進むか否か
康太たちが予想した通り、接近すればするほどに康太たちに対する攻撃は激しくなっていった。
本部の魔術師八人、そして康太に倉敷、そしてベックや通訳の魔術師全員が総出になって防御に徹底しなければ戦線を維持することすらできない。
いやそれどころか、時折文も守りに回ることすらある。魔術を感知している真理は感知を止めるわけにはいかない。もし魔術の感知を止めたらどの方向から攻撃が来るのかわからなくなってしまう。
だがこうして防御態勢を敷いていて分かったのは本部の専属魔術師が本当に優秀だという事だ。
通訳が通訳として役に立たないような状況でも、異なる言語で真理が指示を出すというのにその視線の方角や指さす方向、そして恐らく自分自身でも何かしらの対策によって魔術を感じ取っているのだろう。それぞれが連携して的確な防御をしてくれる。
その防御方法は様々だ。正面から受け止めることもあれば先程のように受け流すこともある。時と場合によるがおそらく最も適切な防御というものを常に行っているのだろう。防御が未熟な康太からすれば一つ一つの防御がまるで防御の教科書のように見えてしまう。
こんな所に来てまでまだ学ぶことがあるのだなと認識しながらも康太たちは前進し続けていた。
たった百メートル近づくだけでかなり時間がかかっている。相手が行ってくる牽制射撃に近い魔術の攻撃を防ぎながら前進しているのだ、無理もないだろう。
一つでも間違えば負傷者が出る。いやそれどころか戦闘不能になってもおかしくないレベルの攻撃が飛んできているのだ。
前進が慎重になるのも仕方のない話である。
「ブライトビー、他の部隊の攻撃も続けているようだけど・・・もう少し早く移動しろって本部から連絡が来てるよ」
「あぁ!?できるもんならとっくにやってるよって伝えろ!こちとら全力で前進中なんだよ!」
「そりゃわかってるさ!でも他のチームを楽にさせるためには」
「そんなに文句があるならその指示出した連中がこっちに来いって言え!今からでもこっちきて一緒に行動してもいいんだぞって伝えろ!」
ベックとしても向こうが無茶なことを言っていることはわかっているのだろう。だが本部からしたら一刻も早く康太のDの慟哭を目標にかけてほしいのだ。
もちろん康太だってそうしたい。だがそもそも射程に入ることすらできないのにどうやってこの状況を維持するのか不思議でならなかった。
というかこの距離まで攻撃が届いてきていることを考えると、射程距離ギリギリに位置していても常に防御しなければまともにその場にいる事すらできないのだ。
思っていたよりもずっと危険な状態だなと思いながら康太は内心舌打ちをする。
「ベル!目標までの距離は!?」
防御に徹していたために感知系の魔術を一時的に解除していたのだろう。文は防御を一時的にやめると現在位置と目標の位置を把握しようとしていた。
「ちょっとまって・・・現在距離二百!あと少しよ!」
「あと少しって言っても射程距離の話だろ!見えるかどうかは別問題だぞ!」
「やるしかないでしょ!こんだけ攻撃が激しいんじゃ近づくのも難しい・・・って・・・うわ・・・」
文が唐突に何かを感じ取ったのか声を小さくする。周囲は攻撃魔術によって生じている轟音のせいでほとんど何も聞こえないに等しい。魔術の暴風雨とでも言えばいいのだろうか、そのような状況で文は一体何を感じ取ったのか。
「二時の方向、負傷者多数・・・たぶん第一陣の連中ね・・・どうする?」
文の言葉を通訳して近くにいた本部の魔術師たちにも伝えるとその場にいた全員どうするべきか迷ってしまっているようだった。
作戦内容を考えれば自分たちは康太を目標の下に近づけるのが最優先だ。だがだからと言って放置されている負傷者をそのままにしておくというのは危険すぎる。
「ベル、負傷者って何人だ?正確な数を出してくれ。あと距離!」
「えっと・・・負傷者六人、距離約三十!」
「・・・しょうがない・・・遠回りになるけど助けに行くぞ。この場所から離脱できるように援護する!」
「おいおい・・・正気か?こんな状況だってのに・・・!」
「こんな状況だからだよ!あんたらもいいな!?」
本来ならここは康太の指示を無視してでも目標に対して直進するべきだ。半ば強引にでも康太を引きずって直進するべきなのだろう。
だが仲間を助けるために行動しようとしてくれる康太に対して反対の意を述べるものはこの中にはいなかった。
「ビー、助けに行くのであれば私たちが壁になるのがいいでしょう。多少遠回りになりますが直進してその後で横に移動、そこから後退という形で負傷者を回収しましょう」
「了解です、それでいきましょう。とりあえず前進!ベル、負傷者との位置と距離報告してくれよ!?」
「あぁもうわかったわよ!やりゃいいんでしょ!」
いつも通りというべきか、自分の負担が多いことに文は憤慨しているがやるしかないのだ。
この状況で負傷者を助けられるだけの余裕はない。だが助けなければ死人が出てしまう。康太が助けに行くというのは多少予想外だったが自分がその情報を伝えてしまったのだ。ある程度自分が負担を背負わなければこの状態は維持できないだろう。
半ばやけくそになりながら文は感知魔術の範囲を一時的に狭め、防御と並行して行えるように徹底していた。




