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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十二話「アリスインジャパン」

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破りつつある殻

きっかけは幸彦との会話だった。肉弾戦において耐久力の低い文がどうにかして接近してくる相手とも戦えないかとアドバイスを求めた結果、彼が出したのがエンチャントと呼ばれる魔術だった。


無属性のエンチャントであれば確かに装甲に近い形での発動ができ耐久力を増すことができるだろう。


だがそれでも限界がある。相手の攻撃を受け続ければ装甲というのは脆いものだ。特に小百合のように相手の弱点を突くことに長けた魔術師には早々に見抜かれ、装甲ごと貫かれてしまうだろう。


あるいは装甲が意味をなさないような攻撃法をされるかもしれない。そんな中思いついたのだ。防御を固めるのではない、だが接近戦に多大な影響を与えるエンチャントの活用方法を。


それが電撃を体にまとうという事だった。


文の扱う魔術において雷属性はもっとも得意としているものだ。そして雷の魔術を発動すると自分自身もその魔術の被害を受けないように注意しなければならなかった。


元より扱いが難しく、何より高い攻撃力を有しているからこそ、発動したら自分の被害が出ないように別の魔術で誘導したり、自分に被害が出ない場所で発動させるなどいろいろ気を使わなければいけなかった。


だが文が覚えたエンチャントの魔術によってそれは覆った。


彼女が覚えたのは先程章晴が使ったものとほぼ同質のものだった。自分がエンチャント用として纏うための魔術を発動する物ではなく、自分以外のものが発動した魔術を無理やり取り込む形で纏うエンチャント。


そのエンチャントは、自分が発動した別の魔術にも適用される。


特に文の雷属性の魔術は一度発動すればあとは特定条件や状況によって自動的に発動する物が多い。制御から離れた雷を用いた訓練は容易であり、文がこの魔術を覚えるのに時間はかからなかった。


そして何より大きいのは、自分の発動した魔術によって自身が傷つくという危険性を考えなくてもいい状況が作れることが大きい。


言い方を変えれば、文は雷雨の中に自分から突っ込んで行動することもできるようになったのだ。


自身に襲い掛かる雷があればそれを自らの体にまとわせることで自らの力とすればいい。


今まで近接戦闘における反応速度が鈍く、苦手としていた文だが、相手に攻撃すらさせないような状況を作り出すことに成功したのである。


事実章晴は文に近づくことを嫌がり、射撃戦に移行した。


先程の状況とはまるで真逆の状況だ。文は自らの両腕に込められた電撃を維持しながら飛んでくる氷の刃を暴風で吹き飛ばしていた。


目の前で繰り広げられる魔術師としての攻防に、それを見ていた三人はそれぞれ思考していた。


奏は先程までの攻防において甘いところやもっと攻撃的にできたところ、逆にあの状況ではこうするべきだっただろうなというところなどを文の視点や章晴の視点から常に考え続けていた。


互いに覚えている魔術をすべて把握しているわけではないために推察も含まれるがそのほとんどは彼女なりに理想的な戦闘をするために必要なことだった。


対してアリスは彼女たちが使っている魔術の分析と、その練度を確認しそこから文や章晴の正確な実力を把握しつつあった。


訓練の場を何度か見たことはあるが、あの時とはそれこそ戦闘の密度が違う。互いに本気でやっているというのが当人たちの必死さを引き出しているのだろう。普段ならばしないような行動、普段ならばやらないような無茶苦茶な行動もする本当の意味でのガムシャラな実力を見ることで、その実力を認識していた。


特に把握したかったのは文の実力だ。大まかには予想はできていたがやはりスペック的には文が圧倒している。もともと有していた素質も才能も文は一級品だ。最初はぎこちなく、やや硬さが見えた動きも今や訓練の時と同じ程度には動けている。


長く相手の敵意と殺意に晒されることで徐々に慣れつつあるのだ。もとより小百合との訓練から強い威圧感を受けることには慣れている。あとは一対一で、自分が戦わなければいけないという状況、そして負ければ死ぬという極限の状態でどれだけ頭を回すことができるかという事が重要になってくる。


文は今殻を破りつつある。彼女にあった温室育ちという殻を。その殻を破り本当の天才になろうとしている。それを一番感じているのは文の隣に居続けた康太だった。


自分と戦った時とは本当に別人のようだった。あの時は自分自身が決まった行動しかとらなかったからというのもある。康太が実力を隠しているように見えたから文も意地になって実力を隠そうとした節もあった。


相手の油断と動揺を誘ったからこそ康太は文に勝てた。


だが目の前で『魔術師として』戦っている文の姿を見て康太は感動していた。


まともにやって自分などが勝てる相手ではない。今まではその言葉の意味を正しく理解していなかったかもしれない。それほどに目の前で戦う文は魔術師として完成されているように思えた。


複数の種類や属性の魔術を同時に扱うだけではない。相手の魔術を受けた時にその対策や対応をすぐに繰り出せる。その上で自分が有利になるようにその状況をコントロールする。


今まで康太が見ることがなかった『本当の魔術師の戦い』がそこにはあった。


自分が戦いを挑んだ時点で見ることができなくなっていたそれを見て、康太は心の底から感動していた。

あれが自分の目指す姿であり、自分では届かない姿なのだ。


康太は改めて、今までよりもより強く文に対して尊敬の念を向けていた


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