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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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幼子の説教

「つまり・・・買い物に夢中になっていて道に迷って途方に暮れていたと・・・そう言う事かの?」


「・・・はい、その通りです」


康太は金髪の少女と近くのガードレールに腰掛けながら話をしていた。自分の境遇を改めて口に出すとものすごく情けないのがわかる。この歳になって迷子だなんて文たちに知られたら大笑いされるだろう。いやもしかしたら笑われることもなく呆れられるかもしれない。


自分の名誉のためにも何とかして自分の足でホテルに戻りたい。ちょっと散歩が長引いてしまったかのように見せかけて何事もなかったようにしたい。


「なんというか・・・お前さんは随分と間抜けだの」


「んぐ・・・返す言葉もありません」


自分よりも圧倒的に年下であるはずの少女に呆れられる当たり、自分の情けなさを再確認することになるのだが今はそんなことはどうでもいい。


どんな状況にせよ手を貸してくれそうな人物が現れたのだ。見た目や年齢はさておき可能な限り情報を得たいところである。


「でさ、悪いんだけど手を貸してほしいんだ・・・頼む!」


「・・・頼むと言われても・・・何をどうしろと?」


「とりあえず道案内してください。俺の泊まってるホテルまで」


「・・・まぁ構わんが・・・ホテルの名前は?」


「・・・わかりません・・・」


情けなく首を垂れる康太に少女は思い切り呆れているようだった。ホテルの名前も分からないというのに自分の泊まるホテルに戻りたいなど無理難題だ。この近辺にあるホテル全てを虱潰しに歩けというのかと少女が口を開けたままでいると何やら思いついたのか少女は口を開いた。


「宿泊しているという事は鍵くらい持っているだろう?それを見せてみよ」


「え・・・?あぁ・・・これだけど」


康太が少女にホテルのカードキーを見せるとやっぱりかと少女は小さくため息を吐く。


「ほれ、大抵のホテルのカードキーにはそのホテルの名前が書いてある。これで戻るホテルの名前がわかったの」


「・・・ぉ・・・おぉぉぉぉぉぉ!」


この状況を言葉にするなら目から鱗が落ちるというのだろう。全く思いつかなかった康太も康太だが、それだけ康太が焦っており通常の思考ができていなかったことを示している。


感動している康太をよそに少女は呆れてしまっているが、今さらそんな程度の事では康太はへこたれない。


今は自分より年下の少女に呆れられるより戻るべきホテルの名前がわかったことの感動の方が大きいのだ。


「マジありがとう!本当にありがとう!これで戻れる!」


「名前だけで戻れるのか?というか英語が喋れないのによく一人で歩こうなど思ったものだな」


「いやまぁちょっとテンションが上がってまして・・・戻るだけなら何とか頑張る」


「さっきの発音では呆れられるのが関の山だぞ?このホテルなら案内できる。ついてこい」


案内までしてくれるのかと康太は感動していたが、少女にここまでしてもらっておいて何もしないというのは明かに失礼だ。


恩返しという意味でも感謝という意味でもさすがに何かごちそうするくらいはしてやらなければ申し訳ない。


「本当助かるよ・・・そうだ、お礼にあれ奢らせてくれ」


康太が指差したのは近くの喫茶店に提示されているケーキだった。子供だから甘いものが好きだろうという安直な考えだがそれでも何もしないよりはましだろうと考えたのだ。


「・・・それは・・・構わんが・・・」


少女は康太のことを訝しんだ表情で眺めている。少女からすればこの反応は当然だろう。迷子の情けない高校生が奢ると言ってきた。しかも自分のような幼い姿のものに対してだ。


もちろん康太に恩返し以外の他意はない。純粋に何かしてあげなければならないと思ったからそうしているだけなのだ。


そして康太のここまでの流れから、康太が何か企むことができるような人間ではないと察したのか、少女は小さくため息をついて了承する。


「そうだな・・・ではご馳走になるとしよう・・・これも何かの縁かもしれん」


「よっしゃ・・・そうと決まれば行くか」


康太は自然に少女の手を取って目についた店に向かっていく。その中で康太はようやく自分が自己紹介すらしていなかったことを思いだす。


せっかくこうして助けてもらったのだ。自己紹介位するのが当たり前というものだろう。


何よりこの少女の名前は聞いておきたい。可能なら別の形でまた恩返しをしたいところだがたぶんそれは叶わないだろう。自分の中にこの子の名前を留めておくくらいの事はしたいと思ったのだ。


「俺は康太。八篠康太。お前の名前は?」


康太はあえて身分証明書に書かれている偽名ではなく本名を名乗った。助けてくれた少女への礼儀を含め、自分の名前を知らせておきたかったのだ。


自己満足に近い康太の行動に、少女がどのように捉えたのかはわからない。だが少女は一瞬妙な表情をした後で口を開く。


「そう・・・コータか・・・私はアリス」


アリス。そう名乗った少女に康太はいい名前だなと言いながら快活な笑みを浮かべる。


ようやくホテルに戻れる算段が付いたからか余裕が出てきたのだろう。いつもの思考が戻り、笑みを浮かべられるようになっていた。


その表情を見てアリスが少し意外そうな顔をしていたことに康太は気づいていない。










「ほう・・・保護者同伴で友人と旅行に」


「そうなんだよ・・・通訳さんとかも一緒にいるんだけど・・・時差ボケ直しのために仮眠取っててさ・・・起こさないようにしたらこの様だ・・・」


康太とアリスは喫茶店の中でケーキと紅茶を注文して話に花を咲かせていた。


何故こんな状況になっているのか、何故自分のような日本人がこのイギリスにいるのか。


さすがに魔術師の依頼でこっちにやってきたなどということはできるはずもないために、友人たちと旅行に来ているということにしたのだ。


実際今のところは旅行のようなものだ。文や倉敷という友人も一緒であるために間違ってはいない。一応真理という保護者も同伴しているのだから嘘は言っていない。


「・・・初めて海外に来て浮かれてしまうのは仕方がないのかもしれないが、もう少し冷静に行動するべきだったの。みっともない姿を延々と晒すことになるかもしれなかったのだから」


