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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
一話「幸か不幸か」
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遭遇

康太がベッドに横たわってどれだけ時間が経っただろう、ふと部屋の中に寒気が満ちていることに気付いた。


自分は部屋の窓を閉め忘れたのだろうかと体を起こして窓を閉めようとするが、体が動かなかった。


ひょっとしてこれが金縛りというやつだろうか。今日という日は何と物珍しいことが連続で起きる日なのだろうかと康太は半ば嫌気がさしていた。


目だけは開かないだろうかとゆっくりと目を開けるとそこには明らかに不審者っぽい、というか不審者以外の何者でもないような人物がいた。


顔にはひび割れた仮面、そして黒い外套を纏った何者か。それを見た瞬間悲鳴を上げかけるが、不審者に口を押さえられたせいでその声は出ることはなかった。


そしてよくよく観察してみれば、ひび割れた仮面がそう言うデザインのもので、実際に割れているものではないのだなと気づくことができる。


こんなくだらないことを知っても仕方がないと他にも何か情報は無いものかと視線を上下左右に向ける。


すると外套の下にある衣服を少しだけ覗くことができた。


その体つき、というか体のラインからして女性だろうか。胸部のふくらみから察するに間違いないだろう。


なかなかいい情報が手に入ったと思いながらも勝手に侵入されていることに違いはない。もしかしたら自分はここで命を落としてしまうのではないかと思ったほどである。というか今この時点でもそう思っているほどである。


悲鳴を上げようとした瞬間、康太の口はその不審者の手で押さえつけられてしまった。


強盗だろうか、自分の家に盗むようなものなんてありはしない。ごくごく一般的な平凡な家庭なのだから。


康太が怯えているのが目に見えてわかったのだろう、目の前にいる不審者の女性は小さくため息をついていた。


「暴れるな、声をあげるな。そうすれば今は殺さない」


今は


その言葉では何の安心もできないが、とりあえず少しでも生きていたいという気持ちが康太を支配していた。口を押さえられながらもなんとか了解したという意味を込めて首を縦に振る。


不審者の女性はよろしいと言ってゆっくりと康太の口を押さえる手から力を抜いていく。だがその手を口から離そうとはしなかった。


「お前は、あの時私を見ていたな?」


見ていた?どこで?こんないかにも怪しい人物を見たらそれこそ忘れない。だが康太はこんな人物を見たことはなかった。


明らかに戸惑っているのがわかると、目の前の女性はため息をついたあとで舌打ちをする


「工事現場のビルだ、炎が上がったのをお前は見ていたはずだ」


炎が上がったビル


そのキーワードに康太は覚えがあった。ラーメン屋から家に帰る途中、小道に入った時に唐突に炎が吹き上がったビル。見間違えかとも思ったがあの場では確かに炎が上がっていた。


康太の表情の変化を見てやっぱりなと女性は確信を深めたのか、再度ため息をついて見せた。


「お前は見てはいけないものを見た。所謂魔術師同士の戦いというやつだ」


唐突な女性の言葉に康太は疑問符を飛ばしてしまう。彼女は今一体何を言ったのだろうか、なんといったのだろうか。


康太の耳が確かなら魔術師がどうのと言っていた。何がどうなっているのか、この人物の頭は正気なのかなど康太が混乱している中女性は構わずに言葉を続けている。


「本来魔術は隠匿されなければならない。その魔術師の戦いをお前は見た。故にお前の記憶を抹消しておかなければならないんだが・・・私はそう言うのは不得手でな。お前には死んでもらうことにしたんだ。」


一体この人が何を言っているのかわからない。いきなり魔術がどうの戦いがどうのと言われたところでそれがどうしたの一言だ。さらにいきなりお前に死んでもらうことにしたなどとぶっ飛んだことを言われてどう反応すればいいのか。突拍子もなさ過ぎて話の展開が早すぎて満足にリアクションをとることもできない。


そして訳が分からないというのを康太の表情を見て察したのか、目の前の女性はもう少し噛み砕いて説明し始める。


「本来記憶を消すんだろうが、先も言ったが私はそう言うのが苦手でな、無理に消そうとすると最悪植物状態になる・・・まぁ一生ベッドの上だ。だから手っ取り早く死なせてやった方がいいと思ったんだ」


やっぱり自分は殺されるのだろうかと戦々恐々する中、眼前にいる女性が薄く笑い始める。仮面をつけているせいでその表情は見えないがその声は楽しそうにしているのだ。


どこか狂気じみた声に康太は背筋が凍り付いていた。


「それで事故死に見せかけようとしていろいろ手を尽くしたというのに・・・まさか私の攻撃が二度連続で避けられるとは思っていなかった・・・一度ならまだしも二度連続で避けて見せたのはお前が初めてだ。」


何が初めてなのかを考えるような暇も、余裕も康太にはなかった。殺されるのではないかという恐怖心が康太から正常な思考能力を奪っているのだ。


「だが気が変わってな・・・もう一つ選択肢を与えることにした」


選択肢、その言葉に康太は眉をひそめる。まだ自分は生きていられるのか、生きることができるのかと思っている中、女性は少し呆れたような声を出していた。


一体何を言っているのか


女性の言葉を理解し始めたころ、康太は今日あったことを思い出す。


一生に一度あるかないかという珍妙で衝撃的な事故。しかも短時間に二連続も起きたその出来事のことを。


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