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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」

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呼び出し

「八篠君いる?」


千五百メートルを無事に走り終え、体力測定の全ての項目が終了した日の昼休み。弁当を広げて青山や島村と一緒に食べようとしていると康太のいる教室内に凛とした声が響いた。


それが文のものであると気づくのにほんの少しだけ時間がかかったのは言うまでもない。


自分が呼ばれていると気づいてその声の方向を向くと、そこには先日戦ったばかりの魔術師、今はただの女子高生の鐘子文が立っていた。


教室内を見渡して康太を探しているのだろう、その行動に青山と島村は康太の方を凝視していた。


「おい八篠どういうことだ、あの子お前を探してんぞ!どういうことだ!」


「え?もしかしてあの子?めっちゃかわいい!え?何で八篠呼ばれてるの?」


「俺が知るかよ!何?何?どういうこと?俺殺されるの?」


二人からすれば冗談に聞こえたかもしれないが、康太からすれば冗談ではない。クラスメートの前で堂々と呼び出される。これは校舎裏に連れていかれてボコボコにされるフラグかもしれないと康太はかなりビビってしまっていた。


日常だけを見ている青山と島村からすれば何を言っているんだこいつはと思われるかもしれないが、魔術師としての彼女を見ている康太からすれば割と本気で殺されるかもしれないと思ってしまうのだ。


そして康太を探していた文がその姿を見つけると僅かに目を細めた後でこっちに来いとジェスチャーで伝えてくる。


ダメだ、これはもう逃げられないと康太は自分の運命を悟った。


「悪い二人とも・・・ちょっと呼び出し喰らったっぽい・・・行ってくるわ・・・」


「あとで何がどうなってるのか話せよ!絶対だぞ!」


「連絡先!連絡先聞いておいて!」


青山と島村の反応を見る限り、彼女にお近づきになりたいと考えているのだろうが、彼女に近づくことがどれだけ大変なのかわかっていないだろう。


電撃を潜り抜けて彼女に近づいた自分はその苦労を身に染みて理解している。もう二度と彼女には近づきたくないと思っていたのにまさか彼女から近づいてくるとは思ってもみなかったのである。


自分を負かした相手に何で次の日に接触してくるのかと康太はため息をついてしまっていた。


弁当を持った状態で廊下へと出ると、満面の笑みをした文がそこに待っていた。だが康太にはその笑みが薄っぺらな嘘によって貼り付けられたものであると理解できる。


「で・・・?なんか用か?」


「なんか用とは御挨拶ね。話があるから来なさい。ここだとまずいわ」


こっちの都合は無視ですかそうですかと康太は弁当を持ったまま引きずられるようにして文の後についていくことになる。


自分の周りの魔術師でまともなのは兄弟子しかいないのかと、魔術師の常識人を求める康太としてはこの状況はかなりつらいものだった。


文に連れられてやってきたのは学校の屋上だった。


本来鍵がかけられ簡単には入れないような場所なのだが、彼女は何故か普通に開閉することができるようだった。


それが魔術によるものだと気づくのに時間はかからなかった。なにせ鍵も何も持っていないのに扉の鍵を開けられるのだから、魔術的な行動をとっていると考えるのは実に自然な考えだろう。


「で?白昼堂々何の用だよ、思い切り目立ってたぞ」


「仕方ないじゃない、放課後は部活とかあるでしょ?昼休みくらいしか話せる時間ないと思ったのよ」


彼女の言い分は正しい。確かに康太は部活に入っているために放課後に時間は取れない。さらに言えば部活の後、あるいは部活をさぼる日も小百合の所に行って魔術の修業が待っているのだ。悠長に話をしていられるだけの時間はほぼないのである。


だからと言ってクラスメートたち全員が見ている時に呼び出すこともないだろうと康太は半ばため息をついてしまう。


絶対噂されてる、そう確信しながら。


「お前もうちょっと自分のこと正しく理解したほうがいいぞ?ただでさえ結構目立つんだから」


「そんなの分かってるわよ。でもしょうがないじゃない、こういう時じゃないと話できないし。誰かいると猫被らなきゃいけないし」


「猫被ってんのか・・・そう言うのは知りたくなかったな」


普段の彼女がどんな風に過ごしているのかは知らないが、恐らく今こうして話しているこの姿が素の彼女なのだろう。


この前すれ違った時はもう少し穏やかに笑っていたように思えるが、今はどちらかというととげとげしいというか鋭いというか、妙に威圧感のある性格に思えた。


きっと女子の世界でもいろいろあるのだなと納得することにして康太は自分の弁当を広げ始めていた。話だけをするにも腹ごなしだけはしておきたいのである。


先程昼食を中断させられたせいで腹の虫が絶叫をあげているのだ。そろそろ何か腹にいれないと不貞腐れてしまうかもしれない。


「男子ってそんなに食べるんだ・・・よく入るわね」


「むしろ何で女子がそんなに食べる量が少ないのか気になるよ。それじゃ体もたないだろ?」


そうでもないわよと言いながら文が拡げる弁当は康太のそれの半分程度しかない量だ。いくら体の大きさが違うとはいえそんな量では夜までもたないのではないかと思えてしまう。


やはり男子と女子は違う生き物なのかもしれないなと思いながら康太は弁当に箸を伸ばしていた。


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