タイプと育成
「なんかもう凄いがっかりだ・・・魔術を覚えて早半年、たぶん今までで一番がっかりしたかもしれないわ」
「何でそんなにがっかりしてんのよ、どんだけポケモン好きなのよ」
「だってさ、水より電気の方が強いと思ってたんだよ。アニメとかでも毎回そうだろ?毎回そんな感じじゃん」
康太は小さいころからそう言った番組やゲームをよく目にしていたためにどうしても先入観が強く残ってしまっていたのだ。
曰く、水は火よりも強く、電気は水よりも強い。他にも飛行タイプは電気系の技に弱い、草タイプは飛行タイプに弱いなどなど、いろんな先入観ががんじがらめになっていたのである。
当然それが打ち破られたというのは康太にとってかなり強い衝撃だった。
「・・・あれは攻撃を受ける奴自体が湿ってるからよく電気を通すとかそう言う理屈だったんじゃないの?水タイプの奴って大体カメとかカエルとか魚とかそう言うのが多かったじゃない?」
「・・・そう言われると納得はできるんだけどさ・・・なんかこうさ・・・腑に落ちない感じっていうのはあるんだよ」
文のいう事は正しい。恐らく開発者もそう言う考えの下相性などを考えているのだとは思うが子供のころから相性の物理的な見解など考えるはずもない。
当然康太もそう言う人間だ。だから魔術の相性的な話をされて強く違和感を覚えたのも仕方のない話だろう。
「ちなみに聞いておきたいんだけどさ、風属性と雷属性ってどっちの方が上だ?」
「また返答に困ることを・・・いや言いたいことはわかるんだけどね・・・んー・・・どっちだろ・・・風の方が若干上・・・なのかな・・・?」
「畜生、また一つ俺の中の常識が打ち砕かれたよ」
「あんたが言いたいのは飛行タイプの話でしょ?そう言うのとは完全に別の話にしなさいよね」
康太と文がポケモンの相性の話をしていると話を終えたのかエアリスとアリスがこちらにやってくる。
やたらと不貞腐れている康太を見てエアリスは目を丸くし、アリスは何をしているのかと首をかしげていた。
「文、何かあったのか?いつもにもまして妙な雰囲気だが」
「あぁ気にしないでください。ちょっとゲームと現実の違いに直面して不貞腐れてるだけですから」
「・・・そう・・・なのか?まぁ何もないならいいんだが」
いきなりゲームと現実の違いなどと言われてもエアリスは何のことだかさっぱりわからなかっただろう。
そもそも彼女がポケモンというゲームを知っているかどうかすら怪しいものだ。
「ほれコータ、何を不貞腐れておるか。全くいい歳した男が情けない」
「ほっといてくれアリス・・・十万ボルトが役に立たないような世界に絶望したんだ。相変わらず現実の魔術は世知辛いよ」
「何を訳の分からんことを・・・フミ、一体どういう状況だ?」
「あー・・・まぁなんていうか・・・こいつがポケモン好きってことだけはわかるわね。気にしないでよ」
ポケモンという単語が出てきたことでアリスは小さく「ほぅ」と呟くと康太の方に向き直りその体をゆする。
「コータよ、お前はポケモンのゲームを持っているのか?」
「持ってるけど・・・え?ていうかアリスポケモン知ってるの?」
「もちろん。あれは日本以外でもだいぶ有名だったからの。何度かテレビで見たこともあるがゲームはやったことがなかったのだ。やらせてくれ」
「ほう・・・!あのゲームに手を出すのが一体どういうことだかわかって言ってるのか?修羅の道だぞ?」
「む・・・そうなのか?幼子たちがよくやっているイメージなのだが」
アリスのイメージとしてはポケモンは子供が遊ぶものであるという印象だった。小さな子たちがぬいぐるみなどをもってゲームで遊んでいるような光景を何度かテレビで見たことがあり、アリスの中でのポケモンは子供用のゲームというカテゴリーの中に納まっているものだ。
だが実際はそうではない。昔子供だった世代が今大人になり、ポケモンの奥深さを知り今なお活動しているのだ。
「甘い、甘すぎる。遊びでやるならまだしも本気でやるのであればポケモンは本当に時間がいくらあっても足りないゲームだ。やり込める人間にとっては何百時間遊んでも不思議じゃない」
「そうなのか。それこそ私にピッタリではないか。時間なら余すほどあるのだ。新しい趣味を見つけるという意味でもよい機会だ」
「・・・そうか・・・お前がそれほどいうのなら喜んで貸そう・・・いやこれを機に自分で買ったほうがいいな。あとで電気屋に行こう。その時に機種と一緒に最新作のやつを買うといい。ある程度育ったら対戦しようぜ」
「ほほう対戦もできるのか・・・フミも一緒にやろうぞ!」
「え!?私も!?今さらポケモンは・・・」
「やめておけアリス、文にはポケモンは荷が重い。あれは覚悟を持っている奴しか本気でできないゲームなんだ。大人ぶってる奴にはできないのだよ」
康太の挑発するような言葉が文は癪に障ったのだろうか、いいわよやってやろうじゃないのよと簡単に乗ってきた。文の扱いに慣れてきた康太だが、彼女の師匠であるエアリスからすると少し不安でもあった。
「で・・・あいつは早速遊んでいるわけか」
「はい、結構はまってるみたいでまずは旅を終わらせるところまでやるんだとか」
後日、地下の貸し出している一角の整理整頓も終わらせたアリスはさっそくと買ってきたゲームをプレイしていた。
