合流とその考え
「・・・そろそろか・・・コータ、この真上がさっき言っていた倉庫だと思うぞ」
「マジでか。それじゃここから上がるか」
実際どうやって上るのかは考えていなかったがとりあえず康太は準備運動を始めていた。必要ならアリスを抱えてそのまま上まで再現の魔術で駆け抜けようと思っていたのだがその必要もなく、アリスが指を鳴らすとゆっくりと地面が上へとせりあがっていくのがわかる。
土の魔術による疑似的なエレベーターのようなものだ。よくよく考えればこの地下空洞もアリスの魔術によってできたものだ。この空間はアリスの思うが儘という事だろう。
「それで、仲間と合流したらコータはどうするのだ?また封印指定二十八号に接近しようとするのかの?」
「んー・・・状況によりけりだな・・・さっきの接近で向こうにも警戒された可能性あるし、あとは仲間の状況も確認したいからちょっと保留。相談して決める感じだな。あとは本部の戦力の確認もしておきたい。消耗戦狙ってるのにその戦力がないんじゃ話にならないからな」
康太は今回消耗戦をより有効にするためにここにやってきたのだ。仮に康太がDの慟哭をかけることができたとしてもその状態で戦線を維持できるだけの戦力が残されていなければ無駄な行為である。
そんな状況になっているにもかかわらず危険を冒して接近する必要はない。だからこそ戦力の確認は必要不可欠だった。
「つまり戦力があるなら接近も辞さないと」
「一応そうしなきゃ後で本部連中から何言われるかわかったもんじゃないからな・・・あとは仲間と相談して決めるよ・・・アリスはどうするんだ?そう言えばお前だけ連れてきちゃったけど一緒にいた部隊とかは?」
「・・・生憎と私は急にこっちに連れてこられたからな。どこの部隊にも所属はしていない」
「マジか・・・単騎でよくあそこまで切り込めたな・・・いや転移であの場所に連れて来たって言ってたし・・・最初から配属がそこだったのか・・・どっちにしろ運がないな」
「・・・あぁ、本当に運がない。だがそうでもない。こうしてコータと遭遇できたのは僥倖だったぞ」
アリスからすればほんのわずかではあるとはいえ実際に話し、その人となりを少しではあるが見ている。
康太は信頼できるかもしれないという考えを彼女は抱いているのだ。他に連れてこられる人材がいない状況ではこれはありがたいことだっただろう。
特にアリスの境遇からすれば、康太の存在は非常にありがたく、また頼りがいのあるものだった。
「ふふん、頼りにしてくれていいんだぞ?これでもそれなりに死線はくぐってきてるからな」
「ほう、ならそれなりに頼りにさせてもらうからの」
頼りにされるという事があまりないために康太としては誰かに頼られるというのは気恥ずかしくもあり嬉しくもある。
いくら優秀な魔術師とはいえアリスはまだ幼い。誰かを頼りたくなるというのも仕方のない話だろう。
逆に言えば康太はこんな幼い少女にも魔術の腕では負けているのだ。そう言う意味では少しだけ情けなくもある。
「そろそろ上に出るぞ。準備をしておけ」
「了解。さてあいつらはいるかな?」
地下に潜ってからどれくらいの時間が経っただろうか。この場所にいてくれればいいのだがと願いながら康太は仮面をつけてアリスと一緒に地上へと姿を現す。
とりあえずこの辺りは攻撃の対象になっていないことを確認してからうち捨てられていた廃倉庫に近づいていく。
とりあえず人の声は聞こえてこない。さてどうしたものかと考え、とりあえず中に入って待つことにしアリスを伴って倉庫の中に入る。
埃っぽさは変わらないがやはりこの場にはまだ誰もいない。恐らく今頃文や倉敷と真理が合流している頃だろうかと考えながら康太は倉庫の中にある適当な廃材の上に腰掛ける。
「ふぅ・・・とりあえず戻ってこられたか・・・さてこっからどうするかな・・・?」
「何か連絡手段は?本部とてそのくらい用意しているだろう?」
「あるにはあるんだけど・・・それは通訳さんに渡してあるんだよ・・・こっちの連中全員英語ばっかりだから通話できても言葉が理解できないんだ」
「・・・よくもまぁそんな状況で単騎で行動しようと思ったものだの・・・豪胆というか向こう見ずというか・・・」
