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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」

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戦いは終わり

「今日はありがとうございました。すごく勉強になったです」


「いや、いい戦いだった。君はきっといい魔術師になるだろう。クラリスのようにはなるなよ?」


「はい・・・それはもう・・・」


文の師匠であるエアリスに頭を下げた後、康太は小百合の後を追って一緒に帰ることにした。


ようやく戦いが終わった。今日一日の疲れがどっと出たのもあるが、肩の荷が下りたという事で康太は強烈な倦怠感を覚えていた。


「よくやりましたねビー。魔術師として十分以上に戦えていたと思いますよ」


「よかったです。姉さんに手伝ってもらった甲斐がありました」


「えぇ、空中歩行もちゃんとできていましたし、あれだけできるなら文句なしの合格です」


真理に手伝ってもらったことというのは文が疑問に思っていた空中での移動法の事である。


種を明かしてしまえばあれは康太の二つ目の魔術『再現』を利用したものだった。


康太の再現の魔術は自らの動作を元にした力そのものを念動力で再現する魔術だ。康太はそれを利用して空中を跳んだのである。


具体的には真理に康太と同じ体重になるように重りをつけてもらい、その状態で康太が手で足場を作りその体を投げるというものだった。


映画やドラマなどでよくやられる手段である。手を足場に投げ飛ばす。最初は康太もできなかったのだが少しずつその体を持ち上げることができるようにしていったのだ。


体を持ち上げる足場代わりの手の動きを再現することで、空中に疑似的な足場を作り出す。それを利用して康太は窓から校舎の外に出て一気に屋上へと駆け上がったのだ。


体を持ち上げるだけの力を上手く使えば移動に関しては十分以上の効果を発揮してくれる。


例えば水平方向に向きを変えれば横への高速移動に使えるし、下に方向を変えれば落下速度を上げることだってできる。


感覚としてはエスカレーターを駆け上がるときのそれに似ているだろうか。魔術の発動タイミングがかなり難しいが、康太は訓練によってそれをものにしていた。


屋上への道が一つしかないという時点で、文が扉を狙っているというのはわかっていた。だからこそ扉をすぐに見ることができる位置に陣取っていると思ったのだ。


位置を予測し、その方向へと窓から跳躍しそのまま屋上へと昇って行った。


「最後、魔力はどれくらい残っていた?」


「・・・えと・・・大体七割くらいです。屋上に駆けあがるために結構魔力使ったんで、あれを逃したら一気に不利になったかもしれません」


康太が魔術を多用しなかったのはたんに魔術の種類が限られていたからというだけではない。彼の魔術師としての素質が一番の問題だったのだ。


康太は魔力を放出し空にするのはすぐにできるのだが、魔力を満タンまで補充するのにかなり時間がかかるのである。


魔術をそれだけ連発すれば当然使用量が補充量を上回りどんどん魔力のストックが無くなっていくことになってしまう。


分解や再現の魔術は基本的に魔力の消費量の少ない魔術だ。その分引き起こせる現象は微々たるものだが今の康太の身の丈にあっていると言ってもいい。


強い魔術を数発使えば、魔力の補給が追い付かずに康太は魔術をほとんど使えないような状況になってしまうのだ。


だからこそ可能な限り魔術を使わずに戦った。魔術を温存した結果、文がある種の勘違いを起こしてくれたというのはある意味幸運だったと言えるだろう。


普通に走って追えるのであればその方がいいと康太が考えたからでもある。もっともそれが魔術師として正しいかどうかはさておき、魔術しか使えないような状態だったら今日の勝利はなかっただろう。


幸いだったのは、康太の魔力の貯蔵庫がそれなり以上に大きかった点だろう。もしこれで貯蔵庫まで小さかった場合、康太は魔術師としては満足に戦う事すらできない人間になっていた可能性もある。


魔力の補給がおぼつかないという意味では、今もまだかなり危ういのだが、それはこれからの訓練で何とかしていくほかない。


「とりあえずはよくやった。家に帰ってゆっくり休め」


「はい・・・あ・・・でも片付とかいいんですか・・・?結構無茶苦茶やっちゃいましたけど・・・」


康太は今回かなり校舎を荒らしまわった。特にガラスや蛍光灯などを外して破壊しまわったような覚えがある。


ガラス数枚、蛍光灯何本か、あのままにしておいたらそれはそれで騒ぎになるのではないかと思えてならない。


「問題ない、そのあたりはあいつがやっておくだろう。そう言うのを気にするのは敗者の仕事だ」


魔術師同士での決め事なのか、それとも小百合とエアリスが個人的に結んでいる関係なのか、負けたほうが後片付けをするというのが基本のようだった。


そう言う意味では本当に勝ててよかったと思うばかりである。


「とにかく今日は疲れているでしょうからゆっくり休んでください。後日祝勝会でもしましょう」


「ありがとうございます・・・でもなんだかちょっと申し訳ないような・・・」


「気にしなくてもいいですよ、せっかくの勝利なんですから」


真理は笑いながら康太の背中をやさしく叩いてくるが、申し訳ないというのは小百合や真理に対してではない。文に対してだ。


魔術師として圧倒的に日の浅い自分が十一年間訓練を重ねた彼女に勝利したというのがほんの少し申し訳なく思えたのだ。


彼女の師匠の思惑など知らず、康太はその考えが拭いきれなかった。















翌日、魔術師としての戦いを終えた康太はいつも以上に晴れ晴れとした気分で登校した。


と言ってもいい気分だったのは学校に到着するまでだった。なにせ今日の体力測定で千五百メートルを走らなければいけないのだ。陸上部に入っている以上走ることは半ば当たり前のようなものではあるが、授業でここまで走らせるだけの意味を理解しかねていた。


