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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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切り札の理由

「・・・これだけ見ると本当に絶望的ね・・・こいつの奥の手があっても勝負になるかすら怪しいわよ?」


康太が大まかにまとめた簡略資料と実際に送られてきた資料を見比べながら文はため息を吐く。


まだ段ボールの一箱目だというのにすでにその表情には絶望感が見え隠れしている。


康太の所有するDの慟哭の力を使って相手の魔力を削ったとしてもそれでもまだなお敗色の色は濃い。むしろ今のところ見えているのは自分たちの敗北の光景くらいだ。


自分達だけで挑んだ場合負けることは確実だ。ここに本部の魔術師たちが加わった場合どうなるかは文もまだ想像することができていない。


まず本部の魔術師の実力がどの程度のものなのか、そして作戦に参加する魔術師の数はどれほどのものなのか、その二つだけを不確定要素として、なおかつ考えられるだけの最大戦力を組み込んだとしても勝てる気がしなかった。


なにせ数百年にわたってアリシア・メリノス攻略作戦は実行されてきているのだ。歴代の最強の魔術師たちが挑んでなお不可能だったことに康太を含めた魔術師たちが挑もうとしている。


そんなことできるはずがないというほかなかった。彼らが当時挑んだときにはDの慟哭がなかったとはいえ一つの魔術で状況がひっくり返るほど生易しい相手であるとは思えなかったのだ。


ボードゲームや戦略ゲームであれば一つの強力な駒よりも複数個ある脆弱な駒の方が優位に立てる場合はいくらでもある。


だがこれは現実で、何よりその相手は何百年も生き永らえた魔術師。練度も経験も自分達とはケタ違いなのだ。


しかも今までの戦闘の記録から察するに同じような戦いを何度も経験しているのだろう。


同じようなことをしても勝てるはずがない。なにせ相手は似たような戦いで何度も勝利をその手に収めているのだから。


「ですがやるしかありません。相手の魔術の傾向や戦い方などを頭に入れておけばそこまで驚くという事もないでしょう。今回私達・・・というか本部が狙っているのは相手の魔力を徹底的に消費させるまさしく消耗戦です。数の利を正しく使いましょう」


戦いにおいて数が多い方が有利というのは恐らく誰が考えても分かることだろう。

仮に相手がチート級の能力を持った相手だとしても、それはあくまで個人の話だ。一人しかいないのであれば当然できることは限られる。


対してこちらは何十人、もしかしたら百人に届くかもしれない魔術師集団。そこにある差とはつまり個人の消耗の違いである。


一人しかいない状態では当然その一人で大勢の魔術師を相手にしなければいけない。対してこちらは大勢いる中から戦う人間を選別できるのだ。


これがただのボードゲームであれば、一人一人確実に数を減らしていけばいいだけの単純な作業になるだろう。だが実際そう簡単にはいかない。


現実にあってボードゲームなどにはないステータス。それは疲労だ。


相手は一人しかいない。魔力の消耗に関しては一流の魔術師であれば数秒で元通りにできる。康太による魔力吸収を加えれば数秒を数十秒から数分程度変化するかもしれないがそれも圧倒的な有利にはならない。


問題は相手に休ませないという事だ。


今の康太の状況を見ればわかるように、人間というのは適度に休憩しなければパフォーマンスが落ちる。普通なら考え付くようなことも考えられなくなったり、できるようなことができなくなったりと思考的にも行動的にも本来持っている能力が著しく低下してしまうのだ。


恐らく今までも同じようなことを続けてきたのだろう。真理の読んでいる二つ目の段ボールの資料にはそのような内容が含まれているのかもしれない。


その方法を使っても勝てなかった。だが今回は相手にもう一つ追加する内容がある。


それが康太の魔力吸収だ。


魔術師にとって魔力は当然ながら生命線だ。相手にとって魔力が奪われるというのは決していい影響を与えないだろう。


焦りや驚きから少しでも相手がパフォーマンスを落してくれれば御の字だ。そこから切り崩すことができると本部の人間は考えているのだろう。


「それだけで勝てると本気で思ってます?」


「当然思っていませんよ。その程度の変化で勝てるのなら今までの魔術師たちはとっくに彼女を討伐しているでしょう・・・だからこそ考える必要があるんです。私達にできることを」


本部の人間の思惑が封印指定二十八号の無力化だけならばまだよかった。だが今回本部の魔術師はDの慟哭に加え、それを所有している康太に関しても策略を張り巡らしている可能性がある。


本部の考えや作戦を鵜呑みにしては当然痛い目を見るだろう。そしてその痛い目を見るのは自分達ではなく康太なのだ。


兄弟子としてそんなことを許容できるはずがない。


「でもどうするんです?実際俺らにできる事ってこいつを守るくらいしか・・・それも無理かもしれないのにこれ以上何しろってんですか?」


「それを考えるんですよ。簡単に答えが転がっているなら苦労はしません。康太君が抱える苦労を少しでも軽減できるように今頑張るんです」


真理のいう事は正しい。かつて挑んだ魔術師たちも同じように悩んだだろう。そしてそれでも負けてきたのだ。


新しい一手が増えたとはいえ簡単に状況が覆るはずがない。簡単に答えが見つかるはずがないのだから悩むほかないのだ。資料に目を通して唸り始める真理を見て文も同じように資料と格闘を始めていた。


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