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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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負傷者の対応

「よし・・・ビー!負傷者は今後方にいるわ!このまま後退すれば合流できる!」


「了解、後退するぞ!」


防御の魔術を発動しながら後退していき、負傷者が攻撃にさらされないように後退していくと不自然に木々が密集している場所を見つけることができる。


何かしらの方法で偽装しているというのはすぐに気づけたため、本部の専属魔術師たちが何やら英語で声をかけた後その木々をどかしていく。するとあちこちに傷を負い戦闘不能になっている魔術師たちを見つけることができた。


文が数えた通り六人一組であるらしく、一人を除いて意識がない状態だったようだ。


「よし、負傷者を抱えて後退・・・はできそうにないだろうな・・・本部に応援送ってもらえ。確保はできてるから俺らの通ってきたルートを使えば比較的楽に来られるだろ」


「それは構わないが・・・まさかそれまでこの場所を維持するつもりか?あのペースで魔力を消費したらどれだけもつかわかったものじゃないぞ」


「だからってほっとくわけにもいかないだろ・・・とっとと本部に連絡付けろ。そうじゃないといつまで経っても動けない」


康太がこの場を動くつもりがないという考えを抱いていることが伝わったのか、他の魔術師たちも皆この場所を守るつもりのようだった。


負傷者がいる場所を拠点にするなどと危険極まりないが、それでも見殺しにするよりはましである。


「ブライトビー、六人であれば俺一人で運ぶことくらいはできる・・・ただ戦線から離脱することになるが・・・」


八人いた魔術師の一人がそう提言するが、康太は正直難色を示していた。確かに不可能ではないだろう。魔術を使えば六人同時に運ぶことくらいはできるかもわからない。


だが問題は康太たちの戦力が落ちる事と、後退中に攻撃をされた場合の防御ができるかどうかだ。


「運ぶのはいいけど攻撃される可能性があるぞ。防御はどうする」


「それは・・・もう一人護衛で来てくれれば何とかなる」


「つまり八人の中から二人を負傷者対応に使えってことね・・・どうするのビー。あんたが判断しなさい・・・私はやめた方がいいと思うけどね」


「同意見です。ただでさえ防御に手が回らなくなりつつあるというのに二人も抜けるというのは痛手です。多少時間を使ってもいいから本部からの応援を待つべきでしょう」


文と真理の意見はもっともだ。現状戦力が無くなるというのはかなりつらい。こうして話している間も攻撃は続いているのだ。


先程よりも攻撃の数は少なくなっているが、それでも防御の魔術を発動し続けていることには変わりない。


「・・・本部から送られてきている部隊の状況はどんな感じだ?第一陣はご覧の有り様だけど」


「もうすでに第二陣、第三陣も行動を開始してるよ。逃げ遅れているのはこの部隊だけみたいだね・・・攻撃されなかったのは運がよかった」


かなりの負傷を負ってはいるが、六人とも死んではいない。この状況になっても攻撃されなかったという事は単に向こうが攻撃してこなかったのではないかと康太は考えていた。


長距離における魔術でも確実にこちらを狙えているような相手だ。負傷して戦闘不能になったものをわざわざ放置しておくのが戦略的行動であるのは少し考えればわかることだ。


要するに負傷者を守る、あるいは救出するということに対して戦力を使わせようとしているのだ。


通常魔術などを考慮しない場合十人の小隊がいたとして一人の負傷者が出たらその負傷者の対応に約二名が戦線を離脱する。つまり一人の負傷で三人が後退しなければいけない状況になるのだ。


全体の戦力の中で二割から三割の負傷者や戦闘不能者が出たらすでに戦線を維持できなくなるというのはそういう理由がある。


戦線を維持、あるいは拡大するための戦力よりも負傷者、及び負傷者への対応をする戦力の方がはるかに上回るためである。


もっともこれは魔術の使えない一般人における換算だ。魔術が使える人間ならば一度に大量の人間を運ぶことも、ある程度その傷をいやすことだってできる。


もちろんそれにも限界がある。今相手が負傷者がいるこの場所に攻撃をしているのに、その攻撃が先程よりも激しくないのも恐らくはそういう考えを熟知しているからだ。


大勢を相手にする場合、しかも相手が組織だった場合何もすべての敵を殲滅する必要はない。


一部の戦力を常に倒し続ける、あるいは戦力を全体的に消耗させなおかつ負傷させれば勝手に相手の方から戦闘を止める。戦闘ができるだけの要員が少なくなるのが原因による戦略的撤退。


恐らく相手が狙っているのはそれだ。確実にこちらの戦力を削って戦いが続けられないようにするのが目的だろう。


的確かつ理知的な考え方だ。人間らしい考え方と言ってもいい。戦略というものを理解している人間の戦い方なのだ。


少なくとも化物でもなければ力を一方的に振るう事を喜ぶバカでもない。なるほど本部の上役が脅威に感じるのも無理のない話である。


「前進もしてこの負傷者も下がらせる・・・ってのはちょっと欲張り過ぎかな」


「そうね、まず間違いなく無理よ。相手の狙撃能力の高さ分かってるでしょ?」


「・・・相手が負傷者にみだりに攻撃してこないことを考えても、逃げさせるというのは同時に狙いをつけさせるのと同義です。守れるだけの戦力がないと・・・」


相手が負傷者への対応を誘発させているとなると、負傷者を救出したものを攻撃するのが一番手っ取り早い。露骨な罠だが放っておくこともできないのだ。


この場に優秀な指揮官がいて的確に指示及び士気向上ができるのであればまだよかったが、本部の人間は各部隊に指示を与えただけでそれ以降指揮というものをしていない。こういう時に現場で考えなければいけないというのに情報が少なすぎて考えようがないのだ。


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