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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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アリスと康太

「でも・・・前に貰った資料の顔とは随分違うぞ?」


「そんなもの魔術でいくらでも変装できるでしょうが・・・あんたも見たんでしょ?光属性の魔術で変装したのよ・・・その変装をいつごろからやってるのかも、今目の前にいるこの姿が本物かどうかも分からないけどね」


文にそう言われ康太は返す言葉が無くなってしまう。実際に康太は確かにアリスが変装しているのを見た。

まるで特殊メイクでも使ったのではないかと思えるほどに見事な変装だった。


光属性の魔術によって視認できる外見を変える魔術だ。以前文もやっていた魔術であるためにその原理は理解している。


人間の目をだますことができるのだカメラをだますことくらい容易だろう。


この変装を一体いつごろから続けていたのかはわからない。恐らく康太が先日会ったときにも見える角度によって見え方の異なる変装の魔術を施していたのだろう。


監視していた協会の魔術師たちからは康太が目標に接触したように感じられたのだろう。だからこそ勝手な行動は慎めなどと忠告してきたのだ。


「ちょっと待った。一ついいか?こいつがその今回の目標だったとしてさ本部の魔術師たちは何でこいつを見失ったんだ?それに見た目をだますことができても騙せない感知魔術だってあるだろ?」


倉敷の言葉にそうだそうだと康太が同調する。見失った理由に関しては康太とアリスが感知魔術の範囲外になるほどに地下深くに潜ったのが原因なのだが、後者に関しては倉敷のいう通りだ。


仮に魔術によって視覚を誤魔化すことができても、感知の魔術にはそれ以外にも個人を認識する術はいくらでもある。


例えば超音波に近いエコーを用いた魔術によって物体そのものを認識することもできる。目は誤魔化せてもそれらの魔術をごまかすのは難しい。特殊メイクのように物理的に変装しているのならそう言った感知も誤魔化せるが。


「そんなの簡単よ、体の周りにその変装にあった力場とか障壁を作っておけばいいのよ。あんただって水を自分の思うように形を変えたりすることくらいできるでしょ?それの応用よ」


実際文のいうように、物理的な力を持った魔術はいくつかあるし、康太も倉敷もそう言ったものを扱える。

水によって形を変えることは勿論、康太の持つ炸裂障壁の魔術だって大まかにではあるが形を変えることができるのだ。


それを応用していけば人の形を再現することもできるかもしれない。


「・・・じゃあ本部がこいつを今も見失ってるままなのは・・・」


「一度見失ったのは地下深くに潜ったのが原因・・・今もなお発見できないのは今まで感知できてた見せる用の変装をこの子がしていないから・・・仮面をつけないのもつける必要がないからかもね」


仮面をつけるのはあくまで正体を隠すためだ。魔術によって変装し姿形を自在に変えることができるのであれば仮面などつける必要はない。


むしろより高度にその身を隠すことができるのだ。わざわざ物理的な仮面にこだわる必要がないのである。


「どうかしら?私の考え当たってる?」


「・・・なるほど・・・ブライトビーが優秀だというだけはある・・・情報処理能力もあるし何より分析力もある。相方の変調もよく気付いているようだ。確かに信頼に値する魔術師であるようだの」


「・・・ビーになにかしたの?こいつが妙にあんたのことを信頼してるのはそのせい?」


文の言葉にほんのわずかにではあるが敵意がともる中、康太は自分に何かしらの魔術がかけられたのではないかと困惑する。


敵意は向けられていなかった。だがその敵意を隠し何らかの暗示系統の魔術をかけられていたとしても何ら不思議はない。


暗示などの魔術は条件によっては一般人には高い効果を発揮するがその理屈や術式などを知っている魔術師には効きにくい。


だが卓越した技術を持った魔術師の扱う暗示の魔術であれば魔術師でも暗示の効果を得られることがある。


以前康太はそのことを真理から教わっていた。もはやそれは催眠や洗脳に近い効力を有しているという事だが、もしアリスが封印指定二十八号アリシア・メリノスだったのならそれだけの暗示を扱えても何ら不思議はない。


「安心せい。こいつには何の魔術も使っておらん・・・というかこいつには使う必要がない。良くも悪くも単純だ・・・私が出会ったときの状況のせいもあるだろうがの・・・」


「・・・ビー、こいつと会った時話したって言ってたわよね?何話したの?っていうかどういう状況で会ったの?」


「え・・・!?・・・それは・・・その・・・」


この状況だ、言わなければいけないということくらい康太にだってわかる。だがいえるはずがない。散歩してちょっと土産物を見るために店を巡っていたらいつの間にか迷子になって、軽く絶望している時に日本語をしゃべれる人物にあって道案内をしてもらったなどと。


