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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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作戦開始

朝食代わりのサンドイッチを平らげ、仮面をつけた状態で待機していると康太たちと行動を共にする部隊が合流してきた。


八人一組の小隊であるらしく、周囲を警戒しながら倉庫の中に入ってくると中にいた康太たちを確認して小さく息を吐く。


「ブライトビーとその仲間だな?今回は我々と共に行動をとってもらう。構わないな?」


「あぁ、俺たちの身の安全のために頑張ってくれると助かるな」


遠回しに盾になってくれと言っているようなものだが、相手も最初からそのつもりだったのだろう。特に気にした様子もなくうなずいていた。


康太たち四人に案内役のベック、そして通訳、さらに八人の魔術師がやってきたためにこの場には十三人の魔術師と一人の精霊術師がいることになる。


これだけ見ればかなりの部隊だなと思いながらこれでも戦力のほんの一握りでしかないことを考え相手の強大さを再確認してしまう。


恐らく他の部隊も八~十人程度の小隊を組んでいるのだろう。普段の戦闘からは考えられないほどの大人数での戦闘になる。戦争でもできそうな戦力に康太は若干辟易してしまっていた。


一人相手にこれだけの大人数。なんというか大人気ないというか情けなくなってきてしまう。これでは自分たちが未熟であると主張しているようなもののように思えるのだ。


「そう言えばそちらは本部からどんな命令が下ってるんだ?そのあたり教えておいてくれると助かるんだけど」


「こちらはブライトビーの護衛と目標から常に一定の距離をとって移動し続けるように言われただけだ。ブライトビーから位置の指定などがあればそれにも従うように指示されている」


この言葉が真実かどうかはわからないが、とりあえず本部としては康太の事は守っておきたいのだろう。


なにせ今回の作戦の核ともいうべき部分なのだ。もっとも康太がどれだけ戦いに貢献できるかは不明だし、何より本部がどれだけ本気で康太のことを重要視しているのかもわかったものではない。


使い捨てにされる可能性があるためあまりこの戦力を信頼しない方がいいだろうとは考えていた。


「・・・ブライトビー、作戦準備完了とのことだよ。あとは君がゴーサインを出すだけだ」


「・・・了解。目標はどこにおびき寄せるつもりなんだ?可能ならその場所に近づいて待ち伏せでも何でもしておきたいんだけど」


「それは許可できない。まず相手を確認してから一斉攻撃をかける。不意打ちに近い形で攻撃してから消耗戦に移行する予定だ。まずはこの周辺で待機するのが得策だろう」


「・・・はぁ・・・そろそろ作戦の全容くらい教えてくれてもいいものだけどな・・・大体の流れも分からないからどう行動するのがベストなのか判断すらできないってのはどういうことだよ」


文句の一つも言いたくなる状況であるのは恐らく康太たちだけではないのだろう。与えられている情報が限定的なのは何も康太たちだけではない。現場で動いている者たちすべてが恐らくある程度の限られた情報しか与えられていないのだ。


