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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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街の光景の変化

そんな中倉敷が三人を見て小さくつぶやく。


「こうしてみると三人とも外見と実力が一致しないよな」


「聞こえてるぞ倉敷・・・そもそも魔術師に外見なんて関係ないじゃんか」


「ん・・・だが的を射ているかもしれないわね。私とアリスは見た目からして戦闘向きじゃないけど、実際一番戦闘向きに見える康太よりも実力は上だし・・・」


「ふむ・・・外見と一致しない実力か・・・なかなか面白いかもしれんの。その線でいろいろ考えてみるか」


「というかその話題はまた今度にしましょう・・・考え出したらキリがないですよ」


真理の制止に三人は確かにその通りだとこの話題を一時切り上げてとりあえず今後の話をすることにした。


「それじゃ話を変えて・・・今後の予定としてはさっきの通りで問題ないか?あればまだ意見は聞くけど」


「私は問題ないと思うわ・・・あとは私達が何か行動している風を見せかけるだけね」


「そうですね、何もせずホテルで待機していては怪しまれるでしょう。私が日本に戻っている間にも何かしら行動はしておいた方が・・・」


本部の上層部の人間にこれから活動することを明言しておきながらまったく活動していないのでは多少ではあるものの怪しまれるだろう。


恐らく今も康太に対しては監視の目があると思っていい。向こうがどの程度の監視の目を持っているのかはわからないがそれでも何もしないというのはさすがに怪しすぎる。


「それはいいけどこいつはどうするんだ?まさか放置?」


「私は別にどちらでも構わん。この程度の監視ならないのと同じこと。誤魔化すのは容易だの」


「あ、やっぱ監視ついてたか・・・まぁどっちにしろ誤魔化し続けるってことで。アリスは俺たちと付いてきてくれ。もちろん見つからないように」


「ん・・・まぁいいだろう・・・どうせだからお前達のことを観察させてもらうぞ」


「もう・・・また勝手に決めて・・・でもまぁ目の届くところにおいておいた方が安全か・・・」


そう言う事だと康太は笑みを浮かべながら親指を立てる。実際彼女が本気で隠れた場合見つける方法は康太たちにはない。


携帯を持っているという事もないようだし何より今康太たちの携帯は海外であるために使用することができない。


情報の伝達もできないのだから近くにいたほうが圧倒的に楽なのだ。


「んじゃ通訳さんは姉さんと一緒に行動してもらって、俺と文、倉敷はアリスと一緒に行動ってことで」


「ベックさんはどうするわけ?まさか放置?」


「いや、とりあえず最寄りの教会まで姉さんを送り届けてもらってその後で合流しよう。何時にどこ集合みたいな感じで集まれば問題ないだろ・・・というわけでアリス、この辺りでなんか目立つ集合場所みたいなの無いか?」


今のところこの周囲に土地勘があるのはアリスしかいない。いやアリス自身もこの辺りに住んでいるかもわからないために土地勘があるともいえないのかもしれないが、つい先日ここにやってきた康太たちよりは幾分かましであると思われる。


