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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十二話「アリスインジャパン」

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超えられるか否か

状況が自分に優位であるとはいえ、攻撃の手段を緩める程文は甘くはない。膠着状態が続くのが良くないというのであれば別の手を打つだけだ。


相手に接近するのがあまり好ましくない状況であれば、射撃戦にもうひと手間加えるだけの話である。

文はエンチャントを続けたまま周囲に電撃の球体をいくつも発生させていく。


それはゆっくりとゆっくりと章晴の方向へと進んでいた。


単なる射撃系の攻撃ではこの電撃を防ぐことはできない。章晴もそのことを理解しているのか自分の周りに氷の檻のようなものを作り出していた。


仮に電撃が檻に触れても壁や床、天井などを通じて電撃は章晴の下までは届かない。しかもある程度粗く網のように構成された氷の檻は章晴から届く氷や炎の刃と弾丸を上手く通してくれていた。


そう、こうするのがわかっていたからこそ、文は人差し指をまっすぐに章晴に向ける。


その指先に炎がともったのをその場の全員が見ていた。


火属性の射撃魔術。それは文が康太に教えたものだった。


もともと文が扱える属性は多岐にわたる。その中で彼女が得意としているのは雷水風光の四属性。


そして文はそれ以外にもいくつも属性魔術を扱える。無属性は当然としてその中には今使おうとしている火属性も該当していた。


以前康太に教える際に自身も使っていたという事もあり、ある程度の火の魔術を扱うことができるのである。


もちろん得意としている属性ではないために連射されるそれの命中精度やその威力こそ拙いものの、動きを止め檻の中にこもった章晴の元へと確実に襲い掛かっていた。


小さな炎の弾丸は氷の檻を溶かし、水滴や蒸気へと変化させながら章晴の下に熱気を届けつつある。


章晴の周囲にある檻が徐々にその姿を崩していく。当然章晴はそれを修復するために魔術を発動し続けるが、文の射撃魔術は止まらない。


持久戦にしてもお粗末な対応、はた目から見ればそう映っただろう。だが章晴と奏はそう思っていなかった。


一方的に攻撃する文と防戦一方の章晴、その攻防が逆転したのは文が炎を扱い始めて数十秒後だった、文の炎が一方的にぶつけられ、周囲にある電撃が章晴の元へと近づいていく中、章晴は勝負を決めにかかった。


氷の檻に電撃が触れるか触れないか、その刹那にその魔術を発動する。


次の瞬間、氷の檻が粉々に砕け散り周囲に飛散していく。当然氷の破片の多くは空中に散布してあった文の電撃の球体へと吸い込まれていく。


文の放った電撃の球体は半自動的に周囲の電撃と反応し合って雷光を放ちながら周囲の球体へ向けて電撃を通わせていく。


そんな中、一本の筋のようなものが文へと延ばされていた。


それは電撃でできた一つの道だった。先程文の雷雲を自らの武器にエンチャントしていたことから分かるように、章晴もまた雷属性の魔術を扱えるのだ。


文に気付かれないように延ばされたそれは、文の片手に一直線に襲い掛かる。


文がその行動の危険性に気付いたときにはもう遅かった。


章晴が作り出したその道は、空中で反応し電撃を放ち続けている球体の一つに触れる。瞬間、全ての球体から放たれる電撃が文の片手へと向かうことになる。


昔、康太が戦ったときに反応し合っている周囲の球体がすべて地面に流れ出てしまったのと同じだ。


今回はその先が地面ではなく、エンチャントし続けている文の腕だったというだけの話である。


文のエンチャントは章晴のそれと同じく周囲の現象などを利用したものだ。当然威力が大きくなればそれを制御するのに必要な処理能力は飛躍的に増えていくことになる。


彼女が作り出した電撃をすべて、しかも一度に送り込めばその処理が一気に重くなることで文の反応が遅れることは容易に想像できるだろう。


その瞬間こそ章晴が望んだ状況だった。


完全に反応が遅れ、飛散した氷の破片への対処もできていない。しかも彼女自身腕のエンチャントを押さえこむのに意識を集中しつつあった。そんな中章晴は全力で魔術を発動した。