「ふふ・・・そんなに褒めるなよ」
「褒めているつもりはないのだがの・・・」
アリスは呆れた表情をしながらも康太と同じように近くの廃材に腰掛けて小さくため息を吐く。
康太と同じようにこれからどうしようか考えているのだろう。実際は康太とアリスでは考えていることは全く違うのだが、そのあたりは康太にはわかりようがない。
康太としては依頼をどのような形でこなすかを考え、アリスはこの状況をどのように利用するかを考えていた。
良くも悪くも状況は変化している。思わぬ変化でありこれはもしかしたらよい変化かも知れないし悪い変化かも知れない。アリスからすれば騙しているようで気が引けるが、康太なら理解し、なおかつ何とかしてくれるのではないかという期待感がある。
康太に頼るなど何とも妙な気分だなとアリスは自嘲しながら薄く笑みを浮かべていると外から誰かがやってくるのに気が付く。どうやら康太も気が付いたようで僅かに警戒しながらも外に意識を向けていた。
「ビー?いる?」
聞きなれた日本語の声を響かせながら倉庫の扉を開けて入ってきたのは文だった。
康太が安堵の息を吐くと同時にアリスは開いてくる扉を注視した。そこにいたのは仮面をつけ魔術師のローブを身に着けた少女文と不完全な仮面をつけた精霊術師倉敷、そして通訳の魔術師だった。
「よかった、やっぱりここに来てたわね」
「こっちの台詞だ。やっぱりここにやってきてたな」
互いに互いが取るであろう行動を読んだうえでこの場に集まったのだろう。康太と文は軽くハイタッチすると同時に安心したようで先程とは違う声音で話していた。
「ベックは?それに他の魔術師とか」
「ベックは外にいるわ。ちょっと予定が狂ったらしくて他の魔術師たちと一緒に打ち合わせしてるのよ」
「予定が狂った・・・って具体的には?」
「目標を見失ったらしいわ。索敵班が懸命に探しているらしいけどそれらしい人物が見当たらないのよ・・・索敵範囲を広げて街の方まで行ってるらしいんだけど・・・」
なんでも康太とアリスが地下に潜ってから目標の反応が消失し完全に見失ってしまったのだとか。
森の中を徹底的に索敵したが姿は見られず。その為索敵範囲を森以外の方に広げることで目標を探そうとしているのだがどうにも見つからないらしい。
「妙なことになってきたな・・・ひょっとしてあの場にいたのって偽物とかそう言う感じか?コピーロボット的な」
「そんな珍妙な魔術あったかしら・・・?ていうかさっきから気になってたけどこの子は?まさか一般人巻き込んだんじゃ・・・ってわけでもなさそうね」
仮面を身に着けていないことから一瞬一般人ではないかと思ったらしいが、すぐに魔力を感知してアリスが魔術師であるという事を察した文はほんのわずかにアリスに警戒の目を、そして康太に疑念の目を向ける。無理もないだろう、はぐれたはずの康太が見知らぬ少女といるのだ。
もしどこかからか少女を攫ってきたのであれば康太に対する信用は地に落ちるだろう。そんなことはないとわかっていてもその可能性は否定しきれないだけに複雑な心境である。
「あぁ、こいつはアリス。さっき戦ってる時に一緒になってな・・・昨日会ってちょっと話してたんだよ。なんでもほぼ単騎で森の中に放り込まれたらしくてな・・・攻撃されてるところを助けたんだ」
その必要もなかったかもしれないけどなと康太は苦笑している。康太がアリスに対して全く警戒していないことから文もアリスに対する警戒を解き目の前にいる小さな少女に話しかけるべく身を屈めて視線を低くする。
「うちのバカが世話になったみたいね。初めまして、私はライリーベル・・・えっと・・・ビー、この子日本語分かるの?」
「問題ない。君がコータが言っていたライリーベルか・・・なるほど、確かに優秀な魔術師のようだの」
康太への問いを代わりにアリスが答え文にその小さな手を差し出す。握手であるという事はすぐに理解した文はその手を取って優しく握る。
「いったいどんなこと言ってたのか気になるけど・・・まぁいいわ。こいつの名前はブライトビーっていうの、これからそう呼んでやってね・・・アリス・・・っていうのは本名?それとも術師名?」
