてここで問題なのが先程から言っているように、あの二人が何を持って康太を仲間に引き入れようとしたのかという点である。
先にもあげた通り康太の実情を知るものは少ない。特に実力面に関して詳細に知っているものは少ないだろう。
彼らが今まで康太がやってきた結果の足跡を見て、康太が実力のある人間だと勝手に判断して仲間に引き入れようとしたのならば何も不安に思う事はないだろう。
そんなものは単に突っぱねればいいだけの話だ。
だがもし康太を誘う理由がそれ以外のものだったのなら、康太は自身の中にある警鐘を大きく鳴り響かせなければいけないだろう。
特に康太の持つDの慟哭や康太が同盟を組んでいるアリスなどを引き合いに出してきた場合は注意が必要だ。
この二つの封印指定に関する情報はかなり高いレベルでの情報規制がなされている。人づてに多少漏れることはあるだろう。事実以前文の両親にもそのことはばれていた。
だがそれは実際に事件に深くかかわった文の両親だからこそ知り得た情報なのだ。何の関係もしていないような魔術師が知るようなことができるとは思えない。
もちろん人の口に戸は立てられぬという諺があるように、箝口令を敷いたところで限界があるのも事実だ。
康太が問題視しているのはその情報が漏れたか否かではなく、どこから漏れたのかという事なのだ。
意図的に康太の情報を切り売りするようなものがいるのであれば康太としては対処を考えなければならないだろう。
相手がどの程度の情報を有しているのか、その確認のためにも康太はあの魔術師二人とはもう一度話すべきであると考えていた。
「さすがにお前らの魔術でもそう言う内容を知ることはできないだろ?そもそも予知ってどんな感じで知ることができるんだ?」
「えと・・・俺らが使うのは視覚的に未来の光景が見えるだけです。それに時間とかも結構とびとびになるから詳細とかはわからないっす」
「人によっては声とかを拾える魔術を覚えてたりもしますけど・・・私たちはまだ・・・」
恐らく索敵系の魔術と同じように予知の魔術もいくつか種類があるようだ。
それこそ視覚的な情報だけを断片的に見せるようなものから、未来の状況を実体験によって学ぶような詳細な魔術までより取り見取りだろう。
ほぼ何のリスクもなく未来の情報を得ることができるのだから恐ろしい。それこそ今いる状況の中で知りえるはずのない情報まで得ることができるとなるとその用途と優位性は計り知れない。
「ちなみにさ、その予知の関係の魔術って過去を見ることはできないのか?」
「過去・・・?ですか?」
「そう、未来予知は特定の条件の下で特定の未来を見るだろ?じゃあ特定の条件で特定の過去を見ることはできないのかと思ってさ」
未来視とは康太が言うように特定の未来を見ることができる事である。二人が使う魔術は特定の条件を設定することで、自分の見たい未来を選別するタイプの魔術だ。
先程文が康太が殴られる未来を二人に見てもらったと言っていた。という事はつまりあの二人は康太の未来を意図的に見ることができたという事である。
それは見ることのできる未来の厳選。その場で起きていないはずの未来を見ることができるという魔術の本質を表している。
ならばその逆はどうだろうかと康太は疑問に思ったのだ。
遠視などとは違い、未来視は現実に起きていない光景を視覚化することで情報を得る魔術だ。どのような理屈でそれを見ているのかはさておき、起きてすらいない未来を見ることができるのであればすでに起きている過去を見ることができる魔術もあるのではないかと考えたのだ。
すでに起きていることを見ることができるのであれば、康太という対象を絞って根気よく探していけばいつか康太が魔術師になった日や、そこから巻き込まれたいくつかの事件の全容を知ることもできるだろう。
未来視とは逆の過去視。すでに終わったことを見ようとする。それが一体どういう意味を持つのか、その本質を康太は理解しないままにその問いを投げかけていた。
「ん・・・少なくとも土御門の人たちで過去のことを見ることができる魔術師はいないです・・・そう言う魔術があるかも・・・ちょっとわからないすね」
優秀な素質と才能を秘めているとはいえ彼らは魔術師として未熟、異質な魔術体系を持つ京都の魔術師でも分からないとなるとこの魔術は存在しないと思うべきなのだろうかと康太は思い始めていた。
「ていうかそう言う事こそアリスに聞けばいいんじゃない?そう言う事なら一番詳しいでしょ」
「そうだな・・・っていうかそうだ、奏さんとアリスは?近づいてるか?」
「そうね、今のところ反応はないわ。結局ずっと見張ってたのに全然来ないんだもの・・・実はもう今日は来ないんじゃないかって思ってるのよね・・・ちょっと拍子抜けかも」
「それはフミが抜けているだけではないかの?」
「私達が侵入するといったのに警戒が甘いな」
唐突に背後から声が聞こえたことで康太と文は声のする方向に勢いよく振り返る。そこには奏と奏にそっくりに変装したアリスが立っていた。
いつの間にここに来たのか、いやそれよりも前にいつの間に校内に侵入したのか。
