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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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依頼達成の条件

康太の申し出にその場にいた上層部の人間は仮面越しでもわかるほど皆一様に目を丸くしていた。中には康太が何を言っているのかわからないというものもいる。


正しく通訳はされているようなのだが康太がそれを言う意味が分からないという感じだった。


そして数十秒経って書類を見てようやくその意味を理解したのだろう、本部長含め他の上層部の人間は狼狽しだす。


「本部から、あるいは支部から別の支部への転属は事情により認められてる。その逆、支部から本部への転属なら誰かの推薦状とかが必要らしいけど、本部から支部への転属は本人の意思で可能、あとはその転属に関わる支部の長がオーケーを出せば通るって話だろ?」


康太のいう支部間、あるいは本部から支部への転属に関してはその説明で間違ってはいない。


支部から支部、あるいは本部から支部への転属の場合、転属したいと考える本人の意思と転属先の支部長の承認、そして転属元の支部、あるいは本部長の承認があれば転属は行うことができる。


ただこの場合転属をする理由などが必要になる。例えば住まいが移るとか長期にわたってその地に向かうことになるとか、他の支部への監査という形で向かうなどいろいろと理由が必要になってくる。


そして本部の魔術師の平均的なレベルを上げるためか、支部から本部への転属の場合誰かの推薦が必要になる。それも一個人ではなく支部長クラスの推薦が必要だ。


本部に所属できる魔術師がそれだけでレベルの高いものであるという威光を周りの支部に示すためでもある。


大抵の場合転属は問題なく行われる。本部への転属以外のほとんどの事例でそれが叶わなかったことはないとのことだ。本人の署名と意思、そしてしっかりと各支部の支部長の署名があれば正当な権利としてそれらは認められている。


そして康太の持ってきた書類にはすでにアリス本人の署名に日本支部支部長の署名も記されている。


後は本部長の署名があればアリスは本部所属から日本支部所属になるという事だ。


「こんな・・・こんなことを認めるとでも?」


「認めるさ。あんたは・・・あんたたちは自分たちの協会運営を邪魔されなければいいんだろ?仮にアリシア・メリノスが支部に移って、あんたたち本部の意向に逆らおうとしてもあんたたちは『支部の人間は口出しするな』と公言できる。そして支部から本部に転属するには誰かしらの推薦が必要・・・仮に戻ってきたがってもあんたが許可しなければ同じこと」


つまり、本部にアリスがいるから本部の人間は危険視しているのだ。本部の人間であれば本部の運営にも口を出してくる可能性がある。自分たちの方が立場が上でもアリスの方が魔術師としての実力もコネも上。そうなれば自分たちの立場を使ってもアリスの言葉の方が強くなる可能性がある。


彼らがアリスを畏怖しているのはその一点に限られる。もちろん実力面でも危険なのは否めないが、最も危惧しているのはアリスが本部の運営に口を出すことなのだ。


だがアリスが本部ではなく支部の所属になればたとえ立場が上でもすでに本部にとっては部外者。どこまでコネを使おうとも本部の運営に口を出すことは難しくなるだろう。


仮にアリスがコネの全てを使って無理矢理に運営に口を出そうとしても、日本支部の魔術師が口出しをするという事を本部の魔術師、そして他の支部の魔術師たちが認めるはずがない。


よほどの正当性がない限りはその意見は通らない。ましてやコネを最大限に使って話を通そうとなるとその正当性も疑われる。


アリスが支部に移るという事は、本部への運営に関わることができなくするという意味でもあるのだ。


「・・・話は分かった・・・確かに君に提示した条件は満たしているように思う・・・だがこのアリシア・メリノスの署名、これは間違いなく偽造だろう?あれがこれに署名をするとは思えない」


今まで本部に尽くしてきた魔術師がおいそれと転属するはずがない。今まで攻撃され続けても本部に居座っているのだから何かしらの理由がある。彼らはそう思っているのだ。


その考えこそが間違いなのだ。この転属の制度ができたのは協会が各国に支部を持ち始めてようやくできたもの。そもそもアリスは協会の支部に転属できるという制度そのものを知らなかったのだ。協会の設立から存在しており、何より本部の魔術師には攻撃されている。そんな人間が本部に立ち入ることが多いはずがない。そう言った制度ができたことさえ彼女は知らなかったのだ。彼女自身が知ろうとしなかったというのも理由の一つだが。


上層部の人間にそう言った先入観があったからこそ、この方法をとらなかった、いや取れなかっただろう。今まで何回も攻撃した人間にアプローチをかけることができる人間などそういない。


ましてや相手は封印指定、望んで関わろうとするものなど皆無だ。なにせ康太が今回彼女と関わったのもほんの偶然でしかなかったのだから。


「本物だよ、と言っても信じてもらえないだろうからな・・・こういう場合は本人に確認してもらうのが一番手っ取り早い」


「・・・本人・・・か・・・今探しているところではあるがまだ見つからない・・・だが君の言う考えも確かに可能だ・・・一度打診を・・・いやもはやそれも難しいだろう。なにせ本部は彼女に何度も攻撃している。近づくことさえ」


「だから今確認すればいいんだよ。出番だぞ、アリシア・メリノス」


アリスと呼ばずにアリシア・メリノスと呼んだことで彼女は自分の役目だという事を理解したのだろう。今まで認識されないようにしていた魔術を解除し、その姿を魔術により変えて本部の資料にあった『アリシア・メリノス』の姿になってその場に現れて見せた。


その瞬間上層部の息が止まり心臓が大きく跳ね上がったのは言うまでもない。


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