しかもそれが同年代か年上の人物ならまだしも見た目幼女のアリスにそんなことを頼んだなどと知られれば確実に呆れられるだろう。


「なによ、そんなにいいにくいの?ひょっとして迷子になってこいつに助けてもらったとかそんな感じ?」


「・・・お前やっぱエスパー?」


「・・・はぁ・・・なるほど・・・そう言う事ね・・・」


康太の言葉に全てを察したのか、文は大きくため息を吐きながら呆れ、真理は苦笑してしまっている。


康太が異国の街でオロオロしているところに現れ、日本語で対応しなおかつ案内、あるいは元に戻れるように協力した人物に対して泣きながら感謝している姿が目に浮かぶようだ。


そんな事情があっては康太が妙にアリスに対する信頼が高いのも納得できるという話である。


「ったく情けない・・・妙に帰りが遅いと思ったらそう言う事だったわけね・・・いい年して迷子とか恥を知りなさい」


詳細に事情を聞いた文はその場に康太を正座させて怒りをあらわにしていた。その怒りの中にはかなりの割合で呆れも含まれている。


まるで母親に叱られる子供のようだとアリスは笑ってしまっていた。


「返す言葉もありません・・・でもアリスのおかげで何とか帰れたんだよ・・・」


「それはそれこれはこれよ。あんたね、もしこいつが最初からやる気満々だったらどうするつもり?その時点で即終了よ?あんた今頃肉片になってるわよ?」


「いやでも結局無事だし」


「そう言うのを結果論っていうのよ。軽率な行動は控えなさい」


すいませんと呟きながら康太はその場に正座して小さくなっていってしまう。こればかりは真理も文に同意見なのか康太を助けようと口を出すことはなかった。


自分が危機的な状況に対してやってきてくれた人物に縋るのも理解できなくはない。ただでさえ日本語をしゃべれる人間が少ないこのイギリスという国で、日本語をしゃべることのできるアリスは天使のように見えただろう。


しかも自分の泊まるホテルまで案内してくれるとなれば強い恩義を感じてしまっても不思議はない。


不安定かつ打ちのめされ絶望していた状態の康太に対して救いの手を差し伸べたのだ。まるで悪徳宗教の手口のようにするりと弱った心に入り込む。なかなかうまいやり方だと文は一瞬感心したが、恐らくアリスにもそんな思惑はなかったのだろう。


というか本部の魔術師に監視されている状態で街をうろうろしている日本人の見慣れない魔術師を見て訝しみ、観察していたが特に何をするというわけでもないので話しかけて様子を探ろうとしたところ事情を聞いて辟易したというところだろうと文は読んでいた。


そしてその考えはほぼ完璧と言って良い程に的中している。


アリスの行動は良くも悪くもその場において適切な対応で、康太にとって良くも悪くも都合がよかったのだ。


こんな結果になるとはアリスも康太も思わなかっただろうが。


「まぁまぁ、そこまでにしてやってくれるかの?そやつも悪気があったわけではあるまいて・・・何より今重要なのはそやつを叱りつける事なのかの?」


アリスの言葉に文はそのとおりねと呟いて再び視線をアリスの方に向ける。先程に比べて警戒の色は薄い。アリスもそのことに気付いているのだろう、先程よりも態度が柔和になっていた。


