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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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その少女と康太の縁

「コータ、今がどういう状況かお前は把握しておるのか?」


「ある程度だけどな・・・本部からまともに情報が下りてこないからそこまで状況を知ってるわけじゃないけど・・・」


「そもそも根本的な疑問だ。なぜ日本の魔術師であるお前がこんな所に?本部はそこまで人手不足じゃなかったと思うがの」


「それもいろいろ事情があるんだよ・・・まぁ半ば無理矢理に依頼を受けさせられただけなんだけどさ・・・」


康太がため息を吐きながら項垂れるとアリスは康太の状況を大まかにではあるが察したのだろう。康太がなぜ慣れないイギリスの地にやってきているのか、そしてこんな所にいるのか、そして本人自身からあまりやる気が感じられないことから少しだけ同情の視線を送っていた。


「なるほど・・・本部の人間に強要された・・・という事か」


「まぁそのひとつ前の段階で依頼を受けたからある程度条件出して危険のないようにしたけどさ・・・今回の相手・・・封印指定の・・・えっと何号だったか・・・」


「二十八号だな」


「そうそれ・・・なんか俺の持ってる魔術がその二十八号に有効かもしれないってことで白羽の矢が立って・・・今こうしてるわけ・・・」


康太の言葉にアリスが一瞬眉を顰める。何を思ったのかはわからないが康太はアリスにも本部からいろいろ情報が下りていないのだなとそう感じ取っていた。


「ちなみにその魔術とは?まさか即死させられるような魔術の類か?」


「そんな魔術覚えてるわけないだろ・・・俺が覚えてるのは・・・あー・・・まぁ別に教えてもいいか・・・前に俺が関わったことがある封印指定百七十二号って知ってるだろ?それなんだよ」


康太が、というより日本支部の魔術師ブライトビーが封印指定百七十二号の暴走を止めたというのは魔術協会の中では割と有名な話になっている。その身に宿しているというのを知っているのは限られているが、アリスにであれば話してもいいと思えていた。


ブライトビーの名前を知らないものは今や魔術協会の中では少数派であると言えるほどにその名が売れてしまっている。


もっとも名が売れても実力が伴わないのであまり意味がない上に危険が増しただけなのだ。


そう言う事情もあって別にこの場でアリスにこの事を話しても康太にとっては何のデメリットもない。


「・・・ほう・・・あれを何とかする奴がいたとは・・・」


「なんだ、知らなかったのか?」


「最近は魔術協会にもめっきり顔を出していなかったからの・・・そうか・・・あれを止めたのか・・・」


「止めたっていうより・・・まぁ説明が面倒だから省くけど、とりあえずある程度の制御下にはおいたんだ。本部はそれ目当てってわけ・・・本当にいい迷惑だよ」


康太が吐き捨てるようにそう言うとアリスは少し考えてから康太の方を見上げる。


「では、コータは乗り気ではないという事か?」


「当たり前だろ。誰が好き好んで危ない目に遭おうとするんだよ・・・しかも今回の二十八号って嘘かホントか知らないけど協会設立メンバーだったんだろ?貢献したとかもいろいろ書いてあったし・・・何で無力化しなきゃいけないのかもわからないっての」


本部の人間、特に上層部の思惑としては自分達が本部の運営をしているというのに圧倒的に上の立場の人間が本部の中に名前だけとはいえ身を置いているというのが気に食わないというのは理解できる。


実際あれだけの魔術を連発できるような人間が自分の近くにいたら恐ろしいと思うのが人の性というものだ。


実際に攻撃を受けた康太からするとあれは正直異常だ。威力こそ普通の魔術師のそれより少し強いくらいかもしれないが、あれほどの距離でも正確に攻撃を当ててきて、なおかつ複数属性の魔術をほぼ同時と思えるほどの速度で連発している。