話を振られたアリスは悩み始めてしまう。


「集合場所・・・か・・・この辺りで有名な喫茶店で待っていればよいのではないか?この辺りのものなら集合場所として利用していそうなものだ」


「ん・・・ありきたりだけどそれいいな。あらかじめ住所教えてもらってその場で集まるってことにするか」


ベックは今回康太たちの案内役兼監視役兼連絡要員でもある。彼を放置して行動するというのは恐らく本部側にも大きく不信感を与える結果になるだろう。


なるべく本部側には余計な警戒はされたくない。真理が日本に戻るのもただ単に必要な装備があるからと言えば怪しまれることはないだろう。


問題なのは康太たちがこれからする行動だ。ただの買い物ではさすがにばれる。ある程度どこかしら魔術的な要素が含まれる場所に向かうのが適切だろう。


「それで?コータよ、誤魔化す行動というが一体何をするのだ?よもやただぶらつくだけではあるまい?」


「もちろん。せっかく相手にリスキーかもってことを言ってあるんだ、ちょっと危なっかしいことをしておいて問題はないだろうよ」


そう言って康太は体の中からデビットの残滓を顕現させる。


アリスがそれを見て僅かに目を細める。少しだけ辛そうな表情をした後でもう一度まじまじとその姿を眺めているとデビットの残滓は僅かにざわめきだす。


「またそれで何かするの?まさか一般人に手を出すとか言わないわよね?」


「んなことしたらさすがに止められるって・・・俺がこれを使ってれば当然本部の魔術師たちは何やってんだってことで止めに来るだろ?でも俺らは上役に許可を貰ってるからその確認をさせる。でも確認をしてる間はちょっと待たなきゃいけない。時間を稼げるし何より何かしてますアピールもできる」


「・・・あぁなるほど・・・それプラスまだその魔術には何か別の効果も含まれているぞという印象付けにもなるわけですね」


「その通り。俺の隠し種はまだあるんだぞとプッシュできるわけですよ。さすが姉さん話が早い」


康太としては時間稼ぎと自分の行動を印象付ける点とついでに自分の、というかDの慟哭の底が知れないというところをアピールできればそれでいいと思っていた。


だからリスキーという意味では何も間違っていない。自分がDの慟哭を所有しているという事を大々的に告知するようなものだ。以前の封印指定百七十二号の一件で大体の魔術師が知っているとは思うが、実際にそれを知らしめることで康太が狙われる危険性は増す。


なにせ半信半疑だった者たちも実際に目にすることでその事実を再確認するのだから。


康太の意見に反対する者はとりあえずその場にはなく、康太たちはそれぞれ行動を開始することにした。


真理はベックと通訳の魔術師と共に最寄りの教会へ向かい、康太たちはベックにあらかじめ集合場所となる喫茶店の名前と場所を聞いてから行動を開始することにした。


「それで?一体何をするわけ?一般人相手じゃないってことはなんか目標があるんでしょ?」


「もちろん。とりあえずこの辺りで一番人が集まりそうなところに行くか。というわけでアリスよろしく」


「私を道案内に使うとは・・・まぁいい・・・この辺りならメインストリートと駅前のスクランブルだろうな。とりあえず行くとするかの」


「オッケー、ついでに店のチェックもしておこうぜ」


「・・・なんか気楽そうね・・・」


文の思っていたように康太は気楽にアリスの案内を受けながら目的の場所までやってきた。


とりあえず何をするつもりなのだろうかと文と倉敷が康太の方に注目していると、康太は大きく深呼吸した後で目を閉じる。


三人が康太の様子を確認していると、康太の体から徐々に黒い瘴気が湧き出てくる。


ここまではまだ予想通りだ。Dの慟哭を使って周囲にいる魔術師の動揺を誘い時間を稼ぐ、それが今回の目的なのだから。


だが問題はDの慟哭をどのように使うかというその点のみが重要なのだ。康太は一般人に使用するつもりはないと言っていたがそれもどうだかわかったものではない。


そもそもこの魔術は圧倒的に一般人に対しての攻撃力が高すぎるものだ。魔術師に対しては多少の効果しか持たないために決定打になることはない。中には驚異的な嫌がらせになることはあるがそれも割と稀なことである。


どんどん湧き出てくる黒い瘴気を無視して康太の方を眺めていると、徐々にその瘴気は量を増していく。


だんだんと調子を出してきたのか、康太から湧き出てくる黒い瘴気の量は普段のそれとは比較にならないほどの量になっている。


これだけの量の瘴気を見たのはあの時、封印指定百七十二号の事件のとき以来ではないだろうかと思えるほどである。


「ちょ・・・あんた一体どれだけ出す気なの?」


「とりあえず射程距離内全部をこれで覆うつもりだ。これだけすりゃさすがに無視できないだろ」


「ていうか魔術師が止めてきた場合どうするのよ?アリスは見つからないようにしてるからまともに対応できるとは思えないわよ?」


「そのあたりも計算づくだよ。言葉がわからないとなれば片言で伝達するしかないだろ?そうなれば誰かしらが通訳を急いで用意するだろうからまた時間がかかる。英語をまともにしゃべれないのを利用するんだ。アイアムジャパニーズ、アイキャンノットスピークイングリッシュ!」


