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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十二話「アリスインジャパン」

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地下の趣味置き場

「いやぁ買った買った。これだけ買えばしばらくは持つだろう」


「買いすぎだよ・・・持つのが大変だぞこれ・・・」


アリスが買ったものはかなりの量で、康太と文はそれぞれ身体能力強化の魔術をかけながらそれぞれ荷物を持つのを手伝っていた。


もちろん買った本人であるアリスもそれなり以上の荷物を抱えている。と言っても彼女の体ではそこまで多くの荷物を持つことはできない。


魔術的に荷物を軽くすることはできても手や腕、そして身長的な理由から多くの荷物を抱えられないのである。


その結果大体の荷物を康太が、比較的小さい荷物を文やアリスがもっている状態となっている。


荷物持ちは慣れたものである康太ではあるが、ここまでの量を一度に持つのはさすがに初めてだった。


大体買い物をする際は小百合の車が近くにあったり、置く場所が近くにあったりしたものなのだが、今回は一度協会を経由して家まで帰らなければならない。しかもこれだけの荷物を康太の家においておくというのだから、康太としてはあまりいい顔はできそうになかった。


「にしてもこれだけの数・・・俺んちにおけるかな・・・相当な量だぞ?」


「ん?安心せい、これはコータの家ではなくサユリの店においておく」


「え?そうなの?てっきり康太の家に持っていくものだと・・・」


「さすがにこの量を家に持ち帰ったら家主に迷惑がかかるだろう。幸いサユリの店には地下に商品を置く物置があるようだし、そこの一角を借りようと思っておる。もちろんキチンと借用契約を結ぶぞ」


結ぶという事はとりあえず現段階では契約は結んでいないことになる。そう言う事は事前に決めてなおかつ事前に契約しておくべきことではないのだろうかと思いながら康太はとりあえず小百合に連絡しようとしていた。


「一応師匠に話は通しておくぞ?いきなり荷物おかれても困るだろうし」


「うむ、頼むぞ。やはり携帯はあって損はないな。なるべく早めに入手しておく必要がありそうだ」


アリスは康太が電話をかけようとするのを見て楽しそうに笑いながら歩を進めていく。


今まで生きてきて文明の利器であるパソコンや携帯に触れたことがないわけではないだろう。


と言ってもその二つはここ二十年ほどで急速に発展した機械だ。何百年生きていようと唐突に現れた機械のことをあまり知らなくても無理はない。


存在は知っていてもその利用価値に意義を見出せなかったのだろう。パソコンはまだしも携帯などは連絡する相手がいなければはっきり言ってあってもほとんど使わない。最近の携帯は連絡手段よりも別の用途で使う方が多くなっている感はあるが、大本の利用目的としては電話やメールをかけることなのだ。


連絡する相手ができた今、アリスにとって携帯電話を利用するだけの目的ができたという事でもある。


それは喜ばしく思う事なのだろう。今まで住んでいた場所に思い入れがあるかどうかはさておき、新しく人間関係を築いているという事なのだから。


『私だ。何か用か』


「お疲れ様です師匠。実は折り入ってお願いがありまして」


『・・・なんだ藪から棒に。お前が私にお願いとは珍しい』


「あー・・・いえ、お願いがあるのは俺じゃなくてアリスの方でして、一緒にいますから今電話代わりますね」


そう言って康太は携帯を通話状態にしたままアリスに渡す。アリスもその意味を理解したのか携帯を受け取ってそのまま通話を始めていた。


「ハローサユリ。一つ私と契約してほしい案件があってだな・・・いやいやそう言う事じゃない、それは本人の意思を優先するべきだろう。実はお前の店の地下の一角を貸してほしいのだ・・・そう、そう言う事だ。ちょっと買いすぎてしまっての・・・そう・・・うむ、正式な契約は私がそちらに戻ってから・・・わかった、今から戻ろう」