「本名の愛称だ。本名よりもこちらの方が気に入っているからの。こちらを名乗らせてもらっている」
ふうんと文が感心する中扉が勢いよく開く。そこには息を切らせて倉庫の中に入ってくる真理の姿があった。
「ビー!無事ですか!?」
「姉さん、無事でしたか」
「あぁ・・・よかった。怪我はなさそうですね・・・心配させて・・・」
「すいません、ちょっと野暮用が・・・」
恐らくここまで全力疾走してきたのだろう、康太の姿を見て安堵しているが未だに肩を上下させながら息をしている。
かなり心配させてしまったのだなと康太は反省していると真理は文と握手しているアリスの事に気が付いた。
「この子は・・・?ベルさんのお知り合いですか?」
「あ、いえ・・・ビー、説明」
「はいはい・・・えっと、さっきの森での戦闘中に見つけたんです。一人で戦ってて攻撃されそうになってるところを助けたんですけど・・・」
「そのあと私の魔術で地下に潜ったのだ。君がブライトビーの兄弟子か・・・なるほど、聞いていた通り兄弟弟子想いのようだの」
「おや、日本語お上手ですね。なるほどビーがお世話になってしまったようです」
「・・・あれ?俺が助けたって話なのになんか変な流れですね」
「ビーがあの戦場の中央から抜け出せるはず有りませんから・・・恐らくあなたが何とかしたのでしょう・・・初めまして、私はビーの兄弟子のジョア・T・アモンと申します」
「初めまして、アリスだ。こいつには少し世話になった」
「いらないお世話でなければよかったのですが」
「こちらとしては助かった。君はいい兄弟弟子を持ったな」
そう言いながらアリスと真理は互いに握手していた。恐らく仮面の下では笑顔を作っているだろう。
微笑ましい光景に康太は自然とほおが緩んでいた。
「それで?結局目標には接触できたわけ?」
「いや・・・それがその・・・野暮用ができたから接触できなくて・・・」
「・・・なるほど、あんたが仕事を終えたから逃げたってわけじゃないのか・・・あるいはその気配を感じたか・・・どっちにしろそう簡単には行かなくなったってわけね」
康太がもしDの慟哭を目標にかけてから逃げたのであれば相手が脅威に思ってその場から離脱したという論法が立つのだが、康太は目的を達成することができなかった。
他の魔術師の攻撃が特に脅威に感じられたという事もないだろうしなぜあの場から逃げたのか説明ができない。
ただ単に面倒になったから逃げたと言われても何の不思議もないのだが、そのあたりは康太たちにはわかりようがない。
「そう言えばそっちの負傷者はうまく離脱できたのか?結構危なかったっぽいけど」
「あぁ、それなら問題ないわ。みんな無事に戦闘区域外に運び終えた・・・って言っても二人が走ってって一分かそこらで攻撃がやんだから・・・たぶんそのタイミングでいなくなったんでしょうね・・・」
「なんというかタイミングがいいんだか悪いんだか・・・向こうからすれば消耗戦は慣れてるんだからもっとアクティブに攻撃してくるかと思ってたのに・・・」
「そうなのよ、あのタイミングで逃げる意味が分からなくてね・・・索敵して位置を確認し続けてた魔術師もいきなり索敵できなくなったとか言って喚いてたし・・・」
逃げることに専念していたせいで文は索敵の魔術を解除していたのだろう。防御に徹していたという事もあり目標の詳細な情報はほぼ誰も有していないことになる。
「でも俺らが地面の中に落ち・・・一時退却するギリギリまで攻撃は続いてたぞ?どうやって逃げたんだ?」
「それがわかれば苦労しないわよ・・・ちなみに攻撃って私たちが一緒にいた時まで受けてた感じの奴?」
「そうそうそんな感じの。真上から降り注ぐみたいにこうバンバンと」
降り注ぐ感じねぇと文は何やら考えるように悩み始める。
そんな中真理はアリスとの話に夢中になっていた。どうやら話が合うのだろうか妙に盛り上がっている。
魔術の話なのかただのガールズトークなのかはわからないが、この場が妙に華やかになっている。
姦しいというと言い方が悪いかもしれないが、こういう状況のことを表現するには適切な表現かもわからない。
「で、あんたらは索敵されないように、攻撃されないように地下に潜ってここまで来たと」
「そう言う事。いやはやなかなか大変だったぞ?」
