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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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逆らう権利はあるけれど

「というわけで・・・よろしくな倉敷・・・いやトゥトゥと呼ぶべきか」


「ごめん、いきなり呼び出しといてなんだよわけわかんないんだけど。もうちょっと説明してくれないか?」


翌日の昼食時、康太と文は屋上にトゥトゥこと倉敷和久を呼び出していた。


そう、エアリスが推薦した相手というのは彼の事だったのである。実力に関しては確かに康太もよく知っている。なおかつ康太と文の知り合いでもありある程度信用もできる。


確かに戦力になるかどうかはさておいて、必要な人材としての条件を満たしているのは間違いないだろう。


康太が昼食をとりながら一通り事情を説明すると、倉敷は心底嫌そうな表情をしていた。しかもその表情を隠すつもりもなく、むしろ康太に見せつけるようにため息すらついて見せる。


「なに?じゃあ俺にそんな面倒な状況に首突っ込めっての?そんなんやだぜ!俺みたいな一介の精霊術師を協会本部でも無理な相手の前に引きずり出すとか狂気の沙汰だろ!」


「まぁぶっちゃけその通りなんだけどさ・・・俺もエアリスさんから聞いたときどうしたもんかと思ったし」


倉敷の実力は確かに実際に戦った康太なら良く知るところだ。当然あの時よりも互いに強くなっている。特に倉敷はエアリスの修業場にある魔導書を閲覧することでより精度の高い術を使用できるようになっているだろう。


以前の彼とは恐らく一線を画すほどの実力を持っていると見て間違いない。だがいくら実力が上がったところで今回の実戦に役に立つかと聞かれると、そのあたりは首をかしげてしまう。


なにせ本部の魔術師たちが束でかかっても足止め程度しかできないような相手なのだ。精霊術師が一人やってきたところで弾除けくらいにしかならないだろう。いや弾除けになるかも怪しいところである。


「確かにこいつの今の実力って前より少し上がったくらいだし・・・たぶん今康太と戦っても普通に負けると思うわよ?」


「だろ?無茶苦茶癪だけど足手まといにしかならねえって。連れてくだけ無駄だ」


自分で自分のことを足手まといだと卑下するような性格ではないだろうが、自分の実力と今回の依頼の危険性を鑑みて客観的に自分では実力不足であると判断できないほど倉敷はバカではなかった。


むしろ積極的に関わりたくないと心の底から思えるほどの案件だ。エアリスは仕事を理由に自分に面倒を押し付けたのではないかと思えるほどである。


そして文も倉敷と同じようなことを考えていた。こいつのいう通りだぞという視線を先程から康太に送っている。


確かに倉敷は以前康太と戦ったときに比べればかなり実力をつけている。新しい指導者による正しい指導を受けていることで今までの何倍もの効率と早さで術の修得を行っているところだ。


だがそれでも圧倒的に足りない。実力面でもそうだが、何より経験が足りない。


倉敷が今まで関わってきた事件は片手で数えられる程度だ。夏休みにエアリスについていくつも面倒事に関わってきたとはいえその中で彼の力がなければ解決できなかったものは存在しない。