魔術師として過ごした時間の短い康太でもあれがただの一流とは一線を画していることくらいはわかる。本部の上位陣が脅威に感じ、可能なら排除したいと考えるのも無理はないだろう。


だがだからと言って本当にそれをやるメリットが感じられないのだ。


実際に協会に害を与えているというのであればまだ理解できた。だが封印指定二十八号ことアリシア・メリノスは別に協会に害を与えているわけではない。むしろ協会に大きく貢献した人間だ。


確かに長年生きているという事もあって人間ではないかもしれないし化物かもしれないし牙をむくかもしれないがだからと言って問答無用で攻撃を仕掛けるというのは少々筋が通らないように思えてしまう。


だから康太は今回の作戦、あまり気のりしていない。もちろん身を守るため、そして依頼を受けてしまった以上全力を尽くすつもりではあるが、どうにも気合がのらないのも事実である。


「むしろ貢献したからこそ疎まれているのかもしれんの・・・自分よりも貢献度も実力も何もかも上の者がいれば疎ましく思うのも無理なかろうて・・・出る杭は打たれる・・・だったか?」


「お前ホント日本語よく知ってるな・・・イギリス人とは思えない」


日本語の達者さに驚いている康太だが、アリスが少し寂しそうな、どこか悲しそうな表情をしていたのに気付いてしまう。


一体何が原因でそんな表情をしているのか康太には理解できなかった。だが彼女がこんな顔をしているのは正直あまり良い気はしない。


何か別な話題を振って話を逸らせようと康太はとりあえず今感じていることや疑問点を上げていくことにした。


「そう言えばアリスは何で仮面つけてないんだ?魔術師なら素性を隠すのが当たり前だろ?」


「ん・・・私はあまりあれが好きではなくての・・・一時期つけるように強く言われたのだが・・・」


「でも一般人に知られるとまずいし・・・何より普通の生活の時も他の魔術師に察知されちゃうんじゃないのか?」


康太たち魔術師が仮面をつけて素性を隠すのには二つ意味がある。一つは一般人に素顔を知られないこと。そしてもう一つは魔術師に自分の素性を知られないようにすることだ。


一般人には仮面をつけている状態すら見られてはいけないものなのだがそのあたりは暗示や記憶消去の魔術でどうにでもなる。どうにもならない状況も存在するが素顔を隠すという意味ではこの両者は共通している。


魔術師に顔を見せないようにするのは日常生活においても魔術師であるという事を他者に知られないようにするためだ。


もし魔術師が日常において他の魔術師にその存在を知られたらどうなるか。身内や知人を人質にとられ何かしらの要求をされるようなことだってあり得るのだ。


調べようとすればやりようによっては調べられるような事柄であるとはいえ、隠すという行動は必要なのである。


「私は昔から仮面をつけていなかったからの・・・今さらというものなのだ。それに私は顔を見られて困るという事もないのでの」


そう言ってアリスはため息を吐きながら自分の顔を変化させていく。アリスの顔はやがて康太の顔に瓜二つになっていた。


それは昔康太が見たことのある、文も使っていた光属性の魔術だった。


顔や姿を光属性の魔術を使う事で偽装する所謂変装の魔術だ。文のそれとは違いかなり高い練度で行えるらしく傍から見れば同じ人間が二人いるようにしか見えないかもしれない。最も今アリスは顔しか変えていないために身長差が浮き彫りになってしまっているがそのあたりは見逃すべきだろう。


「すごいな、そんなことできるのか・・・ってことはさっきまでの顔も偽物なのか?」


「いいや、私は私生活では先程の姿・・・つまり私の本当の姿になっておる。もっとも誰かに見られている時や見張られている時などはそいつに見えるように姿を変化させるがの」