「それで、ライリーベルよ・・・わざわざ本部の魔術師を遠ざけ、この場の者たちのみにこの話をしたのだ。何かしら訳があるのだろう?」


この状況で、本人にもその話を聞かせないのならまだしもアリスを含めたこの場の人間にその話をするという事がどういう意味を持っているのかこの場の全員が理解している。


正体を暴けば当然攻撃されるかもしれない。その危険性を理解できないほど、予想できないほど文はバカではないし向こう見ずではない。


「もしあんたがその気があるなら、さっきも言ったけどこいつはとうの昔に肉片よ。あんたには私達と戦う理由はない。違う?」


「・・・確かに、私としてはお前達と戦う理由はない。いや、本部の魔術師も同様だ。私は誰かと戦う理由は持たん。攻撃してくるから反撃しているだけにすぎん」


「それは、あんたがアリシア・メリノスであると認めている・・・と思っていいのね?」


文の言葉にその場の全員に緊張が走る。もはやわかりきっていることではあるがそれでも文は答えを求めた。明確な答えを。


そしてアリスもそのことを理解しているのだろう。自分の考えが正しいかどうかを確認したいという考えを彼女は持っている。


せっかくここまで正確にいい当てたのだから褒美も必要だろうと、アリスは小さく笑ってその姿を変えていく。


それは康太たちも資料にあった写真で見た封印指定二十八号『アリシア・メリノス』その人だった。


「その通り・・・改めて初めまして。アリシア・メリノスだ。以後よろしく頼むぞ」


そう笑った後で彼女は再び少女の姿に戻ってしまう。


自分の考えが正しかったことを喜ぶべきか悲しむべきか、どちらを優先するべきかはわからないがこの場ですることは決まっている。


「そう・・・ビー、あんたはどうする?」


「どうするって・・・」


「今回の依頼を受けたのはあんたよ。反故にするのも、完遂するのもあんたが決めなさい・・・私たちは・・・私はあんたの意見に従うわ」


今回文たちがこの場にいるのは康太の受けた依頼を手助けするためだ。どのような形であれ康太がやらないというのであれば自分たちもこの戦いに参加する意味はない。


康太がアリスのことを、アリシア・メリノスのことを全く知らずただの敵と見ていたのであれば答えは単純、ただ手伝うだけだったのだが、こうして彼女のことを知ってしまい、なおかつ康太にはすでに戦うために必要なものが無くなりつつある。


例え本部との確執が大きくなろうと、たとえ依頼を完遂できなかったということになろうと、康太はこういう時に戦いを選ぶ人間ではないということくらい文は理解している。


安全策と言えば聞こえはいいが、文は一種の賭けをしたのだ。アリスがこちらと戦うつもりがなく、なおかつ康太に彼女の正体を知らせ、さらに正体を知らせてもアリスが慌てて攻撃するようなことがないという条件でのみ成り立つ『依頼をあきらめる』という選択肢を作り出すこと。


もはや答えは決まっている。あとは康太が口に出すだけで自分たちの立ち位置は決まってくるのだ。


「んー・・・さすがに本部からの依頼だしな、反故にするのはまずいだろ」


康太の思わぬ発言に文は目を丸くし、アリスはほんの少しだけ残念そうな表情をしていた。


可能なら康太たちとは戦いたくないと思っていたのだろう。向かってくるのであれば仕方がないが、それでも失望感は否めなかった。


「正気なの?こいつと戦うってことがどういうことだかわからないわけでもないでしょ?あんたはこいつの魔術の一部を実際に目で見てるんだから」


康太は簡単に言っていたが索敵が届かないほどの地下深くに潜るというのは簡単にできるものではない。


大抵の地面は地下に行けば地下に行くほど固くその密度を高めていく。その為操作するのも変化させるのも一苦労だ。聞く限りそれをアリスはそれを易々とやってのけたのだという。それだけで彼女の実力の程がうかがえる。


明らかに自分達とは格が違う魔術師だ。そんな相手にまともにやって勝てるはずがない。


それがたとえ本部の魔術師たちと共同だろうとも、戦い慣れた相手に対してそれほど大きなアドバンテージになるとは思えなかった。


「いやいや待て待て、何で依頼を続けることが戦うことに直結するんだよ。別に戦わなくたって依頼は完遂できるだろ」


康太の言葉に文もアリスも、そして真理も倉敷も目を丸くしてしまう。


今回の依頼の性質上、アリスを倒さなければ完遂は難しいと全員が理解しているからだ。


だがそんな中で康太だけは別の可能性を見ている。というか気づいている。


「姉さん、今回の本部からの依頼書ありますよね?」


「えぇ・・・ありますけど・・・これです」


康太の下に本部から正式に送られてきた依頼書。そこには『封印指定二十八号の無力化』と記されている。

依頼を正式に受ける前からある生物の無力化などと言われてきたが、結局のところ無力化というところだけは変わらない。


実際に本部の上層部と話した中でも無力化という言葉を使われてきた。アリスが一応本部の所属魔術師であるという事もあって摩擦を少なくするためというのが大きな理由だろうが、依頼内容をアリスに知られても殺すつもりはなかったなどと言い逃れができるようにするのもまた理由の一つだろう。


