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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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作戦決行前に

康太の買ってきたケーキを全員で食べた後、それぞれ入浴してから早めに休むことにしていた。


イギリスで明かす初めての夜。康太たちは興奮もあったがそれぞれ疲れもあったのかすぐに眠りにつくことができた。


体の中にあった独特の倦怠感は眠りによって徐々に融けていき、康太たちが再び目を覚ますころにはすでにその体からは無くなっていた。


康太たちが目を覚ましたのは朝の四時半。あらかじめ告げられていた起床時間よりはだいぶ早い時間だった。


無理もないかもしれない、朝の四時半などと言ってはいるがまだ時差による時間感覚の変化に追いつけていないのだ。


体調の方はまだよくても、もともと日本で生活していた時間感覚はそうそう変わるものではない。


これから作戦が始まるのであれば体を温めておく必要がある。結局行動開始が六時となっていても、いつ始まるのかは全く分からない。しかもどういう作戦にするのかもわからないのだ。


これでは康太も作戦のゴーサインを出しようがない。


康太たちが身支度も済ませ軽く体を温め、いつでも戦闘が開始してもいいように準備しているとホテルの部屋の扉が軽くノックされる。


真理が代表して扉を開けるとそこにはベックがいた。準備をしている間にすでに六時になっていたらしい。


「おや、起こす必要はなかったか?」


「おはようベック。こっちの準備はもういいぞ。朝飯食えばいつでも動ける」


「それはよかった。それじゃあ今日のスケジュールと作戦の内容を通達しておこう」


ベックの言葉にその場にいた全員の緊張が高まる。恐らくベック自身もようやく教えられたことで多少緊張しているのだろう。


今回の作戦。本部が康太という一つの駒を手に入れたことで考え出した新しい作戦の内容がどのようなものなのか、康太たちは知る権利がある。


もしこれが失敗することが前提の内容だった場合は最初からこちらもやる気は出さずに対応させてもらうしかないだろう。


形だけの作戦に本気で参加するほど康太たちも甘くはない。


「大まかに言えば、今回の作戦は包囲戦になるね。だけどその包囲の形と内容が少し今までの作戦とは異なる。目標を中心として複数の部隊をまんべんなく配置する。そして一定時間ごと、あるいは戦闘不可能と判断した時点で次の戦力を常に複数方向から投入する」


「つまり、持久戦狙いってことか」


本部は消耗戦を狙っている。ここまでは康太たちも予想してきたことだ。それに包囲して複数方向から部隊を投入するというのも別に目立って特別な何かがあるようには思えない。


微妙に形は違うが戦力の適宜投入は今までの作戦の中でもいくつもやってきたことだ。そこまで成功率が高いとは思えなかった。


「そして君たちはその中の一つのグループに配属してもらう。射程距離限界に常に位置して相手の魔力を吸い続けてもらう。可能か?」


「・・・可能だとは思う。目標を視認できれば確実に発動はできる」


以前のライブのように相手が観客席からあまり動かないような状況であるなら場所の座標を教えてもらうだけでDの慟哭を発動して相手の魔力を吸い取ることもできるだろうが今回は戦闘中にそれをするのだ。


相手が魔術師という事もありDの慟哭の瘴気もはっきりと視認できているだろう。相手を視認できるだけの状態にしておいて発動しないと普通に避けられる可能性がある。


相手が翻弄されている間に瘴気を飛ばし混入させることができれば問題なく吸引は発動するだろう。


問題は相手を視認できる場所まで康太が接近しなければいけないことと、このDの慟哭を相手に解析されすぐに解除されるのではないかという点だ。


この二点がクリアされれば今回の作戦における康太の役割はおおよそこなせると思っていいだろう。


「近づくとなるとまたいろいろと制限が生まれそうだけど・・・とりあえずは伝えておくことにしよう。各部隊の動き方については動きを決めたらすぐに連絡するそうだ。今のところはあまり近づかない位置で活動しているらしい・・・それと・・・ブライトビーに本部側から一言預かっている」


「ん?なんだ?」


「あまり勝手な行動をとるなだそうだ。昨日の行動で上役は随分肝を冷やしていたらしいよ」


肝を冷やしていたというのが一体どういう意味なのかはさておき、康太が勝手に行動して勝手に迷子になったという事を本部はすでに知っているようだった。


これは恥ずかしいなと思いながら康太は渋々了承していた。


ここでもし変に反抗したら何を言われるかわかったものではない。ここは素直に従っておいた方が摩擦は少ないだろう。


「ところで作戦って魔力吸引と消耗戦の二つだけか?これだけとは思えないんだけど」


「ん・・・もちろんこれだけではないらしい。けどあまり多く知らせると失敗する可能性が高まるから適宜知らせていくらしい。こっちも全容を把握しきれてないんだよ」


部隊一人一人に作戦の全ての内容を伝える必要はない。相手は魔術師なのだ、何らかの魔術を使って作戦の内容を自白させるようなこともできるかもしれない。


それを考えればこの対応は適切だと言えるだろう。本部も決してバカではない。最初から失敗するとわかっているような作戦は立てないだろうと康太は高をくくっていた。


「一応聞いておきたいんだけど作戦の成功率、どれくらいか聞いてるか?」


「そのあたりは何とも・・・神のみぞ知るってやつなんだろうね」


「・・・望み薄そうね」


康太とベックの会話を聞いていた文のつぶやきに日本から来た全員が内心同じ感想を抱いていた。勝算は低いのだろう。ある種の覚悟が必要かもしれないなと小さくため息をついてしまっていた。