そう言ってアリスは康太の真正面に立ちながらゆっくりとその場で回って見せる。するとどうだろうか、角度によってアリスの顔や髪、目の色まで変化していくではないか。


角度によって見えるものを変える。ここまでの精度で行える変装というものがあるのかと康太は感心してしまっていた。


カードや食玩で似たようなものがあったなと感動している中、康太はここでふと疑問を浮かべる。


これだけの練度で光の魔術を使えるのであれば何故怪しいと思っていた自分と会うのに変装の魔術を使わなかったのだろうかと。


「なぁアリス。俺と最初にあった時なんでその魔術使ってなかったんだ?怪しいと思ってたなら使えばよかったのに」


「ふむ・・・あの時はお前がどんな奴かわからんかったからの。ある程度油断させるためにはこちらの方がいいと思ったのだ」


事実コータは幼い姿の私を見てすっかり油断したしのと付け足しながらアリスは笑って見せる。


確かにアリスのいう通り、康太は幼い少女の姿のアリスを見てかなり油断した。もっともあの酷い精神状態の時ではどんな人物が声をかけて来ても油断したと思うが、アリスはそのあたりを理解していないようだった。


「まぁ確かにいきなり子供が話しかけてきたら驚くだろうけど・・・っていうかアリス凄いよな、その歳でそれだけ魔術使えるんだから」


「そう褒めるな。褒めても何も出ないぞ」


「いや俺からすりゃ羨ましい限りだよ・・・少しずつ魔術の数は増えてるとはいえまだまだ未熟者だしさ・・・」


未熟者という言葉に反応したのかアリスは康太の姿を見て眉を顰める。そして小さく首を傾げた。


「あの攻撃を避け、ほぼ無傷で駆け抜けてきたものが未熟者とは思えんの。少なくとも相当な訓練は積んでいるように見えるぞ?」


「あれはまぁ・・・うちの師匠の方針というか・・・とにかく相手に近づくってのを目安にしてただけだよ・・・ただの射撃系の攻撃なら避けるのはそこまで難しくないしな」


康太の理屈は間違っているようで間違ってはいない。実際遠くから飛んでくる単調な射撃系の攻撃であれば大抵の魔術師は回避することができるだろう。仮に何らかの理由があって回避できなくとも防御くらいはできる。


だが先ほどの攻撃に関しては違う。一撃一撃がかなりの威力を持っており防御はそれなり以上の精度を持たなければ難しく、なおかつこちらをはっきりと狙ってきている動きだった。


それを避けようとすれば当然ギリギリまで引き寄せてから回避しなければいけない。そんな行為を易々とやってのける康太が異質の存在であるという事も、それがどれだけ難しいかもアリスはよく理解していた。


