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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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調べるもの

「ありがとうございます。条件に関しては問題ありません。他に知りたいようなこともありませんし・・・ていうかなんだかすいません・・・面倒をかけてしまって」


「気にしなくていいよ。力になると言っておきながら結局ほぼ何もできなかったからね。このくらいはしないとこっちとしても少し恥ずかしい」


支部長の依頼という形で本部からの依頼を回避しようという考えは向こう側の条件によってあっさりと打ち砕かれてしまった。


せっかく力を貸すと宣言してくれたのに全く役に立たなかったのでは支部長としてもいろいろ思うところがあったのだろう。


ただの一介の魔術師に一時的に、なおかつ一部ではあるとはいえ閲覧禁止であった文書の閲覧権限を渡すというのは異例だ。


支部長が康太に対して力になりたいと思っているというのは嘘ではないのだろう。


「まったくだ。力を貸すと言っておきながら全く役に立っていなかったからな。そう言うところは昔から変わらん」


「クラリスこそ、今回はほとんど彼に丸投げしているようだったけど?師匠だというのに随分と大人しかったじゃないか」


支部長としては少しでも小百合にかみつくつもりだったのだろうが、彼女はそんな言葉を向けられても平然としている。それどころかこいつは一体何を言っているんだという風に呆れた様子でため息をついて見せた。


「当たり前だ。出しゃばったらその分だけ私に対しての妨害工作の可能性が増えかねん。今回は私もジョアもだいぶ大人しくしていた方だ・・・相手がどのようにとったかはわからんがな」


本部側が何かしてくるとすれば師匠である小百合を康太から遠ざけるくらいのものだろう。康太からすれば小百合を遠ざけられるのは少々辛いところがある。もっとつらいのは兄弟子である真理も同様に遠ざけられることだ。


信頼できる戦力は確保することがそもそも難しいためにこれ以上削られるのはあまりうれしい状況ではない。


「とにかく、資料の閲覧に関しては君の好きにしてくれて構わない。もっとも日本支部にある資料だとあまり参考にはならないかもしれないけどね・・・なにせ本部よりだいぶ歴史が浅いから・・・」


「まぁそのあたりは仕方有りません。できることを地道にやっていきますよ。とりあえず今回の協力してくれる連中に話だけはしておかなきゃ。それにいろいろ調べたいこともありますし」


依頼を受けることが確実になり、なおかつ詳細な情報も出てきたのだ。依頼に関しての具体案を決める段階に入ったと言ってもいいだろう。


無論さらに詳細に話をつめるには本部から封印指定二十八号の資料が届かなければできないのだが、手がかりはある。


「調べると言ってもどうするんです?今のところ本部の情報待ちのような気がしますが・・・」


「まぁ正直俺としてもあまり期待はしていないんですけどね・・・本部にある魔術の中で『血を吸う』魔術に関しての調査と『吸血鬼』に関していろいろ調べておくつもりです。せっかくキーワードとして出てきたわけですしね」


康太の言葉にその場にいた全員が何やら考え始める。確かに康太がやろうとしていることは無駄とは言えない。だが今回の事を考えると効率的とも、高い効果があるとも思えないものだった。


「それなら二十八号が使う魔術に関して徹底的に調べたほうがいいんじゃないのかい?ある程度こっちも資料があるわけだし、そのあたりから始めても・・・」


「んー・・・ぶっちゃけ相手がどんな魔術使うのかって調べても当てにならないんですよね・・・普通の魔術師だったらいいんですけど・・・何百年も生きてる魔術師相手だとどんな魔術も精度も練度も高すぎて・・・それにオリジナルの魔術使ってたら調べようがないですし」


魔術とはもともとは人が生み出したものだ。過去に存在した魔術師たちが自らの英知を結集して作り出したものであり、昔から魔導書に記されている魔術でも現在ではさらに改変や改良がされているものも多い。


さらに言えば小百合の師匠が生み出した解析の魔術のように一からオリジナルの魔術を作り出すことだってできるのだ。やろうと思えば康太にもできるかもしれないがその点は今はおいておくことにする。


仮に今回閲覧できるようになる資料で相手がどのような魔術を使うかという記述が載っていたとしても、それが魔術協会に残された魔導書のものと一致するかは微妙なところなのだ。


それならこういった魔術を使う程度の認識であっても問題はない。そもそも今回の相手は魔術を使わせた時点で康太の負けがほぼ確定してしまうような桁違いの相手だ。相手が使う魔術を正確に把握したところで全くと言って良い程に意味がない。


康太のように所有している魔術の数が少ないのであればそれは十分アドバンテージになり得たのかもしれないが、相手はきっと数百、もしかしたら数千の魔術を所有しているかもしれないのだ。


数千の中のいくつかを把握したところで焼け石に水だ。それなら多少胡散臭くてもキーワードを絞って相手の正体に関して考察したほうがいい。


人間ではないと言わしめる存在が、本当に人間ではないのか。そして異名ともなっている吸血鬼が真実なのか否か。


康太の知る吸血鬼というイメージと今回対峙する相手の実情が一致しているかどうかは大きな分水嶺になるだろう。


人間か化物か、可能なら前者であってほしいなと思う康太の願いが通じるかどうかは実際に調べてみなければわからないことだ。













「・・・なるほどね・・・それで今日はこっちに呼び出したわけだ」


「あぁ、とりあえず調べられることは可能な限り調べた。いろいろと余計な出費もあったけどまぁ良しとしようや・・・ここでも調べたいことがあるし一石二鳥だ」


「それはいいけど・・・迷惑じゃないのか?俺がここに居座るのは・・・」


依頼の話をある程度学校にいる間に文と倉敷にした後、魔術師装束に着替えて魔術協会日本支部の魔導書保管庫にやってきていた。


数多くの蔵書に加え、いくつか個人のスペースを確保するために個室も存在している。個室に関しては事前予約制だがそのあたりの根回しはすでにしてある。この場には康太と文、そして倉敷しかいない。


