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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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評価と思惑

小百合の評価を自分なりに考えている中、ライリーベルが康太たちの下へと歩み寄ってきた。


何か用があるのだろうかと思っていると康太を見た後、ほんの少しだけ小百合に視線を向けた。


「デブリス・クラリス、申し訳ありませんが少しの間ブライトビーをお借りしてもよろしいでしょうか?」


「・・・ふむ・・・まぁいいだろう。ビー、私達は少しの間席を外す。くれぐれも言葉に注意しろ?」


「は・・・はい・・・わかりました」


言葉に注意しろというのは自分の魔術のことを言っているのだろう。自分の手の内を明かすようなことはするなという事だ。


魔術の所有数というのは魔術師にとって絶対的な基準だ。どれだけの魔術を扱えるかという事は魔術師を評価するうえでの指標であり、攻略するうえでの重要な情報でもある。


相手にそんなものを与えてやる必要はないと考えているのだろう。そして康太もその言葉の意味を理解していた。


小百合と真理が自分たちから離れてエアリス・ロゥの所に歩いていくのを確認した後で康太は目の前にいるライリーベルの方に向き直った。


一体なんだろうかとほんの少しではあるが警戒していた。


なにせ小百合に素質だけなら一流と言わしめるほどの魔術師だ。ポンコツの自分と比べる事すらできないような存在である。


今回自分が勝てたのはまともな魔術師としての戦いをしなかったからに他ならない。これが学校ではなくただの平原や道端だったら確実に自分が負けていただろう。そう言う意味では康太は運に助けられたと言える。


「・・・改めて・・・私の負けよ・・・ブライトビー・・・いえ、八篠康太」


名前を呼ばれたことで一瞬心臓が強く鼓動を打つが、思えば自分が魔力を振りまき、なおかつ自分の下駄箱に手紙まで入れていたのだ。個人の特定ができていたとしても何ら不思議はないだろう。


そう言う意味では名前を呼ばれたのはある種必然だ。


「あぁそうか、お前俺の素顔もう見てるんだよな・・・そっちだけ知ってるっていうのはちょっと不公平な感じが・・・」


「・・・え?何言ってるのよ。あんただって私の顔見てるでしょ?」


「は?いつ?ていうか俺お前の本名すら知らないぞ」


自分の名前を知らないとは思わなかったのか、ライリーベルはかなり驚いているようだった。


というか何故知っているとばかり思っていたのか聞き返したいほどである。


「だってあんたの姿が見えるたびに私も魔力を放出してあげたじゃない!そっちが自分の存在アピールしてるから私も同じことしてあげたのに何のリアクションもしないからバカにされてるのかと思ってたのに!」


「・・・あー・・・悪い・・・それに関しては俺が一方的に悪い・・・なにせまだ魔術師になって日が浅くてな・・・魔力を感じ取ることができないんだわ・・・」


康太の言葉にライリーベルは「はぁ?」と素っ頓狂な声をあげてしまっていた。


そう、彼女は康太が魔術師として未熟どころか半人前にも至っていないということを知らなかったのである。


当然と言えば当然かもしれない。魔術師として登録したはいいものの、康太は今まで全く魔術師としての活動をしてこなかったうえに『あの』小百合の弟子なのだ。今まで隠されてきた秘蔵っ子として見られていても不思議はない。