一応片言ではあるが本当に適当な英語程度なら喋れているではないかと突っ込みたくなるが、そもそもこの行動は真理が必要なものをそろえて戻ってくるまでの時間稼ぎでしかない。


ある程度行動しているという事を本部の人間に知らしめることができればそれでいいのだ。それ以上の価値など康太は求めていないのである。


逆に言えばこの行動そのものに意味はない。魔術師にだけ目に留まり、なおかつ放置することができないような事柄であり、康太にしかできないようなリスキーな行動。


確かにすべての条件に当てはまっている。だがこの状況を静観していられるほど文たちの神経は太くないのだ。多少なりとも口を出したくなってしまうというものである。


「アリスはどう思う?これ先制攻撃されても不思議はないわよ?」


「んー・・・まぁ今回の目的を考えればあながち間違った行動でもないと思うぞ?理想的とは言えんだろうがそれでも条件にあてはまる行動であるのは確かだの」


「・・・倉敷は?なんか意見とかある?」


「別に?それに一般人に手を出さなきゃそれでいいんじゃねえの?視覚的にだいぶうざったいっていうのはあるけどな」


康太たちのように魔術師としての視覚に目覚めているものからすればこの黒い瘴気は煙幕の代わりになってしまう。


濃薄を調整することである程度視界を確保することはできるが、あまりに濃く瘴気を発生させると普通に歩くことも難しくなるだろう。


一般人はこの黒い瘴気を見ることができないためにあまり影響はないが、街の中で行動している魔術師からすればまた封印指定百七十二号が猛威を振るっているのではないかと勘違いしてしまうだろう。


むしろ康太は勘違いしてほしいと思っている節があるだろうがそのあたりは今はおいておくことにして、この行動にはもう一つ目的があった。


それにこれは康太にとって一種の実験でもあった。今まで康太は魔力を吸うことができる距離に関しては真理に協力してもらって実践済みだが、この黒い瘴気をどこまで飛ばすことができるかということに関しては試したことがない。それにこの瘴気を一体どこまで広げることができるのかも試していない。


あまり大規模に試すといろいろと厄介なことになるだろうからという事で今まで自粛していたのだ。


だが今回の事もあってもはや自粛する必要はない。思う存分やれと本部の方からもお許しを貰っているのだ。


せっかくその力を確認することができるのにやらないバカはいない。責任は上層部にとってもらうとして康太は嬉々として周囲を黒い瘴気で埋め尽くしていった。


康太が黒い瘴気を発生させて約数十分が経過したころ、康太たちから見える景色は先程のものとは激変していた。


先程までは外国人が多く行き交う異国の風景だったのだが、今やその光景はなく黒い瘴気に覆われている世界が見えるのみだ。


もはやここがイギリスのどこかだと言われても信じられるものは少ないだろう。まだ魔界だと言われた方が信じられる。


「・・・よくもまぁここまで・・・酷い光景だわ」


「俺もここまで変わるとは思ってなかったよ・・・っていうかどのくらいまで広がってる?」


「さぁ?黒すぎてどこまで広がってるのかわかんねえよ」


康太が全力で広げた黒い瘴気はあたり一面に広まっていた。大体康太を中心にして約百メートル程度を満たす黒い瘴気、濃薄にムラはあるものの、かなりの範囲をその瘴気で満たすことができている。


視覚的な妨害にもなるし、この範囲にいるものにはDの慟哭を付与できるという事は判明した。


大体魔力を吸える範囲と黒い瘴気を飛ばすことができる範囲は同じだということがわかったが、その範囲になら瘴気をいくらでも出すことができるということがわかったのだ。これは大きな収穫である。


