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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十二話「アリスインジャパン」

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リスクとリターン

アリスの話を聞いて、康太は彼女に聞きたいことがいくつもあった。家族の事やこれまでの生活の事。そしてこれからのことを含めた色々な事。


だが聞こうと声に出そうとした瞬間、その声が喉から出てこなくなる。


なんというか、本当に聞いていいことなのかどうか迷ってしまうのだ。


アリスはそれだけ長く生きて来た。そして魔術の存在が露見しないように恐らく今まで同じ場所にあまりとどまらずに生きて来ただろう。


別の場所から別の場所へ、まるで渡り鳥のように旅を続け、時折一つの場所に留まることはあっても永住することはない。


恐らくはその場所に住んでいる時にできた知人たちが亡くなった時を機に移動を繰り返したことだろう。


数多くの死を臨み、多くの人と関わり生きてきた彼女が有した経験は恐らく康太の頭では計り知れない。


易々と聞いていいものか、彼女の中の本質的な部分に触れるようなことをこの場で聞くべきなのか、康太は少し迷っていた。


「ん?どうしたコータ。歯に物が挟まったような顔をして」


「あ・・・いや・・・」


康太が何やら悩んでいるのを感じ取ったのか、アリスは康太の方を見上げる。


とりあえず今は聞かなくてもいいかと康太は結論を出す。アリスはこの日本に居を移してまだ日が浅い。何より康太自身まだアリスと会って幾日も経っていない。彼女のことを知るならばもっと時間をかけるべきだろう。


何よりせっかくの観光の時にそんなことを聞いたところで気分が悪くなるだけかもしれない。楽しむための時間なのだから話題は選ぶべきだろうと康太は自分に言い聞かせていた。


「そんだけの魔術が使えるなら自分を意図的に成長させることだってできるんじゃないのか?例えば身長だけ伸ばせるようにしたりとかさ」


「そうは言うがの・・・なかなか難しいのだよ。ある程度人間というのは生まれた段階でどのような成長を遂げるかが決まっている。そこを変えるとなるとかなり面倒なことになるのだ」


人間を含めたほとんどの生き物を形成している細胞というものはただそこにあるだけでは生き物としての形を作るわけではない。


DNAなどのいわゆる遺伝子と呼ばれる設計図を基に細胞一つ一つを規則正しく並べて正しい機能を持たせることで初めて生物として正しい機能となっていくのだ。


成長段階においても遺伝子に沿った形で細胞が分裂し機能を拡大、あるいは増大させていく。逆に言えばいくら成長を操ろうとその遺伝子の限界を超えることはないのだ。


極端なことを言えば人間が五メートル以上の大きさになることはないし、犬や猫などの四本足で動く生物が突然新しい足を生やすようなことはない。


同じようにある程度人間の成長の限界というものはあらかじめ決定していることなのだ。


それを変えようとなると遺伝子に逆らった成長をしなければいけないことになる。


先にもいったが人間や生物というのは遺伝子に沿った形で細胞を並べ、役割を持たせることでそれらを正しく機能させている。例えばアリスが身長を伸ばしたいからとそのように勝手に身長を伸ばす形で細胞たちに働きかければ当然その分遺伝子から逸脱したことになるために大きくバグが発生してしまうことになる。


遺伝子などの欠陥や疾患などは先天性のものが多く、名前も現代においてはそれなりに知られているものだが後天的にそれを引き起こそうとしているものだ。


細胞そのものの成長や老化を操っているアリスの術式とは難易度がさらに異なる。


「面倒なことになるってことは考えたことあるのか?」


「ん・・・まぁ実験したことがないわけではない。動植物で試したことがあるのだが・・・どれもあまり良い結果は得られなくての・・・確かに成長を意図的に操ることはできたのだが大抵が早死にしてしまう。意図的に改変を行うと生物には大きな負担がかかるという事がわかったくらいで、リスクに対してのリターンがあるとは思えん」


実際遺伝子を逸脱する形で成長を操るという事は、一部の細胞が遺伝子から逸脱した状況におかれ続けてしまうという事だ。


魔術を使って変更をした後、ずっとその制御を続けて正しい状況になるようにするのであれば問題ないのだろうが、一度変えた後にその状態を放置し、生き物本来がもつ成長などにゆだねた場合当然変更された細胞と変更されなかった細胞の間には違いが生まれてしまう。


そうなると先程にもあげたバグが大きくなっていき、最終的には生命活動を維持できなくなるのだろう。


身長を伸ばすために死のリスクがあるのでは確かにかかるリスクに対して得られるリターンが少なすぎる。

遺伝子そのものを改変することもできるのかもしれないが、アリスはそこまでして身長を伸ばそうとは思っていないようで現状でほぼ満足しているようだった。


「アリスぐらいの実力者でもできることとできないことがあるんだな」


「当たり前だ。魔術というのは何でもできるようで万能とはかけ離れたものだ。高い効果を求めればそれだけ難易度が上がり、同時に大きくリスクが生じる。それはどんな魔術にも共通して言えることだ」


二人ともよく覚えていくのだぞと言いながらアリスは再び買い物を続けていた。


何百年も生きてきた魔術師、封印指定に名を連ねる程の実力を有した彼女でさえ、魔術が万能であるとは思っていないようだった。


いやむしろ高い魔術の技術を有しているものほど魔術の限界というものを強く感じているものが多い。

アリスもその例に漏れない。むしろ彼女以上に魔術の限界を認識しているものはいないだろう。


なにせアリスは今を生きる魔術師の中で最も高い技術力を有しているのだから。


活動報告に記事を追加しました。


また読者の方がイラストを描いてくださいましたので載せておきます


これからもお楽しみいただければ幸いです

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