「ちょ・・・ちょっと待って・・・確認させて・・・あんた魔術師になってから何年目?」


「何年も経ってねえよ。えっと魔術を覚えたのが二月・・・だから・・・二か月経ってないくらいか・・・?」


二か月


その言葉にライリーベルは言葉を失ってしまっていた。


魔術師として訓練してきた年数では負けないと思っていたが、まさかここまで圧倒的な差があるとは思っていなかったのである。


何より魔術師として駆け出しどころかようやく魔術の片鱗に触れはじめたような人間に負けたという事実が、彼女の自信を崩壊させていた。


「一応聞いておくけど・・・お前何年目?」


「・・・私は今年で十一年になるわ・・・五歳の頃から魔術師として生きてきたから・・・」


十一年という長い月日に、康太は感動するでもなく尊敬するでもなく「うわぁ・・・」という感想しか持てなかった。


十一年の歳月を康太の二か月ちょっとの訓練が上回ってしまったという事実、どういう言葉を掛けたらいいのかわからなくなってしまっていた。


下手に同情するべきではない、これ以上下手に声を掛けたら彼女の傷を開きかねないと康太は話題を変えることにした。


「とりあえずだ、お前の名前を俺だけ知らないのは不公平だ。きちんと自己紹介するぞ。ブライトビーこと八篠康太だ。よろしく」


康太は仮面を外して手を差し出す。すると彼女も渋々ながらそれに応じるようだった。


彼女が仮面を外すと、康太はその顔に覚えがあった。校舎内を見学していた時にすれ違ったあの女子生徒だ。長くしなやかな髪に整った顔立ち。少し吊り上がった眼。康太はその顔をよく覚えている。


「・・・ライリーベル・・・鐘子文よ・・・よろしく・・・」


未だ康太の魔術師歴の浅さに衝撃が隠せないのか、その表情も声音も暗く沈んでしまっている。これは回復するまで時間がかかるなと、康太は眉を顰めながら文の手を取り固く握手をした。


これがライリーベル、鐘子文との初めての接触である。



康太と文がそんなやり取りをしている中、それぞれの師匠である小百合とエアリスはその様子を眺めていた。


互いに互いを認め合う、そんな様子に見えたかもしれないが実際はそんな状況ではない。康太は何とか文をなだめようとしているような切羽詰まった状態なのだ。


そんな中小百合はライリーベルこと鐘子文の師匠であるエアリスに視線を向けていた。


「どういうつもりだ?」


「・・・どういう・・・とは?」


「あれだけの逸材だ、お前ならもっと実戦慣れさせることもできただろう。何故そうしなかった?」


小百合は疑問に思っていたのだ。嫌っているとはいえ、否嫌っているからこそ彼女はエアリス・ロゥのことを正確に評価できる。あれだけの素質を持っている魔術師を未熟なままにさせておくとは思えなかったのである。


実戦経験のなさは訓練で十分に補える。だがその訓練の方法を間違えば魔術師として未熟なままだ。


小百合は少しでも実戦の空気に慣れさせるために康太に徹底的に指導を施した。それこそ真理と一緒に殺すつもりで訓練に励んだつもりである。


だがライリーベルこと文の戦い方から彼女の師であるエアリスがそれをしていないことに気付いたのだ。


一体なぜ。その疑問が尽きなかった。


「・・・あの子の両親は魔術師でな、両方とも優秀・・・あの子は魔術師としてかなりいい血を引いていると言ってもいい。素質だけではなくセンスもある。それは私から見ても彼女の両親から見ても十分に理解できることだった」


文の素質は、小百合が評価した様に一流の魔術師に足るだけのものだった。そしてそれは身内贔屓などでは決してない。それだけの素質を有している所謂天才という部類の人間であるというのが周りからの評価だ。


事実文はあの歳の魔術師にしては多彩すぎる魔術を扱える。それは彼女の師匠であるエアリスも認めるところだった。


「だからこそ彼女の両親はあの子を私に預けたのだ。素質や才能だけでは必ず限界がある。彼女は勿論日々の努力も怠らなかったが、それでも必ず限界がある。教科書通りの努力では一流の魔術師にはなれても一番の魔術師にはなれない」