「って言ってもあんたはどうせ何もしてないでしょ。土属性の魔術なんて使えないだろうし・・・ってことはアリスが何とかしたのか・・・」
「何もかもお見通しか・・・さすがは我が相棒・・・アリスってすごいんだぞ?お前ができなかった光の変装とかバッチリできるんだ。あの歳ですごいよな」
「はいはい、あんたは別のところで活躍してよね相棒・・・ん・・・?」
康太の話を聞いて何か思いついたのか、それとも何か悩んでいるのか文は口元に手を当てて何か考え始める。
それは可能性でしかなかった。単なる思い付きでしかないような事だ。だが文の中で仮定していくことがどんどん辻褄があっていく。
僅かに冷や汗を浮かべる文は、康太に一つ疑問を投げかけた。
「ねえビー、その光の変装ってさ・・・ひょっとして見る方向によって見え方が違うとかそう言うの?」
「よくわかったな・・・ていうか何でお前そんなことまでわかるんだよ・・・実はエスパーとかか?」
「私は魔術師よ・・・あぁもう・・・最悪だわ・・・ちょっと通訳さん、お願いがあるんですけど」
そう言うと文は通訳と何やら話して一時的にこの場から退室してもらう。どうやら何やら頼みごとをしたようだ。何か物資の補給でも頼んだのだろうかと康太と倉敷が疑問符を浮かべていると文は康太の方を見て大きくため息を吐く。
「ビー・・・あんたこの子に昨日会ったって言ってたわよね?その時もこの姿だった?」
「あぁそうだよ?何で?」
「・・・じゃあ別の質問。森であった時もこの姿?」
「あぁ。それがどうかしたのか?」
「この子から攻撃はされた?」
「いいや?まったく・・・いろいろ話はしたけど一度も攻撃なんてされてないぞ?」
康太が気付いていないだけでいつの間にか魔術をかけられた可能性はあるが少なくともアリスは康太に疑いの目を向けたことはあっても敵意を向けたことはない。
康太の敵意や殺意に関する感覚は敏感だ。目の前にいる人間から発せられる敵意や悪意を逃すほど康太は鈍感ではない。
「そう・・・まだ状況はましってところかしら・・・トゥトゥ、あんたは誰もこの部屋に入らないように警戒しておきなさい」
文はそう言って話をしているアリスと真理の所に向かう。一体何をするのだろうかと疑問視していると真理は疑問符を飛ばし、アリスは何かを察した様で残念そうな、それでいて諦めたような少し複雑な表情をする。
「私の考えが間違ってたらごめんなさい。もしかしたら勘違いかも知れないし」
「・・・構わない。言ってみるといい。恐らくそれは当たっている」
「・・・そう・・・じゃあ教えてくれるかしら?こんなところでこんな風に過ごして・・・なんのつもりなの?アリシア・メリノス」
文の言葉にその場にいた全員が一瞬思考を停止させていた。
康太は目を丸くし、真理は文の言葉からこれまでの情報を整理して文と同様の答えに行きつき、倉敷は口を開けたまま放心してしまっている。
「・・・何言ってんだベル。冗談・・・ってわけでもなさそうだけど・・・」
「普段のあんたなら気付いてもよさそうなもんだけどね・・・また感情が引っ張られたりしてるのかしら?随分とこの子の事信頼してるみたいだけど」
「いや信頼っていうか・・・俺こいつが攻撃されてるの見たんだぞ?俺らがやられてた攻撃にさ・・・」
康太がそう反論している中、真理はゆっくりと康太とアリスの間に体を割り込ませる。何があっても対応できるように構えていることだけはわかる。
だが信じられないという気持ちと信じなければならないという気持ちが同居しているようでかなり動揺しているのが見て取れた。
康太の言い分は正しい。自分達めがけて襲い掛かってきたあの魔術による遠距離射撃攻撃。かなり距離が離れているにもかかわらず正確に自分たちを狙ってきたあの攻撃はかなり高い練度でしか扱えない。
流れ弾というには正確過ぎるあの攻撃を別の第三者が康太達めがけて放ったとは考えにくい。仮に康太を亡き者にしようとしている協会本部の人間がいるとしても、その攻撃がアリスにも向けられているとは考えにくい。
仮にアリスが文のいうようにアリシア・メリノスだったとしても、康太とアリシア・メリノスを同時に片付けようとすることができる程本部の魔術師は事態を重く見ていない。