正門、裏門には文が常に索敵を張り巡らせていた。塀を乗り越えられたようなこともない。学校の周辺に関する索敵では文は自信をもってこの二人が通ったという事実はなかったと言えるだろう。
「え・・・?二人ともいつの間に・・・?」
「ついさっきだ。何やら面白そうなことをしていたようだな」
「ていうかどこから!?門にも塀にも索敵張ってたのに・・・」
学校の周りには索敵を張ってある。今調べてみたところ目の前の二人は魔力が普通にある。もし仮に文がこの二人を索敵内に収めれば確実に索敵することができていたはずだ。
文の驚いた様子を見て奏とアリスはどう答えたものかと一度考えてからとりあえず状況を一つ一つ整理していくことにした。
「文、お前は索敵をどこに重点を置いて配置していた?」
「・・・えっと・・・正門と裏門、あと学校周辺の塀のあたり、とにかく学校に入ろうとした人を確認しようとしました」
「それは何故だ?」
「・・・奏さんたちなら正面から堂々とやってくると思ったからです」
実力的にも性格的にも、奏ならばコソコソと侵入するようなことはなく堂々と足を運ぶと思ったのだ。
文の考えには康太も同意している。奏ならば人に紛れて普通にやってくるだろうと思ったのだ。二人の能力ならば正面からやってきても文の索敵を欺くことくらいは容易にできるという判断の下決定した索敵の配置と警戒の方向である。
「まぁ確かに私なら正面からの突破や侵入をするだろうな。その考えは間違っていない。しかし当たり前だが侵入するという事は相手の裏をかくという事だぞ?」
相手の意識の裏や隙を突く。そうすることで相手が想像もしていない場所や方法で侵入することができ、容易に内部や裏側に回り込むことができるのだ。
康太と文は普段の奏の行動や言動から、彼女が真正面からやってくるという事を予想した。普段の奏であればきっとそうしただろう。
だが今回彼女は二人に公言していたのだ。侵入すると。
二人はこの時点で普段の奏とは一味違うという事を念頭に入れておくべきだったのだ。もしかしたら自分たちの裏をかいてくるかもしれないと。
だが奏とアリスと自分達との実力差がその考えを薄くさせた。彼女たちのような実力者が自分たちを相手に裏をかくとか小細工をするという事が想像できなかったのが原因の一つである。
「ちなみにどうやってここに?文はちゃんと周囲に索敵張ってたのに・・・」
「私達がここに来たのは丁度コータが妙な魔術師二人と話をしている時だ。殴り倒される演技もしっかり見えていたぞ」
「あれを見えてたってことは・・・まさか・・・」
「そう、私達は上から来たんだ。お前達の索敵の外側だな」
今回文は校門と校舎を囲う塀、そう言った陸路での侵入を想定した警戒をしていた。学園祭という事もあって明らかに目立つような行動をとるという事はしないだろうという事から人に紛れてやってくると考えていたからである。
「文が索敵能力に長けているという事も、康太が索敵に慣れていないことも把握していたからな。康太の索敵範囲外、そして文が意識を向けていない場所から入らせてもらったんだ。丁度屋上が手薄だったからな」
自由に索敵範囲を操れるのが仇になったなと奏は笑っている。
康太のように索敵系の魔術がまだ未熟であったなら、自分を中心にした一定範囲しか索敵することはできない。
だが文のように索敵魔術の練度が十分以上に達しているものであれば索敵の魔術の範囲をある程度操ることができる。
周囲を索敵するうえで最も効率がいいのは自分を中心にした球体の索敵だが、条件に応じてその索敵範囲を変えたりするのはよくやる手段だ。今回で言えば学校の周り、正門と裏門、そして学校を囲う塀に索敵網を集中させた。
それを把握した奏とアリスは陸路での侵入を止め、空からの侵入を決行したのだ。
「アリスの魔術で姿を消してとんでもなく上空から落下してきたってことですか・・・なんというかよくそんなことする気になりましたね・・・」
上空に飛んでいる人間がいれば人が多い場所では見つかってしまう場合があるが、アリスがよく使う光属性の隠匿魔術を使えば自分たちを透明に見せることもできるだろう。
そうすれば仮に空を飛んでいても何の問題もない。康太が他の魔術師たちと接触して下に意識が向いているのを見てこれ幸いと上空からの潜入を実行したのだろう。
「まぁ私としてもここまでするのは久しぶりだ。だがその甲斐あってなかなか面白いものが見れたから良しとしよう」
「あの演技はなかなか笑えたぞ。何がどうしてああなったのか気になるところだの」
面白いものというのは康太が思い切り殴られて気絶した演技をしていた時の話だろう。あの時の光景を見られていたというのは実際恥ずかしい。
この事が小百合にばれなければいいのだがと思いながらも、奏とアリスにばれてしまった以上それは難しいだろうなと康太は諦めて先程の状況を大まかにではあるが二人に話していた。
誤字報告十件分、そしてレビューを書いてくれた方がいるのでお祝い含め四回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




