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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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不意打ち

康太の考えはおおよそ正解だった。ライリーベルは屋上へ駆け上がると、その隅に陣取り屋上へと続く扉に狙いを定めていた。


彼女が発動しようとしているのか彼女が有する中でも最大の攻撃魔術だ。


屋上へと続く扉の真上には雷雲のようなものが立ち込めている。雷、水、風三種類の属性の魔術を同時に発動することで作り出した疑似的な雷雲。


康太の持っている物質などで一発や二発の攻撃は防がれてしまうだろう。だが連続して降り注ぐ雷雲を防ぐ手立てはない。


その威力も、今までの電撃とは比べ物にならないほどだ。屋内で使えないという欠点があるものの、自らがもつ最大の威力は直撃すれば確実に人を死に至らしめることができるだけの威力を有している。


彼女だってこんなことで人は殺したくない。最低限の加減はするつもりだった。だが加減していては康太には、ブライトビーには勝てないと理解していた。


扉から自分がいるこの場所までは二十メートル近くある。その半分近くまで雷雲が覆っている。


更に屋上の床には水をまき散らしてある。仮に何かを避雷針代わりにしても確実にその電撃は康太の体に襲い掛かる。


一瞬でも硬直し動きを止めればそのまま雷雲から電撃の連続攻撃を浴びせて行動不能にできる。


殺す必要などない。


彼女はゆっくりと深呼吸しながら周囲の確認をする。


自分がいる屋上はフェンスに囲まれている。自殺防止用だろうか、内側に返すような形で傾斜がつけられており、その頂点には有刺鉄線が施されている。


自分が想像していた学校の屋上とは少し違う。もう少し開放的なものかと思っていたが、そうでもなかった。


ここで昼食を食べられたら気持ちいいだろうななどと平和なことを考えたところで彼女は自分が集中を途切れさせていたことに気付き首を横に振る。


自分はまだ相手を倒せていないのだと、自分に言い聞かせながら集中を高める。

今まで行ってきた康太の行動からして、確実にあの扉から現れると確信していた。


康太が飛行魔術などを有していれば屋上に階段を上らずに登ってくることも考えられただろう。


だが今までの攻防から康太は飛行魔術の類は覚えていないと確信していた。


自分が渡り廊下を使わずに校舎を移動した際、康太はわざわざ遠回りして渡り廊下を移動してきた。飛行魔術を使えるのであればそのようなことをするまでもなく自分の後を追えばいいだけの話だ。


それをしない理由はただ一つ。飛行することができなかったからに他ならない。

空を飛ぶ方法はいくつかある。ある程度の属性の魔術が使えれば条件付きであれば飛行することも容易だ。


例えば風や炎の魔術がそれにあたる。無属性の中にも念動力を利用して飛行する魔術は存在するが、彼女は康太がそれを覚えていないということを理解していた。


さらに言えば彼の攻撃手段は近接攻撃のみという事もすでに把握している。


攻撃はあの近接系の魔術、そして補助として念動力のようなものに対して作用する魔術、恐らく他にも魔術を有していると彼女は踏んでいた。


だからこそここまで警戒しているのだ。


自分の最大魔術をもって相手を倒す。それはある意味康太への敬意の表れだった。


遠くから一方的に攻撃すれば自分の勝利は揺るがない。いつ康太がやってきてもいいようにライリーベルは意識を集中していた。


いつでも迎え撃てるだけの準備は整っている。問題があるとすれば康太が自分がここにたどり着いているということに気付けるかどうかという点だけだった。


特に痕跡も残してこなかった、というか残すだけの余裕もなかったためにただただ全力で屋上へと走ってきた。


時間がかかっていることからもしかしたら校舎を虱潰しに調べているのかもしれない。


そうなっていたらこうして待っている自分が間抜けの様ではないかと思いながらも彼女は屋上への唯一の扉を注視し続けた。


必ずあそこからやってくるはずだ。あの扉が少し開いて康太が顔を見せたら自分の姿を確認させる。


そして体を出した瞬間に電撃の雨を降らせる。


それで戦いは終わる。簡単なことだ。散々かき乱されたこの戦いもそれで終わるのだ。


どこかで見ているであろう師匠にも問題なく顔向けできる。自分は勝ったのだと報告できる。


一瞬空を見上げるが、自分が発生させた雷雲以外に雲はなく、月明かりが自分を照らしている。


この日の勝利は格別だと思いながら、同時に明日彼に、ブライトビーにあったら労ってやろうと思っていた。


良い戦いだったと。とても強かったと。そして、それでも自分の方が上だと。


フェンスを背にしながら小さくため息をついて再び扉に意識を向ける。いつになったらやってくるのかわからない敵を待つというのはなかなかに神経をすり減らす。


それを実感しながら待っていると。自分に唐突に影が落ちる。


雲でもできたのだろうかと思う中、それが雲ではないことを彼女はすぐに理解できた。


その影は人の形をしていたのである。


魔術師の証でもある黒い外套をたなびかせ、月の光をその仮面に付けられたレンズで僅かに反射させながら康太は屋上のライリーベルの真上に躍り出ていた。


ライリーベルがすぐに前方へと飛び退くと真上から康太が襲い掛かってくる。


扉は開いていない。それどころか動いてさえいない。どうやってここまでやってきたのか、それを考えるよりも早く康太の拳が逃げようとしていたライリーベルの顔面をとらえていた。


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