だがそんなものは建前でしかない。実際本部はかなり強硬手段に出ており、殺してもいいくらいの戦力を投入している。


無力化とはいったがほぼ討伐に近いのだ。


「それがどうかしたの?今回の依頼はこいつを何とかしないといけないんでしょ?」


「そうだよ?だけど無力化っていうけど別に倒さなけりゃいけないってわけでもないだろ?姉さん、無力化の意味ってどんなのです?」


「えっと・・・影響力がない状態にすること・・・ですね」


「つまり、本部の上層部がそう言う依頼を出したってことは、本部の上層部の人間に対して影響力がないようにすりゃいいってことだろ?」


「・・・ん・・・まぁ・・・そうなるのかな・・・?」


確かに無力化という言葉の意味を考えればその解釈は間違っていない。何度も何度も言われてきた内容なのだ。無力化という言葉の意味を考えれば康太の言葉は決して間違ってはいない。多少言葉遊びの揚げ足取りのような気がしなくもないが康太の主張は正当なものだ。


「つまり、アリスさんにも協力してもらって、本部の上層部と関わりを失くす・・・あるいは関わり合いのないようになるようにすればいい・・・と考えているんですか?」


「さすが姉さん話が早い。そう言う事です。実際に戦って倒すよりは成功する可能性高いだろ?」


「・・・まぁ・・・うん・・・確かにそうなんだけどさ・・・」


文としても康太の言い分が正しく、なおかつ実際に戦って無力化するよりも可能性が高いことを理解しているのだろう、複雑そうな声を出しながら唸ってしまっている。


仮にそれを実践したとして本部の人間がそれに納得するかという問題が残っているが、確かに現実問題依頼を反故にせず、なおかつアリスとも戦わないで依頼を完遂するにはこの方法しかないように思える。


現実的かつ成功率の高い考えであることには変わりない。具体性がまだ何もないという点を除けば康太の意見には賛同できる。


「でもよ、実際どうするんだ?本部の上役連中のいう無力化っていうのがどういう意味を持ってるのかにもよるぞ?向こうがそれじゃダメって言ったらそれで終わりだろ」


「んー・・・そのあたりは一度確認しておくべきかもな・・・言い逃れができないようにしっかり言質とってから実行するべきか・・・」


「というか本部の上層部に関わりがないようにするって具体的にはどうするのよ?」


「そのあたりは・・・まぁこれから考えるってことでここは一つ・・・」


「具体案零でよくそう言う事言えるわよね・・・ったくもう・・・」


文は文句を言いながらも頭をひねっていろいろと考えているようだった。


なんだかんだ言いながら康太の方針には従うつもりのようだった。自分がそう言ったのだから仕方がないという半ばやけくそ感は否めないが、律儀に康太の言葉に従っているのは彼女らしいというべきだろうか。


そしてそれは真理も倉敷も同じだ。具体的にどうすれば事がスムーズに運ぶのか考え始めている。


そんな中話の中心にいるアリスはそんな少年少女たちを見て目を丸くしてしまっていた。


自分と戦いたくないから自分に協力を申し出るなど想像もできなかったのだろう。近代に移ってからは自分は協会の魔術師たちと戦うことが多くなっていた。先程までの話の流れから彼らが逃げるか、戦うかの二択しか考え付かなかったために協力するという考えそのものが浮かばなかったのである。


「アリスもなんかないか?いい案とか思いつくこととか」


「・・・そうは言うがの・・・というか本気なのか?仮に私が協力しても本部の人間がそれを了承するとは・・・」


「ふふん・・・そのあたりはいくつか考えがあるっての・・・こいつを使ったりしてハッタリかまして上手いこと話をもってくさ」


そう言って康太は体の中から黒い瘴気を噴出させる。本部の人間がDの慟哭の性能を知っているのはむしろこちらにとって利点なのだ。康太がもつこの魔術は数百年にわたって猛威を振るい続けた驚異的な魔術、これにさらにアリスのことを加えて話すならいくつか方法がある。


無論事前に幾つか下準備が必要だしどのように話を持っていくかはまだ決めていないが、大まかな流れ自体は既に康太の頭の中に構築されている。


と言ってもまだ机上の空論でしかない。これから本格的に話を進めるには何か一つ突破口になるような具体案が必要なのだ。


「それでなんか案はないか?それがないとどうにもできないんだけど・・・」


「・・・ライリーベルよ、こいつは考えを変えるという事はしないのか?」


「しないわね。あんたと戦わないって選択肢をとった時点でこいつはこういう風に考えるわよ・・・」


「依頼をあきらめるという選択肢もあるだろうに」


「それをしたら後々厄介なことになると思うけどね・・・こいつにもいろいろあるのよ」


康太が依頼をあきらめることができないのは康太自身の立場の問題もある。今回康太はある程度自分自身の脅威度を下げ、同時にある程度利用できるのではないかという風に思わせることが必要なのだ。


