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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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封印指定二十八号

封印指定二十八号。その魔術師は出生や細かな情報はほとんどが不明となっている。この辺りは協会にある資料の中にも記載されていないのだとか。


だがその魔術師がどのあたりから存在したかは記述が残されていた。


それは魔術協会発足に関わる文章。その中に、件の二十八号の名前が記されている。つまり封印指定二十八号は魔術協会創設メンバーの一人なのだ。


だがその時にはすでにかなり高い実力を有しており、創設メンバーの中でも群を抜いた能力を有していたと記されている。


魔術協会を設立する時点で多くの貴族、そして著名人などの協力を取り付け協会設立に大きく貢献したとも記されていた。これだけ見ればむしろ協会の生みの親と言っても過言ではないほどの魔術師だ。


この時点からすでに協会の人間の何人かは彼女に強い警戒心を抱いていたのかもしれない。それだけの実力がありながら彼女は見返りを一切求めなかったのだから。何かを企んでいると考えても不思議ではない。


そしてその魔術師が封印指定二十八号に記録されるのは魔術協会が設立されてから五十年ほどが経過した時だ。所属する魔術師たちも増え、勢力を拡大していく組織の中で彼女は唯一と言って良い程にまったく何も変わらなかった。


思想や行動、言動やふるまいだけではなくその外見でさえも。


そう、その魔術師は老いることがなかったのだ。当時はまだ魔術師装束というものが確立しておらず、素性を隠すという文化もあまりなかった。そこにいるのは純粋な魔術師だけ。むしろ積極的に素性を明かして協力していかなければならない時代でもあったのだ。


そのせいもあって彼女の変化のなさは周りの魔術師たちに大きく違和感を植え付けた。


そして事件は起きる。その魔術師の引き起こした、いや解決した事件の中でとある行動をとっていたのだという。


それは殺した相手の魔術師の血を飲むというものだった。


明らかに異常な行動、そして一向に老いることがないその魔術師を確認して多くの魔術師が恐怖と疑念を持った。


いつまでも老いることがなく血を飲む魔術師。そこに記された事実から後にこの魔術師はこのように呼ばれることになる。


『吸血鬼』


文字通り血を吸う鬼。その魔術師はその時から魔術協会に封印指定二十八号として名を刻み、人ならざるものとして危険視されることになる。


多くの魔術師が封印指定二十八号を討伐しようと戦いを挑んだらしいが、その全てを打ち滅し、圧倒的な実力差を見せつけて来た。


一対一でも多対一でも、封印指定二十八号が負けることは一度もなかったという。

そしてその魔術師は、封印指定二十八号は何百年経った今もなお生き続けている。協会の封印指定の項目に名を刻みながら。


この情報を知り、康太たちは悩み始める。康太、小百合、真理それぞれ悩む内容は違うだろう。その中で康太が抱いた疑問、というか気になった点がある。


「・・・その封印指定二十八号は今もなお生きてるんですよね?」


「そうだ。こちらでも確認できている」


「・・・それって本当に同一人物なんですか?」


まず根本的な疑問からだ。その封印指定二十八号が本当に数百年前から、具体的には魔術協会の設立当時から生き続けている存在なのかどうかという点だ。


現在ならそれほど不思議な話でもない。クローンなどの技術があれば全く同じ人間を作り出すこともできるだろう。


魔術によって似たようなことができるのであれば、生き続けなくとも次々と新しい個体を生み出していけばいいだけの話だ。


もっとも康太の陳腐な想像であるためにそんなことが実際にできるのかどうかは怪しいところではあるが。


「・・・つまり、何人もの人間が世代ごとに入れ替わっているのではないか・・・そう言いたいのか?」


「まぁそう言う事です。同じように昔から生きてる人がいないですから判別できませんけど・・・そんなに長く生きてる人間がいるなんて信じられません」


「だから私は人間ではないと考えているんだ。それこそ人外の類である可能性が高い。私たちが知らないだけでそう言う存在が満ちている可能性はあるんだ」


確かに康太も魔術師になるまでは精霊の存在などおとぎ話かゲームの中だけだと思っていた。


自分達が知っているすべてが世界の全てであるという確証はない。まだまだ世界には不思議が満ちていると言っても別に驚きはしない。


少なくとも今回の相手はそう言う少々特殊な部類のものであるというのは間違いないだろう。


康太たちの常識の枠にとらわれない、例外中の例外。同じく例外を身に宿している康太からすれば納得はできなくても強く否定する気持ちにならないのも仕方のない話だ。


「その魔術師って強いんですよね?少なくとも今生きているどの魔術師よりも」


「・・・そうだな。不本意だがあれに勝てる者がいるとは思えない」


「そんな魔術師を監視してて危険はないんですか?」


康太たちに今回の話を持ってきたヘンプ・ドートは今回の依頼対象をすでに監視下に置いているようなことを言っていた。つまり件の魔術師封印指定二十八号の居場所をすでに掴み、なおかつ監視し続けているということになる。


相手は高位の魔術師だ。何枚も上手の魔術師にそんな監視をするような真似をして問題はないのだろうかと思ったのだ。


それこそ康太だって相手が敵意を持っていれば近くに敵がいるかどうか位は判別できるのだ。何百年も生きて来た魔術師ならそのくらいできるはずである。


「君の疑問ももっともだ。だがこれはかなり昔からの共通したことなんだが、封印指定二十八号は自分からは手を出さない。攻撃されてから必ず反撃する。それまでは静観を貫くのがポリシーらしい」