「それを学ばせるために・・・あえて実戦慣れさせなかったと?」


「教えたところであの子はその意味の半分も理解できないだろう。自分で気づかせなければ意味はない。そう言う意味では今回のこれは最高の結果だと言えるだろうな」


魔術師として圧倒的に実力差のあるはずの康太に敗北したことで、文はそれを学ぶきっかけを作った。


素質でも才能でもない、もっと別のものが必要なのだという事を知ったはずだ。


師匠同伴で同学年の優劣を競うという魔術師の戦いの中でも比較的安全なこの状況は、彼女にとっても非常に有意義なものだったという事である。


「まるで私の弟子を当て馬扱いしたようだな」


「あの子には全力で戦うよう指示したさ。負けるというのは正直予想外だったが、そのあたりはさすがお前の弟子と褒めておこうか」


エアリスからすれば負けとまではいかずとも引き分けか苦戦すれば十分位に思っていたのだ。


康太の素質が文に比べて圧倒的に劣っていたのは理解していた。だからこそ文もエアリスも普通に戦えば勝てると思っていたのである。


油断や慢心とまではいわないが、圧倒的な格下を前にして少しだけ気のゆるみがなかったとは言い切れない。その中でも康太は勝利をその手に収めた。


圧倒的に実力が劣る相手に敗北したことで、文はまた一つ魔術師としての成長を遂げただろう。


圧倒的な格下に負けるという事実が彼女にとっては何よりの財産となったのである。


「魔術師にとって必要なものは魔術だけではない。彼女は今回の戦いでそれに気づいただろう。支払った授業料に比べればあまりにも大きい対価だ。そう言う意味ではお前の弟子には感謝してもしたりない」


「ふん・・・体よく利用しておいてよく言ったものだ」


実際に今日文が負けたことで得たものは魔術師として必要不可欠なものだったのだ。教科書通りの戦いでは魔術師戦では勝てない。彼女は練習試合にも近い状況でそれを学ぶことができた。


支払った授業料は単に負けたという事実と少し傷ついたプライドだけ。それに比べれば得られたものはエアリスのいう通りあまりにも大きい。


小百合は鼻を鳴らしながら何度抱いたかわからない感情を腹の内に秘めていた。


やはりこいつは嫌いだと。


「それにしても・・・お前の二人目の弟子は今まで見たことがなかったが・・・いつ弟子にしたんだ?今まで何故隠していた?」


「隠していたも何も、あいつは今年の二月に出会ったばかりだ。それまではただの中坊だったぞ」


「・・・なに・・・?冗談だろう?」


「冗談じゃない。事実だ」


小百合の言葉が信じられないのか、自分の弟子である文と話している康太の方に目を向けて驚愕の表情を浮かべていた。


仮面があるせいでその表情を他者が見ることはできないが、動揺しているのは明らかである。


実戦経験が少ないとはいえ十一年近く魔術師としての訓練を重ねてきた文が魔術師になって二か月程度の人間に負けるとは思えなかったのである。


「・・・お前から見て彼はどうだ?素質はそこまでではないと聞いているが・・・」


「正直ポンコツだな。だが見どころはある。少なくともセンスはそれなり、実戦も今日が初めてだがなかなか度胸もある」


今日が実戦初めてという事実にエアリスは驚いているようだが、康太が小百合の弟子という事ならば今回の結果も頷けるようだった。


小百合ははっきり言って普通の魔術師ではない。弟子に対しても同じように普通ではない教育を施していても不思議はないのだ。


近くにいるジョアこと真理を見ていてもそう思える。彼女は徹底的に実戦派の魔術師を育成するのだ。


時にそれは危険な方法で指導をすることもある。二人の弟子が小百合に対して畏怖と同時に呆れのような感情を抱いているのもそれが原因と言えるだろう。


「・・・お前の弟子達が哀れだ・・・」


「喧嘩を売っているなら買うぞ?それとも今からやるか?」


「お二人ともやめてください」


真理のストップがかかったところで康太と文が話を終えて戻ってくる。師匠同士が強烈な殺気を放っていることに辟易しつつもあまり驚いてはいないようだった。


誤字報告五件分受けたので二回分投稿


今日から可能な限り一気に予約ではなくコツコツ毎日投稿に切り替えていこうと思います。忙しい時にはまた一週間分予約したりするかもしれませんがどうかご容赦ください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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