「これ全力でやったの?」


「あぁ、頑張ってもらったぞ。まさかここまで行くとはな・・・」


「という事は、こいつと戦う時はこれだけの範囲がこいつの魔術の射程距離だと思えってことだろ?結構えぐいよなこれ・・・」


倉敷のいう通り、この黒い瘴気が届く範囲がDの慟哭の射程距離だという事だ。


康太がゆっくりと瘴気を飛ばすのならまだ回避のしようがあるが、その気になれば空間全体をこの瘴気で覆うことができると判明した。


つまりDの慟哭を受けずに康太と戦うには百メートル以上距離をとって狙撃し続けるしかないという事である。


もっとも、それだけ長距離からの攻撃を避けられないほど康太は射撃系の攻撃に対して未熟ではない。


大抵の攻撃において距離があるという事はそれだけ着弾点を予測しやすいという事でもあり、距離があればその分命中させることだって難しい。


それだけの距離が離れていても魔術を操作でき、なおかつ急速な変化をつけられるような実力の魔術師ならば話は別だろうが、それでも康太なら避けることは不可能ではない。


百メートル以上の距離を維持しながら攻撃し続け康太に勝利するのはかなり至難の業だろう。少なくとも文と倉敷はできる気がしなかった。


「ていうかこれ全部あんたの体から出てきたのよね?」


「そうだな、全部メイドイン俺だ」


「うわ、変なにおいがする気がする・・・具体的には男子高校生の匂い」


「かぐわしい青春の香りか?言っとくけど俺はそこまで体臭はきつくない方・・・だと・・・思う・・・うん・・・思いたい」


「確証はないのね・・・まぁそこまで臭くないから安心しなさい。こっちの方もほとんど無臭だしね」


この瘴気全てが康太の体から出てきたという事もあって倉敷は若干嫌そうな顔はしているが、文はそこまで嫌悪感を抱いているということはなさそうだった。


今さら康太の変なところを見たところで文は動じることはないだろう。なにせ康太の汚い部分はいろいろと見ているのだ。今さら匂いがどうのこうのと言われても気にすることはないと吐き捨てることができる。


「でもこの瘴気って探索系には使えないの?せっかくこれだけ張り巡らせたのにそれ以外に使い物にならないんじゃ・・・」


「んー・・・一応吸い取ろうとしてる相手なら生きてるかどうかとかどのあたりにいるかくらいはわかるんだけど・・・それもだいぶ曖昧だし何よりかなり適当な感覚だぞ?」


「適当な感覚って・・・どんな感じの?」


「あっちの方にいるっぽいとか、たぶん生きてるなとかそんなレベル。それにこれだけの範囲を一気に知覚したら頭がおかしくなるって」


当然ではあるが知覚系、あるいは索敵系の魔術はその範囲と効果によって得られる情報の量が変化する。


例えば知覚系でも康太の所有する物理解析の魔術は康太が視認したものの物理的な構造を分析し把握することができる魔術だ。得られる情報は康太の視界に入っている物体に限られる。


対して文などがよく使う周囲の物体を索敵する魔術は周囲にある物体や人物などを把握する魔術だが、その物体の構造一つ一つを解析するなどということはない。


どの場所になにがあるのかを知ることができるため、詳細な把握は不可能だがその範囲を変えることで得られる情報は上下する。


当然範囲が広すぎれば脳に大きな負荷がかかるし、狭すぎれば役に立たない。知覚系や探知系の魔術は本人やその魔術の向き不向きというものが大きくかかわってくる魔術なのである。


それを考えるとDの慟哭は知覚や探知と言った魔術には不向きであるということがわかる。というか康太がそう言った物事をなんとなく感じ取れているのにはデビットの存在が大きいだろう。