現段階で依頼をあきらめようものなら特に作戦に何の貢献もしていないために脅威度は下がるかもしれないが利用する価値もないと思われ最終的に排除対象にいれられる可能性もある。


脅威度が高すぎても危険視されて排除の可能性が高まる。逆に低すぎれば排除しても問題なし、あるいは利用する価値無しとして排除される可能性が高まる。


適度な脅威度と利点を残した状態で依頼を終えなければ今後の魔術師人生が大変なことになってしまうのだ。具体的には毎日命を狙われることだってあり得る。


おはようからおやすみまで命の危険を感じるような生活は康太はごめんだ。なるべく近づきたくない、関わりたくないと思われる程度の印象を持っておいてほしいのである。


「・・・はぁ・・・仕方あるまい・・・お前にあったのが運の尽きという事か」


「おいおい酷いな。運がいいと思ってくれよ。上手くいけば余計な戦闘無しで済むんだからさ」


「その結果逆に立場を危うくするかもしれんぞ・・・?まぁいい・・・そう言う事を考えるのであれば本部の連中が私を疎ましく思うその理由と、どうなることで奴らのいう『無力化した』ということになるのかを確認する必要があるの」


「あー・・・なんか理由としては今はまだ特に表立って活動はしてないけどこれからそう言う事をするかもしれないから危ない。だから可能な限り早く無力化しておきたいんだとさ。一般人とかに魔術の存在が露見する云々ともいってたけど」


「それはあくまで建前でしかない。依頼を出す以上ある程度の大義名分が必要なのだ。しかもそれが本部の上層部となればなおさらの事。魔術師全体の事を考えて依頼を出すためには私がもつ危険性を挙げる以外にない。私が知りたいのは連中の本音だ」


本部そのもの、上層部として依頼を出すには他の魔術師たちの目もあるためにある程度建前、大義名分というものが必要になってくる。


誰が気に入らないから倒してこいなんて依頼を本部長や本部の幹部たちが出せるはずがない。そんなことになったらそれこそ魔術協会の本部は上層部にこびへつらう者たちばかりになってしまう。


だからこそ本部の人間達はあのような理由をつけたのだ。だが今回康太が考えているような解決を望むのなら建前だけではいけない。いくつか相手がなぜアリスを排除したいのかその理由は想像がつくが、相手が本当に望むことを叶えなければ今回の依頼は完遂できないだろう。


「じゃあ、本部の連中に話を聞きに行くか・・・都合よく向こうは目標を見失ってるみたいだし、話をするだけの猶予はあるだろ」


「・・・それはいいが、私はどうする?まさか一緒に連れていくとは言うまいな?」


「それはさすがにな・・・ベル、トゥトゥ、アリスのことを頼めるか?俺と姉さんは本部に行っていろいろ話してくる。そっちはホテルで待機しててくれ」


「・・・はぁ・・・一度言い出したら聞かないもんね・・・わかったわよそれでいいわ。アリス、一応言っておくけど見つからないようにしておいてよね?」


「問題はない。だがいいのか?私は今回の標的なのだろう?」


「一度言い出したら聞かないしね。それにこいつについていくって決めちゃったし。トゥトゥもいいでしょ?」


「厄介なやつと戦わなくて済むならそれでいいよ。それに今日はもう疲れた・・・ゆっくりしたい」


戦闘にあまり慣れていないトゥトゥとしては先程の小競り合いでもかなり消耗したのだろう、その体で疲れていることを全力で表現している。


きっと仮面の下では疲労困憊と言った表情をしているだろう。


「そう言うあんたはいいの?こいつのこんな無茶に付き合う必要はないんじゃない?さっさと逃げちゃえばそれでいいでしょうに」


「・・・まぁそうなのだがな・・・こちらにもいろいろあるのだ。こうして巡り合えた縁もある・・・少しだけ行く末を見届けてもいいだろうと・・・そう思っての」


アリスの言葉の意味を文はよく理解できなかったが、とりあえず暴れるつもりも逃げるつもりもないのだということを知って安心する。


康太がアリスにここまで言わせるだけの何かをしたのかそれが少しだけ気になるところだが。


誤字報告十件分、評価者人数が185人突破したので四回分投稿


要望があったのでアリスのセリフ中の英文の訳がある文章を活動報告に上げておきました。


これからもお楽しみいただければ幸いです

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