それは飛散した氷同士をつなぎとめるような魔術だった。


周囲の空間に満遍なく広がった氷の欠片。当然ある程度近くに寄ってきていた文もその破片の飛散した範囲に入ってしまっていた。


そんな中章晴が全力で魔術を発動したことで文の体ごとその魔術の範囲内に入ってしまうことになる。


まるで蜘蛛の巣のような氷のロープが何重にも空間にひしめき合い、文の体は完全に拘束されてしまっていた。


ただでさえ多量の電撃が流れ込んできたことに加えて今度は唐突に氷で拘束されたことで文は完全にパニックに陥りかけていた。


それでも魔術が暴発しなかったのは彼女のスペックの高さゆえだろう。


章晴はどんどん氷を太く頑丈にしていき、やがて文を完全に拘束してしまった。


この状態から抜け出すのは苦労するだろう。その間に章晴が攻撃しておしまいだ。


「・・・はぁ・・・これでこっちの勝ちでいいかな?」


「・・・うぅ・・・!」


全力を出した。全力を出した結果出し抜かれ、無様な状態になってしまっている。


相手が自分を殺すつもりがなかったからこそこうしていられるが、もし文を殺すつもりが相手にあったならここで相手も電撃を使って文に直接ダメージを与えていたかもしれない。あるいは氷の魔術を延長させて刃で一突きすればそこで終わりだ。


文は章晴に勝つことはできず、自身の未熟さをより一層実感していた。


「ふむ・・・何とも無茶苦茶な戦い方をしたな」


奏は戦いが終わったのを見て小さくため息を吐きながら周囲に展開した氷の蜘蛛の巣を徹底的に破壊していた。


時には衝撃で時には炎で、この地下に生まれた異常な空間を正常なものへと戻していく。


その中で文もまた同じように自分の体を拘束している氷の拘束を解いていた。


一度冷静になり、エンチャントも問題なく制御した状態で炎を起こしその体を自由なものへとしていく。


「やはり経験によるものが大きいかの。フミはあの場で動揺したが、アキハルとやらは似たような状況でも全く動揺しなかった。実力差があったにもかかわらずこのような結果が生まれたという事は、フミの精神的な弱さが浮き彫りになった形だの」


「う・・・返す言葉もないわ・・・」


魔術師の攻防というのは相手の得手不得手を把握し、自分の得意分野での戦いに引きずり込むことにある。


相手の弱いところを突き、自分の得意な部分を前面に押し出すことで戦いを優位に持っていくことができるのだ。


途中まで文は上手く事を運べていただろう。相手の射撃戦における能力が自分よりも下であることを把握し、近接戦闘を封じたうえで射撃戦に移行しようとした。


そこまではいい、実際ほとんど文の行った行動はうまく働いていた。


だが章晴も負けていない。文に精神的な未熟さがあることを見抜き、防御でも攻撃でもない妨害という方法で文の動揺と混乱を誘った。


文が扱うエンチャントの魔術がまだ練度が低かったというのも原因の一つだろう。この辺りは章晴にとって僥倖だったかもしれない。なにせ章晴はそのあたりの事情を全く知らないのだから。


戦いというのは素質と才能と能力と技術だけで決められるものではない。そこにある個人の特性や特徴まですべて把握したうえで勝たなければならない。


そう言う意味では章晴は文よりも一回り上手だったということになる。技術的な面では文の方が上だったが、章晴は魔術師として文よりも上だったのだ。


「あはは・・・姉ちゃん、これは合格?」


「落第だ。なんだあの戦い方は。もっと攻撃を前面に押し出せと教えたはずだが?」


「いや・・・さすがに・・・でも全力でやったよ?これでもかなり善戦したほうだよ」


「・・・お前は・・・少しは康太と文を見習え・・・攻撃に関してはこいつらの方がずっと上だぞ・・・」


奏は自分の二番弟子のふがいなさに呆れてしまっているようだった。実際確かに章晴の攻撃はそこまで激しくなかった。どちらかというと文に気遣っているというよりは本人が攻撃に向いていないような感じがしている。