「あまり謙遜しすぎるな。封印指定をすでに一度解決に導いているのであればコータの実力はもはや未熟という枠には収められんだろう。もう少し自分の力を自覚することだの」


「持ち上げてくれるのは嬉しいんだけどさ・・・実際未熟者なんだよ・・・この前暗示がまともにできるようになったんだぞ?」


「・・・向き不向きというものもある。というかそう言う事を他の魔術師に教えるな。そのくらい常識だろうが」


「俺の仲間にもよく言われるけどなそれ・・・常識って言われてもまだ魔術師になって一年も経ってないんだぞ?そんなの分かるかっての」


その発言にアリスは目を丸くしながら信じられないといった表情をしながら康太の方を見ている。


アリスのそんな様子を気にした様子もなく康太は上の様子を気にかけ始めていた。


アリスと合流してすでにだいぶ経過している。上の様子がどうなっているのか若干心配になったのだ。

アリスの魔術で地下深くに潜って事なきを得ているが、恐らく上ではまだ激しい攻撃が続いているだろう。

真理は無事だろうか、文たちは負傷者を連れて後退することができただろうか。そんなことを考えながら康太は上の方に視線を向けていた。


「なぁアリス、そろそろ地上に上がらないか?さすがにこの状態じゃ何も変わらないし・・・」


「・・・構わんが、また攻撃にさらされると思うがの」


「いや、直接上に上がるんじゃなくてちょっと迂回しよう。他の連中とも合流したいからさ・・・これだけでかい穴をあけられるなら道も作れるだろ?」


できなくはないがと言いながらアリスは先程まで縦に長く開いていた穴を作り替えていき横に長く続く穴へと変えていく。


「よっしゃ。とりあえず行くか。戦線を一時的に離脱することになるけど背に腹は代えられないからな」


「・・・私のことを無視していればこんなことにはならなかったのではないのか?」


「無視できるかよ。助けてもらった恩があるのに助けないってのはちょっとな・・・」


別に着飾るつもりもなく本心からの言葉だった。より正確にあの状況を説明するなら本心からというより勝手に体が動いたからそうしたとしか言いようがない。今にして思えば恩がある相手を助けることができたのだからあながち間違った行動であるとも思っていないし後悔もしていない。むしろ助けられてよかったとさえ思っている。


そう言う意味では本心であるということに変わりはないだろう。


そして康太が嘘を言っておらず、本心から先程の言葉を言っているという事を察したのだろう。アリスは少しだけ安堵したような、それでいて少し困ったような表情をしてため息を吐く。


「それで?コータが一緒に来た仲間というのはどこにいるのだ?」


「あー・・・せめて携帯が使えればまだ連絡できたんだけど・・・俺の携帯海外じゃ使えないんだよ・・・一応大体の配置はわかってるつもりだけど」


「ふむ・・・具体的には?」


「姉さん・・・俺の兄弟子はたぶん目標の近くの部隊に合流してるはずだ。言葉が通じなくて四苦八苦してるかもしれないけど、俺がいなくなったってことを察して一度戦線を離脱してると思う」


康太と行動を共にした真理の主目的は康太への攻撃を集中させないためのいわば囮だ。回避に専念して突破したため彼女がその後どのようになったのかは康太も把握できていないが恐らく問題なく攻撃を回避できていただろう。


なにせ康太でも回避することができたのだ。兄弟子である真理ができないはずがない。この辺りは確信を持って言える事だった。


そして康太がアリスを救出する際に思いきり方向転換したことを恐らく彼女は察しているだろう。そのことから何かしらのイレギュラーがあったと考えるはずだ。


どのようなことがあったのかはさておき、本来の予定にないことがあり急遽予定を変更せざるを得なくなったのであれば強行手段をとることは難しい状況になったと理解してくれるだろう。


索敵をしても康太が見つけられないという事もあり、何かしらの原因があることは把握しているだろうが康太が死んでいるなどという考えはまず浮かぶことはないだろう。


索敵の種類が少ないならまだしも真理は魔力探知だけではなく物理的な探知も可能なはずだ。森という状況の中でも死体を見つけられないという時点で康太がどこか遠くに行ったと考えるはずである。


となれば危険地帯からの一時的な撤退、恐らくは先に戦線を離脱する予定である文たちとの合流を急ぐはずだ。


状況を説明、そして態勢を整えるためにも一度引いてしっかりと準備してから望むのが定石である。


康太と真理だけ、あるいは小百合のいる状況ならまだしも今回は文と倉敷も一緒に行動しているのだ。あの二人に過剰な負担を強いるわけにはいかないだろう。


常識的に考えて合流する。それも戦線を離脱して両者がわかる合流ポイント。そう考えると考えられる場所はだいぶ限られてくる。


「よし、向かう先が決まったぞ。森外れにある廃倉庫だ」


「そこにその仲間がいると?」


「可能性が一番高い。負傷者担いだ連中がどれだけの速度で移動できてるかはわからないけど、とりあえずその場で待ってたほうがいいと思う」


真理の方はそこまで心配していないのだが文と倉敷の方は少しだけではあるが心配していた。


多くの魔術師を擁するとはいえ同時に負傷者もかなりの数を引き連れているのだ。あの攻撃の中無事に逃れられたかは微妙なところである。


「なるほど、負傷者を逃がすためにあのようなことをしたのか」


「そう言う事・・・本部の方からそういうこと積極的にやってくれればよかったんだけどさ・・・あんまりそう言うの望めなさそうだったから俺らがやったわけ・・・ったく本部の連中やる気があるのかないのか・・・」