どうやら話は終わったらしくアリスは携帯を康太に手渡す。だがまだ通話状態は続いているようだった。

さすがにどんな話になったのかは今のアリスの声でなんとなくわかる。康太は携帯を耳に当てて向こう側にいる小百合がどんな状態かを確認することにした。


「いきなりすいません師匠。まさかアリスがこんなに買い物するとは思ってなくて」


『・・・構わん。どうせ地下にはまだ空きがある。おいておくくらいなら文句は言わん・・・というよりどれだけ買ったんだ?そこまで買うものがあったか?』


「いやまぁ・・・こいつの趣味的な話でして・・・いろいろと買い込んでるんですよ」


『長年生きているだけあって趣味に生きる人間という事か・・・まぁいい、ひとまず帰って来い、話はそれからだ。あと幸彦兄さんから聞いた、携帯の契約の事なら私の方で一つ作っておく』


「本当ですか?ありがとうございます・・・っていうかなんか妙に親切じゃありません?師匠らしくない」


『お前とは一度正しい師弟関係について話す必要がありそうだな・・・まったく・・・こちらにもいろいろ事情があるんだ。とりあえず早く戻って来い』


言うだけ言って小百合は通話を切ってしまう。一体どんな事情があるのだろうかと康太は疑問符を浮かべていたが、アリスのことをまだ完全に信用しきっていない小百合としてはある程度監視下に置いておきたいというのがあるのだろう。


携帯一つでそれができるとも思っていないがやるべきことをやっておくべきというある意味小百合らしい考えの下動いていた。それが妙に親切にしているように見えてしまっただけなのである。













「これはまた・・・随分と・・・」


協会の門を使って小百合の店まで何とか戻ってきた康太たちの荷物を見て小百合は眉をひそめていた。


とりあえずいつも康太たちがたむろしている居間とでもいうべき場所に荷物を置いたのだが、大体そこの半分ほどがアリスの荷物で占拠されることになる。


我ながらよくここまで運んだものだと康太たちは何度も頷いて自分たちの努力を確認していた。


「どうですか師匠、これだけの量だと地下の結構な範囲を使うことになると思うんですけど・・・」


「・・・乱雑においておいていいというのであれば適当でいいのだがな・・・お前としてはやはりしっかりとおいておきたいのだろう?」


「もちろん。棚などはこれから自分で用意するから後はそのスペースだけ用意しておいてくれればこちらとしては問題ない」


物を入れる棚、そして服を入れるクローゼットなどはそれこそ家具の量販店に行けばいくらでもおいてある。


乱雑においておくとそれだけ無駄なスペースが生まれるがきちんと整頓すれば最低限のスペースだけで済む場合もある。もちろんその逆も然りなのだが。


「まぁそのあたりは勝手に自分でやってくれ・・・とりあえず地下に行くぞ。どの場所をどれくらい借りるかの測定をする必要がある。康太、メジャーを持ってこい」


「はい、ちなみに師匠、個人的に地下の倉庫を借りたいとか言ったらどうします?」


「どうするとはどういう意味だ?お前も場所を借りたいのか?」


「はい、バイクを買ったときにうちにおいておくといろいろあれなので地下においておけたらなと・・・」


康太はすでにバイクの免許を有している。今はまだこれだというバイクに出会えていないために購入には至っていないが、もし買った場合そのバイクをおいておく場所も気を付けなければならない。


康太の家においておいてもいいのだが、それだと親からいろいろと言われることになる。何より康太は自分で活動するだけなら自転車で事足りるのだ。わざわざバイクを持ちだすようなことはしない。


バイクを使うのはあくまで魔術師として活動するときに限られる。その為家にあるよりも店にあったほうが何かと便利なのだ。


「地下においておくと取り出すのが面倒だ。それなら店の表か・・・あとはそこらへんにでも置いておけ。表の店なら商品の場所は勝手に動かしても構わん」


「マジっすか。んじゃこれを機に表の方も改装しますか」


表の店というのは小百合の店の地上にあるオカルトチックな店の事だ。表向き一般客もたまにだが訪れる不思議な店である。


時折オカルト趣味の学生などがよくわからない本や物品を買ったりしているが、はっきり言って表にあるものはほとんどがただのガラクタ以下のものばかりだ。


小百合に言わせると一つ魔導書のレプリカがあるそうなのだが、康太が以前探してみたところ確かにそれはあった。


本の置かれているスペース、いくつも本がある中の一つにそれはあり、確かに魔導書としての機能を有しているのだがそこに収められている魔術は何らたいしたことのない念動力の魔術だった。


