処理の問題
「だがお前だってその気になれば避けることも対処することもできるだろう。できないとは言わせんぞ」
「そりゃまぁ・・・ある程度予想して避けるとまではいわなくとも防御することくらいは・・・でもやっぱ師匠相手だと数分もつかどうか・・・」
先程のような肉弾戦だけなら十分は確実に持たせることができる。そして小百合が魔術を使ったとしても数分程度は持たせる自信はあった。
実際何度か訓練で魔術を使った戦闘をしているが一、二分程度なら問題なく戦うことができる。
だがやはり地力が違うのか、確実に康太の対処能力を超える攻撃を何度もしてくる。一度や二度程度であれば我慢したり強引に回避したりで耐えることはできるのだがそれを延々と続けてくるのだ。
小百合の戦いの辞書に防御という文字はない。彼女の兄弟子である奏や幸彦にはしっかりとあるその文字が小百合にはなぜかないのだ。
とにかく攻撃しまくる。相手の攻撃を受けながら、あるいは避けながら攻撃し続ける。
しかも自分の致命傷はしっかりと避け、問題ないと思った攻撃程度なら当たりながら攻撃してくる。
自分の肉を切らせて骨を断つどころの話ではない。皮を削がせて骨を断つレベルの攻撃力と対処能力の差なのだ。
「師匠相手に数分もてば十分ですよ。普通の魔術師相手なら普通にいつまでも戦っていられるのでは?」
「あー・・・どうでしょう・・・俺自身長期戦は苦手ですし・・・相手の魔術をほとんど見切ることができれば割と戦えるかと・・・」
康太の戦いにおいて重要なのはいかに自分の消費を少なく、そして相手の消費を大きくするかにかかっている。
康太自身の魔力の供給口が弱いせいもあって、康太は長期戦を苦手としている。
Dの慟哭のおかげで多少ましになったとはいえそれでも長い時間戦う事は得意ではない。最終的に消費と供給のバランスが崩れ、魔力切れを起こしてしまうのが原因である。
そこで重要なのは相手の使う魔術を見切ることだ。
攻撃範囲、威力、特徴などを完全に把握することで必要最低限の魔術や行動で回避や対処が可能になる。
そうすることで相手へプレッシャーを与えることもできるし自分の消費魔力も少なくなるという考えうる限り最高の状態に近い。
もっとも相手だって鍛錬を重ねてきた魔術師だ。そう簡単に攻撃を読み切らせてくれるはずもない。
だからこそ康太は早々に決着をつけることを好む。とにかく相手が全力を出し切る前に、まだ余裕を見せている間に畳みかける。
相手が本気を出してきたらそれだけで自分が不利な状況になってしまうのだ。
普通の魔術師が良くする様子見段階で康太は早々に終わらせようとする。魔術師は戦いを神聖視するきらいがあるために短期決戦は非常に効果的だ。
しかも相手へ与える精神的なプレッシャーや焦りはかなり大きなものになるからなおさらである。
まともに戦う必要はない。それが康太のモットーでもあり基本的な戦闘への考えである。
「でしたらもっと訓練しなければいけませんね。これからいろいろと面倒なことに巻き込まれるかもしれませんし」
「そりゃそうですけど・・・あ、そうだ姉さん。文のところで火属性の射撃魔術をいろいろと試してきたんですけど」
「あぁあの魔術ですか。それがどうかしましたか?」
「上手いこと射程と速度の両立ができなくて。なんかいい感じにアドバイスを頂けたらなと」
文のところで威力、射程、速度、連射速度の項目をいろいろと試してみたのだがどうにもうまくいかない。
ある程度実戦でも使えるようにするには最低でも射程距離は十メートル。速度は時速六十~七十キロ程度。威力は多少火傷させられるくらい。速射性は一秒に数発程度が好ましい。
これだけの条件を満たすためにはまだまだ練度が足りな過ぎる。せめて処理をもう少し減らして上手いこと上達させなければいつまで経ってもライターもどきの火属性魔術しか扱えないことになってしまう。
それはあまりにも残念だ。
「そうですねぇ・・・氷属性や水属性なんかと比べて火属性の射撃魔術って実は難易度高めなんですよ」
「へぇ・・・何でですか?」
「水や氷は物体ですが、火はあくまで現象ですからね。それを弾丸に見立てて飛ばすというのはいろいろと制約が多いんです。処理が多くなるって言い方の方がわかりやすいですかね」
「あー・・・そっか・・・そう言えばそうだな・・・」
火属性の魔術を覚えたおかげで、いや覚えたせいでなんとなくイメージが変化していたが、炎というのは基本的にただの現象だ。
水や氷と言ったそこにある物体ではなく、物体が何らかの変化をすることによって生じる現象でしかない。
その現象を、一定の状態を保ったまま飛ばすというのは単なる物体を飛ばすことに比べると難易度は格段に上がる。
だからこそ無駄に処理が多く康太が苦戦する原因にもなっているのだ。