大まかな戦いでも文の攻撃に対応したり妨害したりということはあっても多彩な攻撃と圧倒的な攻撃力を持って対処するという感じではなかった。


奏の弟子にしては少々特殊な部類だ。もっと圧倒的な力をもって押しつぶす類の魔術師と思っていただけに少し予想外だった。


「すまなかったな文。こちらとしてはもう少し強い相手を用意したかったんだが・・・都合がついたのがこいつだけでな・・・」


「いえ・・・奏さん、章晴さん、ありがとうございました。私に足りないものがだいぶ浮き彫りになったように思います・・・」


文はそう言って頭を下げる。普段いつも通りの訓練では実感することのできないものを文は感じた。


緊張感に加え、状況と相手が違う事でまた違うものが見えたのだろう。文に圧倒的に足りないのは実戦だ。

それも誰かと一緒に戦うのではなく、自分一人で、あるいは自分が主体になって戦う本当の実戦。


精神的な弱さは、訓練ではどうしようもない。動揺しないためにはありとあらゆる状況を想定するしかないのだ。


その為には一つ一つの魔術の練度を上げ、多少の妨害では全く動じないようになること。そしてありとあらゆる状況を想定して訓練するか、あるいは多種多様な実戦を積むか。


どちらにせよ文はかなりの手ごたえを得ていた。


普段も小百合のところでボコボコにされて実戦を学んでいるように感じていたが、やはり圧倒的強者との訓練だけではなく、ある程度自分と能力の近い、実力拮抗した相手との訓練もした方がいいのではないかと思えてくる。


ただ文の場合、彼女自身の技術と能力が高すぎてそう言う相手がなかなか見つからなかったのだ。

周りにいるのは極端に強い小百合や真理か極端に弱い康太の二つだけ。これでは正しい実戦的訓練は積めないだろう。


圧倒的強者との戦いでは『負けてもしょうがない』という考えが頭に浮かんでしまう。その為にあれをこうすればよかった、あるいはこうすることでより良くできたのではないかという試行錯誤が生まれにくい。


だからこそ文の師匠の春奈は奏に頼み込んだのだ。上手いこと本当に緊迫した実戦を行えるように、自分の中で改善点や修正点を見つけさせ、もしかしたら勝てたのではないか、方法を変えれば勝てたのではないかと思わせることでより高いレベルでの思考を展開することができる。


文の師匠はよく考えているのだなと康太は感心していた。自分の師匠とは大きな違いである。


毎回毎回圧倒的強者とたたかわされ、その中で成長してきた康太としては何とも複雑な気分だった。


「あーあ・・・負けちゃったわ・・・」


「いやでもすごかったじゃんか。ぶっちゃけ俺としては格の違いを見せつけられた感じなんだけど」


まだ属性魔術の複数同時発動どころか一つの属性魔術を扱うのでさえ苦労している康太からすれば、先程繰り広げられていた文と章晴の戦いは本当に次元の違う戦いのように見えたのだ。


実際康太のような未熟な魔術師からすれば次元の違う戦いだったのだが、そのことを理解している文は複雑そうな表情をしていた。


今まで自分が自分の能力に欠点や改善点を見いだせなかったのは康太という格下が身近にいたからなのかもしれないなと一瞬だけ考え、そして自分のそれがただの言い訳に過ぎないということに気付き自分を戒めてから小さくため息を吐く。


「あんたもそのうちできるようになるわよ。少しずつだけどいろいろできるようになってきてるんでしょ?」


「いやまぁそうなんだけどさ・・・あんな風に魔術師らしい戦い見せつけられるといろいろ思うところがあるんだよ」


「魔術師らしいって・・・あんたも一応魔術師らしいことできるでしょうが。空跳んだり遠くのもの持ち上げたり」


「どっちかっていうと超能力者的かもしれんけどな。まぁ確かに少しずつやってくしかないのかな」


「当たり前よ。そんなに簡単にポンポンと新しいこと覚えられたら私の十年以上の努力なんだったのよって話じゃない」


そう、文のいうように康太と文ではそもそも魔術師としての年齢が違いすぎるのだ。


文はまだ一ケタ、小学校に入学する前から魔術を習い始めすでに十年以上の年月を魔術師として過ごしている。


対して康太は魔術を習い始めてまだ一年にも至っていない。大人と子供どころか大人と赤子レベルの実力差があるのだ。


その実力差をひっくり返せたのは偏に小百合の全く普通ではない訓練のせい、いやおかげというべきだろう。


「というか文が負けたのは私としても予想外だった・・・実はこいつ程度であればギリギリ勝てると踏んでいたのだが」


「え!?姉ちゃん俺を当て馬扱いしたってこと!?」


「いや実際お前程度なら勝てると思っていたんだよ・・・だがお前が無駄な頑張りをしたせいでこっちの思惑が狂った」


章晴さん奏さんに嫌われてるのかなと康太と文が考えている中、二人はふと疑問に思ったことがある。

そもそも章晴はどのくらいの実力なのだろうかと。


「あの奏さん、章晴さんってどれくらいの実力なんですか?実際に戦うと文と結構実力拮抗してたイメージありますけど」


「ふむ・・・素質的にはあまり高くはない。才能も平凡、はっきり言って私の親類なのが疑わしいレベルだ。本人もあまり強くなろうという気概がないしな。ぶっちゃけその気になったら康太でも勝てるのではないかというレベルだ」