半ば強引に連れてこられた康太としては本部の対応の悪さに悪態の一つもつきたくなるというものだ。康太が憤慨している様子を見てアリスは小さく笑みを浮かべていた。


「そう言えばお前の連れはその兄弟子と、あとどんな奴がいるのだ?」


「んー・・・軽く紹介しておくか。どうせ後で会うことになるし。一人目はさっきも言った俺の兄弟子。俺よりずっと優秀で何かと世話を焼いてくれる。すごく頼りになる人だ」


「ずいぶん持ち上げるな。それだけの人物という事かの?」


「もちろん。あの人が信用できないならこの世の中の誰も信じられないと言っても過言じゃないな」


康太にとって真理の信頼度はかなり高い。恐らく今まであってきた魔術師の中で、いや今まであってきた人間の中で一番の信頼度と言ってもいいほどだろう。


それこそ親兄弟に匹敵するかそれ以上の信頼を彼女に対して持っている。


「二人目がライリーベル。俺と対等な同盟を組んでる相手でこいつもかなり信頼できる。ちょっと棘があるけど何気に面倒見がいいし俺よりずっと優秀」


「ふむふむ・・・先程の兄弟子に比べるとやや評価は落ちるがそれでも十分と言ったところかの」


「そうだな。背中を預けられる程度には信頼してる。今のところ身内以外で一番信頼してるかな」


身内というのは康太の家族に加え小百合を含めた師匠と弟子の関係を築いている一連の人種に関してだ。

奏や幸彦も一応その中に含まれている。


「なるほど、こうして異国にやってきている時点である程度信頼できる人間を集めたという事か。他には?」


「今回はあと一人だけだな。トゥトゥって言って前に俺に喧嘩売ってきたからボコボコにした精霊術師だ。契約で一年間俺が面倒に巻き込まれたらその手伝いをすることになってる」


「・・・なんだかそいつだけ紹介がぞんざいではないかの?」


「そんなことない。水属性に関してはスペシャリストみたいで結構いろいろやってくる。性格は・・・いろいろ雑って感じかな」


「お前さんもあまり人のことは言えないと思うがの」


康太自身あまり倉敷と行動を共にしないために彼の性格を把握しきれていないというところがあるが、良くも悪くも男子高校生らしい雑な性格をしている。


アリスのいうように康太自身もあまり人の事は言えないのだがとりあえずの大雑把な紹介はすることができた。


これで実際に会っても困ることはないだろう。


「コータについてきたその三人はコータの手伝いをするためにここに?」


「あぁ、約一名無理矢理だけど快く手伝ってくれることになった。本当ならもう少し戦力が欲しかったんだけどな・・・今回は相手が相手だし・・・」


「・・・封印指定二十八号・・・お前としては倒したいのか?」


「別に?相手にしなくていいならそれに越したことはないな。ていうか本部の一部の人間が目の敵にしてるだけだろ。しかもだいぶ一方的な理由で・・・まぁ今回俺が呼ばれたのはそれだけが理由じゃないんだろうけど・・・」


今回康太が呼ばれたのは何も封印指定二十八号ことアリシア・メリノスを打倒するための駒としてだけではない。


康太がその身に宿すデビットの残滓が安全かどうかを確かめるため、利用できるかどうかを確認するため、そしてあわよくば康太を亡き者にするため等々いろいろな思惑が彼らの中にはあるのだ。