「あはは・・・そのあたりは本当に反省してるよ。あと感謝もしてる」


康太はケーキを頬張りながら苦笑しているが、テーブルの向かいにいるアリスの表情はあまり良いものとは言えない。


呆れているのだが、同時に康太に対して何か考えているようなのだ。さすがの康太も過度の喜びによる思考能力の低下も収まってきたのかアリスの様子に何かしらの理由があるのだと察することはできていた。


よくよく考えてみれば自分は言葉が通じるからと言ってこんな小さな女の子をお茶に誘ったようなものだ。そう言う風に見てみると自分がまるで重度のロリコンナンパ野郎のように見えてくるから不思議である。


少し他愛のない話に切り替えたほうがいいだろうと思いつき、とりあえず先程からずっと疑問だったことをアリスに問いかけることにした。


「そう言えばアリスってすごい日本語上手だよな?日本に住んでたって言ってたけどどのあたりに住んでたんだ?」


アリスの日本語は日本人の康太から見ても非常に上手だ。むしろ康太と同じかそれ以上に言葉を知っているのではないかと思えるほどに流暢でなおかつ自然なものだった。


「ふむ・・・日本に住んでいたことはあるがだいぶ昔の話だ。もうあまり覚えていない・・・だからどこと言われても・・・それに知っている地名を言っても分からんだろうしな」


「あー・・・子供の頃の話か・・・なるほど、日本語が上手なのもちょっと納得」


人間というのは言語を学習する際に『母語』というものをまず最初に認識する。所謂思考する際に使われる言語だ。


親や周囲の環境にもよるが、一番母語になりやすいのは生まれ育った国の言語だ。アリスの場合幼いころに日本にいたこともあって母語が日本語になっているのだろう。


もちろん母語はあくまでも語学の根幹部分であって、長期間別の場所で育てば当然扱う言語も変わってくるだろう。


だが幼いころに幾つかの言語に触れておくことで、そして母語に近い形で修得しておくことでその言語の修得を容易にすることができる。


恐らく彼女の場合もそう言った類のものなのだろうと康太は勝手に納得していた。


「じゃあその喋り方は?なんか妙に古風っていうか・・・男まさりっていうかそんな感じだけど?」


「ん?これか?これは書物で学んだのだ。目上の者はこういった尊大なしゃべり方をするものだと書いてあったのでな。それなりに様になっているだろう?」


見た目が少女でなければきっと様になっていただろうなという言葉を康太は口の中で留めながらとりあえず笑いながら紅茶を口の中に流し込む。


子供が読むような書物というと童話か小説だろうか。この歳で読みやすいと言えば有名なファンタジー小説かライトノベルと言ったところだろう。


そう言った部分から偏った知識を得てしまったのだなと思いながらも日本語を覚えるきっかけになったのであれば康太としては文句はない。こうして康太の助けになったのだから日本の小説文化には感謝してもし足りないくらいである。


もう少し女の子らしい言葉遣いをしていれば満点だったのだが、これも彼女の個性と思ってあきらめるしかないだろう。


それにどうしてだろうか、この喋り方は彼女に非常に似合っている、そう思うのだ。


別に助けてもらったからおべっかを使うわけでも、この場をごまかすための方便でもなく本心からそう思っていた。


なんというか彼女からは気品のようなものを感じるのだ。それが一体なんなのか、ただの喋り方からくるものではないことくらい康太にも理解できていた。


「でもその歳でそれだけ喋れるってのは凄いよ。さっき英語もペラペラしゃべってたもんな」


「ふふん。人は見た目によらないという事だ。コータも精進するがいい。そのうち英語を流暢に話すことができるやもしれんぞ?」


先程この喫茶店で注文するとき、アリスは康太に代わって注文を引き受けていた。その際に非常に発音の良い英語で店員と話していたのを康太は見ていたのである。


英語に日本語、この二つの言語をさも当たり前のように話すことができている時点で康太からすれば尊敬のまなざしを向けるのに値する。


「というか、学校などで英語は教えておらんのか?先程のあれで本当に習っていると言えるのか?」


「あー・・・まぁその・・・お恥ずかしながら英語は苦手分野でして・・・ていうか俺の歳で英語ペラペラの奴の方が珍しいっての」


「珍しいかどうかはともかく、こうしてイギリスに来ておるのだ、ある程度話せるようになっておくのが当たり前とは思わんのか?」


「・・・おっしゃる通りです」


こんな小さな子に説教されることになるとは思っておらず、康太のプライドはズタズタに引き裂かれていた。もともとあってないようなプライドだったために今さら気にしないのもありだったが、これはこれで教訓として肝に銘じておくことにした。


ブックマーク件数が1500人を突破したのでお祝い2回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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