その物事を感じ取っているのはあくまでデビットで、康太はそれを間接的に感じているだけなのだ。


だからこそ得られる情報は曖昧かつ感覚的過ぎるものでほとんど参考にならないし実戦ではほとんど役に立たない。役に立つことがあるとすれば痛めつけた相手の生死確認ができるくらいだろうか。


康太が周囲の街を黒い瘴気で覆い尽くしてから数分後、泡を食った様子で二人の人物が康太たちに近づいてきた。


まだ日の高い時間帯という事とこの場所が街中という事もあって仮面は付けていないが彼らが魔術師であるというのは文が魔力を探知したことですぐに判明した。


康太からすれば何のことはないただの工作活動であるこの黒い瘴気も、イギリスに住んでいる本部の魔術師からすればたまったものではないのだろう。


この黒い瘴気そのものに意味があろうとなかろうと、視覚的に彼らはこの黒い霧に脅威を感じているのだ。

そして向こうも恐らくこちらの魔力を探知してここまでやってきたのだろう。この黒い瘴気が満ちて視界が悪い中ここまでやってきた二人組は康太たちの姿を見つけると何やら早口の英語で話し始める。


当然ただの高校生の康太が早口で放たれる英語など理解できるはずもなく、目を丸くして首をかしげてしまっていた。


一体何を言っているのかわからなければ話を進める事すらできない。とりあえず言うべきことは言っておくべきだなと康太は文と倉敷の方を見て小さくうなずくと口を開いた。


「アイキャンノットスピークイングリッシュ!ジャパニーズプリーズ!」


もはや中学生レベルの英語のような気がしたがここではあえて英語が本当にわからないということを知らしめたほうが時間をかけやすい。


実際には英語ができる人間が約一名いるが、アリスはどうやっているのかは知らないがこの二人に認識されていないようだった。


二人は康太と文、そして倉敷の方に視線を移すことはあってもアリスの方に視線を移すことはなく、ただただ何とかして何かを伝えようと身振り手振りで康太たちに英語で話しかけている。


当然だがイギリス人が康太たち生粋の日本人にわかるように日本語をしゃべることができるはずもない。


世界的に共通語となっている英語ならば日本人の康太たちも多少の心得はあるがわざわざ日本語を学ぼうという外国人はかなり少数派だ。目の前の二人もその例に漏れずどうやら日本語に関しての知識は薄いようでなるべくわかりやすい単純な英単語を並べ、なおかつゆっくり話してくれているが康太たちは難しそうな顔をして首をかしげておくことにする。


さすがに康太たちの耳にも聞きなれた理解できるような単語が並ぶこともあるが、この場では理解できない風を装っておいた方がいいだろう。


実際何を言いたいのかはなんとなくはわかるが、なんといっているかは理解できていないのだ。このまま疑問符を飛ばしておいた方が吉である。


さすがに言葉を理解できないことに業を煮やしたのか、向こうは携帯で何やら話をし始める。恐らく日本語を理解できる人間を呼ぶのだろう。先程からそれらしい単語が康太たちの耳に届いてくる。


「向こうは通訳を呼ぶつもりみたいね・・・どうする?このまま通訳が来るのを待つ?」


「素直に待ってもいいけどな・・・この辺り結構魔術師いるんだろ?」


「いるわね・・・確認できるだけでも五十人くらいいるわ」


「そりゃ多い・・・その中に日本語がわかる奴がいても不思議はないな・・・ここは一度場所を移すか・・・目の前の二人から離れるかしないとだな」


文が魔力探知を行える範囲は広いようであまり広くはない。現在この黒い瘴気が満ちている空間内は索敵できているがその中でも五十人の魔術師がいるとなると日本語をしゃべることのできる稀有な魔術師がいても不思議はない。


