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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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康太の魔術

康太が学んだ二つ目の魔術の名前は『再現』。文字通り再現することができる魔術ではあるが、何でもかんでも再現できるという都合の良いものではなかった。


再現できるのは自らが動力となった動作のみ。例えば殴る蹴ると言った物理的現象、さらに道具を持ってそれを叩き付けると言った動作、そう言うものが引き起こす衝撃や力を念動力に近い魔術を行使することによって再現することができるというものだった。


この魔術を発動するために必要なのは二行程。まず自分の動作を行いながら魔術的に記憶する書き込み。そしてその記憶を魔術的に再現する読み込み。この二つができて初めてこの魔術は発動するのである。


魔力消費は少なく、魔術師としての素質に欠陥がある康太からすれば燃費も良く非常にありがたい魔術であると言えるだろう。


小百合が自分に正拳突きをやらせたのはこういう意味があったのだ。正拳突きの動作を記憶させ、それを再現させることで魔術的な攻撃ができるようにしたのである。


もっとも結局殴っていることには変わりないが、一呼吸の間に複数回殴ることができると考えれば確かに意味はある。


そしてこの魔術にはいくつか欠点がある。


そのうちの一つは一回の動作に対して一回しか再現ができないという事である。

例えば正拳突きを一回記憶したのなら、魔術で発動できる再現は正拳突き一回だけということになる。


それだけたくさんの再現を行おうと思えば、たくさん記憶する必要があるのだ。同時に何度もそれだけ動作を繰り返す必要があるという事でもある。


そして二つ目の欠点。これは魔術の特性というべきだろうが、自らを動力としたものしか再現できないという事である。


つまり木刀で殴るなどという事は問題なく再現できるのだが、銃を撃つと言ったことは再現できないのだ。


木刀を振っているのはあくまで自分の力だからこそ、その木刀の軌道も威力も問題なく再現できる。だが銃から放たれる弾丸は、薬莢に込められている火薬の力で放たれている。


引き金を引くという動作は再現できても、弾丸が引き起こす破壊などは再現できないのである。


だからこそこうして木刀や肉弾戦に頼らざるを得なくなってしまっているわけである。


そしてさらにもう一つの欠点、こちらの方がむしろ重要だと言えるだろう。この魔術の発動は基本的に自分の体を中心にして行われる。そして再現と言っている通り、元の現象と同じ射程距離しか持たないのである。


拳であれば拳と同じ距離しか届かず、木刀を振り下ろせば同じ距離しか届かない。向きや場所などは多少変えられるが、射程距離だけは絶対的に変わらないものなのだ。


だからこそ、康太は彼女に徹底的に近づこうとした。唯一と言っていい攻撃魔術だ、本来ならばあの一撃で仕留めたいところだった。


この魔術を所有しているという事がばれたら二度と接近させてはくれない。一回の接近で仕留めるのが理想的な勝利への条件だった。


だが相手だって易々と負けてくれるほどやさしくはない。自分がなぜ接近しようとして来ているのか、そして何故接近してきてようやく攻撃魔術を使用したのか。


この二つの事から接近しないと使えないような攻撃魔術しか所有していないという事を悟られてしまっただろう。


元々状況はあちらが有利だったが、これで圧倒的にこちらが不利になってしまった。


なにせこちらの手の内を知られてしまったのだから。


こうなったら相手はもう自分を懐の内にいれてはくれない。どのような手を使ってでも康太が接近してくるのを防いでくるだろう。


木刀の攻撃を二発、自分の拳を三発分当てたというのに彼女はまだ動いている。


さすがに人を殴るという事もあって無意識のうちに手加減してしまっていたのかもしれない。こういう甘いところはきっと後で小百合に叱られることになるだろう。


だがようやく一撃与えることができた。それは向こうも同じ。相打ちに近い形だがこちらも多少のダメージを受けた。


体から、いや服から妙に焦げ臭いにおいがするが今は気にしているだけの余裕はない。


また距離を詰める作業が始まるかと思うと嫌気がさす。


どうやって相手との距離を詰めるべきか。渡り廊下を越えた康太は周囲を見渡す。


だが周囲にライリーベルの姿は見つけることができなかった。


廊下は奥の方まで確認することができる。だがその姿は確認できない。もしや教室に隠れているのではと思ったとき、康太は階段の上へと焦げ臭いにおいが続いていることに気が付いた。


自分の服からも漂う匂い、それが電撃によって衣服がわずかに焦げたものであると気づくのに時間はかからなかった。


ライリーベルは上にいる。それを理解した康太はすぐに階段を駆け上がった。

いつ不意打ちを受けてもいいように警戒していたが、一向にこちらへの攻撃はやってこなかった。


三階にたどり着いても彼女の姿を見つけることはできず、廊下にも一見すると彼女の姿は見つけられない。


そして康太は匂いをたどることにした。匂いは階段のさらに上に続いている。


ここから先は屋上しかない。その事実に康太はようやく理解した。相手は自分を窮地に立たせることで康太を確実に倒すつもりなのだと。


屋上へ登るには各校舎に一つずつしか扉は無い。つまり先に到達すればその場所に狙いを定めれば確実に狙い撃ちできるという事だ。


屋上への階段を確認するがそこにも彼女の姿はなく、屋上に出るための扉がそこにあるだけだ。


彼女はすでに屋上にたどり着いている。このまま悠長に屋上へと向かえば確実に狙い撃ちにされるだろう。どうするべきか、康太は頭を悩ませていた。


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