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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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本部上層部

康太たちは協会本部からの召集に応じていた。


日本時間で土曜日の夜、イギリスの時間ではまだ土曜日の昼間だが、康太たちは協会から通じて本部へと乗り込んでいた。


協会本部にやってきたのは合計六人。康太、小百合、真理、支部長、そして支部長の紹介で同行することになった通訳と記録員だ。


康太たちが本部に到着すると待ち構えていた二人の魔術師が六人の姿を一瞥し話しかけてくる。


当然英語であるために康太はその内容を理解することができないが、即座に康太のすぐ後ろに立っている通訳がその言葉を訳し始めた。


「ブライトビーで間違いはないな?」


「間違いない。本部の召集により足を運んだ。今回の依頼の件についての話し合いをするとのことだが、案内してほしい」


「こっちだ。連れも全員ついてこい」


英語にはそもそも敬語という概念がないためにこういう通訳になるのか、それともこの通訳が意図的にそう言う風に通訳しているのかは分からないが康太たちは二人の魔術師の後に続くことにした。


そして康太と真理はその二人に続いて歩いている中気づくことができる。この二人は先日協会の日本支部で話し合いをしている部屋の前に立っていた二人であるという事を。


恐らく協会本部専属の魔術師なのだろう。こういった特殊な事案には彼らのような魔術師が出てくるという事だ。


二人が案内して到達したのは大きな扉のある部屋だった。両開きの部屋には荘厳な装飾が施されており、ここがただの客室ではないのは誰の目にも明らかだった。


「ビー、今回の交渉はお前が主体になれ。もし何か助け舟が必要なら合図しろ。いいな?」


後の方から小さな声で小百合がそうつぶやくと、康太は声に出さず小さくうなずくことで返事をした。


前を歩いていた二人が扉を開くと、その部屋の内部が明らかになる。


巨大なテーブルと、それを囲むように存在している椅子。扉の向こう側、つまり部屋の奥側に座っている人物たち。


扉の真正面に座っている魔術師が一人、そのやや後ろに立っている魔術師が二人。そしてテーブルに正面の魔術師の左右に二人ずつ座る形でこちらを待ち構えていた。


そして少し離れたところに小さな机が一つ、そこにノートを広げている魔術師が一人。あれが記録員であるというのはすぐに理解できた。


この場にいる魔術師たちが魔術協会本部の上層部。康太は僅かに息を飲んでから部屋に足を踏み入れた。


こちらに用意されている椅子は四つ。通訳と記録員用の椅子は用意されていないようだった。だがその代わりに記録員用の机と筆記用具の用意された机がもう一つ用意されている。支部長は記録のためにやってきた魔術師をそこに座らせると康太の背をそっと押した。


ここから交渉が始まるのだという事を意識して康太は僅かに深呼吸する。


仮面をつけていても康太が緊張しているのがわかる。当然と言えば当然かもしれない。魔術師が本部の上層部の人間に会うなんてことはそうそうないことだ。


魔術師としての自覚があまりない康太だってこれがどれだけすごいことかはわかる。


支社の平社員が本社の社長に直々に面接されているようなものだ。これで緊張するなという方が無理な話である。


「来てくれたことにまず礼を言おうブライトビー。こちらの依頼を受けてくれるという事だが相違ないか?」


向こうの言葉を即座に通訳してくれるのはありがたい。この通訳に間違いがなければ相手としては最終確認をするつもりだろう。


言葉には気を付けなければならないなと思いながら康太は口を開く。


「依頼を受けるにあたっての条件はいくつかあるが、それさえ満たしてくれればこちらとしても協力するのは吝かではない。まずは自己紹介などから始めていってくれるとありがたく思います」


まだ依頼を受けられるかはわからない。すべてそちら次第だという意味を込めて康太が発言すると、正面にいる魔術師は小さく何度か頷きながら手を康太たちの方に用意されている椅子の方に向ける。


「自己紹介をする前にまず座り給え。ゆっくり話をするにも腰を落ち着けて話さなければ・・・そう警戒することもない」


とりあえずは座って話そうという事で康太は片目を閉じて用意された椅子に解析の魔術をかける。


少なくともこれはただの椅子だ。何かしらの仕掛けがされているということはなさそうだった。


「通訳の人の分の椅子を一ついただけますか?立ちっぱなしだと疲れると思うので」


「それは気が付かなくて申し訳ない。すぐに用意させよう」


椅子の位置は康太が正面に、その斜め後ろに通訳、そして康太の両脇を小百合と真理が固め、支部長は小百合の横に座ることにしていた。


何かあったらすぐにアドバイスできるような形ではあるが、康太は可能な限り小百合に力を借りずに交渉を進めるつもりだった。


相手がどのような対応をするかわからないが、もしここで康太が小百合に必要以上に助けを求めなければ小百合も一緒に今回の依頼に参加できる可能性が残っている。


まずは今回の依頼に関しての話を進めることを第一に、自分の提示する条件をいかに相手に飲ませるかというところから始めるべきだろう。


その為にも最初にやるべきことは互いの自己紹介からだ。


「ではまずこちらから・・・本部の長を務めさせてもらっている。『ハール・ヴォッシュ』だ。後ろにいるのは通訳と私の秘書のようなものだと思ってくれ」


正面にいる魔術師ハール・ヴォッシュ。この人が魔術協会の実質的なトップであるという事を認識したうえで、康太はその人物の外見をよくよく観察する。


声は男性のものだろう。英語であるために声から年齢は把握できそうにないが、少なくとも康太のような若造ということはありそうになかった。


「協会本部副本部長を務めている『ダレイボールド』だ」


本部長の右隣にいる魔術師ダレイボールドと名乗る魔術師の声も同じく男性のものだ。残念ながら本部長と同じくその声から年齢を把握することはできなさそうだが、自分の術師名と役職以外は話すつもりはないようでそのまま黙ってしまった。