そうなってくると康太たちの下にやってくれば日本語が通じないから話が進まないという状況は終わりになってしまうだろう。


無論そこから先、本部への連絡などを含めればまだ多少時間を稼ぐことはできるだろうがそれでももう少し時間を稼ぎたいところだ。


言葉を理解されてしまえば本部への確認など携帯電話を使えばすぐにできる。それこそ数十秒から数分あれば可能なレベルだ。


あらかじめ真理と決めた時間は約一時間。すでに数十分を消費しているため残りは半分程度だ。集合時間を考えれば時間的に稼ぐことができないわけではない。


だが真理が戻ってくるまで何とか余裕を持って全力で行動していますアピールをしたい康太からすればこの時点での状況の変化は望ましくなかった。


「どうするの?相手に探知されてる以上この場で逃げてもすぐに追いかけられるわよ?」


「・・・相手が追いかけてこられるのはこっちが魔力を持ってるからだろ?それなら魔力を限りなくゼロにすれば逃げられるんじゃないか?」


「・・・まぁそうかもしれないけど・・・これって魔力ゼロでも使えるの?」


「・・・そう言えば試したことないな・・・丁度いいから実験するか・・・ちょい待っててくれよ」


そう言って康太は文にDの慟哭をかける。体の中に術式が入り込んできた文は一瞬驚いた顔をするが、康太が何をしようとしているのかを把握したのか小さくため息を吐いた。


「なんでもいいけど、魔力の消費は気を付けなさいよ?下手すればお陀仏よ?」


「わかってるって、頑張って調整する」


そう言って康太は自分の体の中にある魔力を生命力に変えて文へと送りこむ。以前奏から依頼を受けたライブの件で発覚した効果、魔力を生命力に変える能力を康太は発動していた。


康太がまだDの慟哭の効果を最大限引き出せていないというのもあるのかもしれない、あるいはすでに変質してしまっている術式であるが故にその効率が落ちているのか、この効果はひどく魔力の効率が悪い。恐らく康太がもつ魔術の中でも最悪な燃費だと言えるだろう。そのまま使い続けていれば康太の魔力はあっという間に枯渇してしまうだろう。今回はむしろそれを狙っている感があるのだが。


「生命力を与えられるっていうのはどんな気分だ?」


「悪い気分ではないわね・・・なんというか・・・力が湧き出てくる感じよ」


「そりゃよかった。それじゃあ今度は魔力をいただくぞ」


「はいはい・・・倉敷も魔力をゼロにしておきなさい・・・アリスは・・・問題ないか」


既に認識されている康太たちと違いアリスは目の前の魔術師たちにすら認識されていない。この場で魔力をゼロにするメリットはない。


康太は文と倉敷の二人から魔力を吸い取ると同時に生命力に変換してそれぞれに渡し、二人は適当な術を発動することで魔力の消費を著しく加速させていた。


三人の魔力がゼロになるまでそう時間はかからなかった。そして康太の魔力がゼロになっても周囲に存在している黒い瘴気は消えることはない。


さらに康太の体の中から黒い瘴気は問題なく生まれ続けている。


普段からしてDの慟哭を使っても全く魔力の消費がなかったが、まさか魔力がゼロになっても使えるとは思っていなかっただけに康太は少しだけ驚いていた。


とりあえず相手が感知できる理由の一つは潰すことができた。周囲に人混みがあるのもまた有難い。


「んじゃ行くぞ。いつまでも英語に付き合う必要もない」


「イギリスで英語以外の言葉を聞くのも珍しいはずなんだけどね・・・まぁいいでしょ」


「人ごみに紛れてっていうのも難しくないな。人通りがあるとこういう時楽でいい」


康太は目の前の二人が視線を逸らせたその一瞬を見逃さずに一際濃い瘴気を噴出させて二人の視界から自分たちを覆い隠すとそっとその場から離脱していく。


人ごみを縫うように移動することで先程やってきていた魔術師二人をまくことはできたが、同時に康太たちは今ほとんど魔術を使えないただの一般人状態だ。この状態になるのも久しぶりだなと康太たちは自分たちの体をまじまじと見つめていた。