そのせいもあってそれぞれの魔術師がどのような行動をとるのが最適であるかを判断することすらできずにいる。


こちらの動きがわずかに鈍るよりも相手に情報が漏れるのを防ぐことの方が重要なのだろう。


徹底した情報封鎖というのは相手だけではなくこちらにもデメリットがあるが、作戦の概要を知られるよりはずっとましなのだろう。


「こちらの待機位置はどのあたりだ?」


「ここから少し行った森の外れだ。森の中心地に目標をおびき寄せる予定だからそこから離れていれば問題はない」


中心地に向けて一斉攻撃。それがどのタイミングで行われるのかは不明だがその攻撃が終わり、部隊を適宜投入する消耗戦の形に移行するときに康太の出番があるのだろう。


一斉攻撃、消耗戦、そして恐らくは別の手段でアプローチをかけることもあるだろう。


今まで考えられてきた作戦をすべてやる可能性だってある。今回投入される戦力を考えると不思議ではない行動だが、それにしても不安な点が多い。


康太は自分についてきてくれた三人に視線を向けるとそれぞれの仮面を見てから小さくうなずいて口を開く。


「ベル、姉さん、トゥトゥ、準備は?」


「いつでもいいわよ」


「こちらも問題ありません」


「遺書は書いてないけどな」


それぞれ準備はすでにできているらしく、体の中の魔力もそれぞれ所有している武器の類も問題なく装備している。


戦闘になってもすぐに対応できるように、そして攻撃されてもすぐに反応できるように集中を高めているようだった。


「よし、それじゃあ行くか。可能ならさっさと終わらせよう」


「できたらの話だけどね」


最初から消耗戦を想定に入れている時点でさっさと終わるとは考えにくい。だが早く終わらせて帰りたいと思うのもまた事実だ。


「ブライトビー、作戦の開始は何時だ?」


「俺たちが待機場所に移動したら作戦開始だ。向こうにもそう伝えろ」


康太に決定権があるとはいえ向こうに主導権を握られているのだから正直あまり意味はない。だが覚悟を決めるだけの時間はできた。これから数時間、あるいは数日間にわたって続く戦いの開始の合図は康太たちが倉庫の扉を開ける音だった。



作戦開始の合図とともに、作戦行動についていた魔術師たちが一斉に行動を開始した。


予め伝えられていた指示を的確にこなしながら配置につき、なおかつ今回の目標であるアリシア・メリノスの誘導も開始されていた。


待機場所で状況の変化を待ちながら索敵をしていた真理と文は協会本部が行った作戦の一部を知ることができていた。


「ビー、目標と思わしきやつが森の中心部に現れたわ」


「現れた・・・ってもうおびき寄せたのか・・・仕事早いな」


「いえ、おびき寄せたというより強制的に連れて来たようですね・・・唐突に反応が一つ現れました・・・恐らく転移の魔術でしょう」


転移。協会の門などにも使われている魔術で、魔術の中では割とメジャーな部類の魔術だ。


だが有名である反面その難易度は非常に高く、まともに扱える魔術師はかなり数が限られる。


しかも人間を転移できるレベルの術を発動するとなるとかなり事前準備が必要になるだろう。


「転移で無理やり連れて来たってことですか・・・よく相手に防がれませんでしたね」


「・・・もしかしたらわざと誘いに乗ったのかもしれませんね・・・相手の方が圧倒的強者なわけですし、多少油断しているか、あるいはこちらを侮っているか・・・」


「ていうかよく転移なんて発動できたな・・・あれって結構制約多くなかったか?」


制約、つまりは可能不可能というのはその魔術によって変わってくる。単純に射程距離や消費魔力だったり、威力や効果だったりとその種類は様々だ。その中で転移の魔術はかなり多くの制限がかかってくる。


まずは消費魔力。物体を別の所にとばす、いわゆるワープを行うのだから必要な魔力の量は一個人に負担できるようなものではない。


小さなものだったり転移する距離が短ければ個人での使用も不可能ではないが、人間一人を転移させるとなるとその消費魔力はかなり多くなるだろう。


さらに言えば術式の複雑さ故に発動に時間がかかるというのがある。まず間違いなく発動に数分はかかるだろう。大規模なものであれば数分どころか数時間かかってもおかしくはない。


「これだけの時間で発動できたという事は、人数を使って半ば強引に発動したんでしょう。人数が勝っているからできる力技ですね」


「なるほど、転移で別の所に連れてきて有無を言わせず一斉攻撃か・・・まぁ理には適ってるかしら」


文がそんなセリフを吐いた瞬間、森の中心部のある方角から轟音と衝撃による強風がこちらにまで届いてきた。


恐らくは予定されていた一斉攻撃が行われたのだろう。それがどのような結果を及ぼしたのかはさておきこれから本格的に作戦が行われるのだ。


康太たちは全員意識を集中して攻撃の余波が来ないことを祈った。


「どうだ?上手くいったか?」


「・・・残念ながらダメね。相手もある程度予想してたみたい。伊達に長く本部と戦ってないってことね」


これが初めての襲撃だったのならまだ相手の意表を突くことができたのかもしれないが、すでに何百年と続く戦いの内の一つでしかないのだ。相手もいい加減こちらの手の内、というか多対一の時のこちらがどのように対応するかくらい予想がつくだろう。