「協会本部の中で人事を務めています。『ローラロー』と申します。以後お見知りおきを」


協会上層部の中で今のところ唯一とも思える女性の声が康太の元に届く。上層部の中には女性の魔術師もいるのだなと考える中で、この人の声だけが妙に柔らかく、通訳の表現もなぜか敬語が使われていることに気付いた。


どういうことなのか、英語には基本的に敬語の表現はないはずだが、それだけ丁寧な英語を使ったという事だろうか。


あるいはこちらに気を使った言葉遣いをしたからそう訳したのか。まだこの時点では判別できそうにない。


これで協会本部上層部の中で本部長の右側にいる人員の自己紹介が終わった。残りの左側の方に康太たちが視線を送ると次は自分の番だと理解したのか本部長の左隣にいる魔術師が小さく息を吐く。


「協会本部で専属魔術師たちの統括を行っている『ベティテア』だ。よろしく頼む」


専属魔術師たちの統括。それはつまり事実上の実働部隊の隊長と同義語だ。


先程までの本部長、副本部長、そして協会内での人事統括とは違い恐らくこの中で一二を争うほどの実力者と見て間違いないだろう。


この人は要注意だなと康太は思いながらそのさらに隣にいる人物に目を向ける。


「協会本部で魔導書や魔術、術用の道具などの管理を行っている『ベレー・ラクルー』だ。まぁよろしく頼む」


この上層部の魔術師の中では一番高い男性の声だ。恐らく一番若いのか、それともただ単にそう言う声質の人なのかは判別できそうにない。


魔導書や魔術、術用の道具などを管理しているという事は小百合の仕入れる商品なども多少関係してくるタイプの人間かも知れない。似た者同士ということはないだろうがとりあえず向こうの自己紹介が終わったのだからこちらも自己紹介するべきだろうと、まずは今回の依頼の中心である康太から口を開くことにした。


「魔術協会日本支部所属の『ブライトビー』です。よろしくお願いします」


「こいつの師匠の『デブリス・クラリス』だ」


「ビーの兄弟子の『ジョア・T・アモン』です」


三人が自己紹介をしたところで視線が一瞬支部長の方に向かうが、日本支部の支部長という事もあってこの場の全員が彼のことを知っている。今さら自己紹介の必要もないなと話を次の段階に進めることにした。


「さて、ブライトビー。今回君に依頼したいことに付いて話しをしたいのだが・・・その前に幾つか条件があるとのことだったな」


本部長が話をそう切り出すと康太は小さくうなずいてその場にいる全員に話をするように小さく顔を動かし視線を全体にまんべんなく行き渡らせる。


「まず確認したいのですが、あなた方・・・協会本部が今回の依頼、わざわざ俺を指名したというのは俺の所有する魔術・・・封印指定百七十二号から派生した魔術が必要だから、という解釈でよろしいでしょうか?」


他の優秀な魔術師もいる中で別の支部の魔術師であり、しかも康太以外にも優秀な魔術師たちがいるにもかかわらず康太を選択するという事はつまりそう言う事だ。

いきなり核心に迫ることを聞いてきた康太に本部長は僅かにではあるが声を漏らした。その声音から察することはできないが、感心しているのは間違いない。


「・・・確かにその通りだ。今回の相手は君のその魔術があれば無力化することが可能かもしれない。だからこそ我々は君を指名した」


その裏にもう一つか二つの思惑があるだろうが、今はその件は置いておくことにする。現状この中に康太を好意的に見ている人間がどれほど、そして康太を敵視している人間がどれほどいるかもわからないのだ。


もう少し様子を見て話を切り出した方がいいだろう。


「そこでまず条件の一つ目です。俺の使う件の魔術がこのイギリスの地で正しく発動できるかどうかチェックさせてください。もしかしたらうまく発動しない可能性もある。もしうまく発動しなければその時点で俺はお払い箱・・・そうですよね?」


「・・・確かに、君に今回の件を頼んだのはその魔術あっての事。もしうまく発動できないとなれば君に依頼をしても意味がないということになる・・・それで、チェックというのはどのようにするのかな?」


「単純です。貴方方にこの魔術を使います」


そう言って康太は自分の体から黒い瘴気とデビットの残滓を顕現させる。康太のやや後ろ側に現れた黒い瘴気によってかたどられた人の姿を見てその場の全員の視線がデビットの残滓にくぎ付けになる。


もはやこの場で康太を見ている者はいない。


これで確信にかわった。目の前にいる上層部は確かにこの魔術を恐れている。そして何とか利用できないか、同時に何とかして滅ぼすことができないかと画策しているのだ。


こうなってくると話を持っていく方向によっては康太のことを上手く印象付けることができるかもしれない。ここから先の交渉はさらに慎重かつ大胆に進めたほうがよさそうだと康太は内心悩んでいた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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