なにせ魔術師や精霊術師になってから体の中には常に魔力が存在したのだ。今さらながら魔力のない状態になるとは思っていなかっただけにかなり不安な感じがしてしまう。


「なんていうかさ、こういう風に魔力が無くなって落ち着かなくなるっていうのはいっぱしの魔術師になれたってことなのかな?」


「どうでしょうね・・・まぁ魔力が無くなって落ち着かないっていうのは分かる気がするわ・・・なんかソワソワする」


「あれだろ、財布の中身がほとんどない時みたいな感じだ。やっぱ金はあったほうが落ち着くっていうか安心できる・・・でも今それがないから落ち着かないって感じ」


「あぁそれ近いかもしれない。なんか不安なんだ。普段は最悪魔術があるから何とかなるって考えることができるけど、今は魔力がないからどうしようもないって感じ」


普段康太たちは魔術という武器があるからこそ常に心の安寧を得ることができている。魔術が使えるから多少のことがあっても大概何とかできると心の中で思っているからこそ優位性を維持し、平静を保てている。

だが今は魔力が無くなっていることでそれがない。一般人にはわからない感覚だろう。この感覚がわかるようになったという事は康太のいうように考え方が魔術師のそれになってきていると思っていい。


「私なんかはほんの少しあれば魔力を回復できるけど・・・そう言えば倉敷はどれくらい時間がかかるわけ?」


「精霊の機嫌とやる気にもよるけど・・・大体十分くらいかな。これでも結構ましになったんだぞ?」


「・・・まぁ康太は聞かなくてもいいか」


「聞いてくれよ、そこは聞いてくれよ。こいつのおかげでこれでもだいぶ早くなったんだからな」


今まで弱い供給口のせいで魔力を最大限溜めるのに一時間近くかけていた康太だが、今はDの慟哭の恩恵もあって近くに魔力を吸うことができる対象がいれば三十分以内には魔力が空の状態から全回復することができるようになっていた。


もっともそれでもだいぶ時間がかかってしまうのは言うまでもない。もう少しまともに魔力回復ができるようになればいいのだがとないものねだりをしてしまうがそのあたりは仕方のない話だろう。


「私が回復を助けてもまともに戦えるようになるまで・・・まぁ最短で十分そこらってところかしら・・・まぁそれまでは私が何とかするしかないか」


「まぁその時は頼む。可能な限り援護はするから」


何も魔術での戦いは魔力が満タンにならなければできないというわけではない。ある程度魔力が回復すれば攻撃も防御もできるようになるのだ。


満タンになる前に魔術を発動して戦闘を開始することもできる。ある程度魔力がないと消費と回復の釣り合いをとるのが難しいために継続して戦闘行動をとることができなくなってしまうが。


「なんというか・・・話を聞いている限りコータはだいぶ魔術師としては欠陥が多いようだの」


「それを言われると耳が痛いんだけどな・・・まぁこれでもいろいろ工夫して頑張ってるんだぞ?少なくともある程度まともに戦えてるし」


「まともとは言い難いけどね・・・どう?今さらながら同盟解消したくなった?」


周囲に魔術師の姿がないのを確認したからか声を出したアリスに対して文は薄く笑みを浮かべている。これで同盟を解消すると言い出したらそれはそれで面白いしありがたいのだが、アリスは笑みを浮かべたまま康太の方を見て小さくうなずいた。


「いいや、その程度では私が前言を撤回する理由にはならない。むしろ面白い。コータがどのような魔術師なのかこれからもっとゆっくり時間をかけて理解させてもらう。また楽しみができた」


アリスからすれば康太の実力は同盟を組むうえでの判断基準にはなりえないのだろう。そう言う意味では康太からしても文からしても、ありがたいようなありがたくないような少し複雑な気分だった。


日曜日、ブックマーク件数1900と2000、評価者人数190人突破で合計5回分投稿


最近妙にお祝いもあるしpv数も伸びててうれしい悲鳴が上がっています。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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