あまりにも子供向けなゲームであるために最初こそ少しだけ億劫だったようだが、モンスターを捕まえ、戦って育てるという分野が嫌いではないのかそこそこに夢中になっている様子だった。
今では修業場にまで持ってきている始末である。バランスの取れたパーティを使いながらまずは旅を終わらせて早々に自分好みのチームを作ると意気込んでいた。
「趣味を増やすというのはいいが、あまり増やしすぎて廃人にならなければいいがな・・・というかお前としてはいいのか?同盟相手があんな風になってしまっているが」
「いいんじゃないですか?もとよりあいつの趣味を増やすってところに関しては反対するつもりはないですし。何よりやることがないよりはいいかなって」
「そんなものか・・・何百年も生きてきた魔術師がゲームにはまるとは思えんのだが・・・」
「そうはいってもゲームってここ二十年くらいで発展した文化ですし、アリスにとっては珍しいんじゃないですか?一度はまったら抜け出せなくなるかもですよ?」
「・・・それはそれであまり良い状態とは言えんが・・・まぁ本人がいいと思っているのであれば部外者が口を出すことでもないか」
そんなことを話しながら康太と小百合は準備運動がてらの徒手空拳による組手を行っていた。
互いに本気ではなく話ができる程度の集中力を保っての組手である。体を温める程度の意味合いしかないために康太もそこまで集中せず小百合の拳を受け、また小百合に向けて拳を振っていた。
「ただあぁしているのをみているとなぁ・・・まさに現代っ子という印象が強くなってしまう。どこに行くにも携帯ゲームを持ちこむあたりまさにそれらしい」
「あー・・・確かにそう見えなくもないですね。アリスって見た目はただの金髪幼女ですし・・・あんな感じで座ってゲームやってるの見ると現代の闇を体現しているような感じに・・・」
「闇かどうかは知らんが、少なくとも踏み込んではいけない領域に足を踏み込んだのは間違いないだろう。あぁいうのは際限なく新しいのが出てくるからな。それこそ終わりがない。あれを出している会社がつぶれでもしない限り・・・いやつぶれても出てくるかもしれんぞ」
「それなら一生続けられる趣味ができたってことでいいんじゃないですか?今ならネット環境さえ整えればそれこそどこでもゲームできるわけですし」
「一生・・・か・・・あいつにとってこれほど重い言葉もないな・・・」
百年程度で命を終える康太たちと違ってアリスは恐らくその百年が終わってもずっと生き続けるのだ。
あと何百年生きるのかはわからない。アリスの細胞の限界がいつ訪れるのかは恐らくアリス自身にもわかっていないだろう。
本気で死にたくなったら細胞関係の魔術を解除すれば、いや別に細胞に関係している魔術を解除しなくとも自殺という方法をとることもできるだろう。
アリスが生きながらえているのはあくまで細胞の老化を極端に遅らせているだけなのだ。外傷などによって生命維持が難しくなれば普通に死ぬ。
彼女が今こうして生きているのは彼女自身が生きたいと望んでいるからに他ならない。その理由が何なのか康太たちはわからない。こればかりは本人でなければ、いや本人でさえ分かっていないかもしれない。
なぜ生きるのか。そんな哲学的な問いに答えられるほど康太は頭はよくないし人生を悟っているわけでもない。
彼女がそれを求めるのであればそれを止めることはできない。たとえそれが犯罪だとしても彼女が本気でそれをやろうとしたら康太たちの実力ではそれを止めることは不可能なのだ。
もっとも、小百合のいうように修業場の一角で小さくなってゲームをしている彼女の姿を見ると現代っ子のように見えなくもないが。
何百年も生きてきた魔術師が現代っ子というのもなんだかおかしな話である。
「そう言えばお前がああいったゲームを自主的にやっているところは見たことがないな・・・普段はゲームはやらないのか?」
「俺だってゲームはやりますよ?ここに来る時はやらないってだけで」
康太と小百合の間にあるゲームというと大抵が対戦系のアクション、スポーツ、レースと言った操作能力が左右するゲームばかりで今アリスがやっているような育成系のゲームはあまり話題には出てこなかった。
そもそも魔術の修得確認のためにゲームをやって意識を逸らせるのが目的であって意識を逸らしきれないコマンド式のゲームは練度確認試験には合わないのだ。
そう言う事もあって今アリスがやっているようなゲームは全くと言っていいほどに話題に出なかったわけだが、康太だってあのようなゲームをやらないわけではない。
「だがお前くらいの歳になるともうあぁいったゲームは卒業しているんじゃないのか?どちらかというと狩り系のゲームの方がやってそうな印象だが」
「もちろんそっちも結構やりますよ?まぁでも毎回毎回狩りしに行くのも結構疲れるので、何周かしたら別のにって感じですかね」
ゲームというのは基本的にやり続けると飽きがくる。当然どんなゲームにも特徴や攻略法があり、それを確立すると大抵作業をするかのように淡々とこなすだけになってしまうのだ。
狩りを目的としたゲームはチームを組むこともできるためそちらをメインの目的としているのだが、それでもやり続けていれば飽きてしまう。そう言う時に手を出すのが急がずにできる育成系なのだ。
評価者人数が220人突破したのでお祝い二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