しかも初歩的なもので康太でもがんばれば使えるような類だ。真理にも確認したが特に隠すようなものでもないのだという。


小百合の遊び心で置いてあるようなのだが一般人には方陣術の技術によって記された魔導書を魔導書として読むことはできない。


魔術師としての知覚を有していない限り魔導書は魔導書として機能しないのだから当然と言えるだろう。


遊び心と言ってもただ単に魔導書として価値がないからそれなら普通に売ってしまおうという考えなのだ。


ちなみにその魔導書は康太も知らないマイナーな小説家の冒険譚だった。


下の魔術師専門の地下倉庫は小百合の管理、というか小百合と真理、そして康太の管理によってしっかりと整理整頓がなされているが、上の店は気づいた人間が掃除したり整理したりとだいぶ雑な扱いを受けている。


売られているものがものだけにあまり関心が湧かないというのもあるのだろうがこれを機に一斉に掃除をしてもいいかもしれない。


もしかしたら掘り出し物が出てくるかもなどという甘い考えを持ちながら康太たちは地下に降りて開いているスペースを探し出す。


地下のスペースは大まかに分けて四つの区画に分けられている。魔術師用の商品の置いてある倉庫区画、康太たちが修業をする修業区画、そして魔術の発動や実験などをする実践区画、そして私物や休憩などに使われるその他の区画だ。


普段康太たちが戦うのが修業区画で、以前康太がゲヘルの釜などを使ったのが実践区画、修業が終わった時に休んでいるのがその他の区画になる。


区画と言っても明確にどこからがこの区画という風に区切られているわけではなく、ある程度この辺りからという曖昧な線引きしかない。


当然アリスの求めるものをおいておくのはその他の区画という形になるだろう。

予め荷物の量を見て小百合は少し余裕をもって康太にメジャーで大きさを測らせていた。


「・・・ん・・・これだけあれば十分だろう。あとは自分でレイアウトなりするんだな」


小百合が印をつけたのは三メートル弱の正方形だった。大体ワンルームの一部屋くらい、六畳くらいと言えばわかりやすいだろうか。しっかりと整理整頓すればあの量でも余裕をもって収まる広さだと言えるだろう。


「ふむ、確かにこれで十分だの。それでこれを借りるのにはいくらほどかかるかの?」


これはあくまで契約だ。ここの主である小百合から場所を借りるのだから当然賃料が発生する。アリスもそれを承知で小百合にこの提案を持ちかけたのだ。当然小百合も貸し出すつもりはあったためにある程度考えてはいただろうが実際にこれだけの量になってみるといろいろと考えることは増えるだろう。


なにせただの一角だと思っていたのだが、六畳ほどの範囲を貸し出すことになるとまた話は変わってくる。

ただ倉庫の隅に置いておく存在から正式に倉庫としての貸し出しとなるといろいろと条件も変化するのだ。


「姉さん、このくらいの範囲だと大体どれくらいかかるもんですかね?」


「そうですね・・・この場所は立地的にお世辞にも良いとは言えません。ですが隠密性に優れているという点では借りるに値する場所であると判断します・・・相場より少しだけ下げて・・・月三万と言ったところでしょうか」


月三万。それだけ聞くと少し割高のように聞こえるがこれでも実際は多少値下げした値段だ。


一般的な賃貸倉庫、あるいは保管用の土地というのは場所によっては自分で簡易式の倉庫を建てるところから始めなければならない。だが小百合の所はもとより地下という事もあって雨風を防ぐことができるだけの環境がそろっている。


九平方メートル程度の場所でも月三万程度で借りることができるのは割安と言えなくもない。

もちろんアリスがこの内容に納得すればの話だが。


「ほう、なんだもっとぼったくられるかと思っていたが、そのつもりはないのかの?」


「これはあくまで私が相場などを考えて提示しただけです。師匠がどう出るかはわかりませんよ」


物事に契約というものがある場合大抵は相場というものが存在している。需要と供給がある以上ある程度適性な値段でなければ商売が成り立たなくなる。意図的に組合などで結託して値段の操作をする場合もあるだろうが、大体は物価や地価などに応じてそう言った値段は変化していく。