作戦の開始は康太たちが寝泊まりしているホテルから少し移動したところから始まる。街の郊外にある平野と森林部分での戦闘を想定しているらしい。


昼間からの戦闘という事もあって周囲にはかなりの数の魔術師たちが結界を張り一般人の侵入を防いでいる。


そんな中に目標がやってくるかという疑問があるが、康太たちはその森林部の近くにある倉庫で待機していた。


どうやらだいぶ昔に破棄された農具を保管するための倉庫だったらしい。すでに誰も使っていないことから一時的に身を置くには十分すぎた。


康太の下にはベックを通じて部隊の現在の状況が常に送られてきている。その処理をするのはなかなかに難しかったがその場にいる文と真理の二人が康太の情報処理をサポートしていた。


「全体的に部隊の移動は済んできてるみたいね・・・でも問題は目標をどうやってここまでおびき寄せるのよ・・・相手だってこっちの状況把握してるでしょうし、その中心に飛び込んでくるなんてありえないと思うけど・・・」


「それに関しては任せておいていいだろう。かなり念入りに準備を重ねたようだしね・・・配置さえ整えばゴーサインさえあればいつでも行ける状況だろうさ」


まだ準備段階にあるためにゴーサインは出せないが、部隊の配置が済めばいつでも行動を開始することができるだろう。


今のうちに腹を膨らませておこうと康太たちはそれぞれサンドイッチを口に放り込んでいる。朝食としては十分な量だ。一日活動することを考えると十分とは言えないが休憩をはさみながらの行動となれば不十分とは言えない。


「具体的な方法は・・・聞いても教えてくれないんだろうから無視するとして・・・俺たちが行動を共にする部隊は?まだ来てないのか?」


「あぁ、もうすぐ到着するらしい・・・今のところは予定通りだ・・・作戦可能開始時間はだいたい後三十分ってところかな」


三十分で戦闘開始の準備が整う。つまりあとは康太のゴーサイン次第という事だろう。


もし作戦が失敗してもいいようにすぐに離脱できるようにしておく必要があるだろうが、ある程度距離を維持しておかなければいけない。Dの慟哭の射程距離がもっと長ければそれもできたのかもしれないがこの状況でこれ以上逃げ腰ではできることもできなくなってしまうだろう。


必要なら周りの魔術師を盾にしてでも生き延びる。そう言う考えが康太の中にはあった。


万が一の場合は自分だけが前に出て真理や文、倉敷は後方で待機させておいた方がいいかもしれない。そんなことを考えている時だった、康太の方に視線を向けながら文が小さくため息を吐く。


「ビー、一応言っておくけどあんただけ接近するってのはダメよ?」


「・・・何で?」


何故自分が考えていることがわかったのか、顔に出ていただろうかと思ったがそこまで深刻な表情をしたつもりはない。


考えていたことを読まれること自体は珍しいことではなかったし、康太もそこまで動揺はしていないが、何故自分だけが前に出るのがダメなのか。そこが疑問だった。


「何でって当たり前でしょ。今回私たちはあんたを守るために行動してるのよ?護衛対象を単独で前に出す護衛がどこにいるってのよ」


「もう一度散歩で単独行動してるんですがそのあたりはどうなんすかねベルさん」


「あれは別、戦闘が開始するなら私があんたから離れるってことはないと思いなさい。私が後方に下がるのはあんたが下がるときだけよ」


文なりの覚悟なのか、それとも自分ができることをやろうとしているのか、それともただのやけくそか、どちらにせよ文は康太と行動を共にするつもり満々のようだった。


実際そうしてくれると助かるのは事実だ。だが康太がやらなければいけないことのために文たちを巻き込むのは気が引ける。もっともそれも今さらのような気がしてならないが。


「その通りですよビー。何よりあなたに心配されるほど私は未熟ではありません。自分の身は自分で守ります。最低限のフォローはさせてもらいますよ」


「そりゃありがたいですけど・・・たぶんだけどだいぶ危険ですよ?百メートルなんて相手の射程距離に入ってるだろうし・・・」


「もちろん形はどうあれ攻撃は受けることになるでしょう。でもそれだけ距離が離れていれば対策はとれます。感知ができる魔術師が二人もいるんですから、防御に徹していればそう難しい話ではありませんよ」


真理のいうようにある程度距離があるなら感知魔術と併用して相手の攻撃を把握すれば的確な防御ができるだろう。


段違いな威力の魔術が飛んできたとしても、距離による減衰や魔術的な防御によってある程度身を守ることくらいは可能だ。


しかも康太たちが百メートル近く離れた場所に位置することになる。届くとすれば前線部隊を攻撃した時の余波か、狙撃系の長距離魔術くらいだ。前者ならそこまで苦労せず、後者なら複数の魔術師が防御すれば防ぐことくらいはできるだろう。


もっともそれも現段階での考えでしかない。相手が康太たちと比べ物にならないほどに巨大で強力な魔術を使ってきた場合この考えは簡単に覆る。


そのあたりを理解しているからか、真理も文もそこまで強気というわけではない。むしろ逃げることを前提としているあたり弱気と言えるだろう。


「・・・トゥトゥはどうだ?後方にいたいか?」


「女二人が前に出るっていうのに男だけ下がっていられるかよ。盾くらいは作れる。自分の身を最優先にさせてもらうけどな」


どうやら一緒に来た三人は康太と行動を共にするつもりらしい。しかも康太が言っても聞かないだろう。


後ろ向きなのにどうしてこう頑固なのかと康太は苦笑してしまっていた。


土曜日なので2回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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