「はっきり言うね姉ちゃん・・・さすがに今年から魔術習い始めた人には負ける気はしないよ」


「・・・やってみるか?こいつは地味になかなかのものだぞ?私の攻撃を数分とはいえ耐えることができるんだから、近接戦闘においては小百合のそれに近くなっている」


その言葉に章晴は先程まで浮かべていた笑みをひきつらせていた。奏の近接戦闘の能力は章晴も把握しているのだろう。


その攻撃を数分間耐えることができるという事は康太は近接戦闘において高い能力を有しているという事だ。


「章晴さんは接近戦苦手なんですか?」


「うん・・・そこまで得意じゃないんだよね・・・技術的な面では勝てないから色々と工夫してるんだよ、文字通り氷使って足止めしたり・・・普通にただの肉弾戦だと最悪近所のヤンキーにもやられるかもしれない」


「そこまでですか!?奏さんの弟子なのに!?」


「言っただろ?こいつ自身強くなろうという気概がないんだ・・・肉弾戦はそこまで強いというわけではないが魔術との組み合わせと応用が上手くてな・・・そのあたりを伸ばしている。だから文とは良くも悪くも好相性だと思ったんだが・・・」


肉弾戦が得意な相手を敵にするというのは基本的に何が起こったかわからない間に倒されるということも多々ある。


だが章晴のように魔術の応用や組み合わせと言ったものが得意であれば何が勝因で何が敗因なのか明確に確認することができる。


そう言う事もあって章晴と文を戦わせたのだろう。実はこの対戦は割といろいろと考えられた結果なのだ。


「実際戦えば大抵の魔術師には負けんし、こいつ自身そこまで弱いというわけではない。だがどうにも身につかない部分が多くてな・・・そのせいでこいつの指導には本当に苦労させられた・・・こいつの両親から任された以上無碍にするわけにもいかなくてな・・・」


「あぁ・・・そう言う事ですか・・・」


章晴は奏の親戚だ。恐らくは章晴の両親が奏に鍛えてくれるように頼みこんだのだろう。


親戚づきあいなどもあるために無碍にするわけにもいかず、とにかく徹底的に技術を教え込んだが章晴の素質や性格の面もあってなかなか指導には苦労した様だ。


「そう言う意味では康太や文は非常に教え甲斐がある。むしろお前達に私の弟子になってほしいくらいだ」


「いえ・・・それは・・・」


「わかっている。私とてそこまで無理は言わん・・・」


彼女自身康太と文が自分の弟子にならないことは十分承知している。だが自分の弟子の不満を言いたくなるというのは師匠としての特権のようなものなのだろう。康太と真理が師匠である小百合の不満を口に出しているのと同じようなものである。


「さて・・・私の方からお前達への要件はすべて終わったわけだが・・・せっかくこうして戦える状況にあるんだ。康太、少し付き合え、装備などは適当なものを」


「大丈夫です、自分の持ってきてますから」


奥の方から武器を取り出した奏に対して康太は自分のベルトに装着されていた槍を構築の魔術を用いて一瞬で組み立てる。


奏の所に来るという時点でこうなることは予想できていた。その為康太は何のためらいもなく武器を構える。


「・・・本当にお前が私の弟子だったらよかったんだがな」


「そう言ってくれるのは嬉しいですけど、俺は師匠を変えるつもりはありませんよ?」


「わかっている、だからこそ心底惜しいんだ」


本当に残念そうな表情をさせた後、奏は近くに保管してあった武器を適当に選ぶと勢い良く康太に向かって襲い掛かる。


奏の近接戦闘の実力は小百合以上だ。小百合の刀での戦闘で気絶しないようになってきた康太だが、奏との戦闘では本当に逃げ回りながら気絶しないようにしても最終的には仕留められてしまう。


上手く相手から逃げて急所をずらしていっても最終的に追い詰められてしまうのだ。この辺りは経験の違いというべきだろう。


槍を使って間合いをコントロールしたり、懐に入られても槍を一部分解してナイフのように使っても結局のところ奏はうまく回避したり防いだりしながら易々と康太を追い詰めてしまう。


