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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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その名前

康太の下に封印指定二十八号の資料が届けられたのはその翌々日の事だった。


康太がいつものように小百合の店にやってくると、店の主である小百合が三つほどあるダンボールを眺めて呆れていたのである。


その内の一つはすでに開けられており、その中には㊙と数字の書かれた封筒がいくつも入れられていた。


そしてダンボールの一番上の部分に一つのファイルがあり、それが他の封筒とは違う意味を持っていることを印象付けている。


「来たか。にしてもこんだけ量があるとは・・・」


「それだけそいつの資料が多いという事だろう・・・まずは数字順に読んでいったらどうだ?」


「・・・手伝ってくれないんですか?」


「お前に来た依頼だろうが。お前が読め」


要するに面倒なことは押し付けるなという事なのだろう。康太は文と倉敷、そして真理にメールで資料が届いたという旨を伝えるとダンボールの一番上に置かれているファイルを手に取る。


ファイルの中に入っている資料にはそれぞれの封筒の中に収められている情報の概要が記されていた。


元々の資料の数が多いためにかなりの量になっているが、康太が知りたいところはまず最初に件の人物の概要だった。


人として生きていたのだからそれなりに通り名などがあると思ったのだ。可能なら写真も欲しいところである。


人物概要の記された項目を探すと、一番の封筒にそれらはおさめられているらしく、康太は一番の封筒を手に取るとその中を改め始めた。


その資料の始まりはこのように記されていた。封印指定二十八号という魔術師について。


こういうところで二十八号という人物についてと書かれていないあたり徹底して人間と認めていないかのようである。


その内容を読んでいくうちに康太は一枚の写真を見つけることができた。


それは金髪碧眼の女性だ。白人で少なくとも自分よりはかなり年上だと思うのだがどれくらいの年齢かはわからない。


カラー写真だが他にも写真があるのに気付く。もっとも古い写真は白黒で、それよりさらに前のものになると誰かが書いたであろう絵になっていた。


恐らくこれが封印指定二十八号の姿なのだろう。


「師匠、これ何歳くらいだと思います?」


「ん・・・そうだな・・・大体三十そこらじゃないか?私もそこまで白人の顔に詳しくないから正確なことは言えんが」


カラーでとられた写真を小百合に見せてもそれ以上の情報は得られない。もっとも相手はすでに数百年は生きているであろう人物なのだ。そんな相手に見た目の年齢など気にしている時点でナンセンスなのだろう。


そして康太は資料を読み進めると二十八号の名前と思わしき部分を見つけることができる。


『アリシア・メリノス』それが彼女の名前であるらしい。


出身地不明、生年月日不明、血液型不明。そもそもこのアリシア・メリノスという名前が本名であるかどうかさえ不明。


基本的にわかっていることの方が少ない彼女のことを語る上で必要な項目は魔術を扱うのが非常に上手いという事。


戦闘、工作、索敵、全ての分野において高い能力を持ち、その素質も一流以上。一対一で彼女に勝った、いや彼女に肉薄した魔術師すら皆無であるという。


一つ目の封筒に書かれているのは彼女が魔術協会を立ち上げる際に現れ、彼女の持つ多くの貴族や組織とのつながりを利用して魔術協会の設立に大きく貢献したという事の詳細、というか時系列順に魔術協会立ち上げ前からのことを記していた。


彼女と魔術協会設立メンバーとの接触時の記録。と言ってもこれは当時の設立メンバーの手記からの情報を軽くまとめてあるだけの様でそこまで重要なものではないように思える。


他の設立メンバーとの関わりや、設立の上で彼女が見せた行動をいくつか羅列してあるだけだ。この辺りは省略してもいいだろう。


その後設立メンバーたちは勢力を広めるために多くの魔術師たちを仲間にしていく。多くの仲間ができていく中でルールを決めたり資金繰りを考えたり、組織として何をするかをまとめていったりと組織そのものの方針を決めていく中で彼女はあまり自己主張をせずに常に裏方でいることに終始していたようだ。


なにせこの辺りに彼女の活躍は一切ない。最低限問題があるときに矢面に立ったりすることがある程度でそれ以外は基本メンバーの活躍を見守ったりしていたようだ。


転機が訪れたのは魔術協会とは別の魔術師の組織と正面衝突した時である。


その魔術師のグループは魔術を多く広めるべきであると主張する者たちであったようだ。当然魔術協会としては魔術を隠匿するべきであるという考えは昔から変わらなかったらしく、そのグループを殲滅することにした。


そしてその戦闘の際、封印指定二十八号ことアリシア・メリノスは敵魔術師の血を吸い取った。いや飲んでいたという方が正確だろうか。


普段目立たなかった彼女だからこそその行動が際立ったというべきだろう。設立メンバーの中でも大人しくそこまで自己主張をせず、自ら誰かを引っ張ったり意見するという事もしなかった彼女にそのような一面があったという事から多くの人間が彼女の彼女としての認識を覆していた。


だからこそ、そうした行動の中で一つの疑問に気づいたのだろう。


彼女は何故歳をとらないのかという、気づくべき違和感とその疑問を彼らはその時になってようやく気付いたのだ。


さすがに当時の絵や写真などは存在せず、彼女の大まかな特徴しか書かれていなかった。身長は低く、金色の髪に青い目をした女であることとしか書かれておらず、それ以外の彼女の特徴や詳細については知ることができなかった。