少なくともまだ本部は康太を利用できるかできないかの判断をしかねている状況だ。そんな状況で先走るようなものがいるとは考えにくいしそれだけの実力を持っているものなら本部の上層部が目を付けて特に警戒していそうなものだ。
だが康太の言葉に対して文は冷静だった。
「答えは単純よ。私達を攻撃していたあの魔術はこの子の魔術じゃないってことよ」
「・・・?それならこいつはアリシア・メリノスじゃないんじゃないのか?」
「・・・順番に説明していこうかしら・・・私たちを襲ったあの魔術、いくつもの属性や種類のものがあったわよね?」
「あぁ・・・しかも結構威力があったし、あの木がたくさんある中を縫って襲ってきたから・・・あれが目標からの攻撃だってお前も思っただろ?」
周囲に木という障害物が大量にある中で意思を持って襲ってくるかのようにいくつもの魔術が木々を縫って襲来してきた。
単なる射撃系の魔術ではない、精密な操作を行った遠距離用の狙撃魔術であるとあの時文たちは考えた。
だが先ほどの康太の言葉を聞いて文は別の可能性を考えたのだ。
「ビー、あんたさっきアリスを攻撃してきてる魔術は真上から襲い掛かってきたって言ってたわよね?」
「あぁ・・・上から叩き付けて来たな」
「なんで木々を縫うだけの精密な操作ができるのに真上から攻撃してきたのかしら?事実私達の時はそうやって攻撃してきてたのに」
康太はその時ようやく自分たちに向けられた攻撃とアリスに向けられた攻撃の違いについて認識し、理解していた。
乱雑に存在する木々を縫う形で目標に攻撃を当てるには正確な操作とどこに木が存在するかを把握できるだけの感知魔術が必要になる。広範囲にわたって索敵できる魔術と、同時に長距離にわたって操作できる射撃系の魔術、そしてそれを正確に扱うだけの練度が必要になってくるためこの条件を満たすのはかなり高位の魔術師でなければ不可能だ。
対して木々を乗り越え空中から落下させるように魔術を命中させるのはそこまで難しくはない。
目標の位置さえ分かってしまえばその座標めがけて魔術を落すだけでいいのだ。複雑な操作はいらず、最短で一回か二回ほど曲げることができれば簡単に攻撃できてしまう。
感知系の魔術と多少曲げられる魔術があればよく、なおかつそこまで高い練度が必要ない。これならその気になれば文や真理にだって可能な方法だ。
「つまり、彼女は自分に向けられた魔術を何らかの魔術で曲げて、受け流す形で流用したのよ。自分が魔術を使うより、他の魔術師が飛ばしてきた魔術にほんの少し力を注いでその向きを変えれば・・・いくつもの属性や性質の魔術を意のままに操れる」
多対一で戦ってきた魔術師の知恵ねと言いながら文は一瞬たりともアリスから視線を移さない。
何があっても対応できるように彼女は構えているのだ。目の前にいる幼い少女が目標であり封印指定二十八号の可能性が濃厚である以上、ここでこの話題を出した時点で危険になることは必至だ。
当たり前かもしれないが、複数の魔術を同時に発動する場合、その数が少ない程消耗は少なくなる。
仮に多くの魔術師から一度に攻撃され、それを一つ一つ防ぐと同時に反撃の魔術を発動するのと、多くの魔術から一度に攻撃されたその大量の魔術を受け流して他の魔術師たちへの攻撃のために利用するの、どちらが消耗が少ないかと言われれば圧倒的に後者である。
防御と反撃、最低でも二つの魔術を必要とする前者に対し、後者は最低でも受け流すための魔術を発動すればいいだけだ。
しかも相手の魔術を流用しているのだから自分の手の内はほとんど見せずに済む。今回の様に遮蔽物が多く、何より距離が開いている状況では最適とも思える対応だ。
労力的にも効率的にも後者の方が圧倒的に大多数を相手にするには効果的な対応であるのは間違いない。
自分の消耗は限りなく少なく、同時に相手の損害は限りなく多くする。大多数との戦いになれている考え方だ。
日曜日+ブックマーク件数1800突破、累計pv3,000,000突破で4回分投稿
まとめて予約投稿してるとこういう風に反応が遅れてしまうのが申し訳ないですね
これからもお楽しみいただければ幸いです