今回の場合真理はこの周辺の貸し倉庫の値段を調べたうえで比較し、若干下げた値段を提示した。そう言う意味ではこの地下の場所の適正な価格と言えなくもない。


だが当然ここの主は小百合だ。すべての決定権が彼女にある以上小百合が提示する値段こそ全てである。

康太があらかじめ真理に話を振って適正価格の話をしたのも小百合に明らかに高い値段を言わせないためだ。


そして小百合もそのことに気付いたのか、目を細めて鼻を鳴らす。生意気なことをするものだと少しだけ呆れているが、その行動がアリスをかばおうとしているという事はすぐに理解できた。


どのように言われようと康太はアリスと同盟を結んでいるのだ。ある程度フォローするのは当然の事だろう。


「それにもし明らかに高い値段言われたら私の師匠に頼んでもいいわよ?うちの師匠の所もそれなりに場所は空いてるし」


「ほう、フミの師匠の所か・・・そう言えばそちらにはまだ挨拶に向かっていなかったの。今度足を運ぼうか」


ここで文による援護射撃が入ったことで、アリスにはここ以外にエアリスの所を借りるという選択肢も生まれた。


これで小百合はさらに高い値段を吹っ掛けにくくなっただろう。ただでさえ適正価格を言われたのに加え、ライバルとでもいうべき競争相手ができてしまったのだ。不適正な価格を言えば『じゃあエアリスの所に頼みにいこう』となりかねない。


これで小百合とエアリスの仲が良好であれば、あらかじめ根回しして価格について話をすることもできたのだろうが彼女との仲はすこぶる最悪。そのせいもあって小百合にはすでに逃げ道が無くなっていた。


小百合が文の方を睨むと、彼女は『そう言う事なんで賢い判断をしてください』とでもいうかのように肩を透かしてため息を吐く。


日本に来てまだ日が浅いアリスに不便な思いをさせるわけにはいかない。何より不本意ではあるが文も彼女と同盟を結んでいるのだ。康太がフォローするしないに関わらず、自分もフォローするべきだと思っている。


康太は純粋にアリスを助けるため、文は同盟になってしまったのだから仕方なくといった様子の対応だ。

面倒見が良すぎるのも困ったものだなと、二人の様子を見比べてアリスは小さく苦笑してしまう。


「さぁサユリよ、私はここをいくらで借りることができる?早めに言ってくれるとこちらとしてもありがたい」


「・・・はぁ・・・どいつもこいつも・・・わかった、月三万でいい。金は手渡しで持ってこい。何か不満は?」


「もちろんあるはずがない。感謝するぞサユリよ」


アリスは満面の笑みを小百合に、そして自分の後ろにいた康太と文に向ける。


こうしてみるとただの幼子にしか見えない。だが彼女の中にははっきりとした確信があった。


最初はただ二人の人格を確かめようとして日本に来て同盟を組んだが、この場所でアリスは確信した。


この二人は信用できる。



アリスの中で仮だった同盟が本物のそれに変わった瞬間だった。そのことを康太も文もまだ知らない。



「という事は次はいろいろ買いそろえねばならんな。さて楽しくなってきたぞ」


正式に契約書を書き、互いに納得したうえで倉庫の一部を賃貸したアリスはこれから持ってきた荷物を整理するべく必要な家具などを考え始めていた。


実際のレイアウトを考えるべく、とりあえず買ってきたものを念動力の魔術を使って大々的に移動し始めている。


今まで康太たちがもっていた荷物は次々と浮かび上がりそれぞれアリスが思う場所に配置され停止していく。


恐らく家具などを実際に使った場合の配置を疑似的に再現しているのだろう。一見すると簡単に見えるこの状態がどれだけ高難易度であるか康太は理解できていた。


単なる念動力というのは発動こそ簡単だが、細かくコントロールするとなるといろいろと処理が必要になってしまう。


例えば康太の使う再現や遠隔動作の魔術、これも一応念動力の一種だが、自分の体の一部、ないしそれによって引き起こされたのと同じ力、形で発動するように条件を限定することで必要な処理を軽減している。