もちろん康太もやられっぱなしではない。ほとんど防御に意識を費やしているが明らかに隙だと思える瞬間には距離をとったり攻撃してみたりといろいろと試行錯誤を繰り返している。


十全の中で防御九、攻撃一くらいの割合だろうか。当然攻撃をすれば隙が生まれる。その隙を奏が見逃すはずはなく反撃を受けるがそのあたりはすでに慣れたのか自分の体の中でわざと隙を作り相手の攻撃を誘導するくらいの芸当は康太にもできるようになってきた。


奏もわざと作った隙だということがわかっているのだろうが、せっかく試行錯誤しているのだからあえて乗ってやろうという感じなのだろう。だが攻撃に手心を加えるということはなく思い切り振りきってくるから怖いところである。


「うわぁ・・・姉ちゃん相手に本当にまともにやり合ってるよ・・・すごいねあの子」


「いえ・・・あれ結構必死になってますよ?小百合さんの時と比べるとやっぱ余裕なさそうですし」


「ふむ・・・確かにサユリよりも武器の扱いは達者なようだの・・・さすがは兄弟子と言ったところか」


その光景を傍から見ていた三人はそれぞれ思い思いに感想を呟いていた。


自分の師匠の近接戦闘をまともに受けることができるものが幸彦と小百合以外にいるとは思っていなかったのか、章晴の表情は決して良いものとは言えない。


実際奏の近接戦闘でまともに対処できるのは奏の兄弟弟子の二人、そして奏の一番弟子くらいのものだ。その中に康太の名前も列挙されそうである。


だが文のいうように小百合の時に比べるとだいぶ余裕はない。小百合との戦闘時は必死に逃げながらもなんとか徹底的に急所への攻撃は避けられていたし、何より反撃の回数もだいぶ多かった。だが今の奏相手の戦闘は回避しきれずに攻撃を受けてしまう事が多い。


やはり奏と小百合では武器を使った戦闘の実力には差があるのだろう。


そしてアリスは奏の近接戦闘を初めて見たからか素直に驚いているようだった。


恐らく今まで彼女が出会ってきた中でも奏はかなり上位の実力を持った人間になるのだろう。特に近接戦闘に関してはトップクラスと言っても過言ではないほどに。


普段康太と戦っているのを見ている小百合とはまた別の鋭さが彼女にはある。それも当然かもしれない。小百合が扱う武器などはほとんどが奏のそれを真似たものなのだ。いわば奏は小百合の剣術のオリジナルということになる。


レプリカがオリジナルに勝てないということはないだろうが、奏と小百合では武器を使った戦闘では奏に軍配が上がる。


智代の弟子の三人の中で一番武器の扱いが上手いのが奏、徒手空拳の肉弾戦が得意なのが幸彦、そしてその両方を二人より少し劣ったレベルで扱うのが小百合なのだ。


良くも悪くもハイブリットな状態であるために師匠としては優秀な方なのかもわからない。


数分間戦闘を続けた康太だが、奏の一撃を槍で受け止めた瞬間、わずかな痛みが走り体の動きが一瞬硬直してしまう。


その隙を見逃すことなく奏は康太の鳩尾に鋭い蹴りをめり込ませた。


転がるように後方に蹴り飛ばされた康太はすぐに体勢を整えて立ち上がろうとするが腹部に走る痛みが立ち上がることを許してくれなかった。


すぐに戦える体勢を整えなければ、頭ではわかっているのに体が動いてくれない。康太が槍を持って立ち上がろうとしているとその首筋に奏の刃が添えられる。


「・・・まぁまぁもつようにはなってきたな。最初が嘘の様だぞ」


「・・・せめて十分くらいは戦えるようになりたいんですけどね・・・まだまだ精進が足りません・・・」


「ふふ・・・そう簡単に追いつかれては私としてもつまらんというものだ。少し休んでおけ。その間にこっちはこっちでやることがある」


そう言って奏は章晴の方に視線を向けると爽やかな笑みを浮かべて見せた。


「さぁ章晴、久しぶりにお前に稽古をつけてやろう。年下がここまで頑張っているんだ、お前も少しは根性を見せろ」


まさか自分に飛び火するとは思っていなかったのか、章晴は引きつった笑みを浮かべながらその場から逃げようとする。だがそんなことを奏が許してくれるはずもなかった。


あっと言う間につかまってしまった章晴はその後奏によってボコボコにされることになる。



土曜日、誤字報告を十件分受けたので合計四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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