自分からは手を出さない。恐らく今までも何度もあったことなのだろう。話に聞くと何度となく封印指定二十八号を討伐しようと作戦を練ったことがあるのだろう。その全てにおいてその魔術師は絶対に反撃という手段以外をとらなかった。


口でどうこう言うレベルではなく、何度も何度も繰り返されてきたからわかる奇妙な信頼というか確証なのだろう。


今監視していても、仮にそれに気付いていたとしてもその魔術師は手を出してくることはない。こちらから手を出さない限りは。


そしてその言葉を聞いて康太はさらに疑問が浮かぶ。これは根本的な疑問だ。この依頼の根幹に位置すると言ってもいいほどの疑問だ。


「そもそもなんであなたたちはその封印指定二十八号を無力化しようとしてるんですか?手を出さなければ攻撃してこないのなら放っておけばいいのに」


こちらに対して攻撃をしてこないというのであればこちらから手を出さなければそれほど危険度は高くないはずだ。


今までの話を聞く限りその魔術師は敵に対しては容赦がないようだが味方に対しては、特に魔術協会を設立することには大きく貢献している。


もし人間でなかったとして、封印指定に名を連ねることはまだ理解できるのだが危険を冒してまで戦いを挑むだけの価値があるのか。


今まで『どうやって』や『いつ』『どこで』などの話はしてきたがこの依頼の根本でもある『どういう理由で』というのが抜けているのだ。


それが人間ではなく、存在しているだけで害を振りまくような危険な生物であるというのなら魔術の隠匿性などを考えても排除しなければならないというのは理解できる。


だが魔術師として存在し、なおかつこちらに一方的に危害を加えるわけでもないのに排除しようというのは少々筋が通らない。


何か理由があるのではないかと思ったのだが、本部長はこう切り出した。


「今はまだいい。だがこれから向こうがこちらを滅ぼさないとも限らない。何よりあれは危険すぎる。一般人に被害が出る前に、そして魔術の存在を露見させないためにも可能な限り早く無力化しなければならない」


康太の疑問に対しての答えに対しては明らかに不十分だ。意図的に何かを隠しているようにすら思える。


そして先ほどから、いや今までの依頼の話の中でも無力化という言葉は何度も聞いてきた。何故『討伐』や『処分』『殺害』と言った直接的な表現を使わないのか康太には疑問だった。


今までも何度も何度も相手を倒そうとしてきたのならそれくらいの表現は問題ないように思える。なのにこの状況においてそれを使わない。


ここにこそ今回の話の肝であり裏があると康太は考えていた。ここでその話をしてもきっとはぐらかされる。ここから先は自分で何とか調べなければいけないだろうと康太は出かけた疑問の言葉を口内で押しとどめ、別の疑問を投げかけることにした。


「じゃあまだいくつか質問がありますけど・・・その魔術師は普通に日の下を歩いたりしてるんですか?」


「あぁ。吸血鬼の名を持ってはいるが吸血鬼らしい一面はないと言っても過言ではないな。少なくとも私は見たことがない」


「・・・本部長自体はその封印指定二十八号を見たことは?」


「・・・ある。何度もな」


何度も見たことがある。封印指定に名を連ねていながらも目撃証言がいくつもあるというのも考え物だ。というか本人にその自覚があるのかがまず疑問である。


だがまだ情報が足りない。とりあえず康太から出す条件の中に一つ追加されそうである。


「・・・依頼の詳細についての話に戻りますけど・・・今回のスケジュールは俺に合わせてくれるんですよね?」


「あぁ。そちらに任せよう。早めに日時を決めておいてくれると助かる」


「それに関してはもうこちらで決めてあります。ただもう一つお願いが、こちらも準備とか心構えがありますんでそちらの作戦のゴーサインを出すのを俺に任せてもらえませんか?」


本部の魔術師がどのような作戦を考えているのかはわからないが、今回の作戦の肝が康太である以上そこまで矛盾した条件ではないのは明らかだ。


康太の準備が整っていないにもかかわらず先行して失敗したなどという事があっては目も当てられない。


これは断られないだろうと康太は確信していた。そしてその確信通り本部長は小さくうなずいてみせる。


「わかった。そちらのタイミングでこちらも行動を起こそう。他に何かこちらでできることはあるか?」


「まぁその封印指定二十八号に関する資料は今までの全て、記録されているものすべてをください。日本語訳にして可能なら数日中に。いろいろ研究したいですし」


「すべて・・・と来たか・・・不可能ではないが・・・時間がかかるな・・・」


「何も一人でそれをやらせろとは言いませんよ。何人もの魔術師にやらせてください。今回の作戦に参加する魔術師に一時的に閲覧権限を与えるなりすれば可能でしょう」


封印指定二十八号についての記録が仮に閲覧厳禁のものだったとしても、今回参加する魔術師はその存在をすでに知っていると見て間違いない。


彼らに正しい情報を与えるという意味でも、そして康太が早く情報を得るためにもこの手は必要だ。もしかしたら本部の中にも味方を作ることができるかもしれない。


本部長はだいぶ渋っていたようだが、数十秒間考えた後でわかったと返答してくれる。


今のところ康太にできるのはここまでだ。康太は自分の都合のいい日時を告げた後で小さく息を吐く。これであとは情報待ちということになる。ここで康太たちの依頼についての話し合いは終了となった。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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