面倒にかかわるだけではなく自主的に解決しようという意志と行動がなければ、正しく経験したとは言えないのである。


文は実力だけではなくそう言った経験面からも倉敷が足手まといになってしまうのではないかと危惧しているのだ。


無論文自身だってそこまで実力があるわけではない。正直に言えば足手まといになる可能性だって十分にある。だが康太は文を連れていくと言ってきかないのだ。


必要としてくれるのは素直にうれしいのだが、そのせいでかなり危険な思いをすることが確定しているとなると素直に喜ぶことができない。


「うん、確かにその通りかもな。ていうか俺の言い方が悪かった。こんな言い方じゃお前にはふさわしくないな」


先程の言葉を肯定し、文の視線を受け止めなおかつ理解したうえで康太は笑みを浮かべて倉敷の両肩を掴む。


「今回の件、俺についてこい。これは頼みではなく命令だ。オーケー?」


「・・・なんだそりゃ・・・俺にだって拒否する権利くらい」


「六月の一件のこと忘れたとは言わせないぞ?拒否権はない。ドゥユーアンダスタン?」


「・・・またゲスいことを・・・せめて拒否権くらいあげなさいよ」


「それもそうだな、拒否することは認めてやる。その代りお前を推薦したのがエアリスさんだってこと忘れるなよ?もし拒否したらあの人の顔に泥を塗る結果になるぞ」


それって拒否権与えた意味ないんじゃないのと文は呆れているが、康太は本気でそう考えていた。


以前面倒事に付き合う約束をしたのを康太はしっかりと覚えていたのである。そして一応倉敷もそのことは覚えていた。


もちろん多少の問題であれば一緒に行動することも吝かではなかったが、これほどの大事に巻き込まれるとは想定していなかったために完全に面食らってしまっている。


倉敷の頭の中ではいかにして康太から逃げおおせるかという作戦が練られている。


だが今目の前にいるのは自分より格上の魔術師二人。しかも自分が世話になっている人からの推薦などを受けてこうして話を持ってきているのだ。


もしここで断れば、康太のいうようにエアリスの顔に泥を塗りかねない。さすがにそれは避けたいところだ。


せっかく魔導書を読ませてもらえるうえに指導までしてもらえる人格者の魔術師に出会え、それなり以上にコネも作れたというのにそれを無に帰すようなことはしたくない。


文のいうように事実上の拒否権の剥奪と同じだ。倉敷には首を縦に振る以外の選択肢が用意されていなかった。


「よしこれで一緒にこれる人間は四人になったな・・・もう一人か二人欲しいところだったけど・・・さすがにこれ以上は無理そうだな」


倉敷の快い回答を得られたところで康太は上機嫌になりながら弁当の中身を箸で掴んで口の中に放り込んでいく。


ほぼ強制的についていくことが決まってしまった倉敷は上機嫌な康太とは対照的にひどく落ち込んでしまっている。


同じく巻き込まれた文としては同情を禁じ得ないが、彼女としても戦力は欲しいために助け舟を出すことは無理だったのは言うまでもない。今は猫の手も借りたいような状況なのだ。多少非人道的かもしれないがそのあたりは気にしない方向で話を進めるほかなかった。


「ていうか康太、あんた真理さんにはもう話してあるわけ?あの人がついてこれないなんてことはないでしょうね?」


「そのあたりは問題ない。昨日のうちに電話して確認済みだ。九月中であればいつでも時間を作れるらしいぞ。大学生様様だな」


「あぁ・・・そう言えば大学生ってまだ夏休み中なのよね・・・うらやましい限りだわ・・・」


九月になると同時に学校がスタートした康太たちと違い、大学生の長期休暇は多少変則的なものが多い。


学校にもよるのかもしれないが少なくとも真理の学校は十月近くまで休みがあるのだとか。


二か月近い休みというのも珍しいが、康太としても真理にはしっかりと休んでほしいと思っていた。


普段からしてかなり重労働かつ負担を強いてしまっているのだ。こういう時はしっかり休んでほしいものである。


もっともそんなことを思ってもこういう状況になると頼りにせざるを得ないのが康太の未熟なところでもある。


早く一人前にならなければならないと思うのはこういう時でもあるのだ。


「ていうか、俺その人のこと良く知らないんだけど・・・どんな人なんだ?強いのか?」


「強いぞ。俺と文が二人がかりになっても勝てない」


「あんたも一度会ったことあるでしょ。前にこいつの拠点に行ったときに一緒にいた女の人よ。目つきが鋭くない方」


その見分け方もどうかと思うのだが、どうやら倉敷としてはその特徴で真理がどのような人物だったかを思い出せたようで間延びした声を出しながら自分の記憶で真理の姿を浮かべていた。


「一応思い出せた・・・けどどんな人だったかまでは・・・やばい人か?」


「いいや?俺の周りでは数少ない常識人だ」


「こいつはそう思ってるけど実際は本気にさせれば十分以上にやばい人よ」


どっちの言葉を信じればいいのか倉敷は迷っているようだったが、比較的良識と常識のある文の言葉を信じることにした。


康太の場合身内だからこそある程度良い印象を持たせようとしている可能性が否めなかったというのも理由の一つでもある。


康太は真理がいかにまともであるかを文に反論しているが、文はその言葉をほとんどまともに聞こうとはしていなかった。


真理が小百合に比べるとまともであるのは事実だろうが、彼女もまた小百合の弟子なのだ。小百合程ではないにせよかなりの異常性を秘めているのは文もその目で見ている。


だからこそ本気にさせるとという条件を付けたうえで十分以上にやばい人物であるという評価を下したのだ。


恐らく文の評価は真理を表した中ではかなり的を射ているものだろう。


「確かその人ってこいつの兄弟子なんだよな?戦力としては申し分ないんだろうけど・・・いろんな意味で大丈夫なのか?」


「大丈夫だろ、いろんな意味で俺らよりずっとすごい人だし」


「・・・そうなのか?」


「まぁ間違ってないわね。頼りになるっていうのは間違いないわ」


今回の件でもそうかはわからないけどねと付け足しながら文は真理のことを考える。


確かに彼女はスイッチさえ入らなければ常識的かつ良心的だ。端的に表すのなら頼りになるお姉さんと言ったところだろうか。


もっとも一回スイッチが入るとだいぶおかしなことになる。具体的には相手をいかに効率よく戦闘不能にするかという事を考え、実行し始める。


それこそ情けも容赦もなく徹底的に相手をただ破壊することだけを考えるだろう。その様子は常識とはかけ離れ狂気に染まっていると言ってもいい。


本人にその自意識があるかは分からないが。


「なんかこいつの周りって危ないやつ多くないか?ていうかこいつの師匠とその弟子が危ない気がする」


「それに関してはおおむね同意するわ。こいつの師匠の兄弟子なんてすごいわよ?」


「お前会ったことあるのか。どんな人?」


「えげつない人」


きっと奏のことを言っているのだろうなと康太はすぐに察することができたが、同時に文がその言葉を本気で言っているというわけではないのにも気づけた。


文自身奏に恩がある。かなりの頻度で彼女に訓練をつけてもらっているために奏はすでに第二の師匠のようなものだ。


もっとも同じように相当な頻度で訓練をしてもらっている小百合になぜか第二の師匠であるような認識が生まれないのは偏に小百合の人柄の問題だろう。


奏は尊敬できる大人な魔術師であるという認識に対して、小百合はとにかく傍若無人というのが文の認識だった。


それも半分くらい間違っていないのだが、それは本人もよく理解しているところである。



日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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