「これから消耗戦に移行か・・・早いうちに仕込みを終わらせるぞ」


「もう行くの?相手の出方とか見なくていいの?」


「見たところで変わんないよ。それに大規模攻撃の直後でむしろこっちの出方を窺ってると思う。今のうちに接近してすぐに離脱する。攪乱っぽい動きができればなおよしだな」


康太たちの役目は主にDの慟哭を発動して相手の魔力を吸い取ることだ。それ以外は余計なことであるのだがこれから消耗戦に移行する前に相手に少しでも普段と違うということを印象付けることができたならもうけものだ。


なにせ普段と違うというだけで相手に慎重な行動をとらせることができるのだ。ただでさえ火力が違うかもしれない相手を少しでも消極的にさせられるのであればこの行動にもそれなりの意味があることになる。


「移動開始する。ベルと姉さんは常に相手の位置を把握しておいてください。トゥトゥはいつでも壁を作れるように準備、油断するなよ?」


「わかってるって。格上相手に油断はしないっての」


「それならいいけどな・・・総員警戒状態に移行、いつでも戦闘行動ができるように準備。流れ弾にも警戒して目標に接近開始する」


わざわざ康太が口に出したのはこれからの康太の行動を本部の方にも伝えるという意味があった。


これが本部に伝われば康太のフォローをするか、あるいは康太を放置するか反応が別れてくるだろう。


もしかしたら康太が行動しにくくしてくる可能性がある。この段階で康太は本部の反応を見ることで本部がどのような考えを抱いているかを把握しようと考えていた。


もし協力できるのであれば作戦続行。だがもし万が一互いの足を引っ張り合うような状況にしてくるようであればすぐに撤退するつもりだった。


理由は何でもいい、相手が何かしらの妨害魔術を使ったせいでDの慟哭が発動できない状況にされたとでも言えばいい。


互いに足を引っ張り無駄に労力を消費する作戦に参加するつもりはない。一緒に来てくれている仲間の為にも引き際はわきまえておくべきだ。


康太は槍を構え目標のいる位置めがけて移動を開始した。



目標もこちらと同じように索敵の魔術を張っていることを予想して移動を極力目立たないようにするつもりはなかった。


把握できている限り現在自分たち以外に二つの部隊が目標に向けて接近している。

文と真理の二人はその様子を常に康太に伝え続けていた。森林地帯という事もあって視界もよくない。二人の索敵が頼りだ。


文は目標の位置を常に把握。真理は目標地点から放たれる、あるいはこちらに向かってくる魔術を把握。それぞれ把握する対象を変えることで処理を少なくすると同時に万全の状態で接近しようとしていた。


「トゥトゥ!正面に壁!」


「アイマム!」


真理の合図と同時に倉敷は小隊の前面に分厚い水の壁を顕現させる。次の瞬間木々を縫うような形で炎の塊がこちらめがけて飛翔してくる。


水の壁によって阻まれた炎は水を蒸発させると同時に消えていく。目の前にあった水の壁のほとんどを蒸発させるという威力に康太たちは目を見開いていた。


「もう攻撃が飛んできたのか・・・ベル、目標との位置は?」


「まだ三百はあるわよ・・・こんな中でよく・・・っていうかやっぱりこっちの位置も捕捉されてるみたいね」


「こっちが捕捉できてるんだ、あっちが捕捉できてても不思議はないだろ・・・ていうかその距離で当ててくるのかよ・・・」


ただでさえ視界が悪い中、しかも遮蔽物が多く存在している中でこれだけの距離があるというのに的確に攻撃を当ててくる。もし倉敷の防御があと数秒遅れていたら康太たちの誰かに被弾していただろう。