「八篠八篠、ようやく掴んだぞ」


「掴んだって何が?なんかいい情報?」


「おうよ、この前すれ違ったあのかわいい子覚えてるか?」


体操服に着替えている間に青山が興奮しながらこちらに話しかけてくると、康太は先日戦った文のことを思い出した。


この学年でもかなり上位に入るであろう美貌を持つ彼女のことだ。彼女の実情を知ってしまった今となっては可能な限り関わりたくない人物でもある。


なにせ彼女は自分よりずっと格上の魔術師だ。昨日の戦いを根に持たれて因縁をつけられたらどうなるかわかったものではない。


可能な限り関わらないようにスルーしていくのが一番手っ取り早いとさえ思っていた。


「あー・・・うん、覚えてる覚えてる。それがどうかしたか?」


「隣のクラスにいるって言ったろ?陸上部に入った奴が同じクラスだったらしくてさ、名前ゲットしたぜ。鐘子文だそうだ。いい名前じゃね?」


「・・・あぁ・・・うん、いい名前だな」


青山の輝かしい瞳を見ながら康太は内心謝罪してしまっていた。すまない青山、それ昨日の時点でもう知ってたんだわと。


だがそんなことを言えば彼の努力を無駄にしてしまう上にその関係性までも問いただされてしまう。彼女が魔術師であるということを知っているのは今のところこの学校内では自分だけなのだ。


もしかしたら上級生の魔術師の人達も気づいているかもしれないが、そのあたりは未だ不明瞭だ。余計なことを言って無駄に騒ぎを作ることもないだろう。


「でも名前だけか?どの部活とかそう言うのはわからなかったのか?」


「さすがにそこまではまだわかってねえよ。顔と名前だけ一致するようになったんだからいいじゃねえか」


「・・・それもそうだな。」


顔と名前は既に一致している。というよりもう忘れることはできないだろう。なにせ康太は魔術師として彼女と知り合ってしまったのだ。


普通の同級生というよりかなり濃密な出会いをしてしまったのだ。


というか昨日彼女を押し倒すような形で決着をつけたよなと康太は思い出し今さらながら強い罪悪感を覚えていた。


というか押し倒すだけならまだしも自分は思い切り殴ったりしていたという事実に気付き、さらに罪悪感を加速させていた。


もうどんな顔をして彼女に会えばいいのかわからないほどである。


これは徹底的に学校内では彼女を避けて行動するしかないなと康太はさりげなく意気込んでいた。


そうと決まれば情報が欲しい。彼女の行動範囲を調べてそのあたりには徹底的に近づかないようにしなければいけないだろう。


なにせすれ違ったりしたときに視線が合ってしまったりすると非常に気まずい。偶然接触したとしたらどんな顔をしたらいいのか全く分からない。


苦笑いでもしようものならまた電撃を流されるかもしれない。可能な限り彼女との接触は必要最低限にした方がいいのだ。


「青山、その鐘子って子の情報もっと集められるか?」


「お?なんだ?狙ってんのか?いいぜ、他の部の連中にも聞いてチェック入れといてやるよ」


こういう時に青山のフットワークの軽さはありがたい。自分の好奇心を満たすためというのもあるのだろうが、妙に下世話な内容でも問題なく対応してくれるのだ。


探りを入れるという意味では康太がやろうとしていることも十分下世話かもしれないが、この高校生活を平穏無事に過ごすためには必要不可欠なことだ。ある種仕方のないことと言えるだろう。


「二人とも、そろそろ行かないと遅れるよ」


「あ、悪い・・・でも島村も気にならねえ?あんだけかわいい子なんだぞ?」


「・・・俺その子見てないからわからないんだけど・・・」


一緒に着替えていた島村も巻き込んで下世話トークを始める中で康太は苦笑してしまっていた。


あれだけかわいい子が実は魔術師でしたと言ってもきっと信じないだろう。


というか自分も魔術師なのだが、それを言ったところで信じられるとは思えなかった。


自分自身魔術師ということを忘れそうなほどである。


昨日の戦いで外れたはずの扉や窓ガラス、そして蛍光灯なども問題なく修復されていた。


ガラスや蛍光灯の破片まで跡形なく片付けられ、一見すれば昨日の戦いがまるで嘘のようである。


痕跡を完全に消すというのも恐らく魔術師として必要不可欠なことなのだろう。そう言う意味では自分にはまだ足りないものが多すぎるなと康太は小さくため息をついていた。


昨日はまだよかったが、恐らくもう一度文と戦ったら確実に勝てないだろう。


彼女は自分が近接系の攻撃しか持っていないということに気付いているのだ。やりようによっては中距離攻撃もできないことはないのだが、まだ訓練段階でまともにダメージを与えられるような状態ではない。


次やったら確実に負ける。


だからこそ彼女には極力近づかないでおきたいのだ。戦いの時は近づきたかったのに日常になると近づきたくないというのはどうなのだろうかと康太は苦笑してしまっていた。


ブックマーク件数が500件突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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