本部の上層部の中でも意見がだいぶ割れているためにとりあえずは利用する方針で康太を使おうという事で今回依頼を持ってきたのだ。


亡き者にするのはいつでもできる。だからとりあえずは利用して始末するかどうかはその後で考えればいい的なスタンスなのだろう。


そのことを大まかに話すとアリスはかなり気の毒そうな表情をしていた。


「なんというか・・・苦労しておるのだの」


「そうなんだよ・・・デビットの奴を引き入れてからいろいろと面倒くさくてな・・・」


「・・・デビット・・・?」


ついデビットの名を出してしまった康太はどう説明しようか困ってしまっていた。


いきなり新しい人物の名前を出したところでアリスはわからないだろう。どう説明すれば分かりやすいだろうかと考えた時、とりあえず封印指定百七十二号の話をすることにした。


「さっきいった封印指定百七十二号の核になってたやつの名前なんだよ。半ば悪霊みたいになっててな・・・そいつが今俺に憑りついてるんだ。だから俺がちょっととはいえあの魔術を行使できるんだ」


「・・・なるほど・・・そうか、そう言う事だったのか」


アリスは何か少し考えてから康太の服の裾を引っ張る。


彼女の姿の小ささも相まってまるで縋るように見えてしまったがその瞳と彼女の言葉がそれらをすべて否定させた。


「コータ、無理を承知で頼む。私をデビットに会わせてくれ」


何やら強い意思と考えを持っているようだった。それが何であるか康太は理解できなかったが何かしら理由があるのは理解できた。


だがだからと言ってそう易々と会わせる程康太にとってデビットの存在は軽くない。


たとえ恩のあるアリスと言ってもそれとこれとは別問題なのだ。


「あー・・・なんていうかその・・・それは遠慮しておきたい・・・あんまり誰かに見せるものでもないし、それにそれを見たからって魔術のことがわかるわけでも」


「魔術の構造などはどうでもいいのだ。私はデビットに会いたい」


魔術の構造ではなく、デビットに会いたいという言葉に康太は違和感を覚えた。まるでデビットを知っているような、そんな感じの言葉だからだ。


「・・・アリス、お前ひょっとして・・・」


「・・・あぁ・・・もうさすがにお前も気づいただろう・・・そう言う事だ」


「・・・そっか・・・お前にも見えてたんだな、あれが」


「・・・ん?」


アリスは何か諦めたような、少し寂しそうな表情をしていたが康太の言葉に疑問符を飛ばしていた。

あれが見えていたと言われてもアリスには何のことだかわからなかったのだ。


康太が言っているあれとは封印指定百七十二号に感染した時に見た死につづける体験の事である。


あれは康太の起源が原因で体感することができたのだが、康太はアリスにも似たような体質があってあの魔術に感染し、なおかつあの状況を見たことがあると勝手に勘違いしたのである。


あれを見ていたからこそデビットという存在に会いたいとそう思っているのではないかと考えたのだ。


普段の康太ならこんな考えはしなかったのかもしれないが、アリスが康太の恩人であるという事と、康太が先程まで戦闘に参加していたこともあって少しハイテンションになっていることと、デビットの事もあってまともな判断ができなくなっているという三つの要素があるせいで思考が妙な方向に向かってしまっているのである。


文の親にデビットを見せてほしいという風に言われたときと違って体の奥から湧き上がるような怒りに近い感情はわいてこない。恐らくデビット本人もあまり悪い気はしていないのだろう。


「まぁそう言う事なら・・・会わせるくらいならいいか・・・んじゃちょっと待ってろ」


康太はそう言って体の中からデビットの残滓をアリスの眼前に顕現させる。黒い瘴気が人の形を成し、よくよく見れば神父のような姿に見えなくもないそれを見てアリスは悲痛な表情をする。


「こいつがデビットだ・・・元の姿はもっとましなんだけどな・・・」


「・・・あぁ、覚えているとも・・・David ・・・to become in such a terrible sight・・・」


アリスは辛そうな、そして少しだけ泣きそうな表情をして小さくため息を吐く。


その様子を見てデビットの残滓は僅かに揺らめく。それが動揺であるという事を康太は感じ取っていた。

唐突に英語で話されてしまい康太は彼女が何を言っているのか理解できず目を白黒させていた。


「You idiot・・・So I said・・・Your harbor wish is that it its unmerited thing・・・ Are you still you will continue to embrace the wish even if in such a figure・・・?」