真理が魔術を感知してから着弾まで十秒もなかった。それだけの速度で魔術を放ち、しかもこれだけの遮蔽物がある中を操作でき、なおかつ高威力を保てる。


射程距離、速度、威力。どれをとっても一級品だ。本来なら決め手となるだけの威力を秘めている攻撃が恐らく相手にとっては牽制射撃レベルの攻撃なのだろう。


たった一回の攻撃でこちらとの格の違いを見せつけられている。だがここから先に進むしか自分たちには選択肢はない。


「姉さん、相手の魔術、どれくらいの距離まで感知できてます?」


「百五十・・・頑張れば二百と言ったところでしょうか・・・それでも猶予がほとんどないとなるとかなり弾速ありますね・・・」


「一点突破の方が接近はしやすいでしょうか?」


「はい、相手の実力を鑑みるにその方がいいでしょう。他の皆さんも徹底してください。私が可能な限り合図しますのでいつでも防御できるように。散開してもいいですがあの精度だと確実に狙い撃たれます。守りを固めて突破します」


通訳を介してその場にいた全員に通知すると、その場にいた魔術師全員が守りの魔術を発動できる態勢になっていた。


中にはすでに防御用の魔術を発動している者もいる。前面に小型の障壁を張り、そのまま移動できるようにした、所謂操作できる防御障壁だ。


「ベル、目標までの距離を常に教えてくれ。射程距離ギリギリになったら姉さんと一緒にフォロー頼む」


「了解よ・・・って言ってもこの場所じゃ肉眼で捉えるのは無理じゃ・・・」


「あぁ、だから場所を大まかでいいから教えてくれ。その方向にとばす。接近しながら相手の意識を逸らせて肉眼で確認できる距離になったら確実に入れて吸引開始だ」


康太の体から出る瘴気を一帯にまき散らしてその場にいるほとんどの魔術師を対象にしてもいいのだろうが、それでは間違いなく効率が悪い。何より味方にも被害が出るしその場全員に魔術を発動したとしても目標には回避される可能性だってあるのだ。


確実に相手の魔術をかけるにはどうにかして接近して肉眼で捉える必要がある。


「次来ます!正面!防御!」


真理の合図に全員が反応し、倉敷と協会本部の魔術師が同時に壁の魔術を展開する。


木々を縫うように高速で飛翔してきたのは先程の炎に加えその後ろに追従するように飛んでくる氷の槍だった。


倉敷の水の盾を炎がほとんど無力化していくと、氷の槍は残った水の膜を容易に貫通する。


だが今回は倉敷だけではなく他の魔術師も同時に防御魔術を使っていた。


予め展開していた小型の障壁を易々と貫通するなか、前面に展開された土の壁によって氷の刃は何とかその直進を止めていた。


「第二波来ます!上です!」


炎と氷の連撃に加え、さらなる連続攻撃に康太たちは身を強張らせる。上と言われても木々に遮られて何も見えない。今度こそ防がなければと倉敷も再び水の盾を作り出し、今度は康太も炸裂障壁の魔術を発動し少しでも攻撃を減衰しようと試みる。


今度飛んできたのは大きな土の塊だった。


まるで古代の攻城兵器のように投擲された岩の塊は、純粋な質量攻撃となってこちらに向かってきている。


これだけでは防ぎきれないと判断したのか本部の魔術師たちもこぞって防御魔術を発動する。


倉敷の水の盾によって速度と威力は多少減衰したが、その直進を止めるには至らなかった。


康太の炸裂障壁の魔術もほとんどないに等しい。岩の塊の表面に傷をつけた程度で止まる気配はない。


そこに他の魔術師が発動した氷の山が大岩を食い止めた。いや食い止めたというよりは道を作ったという方が正しいかもしれない。まるで滑り台のように受け流す形で作られた氷の道を岩は転がるように通っていく。正面の攻撃を防御させたタイミングで今度は上からの連続攻撃。接近していくにつれて激しくなるだろう攻撃を前に康太たちは冷や汗を禁じ得なかった。


日曜日、そして誤字報告五件分受けたので三回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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