一つ目の封筒の中身は大まかにしてこのようなものだ。資料の最後の方に本部の人間の考察のようなものが記されている。ご丁寧にその考察を書く前に『ここから先の文章は本部の人間の解釈及び個人的な想像が含まれているので注意』と書かれていた。


そこに書かれていたのはアリシア・メリノスがどのような人物であったのかという考察だ。


具体的には彼女の生まれとその血筋について。


いくつもの貴族や組織と個人的なつながりがあったことから、彼女の生まれは貴族、しかもかなり高い位にあった血筋ではないかという事が記されていた。


当時の時代でそこまで大きな貴族となると数が限られるが、そのどれともファミリーネームが異なっていたためにこの名前は偽名ではないか、あるいはその親類の名を使っているのではないか、または既にほかの家に嫁に出ていたのではないかといろいろと書かれている。


そのどれもが『あり得る』と思えるだけの内容だっただけに康太としては頭ごなしに否定するつもりはなかったが、どれも客観性に欠ける内容であったために頭の片隅に入れておく程度の認識しか持てなかった。


だがこの資料を読んでようやくわかったことがある。何よりこの情報は大きかった。


今まで封印指定二十八号としか呼ぶことができなかったが、康太はようやく今回の目標の名前を知ることができたのだ。


『アリシア・メリノス』今回自分が倒すべき魔術師の名前だ。


もっとも倒すなどと言ったが康太にそれができるとは思えないだけに気が重い。写真に写されている人物を見ながら康太は目を細める。


一体どんな人物だろう。一体どんな声をしているだろう。どんな考えを持ち、どのような魔術を覚えているのだろう。


疑問と興味は尽きなかった。写真の中にいる女性の姿、そして資料に記された最低限の情報しか康太は得られていない。


これ以上を知るにはさらに資料を読み込まなければいけないだろう。


「どうですか?何かわかりましたか?」


康太が資料を読み込んで写真をじっと見ていたら急に後ろから声がする。康太は一瞬身を強張らせてその声の主を視界に収めるとそこには兄弟子の真理が立っていた。


康太の手に持っている写真を覗き込むようにこちらの様子を窺っている。


「姉さん・・・いつの間に・・・」


「つい先ほど・・・随分集中して読んでいたので声をかけるのを少し戸惑いました」


ちゃぶ台の上には康太が読んでいた資料に加え、恐らく真理が淹れたであろう茶と茶菓子が用意されていた。


どうやら集中しすぎて真理の来訪に気付けていなかったらしい。集中しすぎるのも考え物だなと康太は苦笑してしまう。


「すいません・・・まさか姉さんに気付かないとは・・・」


「ふふ・・・それで何かわかりましたか?随分と熱心に読んでいましたけど」


「えっと・・・まだたいしたことは・・・でもとりあえず相手の名前はわかりましたよ」


アリシア・メリノス。その名前は康太の中にしっかりと刻み込まれた。相手がそもそも女であるということに真理は驚いたようだが、それでも康太の読んでいた資料を流し読みしてその情報が間違いではないことを理解したのだろう。


ふむと小さくつぶやいてから康太が先程見ていた写真を手に取って悩み始めた。


「まだ資料の一部・・・ここからまだダンボール三箱分の情報があるわけですから、手分けしたほうがよさそうですね・・・とりあえず私は二つ目の段ボールから読むことにしましょう」


「いいんですか?だいぶ多いですけど・・・」


「構いませんよ。康太君にばかり負担を強いるわけにはいきません。これくらいは協力しますとも」


爽やかな笑みを浮かべて二つ目の段ボールの中を開いていく真理を見て康太は僅かに目頭が熱くなる。


やはり自分はよい兄弟子を持ったものだと感動すると同時に先程からまったくもって関わろうとしない小百合の方を見てため息を吐く。


「・・・ありがとうございます姉さん。それに比べて師匠は・・・」


「あ?私は弟子には厳しくいくタイプなんだ。そもそもそう言う情報というのはあくまで頭の片隅に入れておく程度でいいんだ。なにせ相手が相手だ。いちいちすべての力を見せているわけでもあるまいし気休めにしかならん」


先程資料の概要をファイルの中から読み取り、その上でこの資料の山を読む価値がないという風に小百合は思ったのだろう。


実際ここに記されている資料のほとんどはアリシア・メリノスを討伐しようとしたときの結果と詳細だ。


前半の一部分はまだ彼女が封印指定に名を記される前のものもあるのだが、その頃から彼女は可能な限り目立たず、だがその実力は確かにあるようなそぶりを保っていた。


設立メンバーの一人であるというのに目立たないというのもおかしな話ではあるが、その時点で彼女がどれほどの実力を持っているかがうかがえる。


康太はなんとなくではあるが彼女は昔から暗示の魔術を使っていたのではないかと思っていた。


暗示の魔術は確かにその理屈を知っている魔術師には効きにくい。だが決して効かないというわけではないのだ。


高い実力をもってすれば同じ魔術師にも問題なく暗示の魔術はかけられる。それだけの実力を設立当時から有していた可能性は否めないのだ。


間違えて日曜日分を土曜日に投稿するという失態を侵しましたが改めて日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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