相手は何か
「あとは記録員と通訳係を本部側と日本支部側の両方から出すべきだろうな。互いに妙な翻訳をしないように信頼のおける相手にさせた方がいい。そのあたりは支部長に頼め」
「わかりました。いろいろありがとうございます。参考になりました」
追加のアドバイスをすべてメモした康太はとりあえずこれから自分が本部に出す要求をある程度箇条書きにした後で一緒に連れていくことになる三人にも見せる。この条件でよいだろうかという事を確認するためと、新しい意見がないか聞くためだ。
「私はこれで問題はないように思いますよ。あとは実際に詳細を聞いてみないことには何とも言えませんね」
「右に同じく。話を聞きに行くなら早い方がいいわよね?」
「早い方がいいだろうけど向こうにも都合があるだろうしな。とりあえず協会の方に報告に行けばいいんじゃないか?」
現状新しい意見を出すには情報不足という事で三人とも考えは一致しているようだった。
協会の方にとりあえず報告に向かい、依頼を受ける形で協会本部で本格的に依頼者である上層部と話し合いをしなければならないだろう。
協会の上層部がどのような人間なのかはさておき、ある程度覚悟はしておいた方がよさそうだ。
「依頼の詳細についての話し合いは師匠もついてきてくれますか?」
「構わんが・・・私が依頼についていける可能性は低いぞ?」
「その反応を見るためにもついてきてほしいんですよ。師匠がいた場合相手がどんな反応するかで本当に師匠に厄介払い用の依頼を出すかどうかわかるかもしれないじゃないですか」
「・・・ふむ・・・なるほど・・・確かに現状では私がこの依頼についていっても何ら不思議ではない状況なわけだしな・・・わかった、良いだろう」
たとえ相手が小百合を遠ざけようとしていたとしても、小百合に直接的に依頼が入っていない今、本人が康太と共に依頼をこなそうとしていても何の矛盾もない。
思惑を理解したうえで相手の反応を見ることができるのであれば康太たちとしては相手の考えをより理解できるだろう。
「ていうか師匠、今回の依頼の生物に心当たりってないんですか?本部の魔術師が総出になって足止めしかできないってちょっとやそっとの脅威じゃないですよね?」
「残念ながら心当たりはないな。そもそも私はそう言うことにあまり詳しくはないが・・・まぁ十中八九封印指定がらみだろうな。何号なのかは分からん。そう言う事は真理の方が詳しいだろう」
小百合の言葉にその場にいた全員の視線が真理の方に向く。確かに真理はそう言ったことを良く調べている。自分の脅威になりそうなものをピックアップしていると言えばいいだろうか、脅威度の高いものを特に知識として入れているのだ。役に立つかどうかはさておきできることはするというスタンスなのだろう。
「申し訳ありませんが・・・私の知ってる封印指定もかなり数が少ないですよ?中には閲覧することも不可能なものもありますし」
「情報規制がかかってるってことですか・・・そう言うのの中に今回のがあっても不思議はないわけですね」
「まぁ生物と断定されている時点でやりようはあります。大抵の生き物は一撃で急所を打ち抜けば殺せます・・・問題なのはまともな生き物ではない場合です」
まともな生き物ではない場合。その言葉を受けて最初に思い出すのは康太の内包しているデビットだ。
彼は今生き物とは言い難い現象に近い存在だ。そして何より彼の元となった伝染病やウィルスの類も生き物と定義してもいいかもしれない。
もし哺乳類などの類ではなく、微細なレベルの生き物だった場合殺すのは容易ではない。いや殺し切るのは容易ではない。
一匹一匹が脆弱でもその分大量にいる生き物なんてものはこの世界にたくさんいる。今回の相手がそう言う類だった場合協会本部の魔術師が足止めで精一杯になるのも無理はないのかもしれない。
「事前情報はゼロに等しい・・・か・・・ついでに今回の依頼の対象の資料も作戦開始前までには確実に届けてもらうように言っとかなきゃな」
「相手が封印指定とかだったら資料がたくさんありそうなものだけどね・・・どの程度のレベルの相手なのか・・・」
難易度は最大。恐らく危険度も同じくらいあるだろう。もし康太たちの考えているように微細の生物が相手だとしたら確かに康太の持つDの慟哭は有効に作用するかもしれない。
人間以外の生き物にこの魔術が通用するかはまだ試していないが、対象に魔力がない場合魔力の代わりに生命力を吸い取るこの魔術ならそう言った生き物たちを殺すことは比較的難しくないだろう。
もし相手が魔術師が苦戦するような相手だとするならそれはそれで気になるところだが次にとる行動はすでに決まった。
康太たちはとりあえず協会に向かう事にする。
協会の支部に依頼を受けに行くという旨の報告と、条件の伝達をしなければならないだろう。
協会についてくるのはまずは小百合と真理、つまりは事前の話を聞いた三人だけだ。
その後に同行者のことなどを話し、これからの事を話す必要がある。
今回の相手がどのようなものなのかを確認するうえでも、こちらの手の内を可能な限り隠すという意味でも人員は最低限にしておくべきだ。特に邪魔をしようとしている連中にこちらの人員を把握されるというのはあまり良いこととは言えない。
康太は意気込んで先程のメモを見返しながら出発の準備をしていた。
 