だが一から十まですべて自分の頭の中で処理するとなると必要な情報はかなり多くなる。


康太の使う拳の力をただの念動力で発動しようとした場合、まず効果範囲の設定、方向の決定、力の強弱、かかる念動力の形状など設定する条件が多くなってしまう。


康太の再現の魔術ならば再現する動作の決定、そして方向だけを決めればすぐに発動できるだろう。

そしてアリスが今やっている行動がどのようなことであるか。


今まで持ってきた大量の荷物一つ一つに念動力を発動。正しい向きや方向で一度持ち上げそれぞれ全く別の方向、そして位置に移動させてその場で固定する。


何十、もしかしたら百にも届くかもしれないほどの処理を一度にこれだけ行うとなると、文や真理でさえできないかもしれない芸当だ。仮にできたとしてもこれだけ早くは行えないだろう。


康太が一瞬文の方に視線を送ると、彼女は康太が視線を向けた意味を理解したのだろう。私はこんな芸当はできないわよと首を横に振って見せる。


文だって念動力の魔術くらいは使える。念動力の魔術は無属性魔術においては基礎中の基礎だ。単なる発動でいいというのなら今すぐにだってできる。


だがこれだけの並行処理を一度に行えとなると話は違ってくる。処理能力的にも、そして彼女の魔術の練度的にもこれだけのことはできない。


アリスは配置を決めるとあらかじめ用意していたメモ用紙に方陣術によって文字や絵を描いていく。そこには必要な家具とその寸法と大まかな形が記されていた。


わざわざ紙にペンで書くよりもそうしたほうが早いのだろう。実際に方陣術の技術を学びつつある康太からすれば羨ましく思えるほどの技量だった。


「よしよし、必要なものは大体わかったぞ。さてコータ、フミ、これからこいつらを買いに行くぞ」


「今から行くのかよ・・・ていうかそのくらい作ればいいじゃん、お前そのくらい作れそうじゃん」


ただでさえ観光含め買い物を大量にしたせいもあって康太はそれなりにつかれている。そしてそれは文も同様だった。


今はアリスもテンションが高いためか疲れをそこまで感じていないだろうが、恐らくこの後どっと疲れが出てくるだろう。


だがそんなことは知らんとでもいうかのようにアリスは家具を買いに行くつもり満々のようだった。


「確かに作ろうと思えばいくらでも作れる。だがこういうものは買ってこそなのだ。買って組み立てていろいろと置いて眺めるまでが楽しいのだ」


「・・・なんか変な楽しみ方してるわね・・・わからなくはないんだけど・・・」


引っ越しや新しい家具などを買った際に、何を配置するかどこに配置するかなどを楽しむ人は多くいる。

恐らくアリスもそう言った人種なのだろう。今まで多くの土地で過ごしてきたせいか引っ越しというものになれているのか、それとも引っ越しそのものに楽しみを見出したのか、どちらにせよ彼女にとってこういった瞬間は非常に楽しみでもあるようだった。


「そうだ時にサユリよ、この場所で塗装作業などはやってもいいのかの?」


「塗装・・・?何か塗るのか?ペンキなどはやめてほしいんだが」


「いやいや、せっかくプラモなどを買ったので色塗りなどもやってみようかと思っての。いろいろと道具も買いそろえてあるのだが」


プラモという単語が出てきたことで小百合の目つきが変わる。そう、小百合は時折プラモを作って楽しんでいるプラモデラーなのだ。


分解の魔術の訓練などでよく使うプラモだが、康太もあれから時折新しいプラモを買って作ったりしている。


最近はパーツをすべてばらして構築の魔術で組み立てて分解するという魔術の訓練なのか趣味なのかよくわからない方法で遊んでいるのだがそれはまた別の話である。


「塗装なら奥に専用の部屋があるからそこを使うといい。プラ板やジャンクパーツもあるから自由に新しい装備を作れる。あと専用のパソコンで設計図なども作れるからできるならやってみろ」


「ほう!そんなことまでできるのか!これは楽しみが増えた。プラモの世界は奥が深そうだの」


恐らく小百合の中でアリスの好感度が少なからず上がったのだろう。同じ趣味を持つ仲間、あるいは同じ趣味を持たせようと引きずり込もうとしているのか、なかなか業の深い方向に進もうとしている。


さすがにあそこまでの熱意はないなと康太は嬉々としてプラモを眺めているアリスを見ながら彼女の行く末に若干の不安を抱いていた。



土曜日、誤字報告五件分、ブックマーク件数2400突破なので四回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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