アリスの言葉に反応するかのように、そして応えるかのようにデビットの残滓は僅かに体を揺らめかせる。

それ以上の答えを求めるのはもはや不可能だった。この場にいるデビットの残滓はあくまで生きていたころのデビットの残りかすのようなもの。願望とほんの少しの感情しか残していない文字通り残滓でしかないのだ。


まともな会話もほとんどできない。直接取りついている康太はなんとなくニュアンスはわかることもあるが、それも本当に時々なのだ。


初めて出会った時のような強い感情を抱かない限りあのような対話に近い形をとることは難しい。


だがそれでも、自分以外の言葉にデビットが反応を示したというのは珍しい。それも怒りや憎しみなどではない、全く別の感情を持っているようだった。


傍から聞いている康太からすれば。


「To you wish, whether involving Kota・・・Honestly・・・You're a fool even after forever・・・Do not listen to what I say to say many times・・・」


自分の名前を呼ばれたという事で何かを話しているというのはわかるのだが、英語がわからない康太からすれば何を言っているのか本当にわからなかったのだ。


彼女なりにデビットのいいたいことがあり、デビットもその言葉を受け止めている。自分にしかわからないようなことがあるようにこの二人にしかわからないこともあるのだなと勝手に解釈して康太は静かに二人のことを眺めていた。


「Suit yourself・・・Not anymore you are my disciples・・・You are not a person anymore ・・・You're really ・・・so fool・・・」


アリスが諦めたように、呆れたようにそう吐き捨てるとデビットの残滓は僅かに揺らめくと康太の体の中に自発的に戻っていった。


一体どんな話をしたのか、英語があまり得意ではない康太からすれば全く理解できない内容だった。

だがアリスが何かを言ったのはわかる。そしてデビットの残滓がそれに反応を示したのだ。


もしかしたらアリスは自分より深い部分までデビットの何かを見ることができていたのではないかと康太は想像していた。


「もういいのか?」


「あぁ・・・あいつに言う事はあれだけだ。もう勝手にしろという感じだの・・・まったくこっちの気も知らないで・・・」


「・・・なんかよくわからないけど、すっきりしたのなら何より」


「スッキリするものか。むしろモヤモヤが溜まっただけだ。まったく・・・どいつもこいつも身勝手に動きよってからに・・・」


アリスからすれば先程の会話では得るものはあってもそれはプラスのものではなかったようだ。何を話していたのかは康太にはわからないが最後の方には何やら吐き捨てるような言い方もしていた。

もしかしたらいろいろ鬱憤がたまっていたのにデビットに逃げられてむしゃくしゃしているのかもしれない。


「もう一回出すか?引きずり出せると思うけど」


「・・・いや止めておこう・・・あまりグチグチ口を出して拗ねられてもコータに迷惑をかける・・・すまんな、我儘を聞いてもらって感謝している」


「いやいいって。この程度気にすることでもないよ」


康太はそう言って特に気にしなかったが、アリスは康太の方を見て一瞬だけ目を伏せゆっくりと頭を下げていた。康太はその行動に気付くこともなく先に進んでいく。先程の会話の意味を理解しているものはアリスと、デビットの残滓しかいないことだろう。


土曜日そして誤字報告を十五件分受けたので五回分投稿


お祝いのほうは明日に回しますのでご了承ください。あと英文のところはルビ振りして分かりやすい文章にしたかったけれど文章そのものにルビを振るのってほぼ不可能っぽい・・・なんということだ・・・!


自分は英語がとても苦手ですのでいろいろとおかしい英語でも笑って許してやってください


これからもお楽しみいただければ幸いです

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