普段康太はここを使うことはないが、魔術協会の日本支部に保管されている魔導書の量もそれなり以上のものだ。それらを閲覧するための権限は康太と文はすでに有している。


ただ精霊術師の倉敷は少々気まずそうにしている。周りの目がない個室を選んだとはいえ気になるものは気になるのだろう。


「それで?今回私たちを呼んだ理由は?何か情報あったの?」


「情報あったっていうか・・・今回の相手が封印指定二十八号なのは話したよな?」


「あぁ・・・吸血鬼とか言われてるんだっけか?そんなのいるのかよって思ったけど・・・」


倉敷の反応はもっともだ。吸血鬼など空想の産物。実際に現実にいるはずがないというのが普通の考えであり常識人の認識だ。


だが康太たちは良くも悪くも常識の外側に位置する者。常識を疑う事も時には必要なのだ。その必要性を文はよく理解しているようだった。


「それをあんたが言う?精霊を使役してるくせに吸血鬼はいないなんてどうしてわかるのよ。精霊は信じても吸血鬼は信じないじゃ理屈としては通らないわよ?」


基本的にどっちも普通はあり得ない奴らなんだからと付け足しながら文は自分の体の中にいる精霊を体外へと取り出して飛翔させる。


この場にいる三人はすでに人ならざる超常的な存在をその身に宿しているのだ。文と倉敷は精霊を、康太はデビットの残滓を。


普通であれば頭がおかしくなってしまったのではないかと思われるような考え方でも康太たちは真面目に考察できる。何故なら普通ではありえない超常的な存在をすでに知っているし見ているし世話になっているのだから。


「文のいう通りだ。今回の相手が吸血鬼の可能性がある以上、それが本当にいるのかどうかってところから考えなきゃいけない・・・いけないんだけど・・・調べれば調べる程吸血鬼の存在ってただの妄想っていう答えに収束していくんだよな・・・」


「そうなの?なんだ・・・ちょっと楽しみにしてたんだけどな・・・」


「リアル吸血鬼がいたら楽しみだったんだけどな・・・さすがにその線はないか?」


「ん・・・まぁとりあえず俺が調べた内容とか話していくか・・・二人とも吸血鬼って聞いて何を思い浮かべる?」


康太の言葉に二人はほぼ同じような想像を頭の中に思い浮かべた。


それは白人で黒いマントを付けていて、所謂伯爵のような貴族に近い恰好をしている人物だ。二人とも男性を思い浮かべ、さらには口元から血を垂れ流しているところも同じだった。


その想像を口に出して説明すると、二人とも同じものを吸血鬼と認識していることがわかる。


「日本語で吸血鬼って文字があるのに、思い浮かべるのは海外の所謂ドラキュラだ。つまりこの吸血鬼っていう単語はドラキュラみたいなのが海外から伝わってきてからできた言葉ってことだな」


「そうか?日本にもそれらしい奴いるんじゃねえの?ほら妖怪とか」


「でも妖怪にそう言うのがいたら普通吸血鬼って名前が出てきたらそっちをイメージするようにならない?どうなの康太?」


「調べてみたけど、一応血を吸う妖怪とかはいるみたいだけど大体他の名前を使われてたな。少なくとも吸血鬼っていう妖怪はいない」


康太が調べたのは吸血鬼のルーツ、そして吸血鬼にまつわる伝承の裏側、さらには日本と吸血鬼の関係性についてだった。


最後の一つに関してはほとんど康太の興味本位で調べたことだったが、それでもある程度面白い知識が手に入っただけ無駄ではなかっただろう。


「それで?じゃあその吸血鬼について何がわかったの?さっき人の妄想みたいなこと言ってたけど」


「うん・・・それなんだけどさ・・・二人とも吸血鬼のオリジナルって何だと思う?所謂原典」


「原典って・・・そうだな・・・ドラキュラ伯爵とかそうじゃなかったっけ?ヴラドだったかなんだったか?」


倉敷もそこまで詳しいわけではなくともドラキュラ伯爵という名前くらいは知っているようだった。そしてそのドラキュラ伯爵のモデルの一人となったヴラド・ツェペシュについてもぼんやりとではあるが知識があるようだった。


どうやら文も似たようなものであるらしく、ニンニクや十字架、太陽の光が弱点で流水を渡ることができないなどいくつかの特徴を呟くように上げて見せる。


やはり一般的な吸血鬼のイメージとなるとそう言う形になるだろうなと康太は目を細めてどう説明したものかと悩みだす。


「その小説、たぶん吸血鬼ドラキュラだと思うけど、その作品も元々は別の作品の吸血鬼の特徴を使ってたりするんだぞ?『カーミラ』って聞いたことあるか?」


康太の問いに文と倉敷は同時に首を横に振る。康太も調べるまで吸血鬼のことなど先程までの二人と同程度の知識しかなかったためにあまり偉そうなことは言えないが、これだけ吸血鬼という存在が知られていながらその実態や原典をほとんどの人間が知らないというのも考え物だなと思いながら吸血鬼についての説明をしていく。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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