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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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協会本部の魔術師

「状況は理解しましたし、とりあえずその協会本部の魔術師がいる場所に行こうと思います。情報が何もない状況よりは交渉もしやすいでしょうし」


「いいのかい?彼らの前に出れば依頼を受けるかどうかの選択を迫られることになるけど・・・」


「実際それ以外に選択肢有りませんよ。師匠も状況を正しく理解させるためにここに俺らを送り込んだんだと思いますし・・・なによりこれ以上支部長に迷惑はかけられません」


これが何の関係もない第三者であったのならそもそもいないことにしたり居留守を使うこともできたのだろうが依頼を持ってきたのが自分たちの所属する組織の直系だというのだからもともと逃げ場が用意されていないのは康太のような未熟者でもわかることだ。


逃げられないのなら向かうしかない。小百合もそのことはわかっているのだろう。だからこそ康太たちをこの場に向かわせた。支部長から間接的にでもいいから情報を聞き出し、現状を正しく理解させるために。


「そうしてくれると僕としては助かるよ。もし依頼を受けたくなければ僕から別の依頼を受けているから受けることができないと言っても構わない。そうすれば相手も多少は引き下がるだろう」


「ありがとうございます。万が一ヤバそうになったらそう言わせてもらいますよ」


いくら今回の依頼が本部から直接やってきたものであるとはいえ、日本支部支部長の直接の依頼を請け負っているともなれば相手も多少引き下がらざるを得ない。


もちろんそれでも我を通す可能性があるが、これがなんでもないただの適当な内容であれば弾除け程度にはなるだろう。


「それじゃあ姉さん行きましょうか。師匠は今どこにいるんです?」


「以前君が使ったのと同じ応接室にいるよ。記録係もいるだろうから発言には注意しておくんだよ?」


「了解です。じゃあ行ってきます」


以前康太が使った場所というと、奏の依頼を受けた時のあの場所だろう。正式な依頼という事もあってすでに記録係がそれぞれの会話の内容を記録していると見て間違いない。


そうなってくると迂闊な発言はしない方がいいだろう。


仮に支部長からの依頼を受けていると言っても恐らく問題はない。支部長とはある程度交友があるために正式な依頼ではなく口約束程度の依頼をこなしていると言えばあとから言及されてもいくらでも言い逃れはできる。


問題なのはすでに依頼を受けさせる気満々だという事だろう。事前に話を通すことすらせずに直接支部に乗り込んでくるあたりすでに話が終わっているかのような無茶苦茶な行動だ。


普通アポイントの一つも取るのが常識的な考えだが、どうやら相手にはそう言った考えは最初から期待しない方がいいらしい。


「姉さん、本部の連中ってどんな奴が多いんですか?」


「どんな・・・とは随分と抽象的な表現を使いますね・・・本部というだけあって魔術師の数は協会支部の中でも最も多いです。当然その分多くの派閥や優秀な魔術師を擁しています。中には他の支部から所属が本部に変わった人もいますよ」


もちろん逆もまた然りですがと言いながら真理はエントランスから下を見下ろして小さくため息を吐く。


恐らく康太が聞きたいこと、そして知りたいことをすでに察しているのだろう。


「ビーもお気づきでしょうが、ほとんどの支部は本部の下部組織扱いです。本部から派生して支部になったのだから当然と思われるかもしれませんが、本部からの圧力がかかるというのはかなり大きな意味を持ちます」


「でも前に指揮系統は別だって言ってましたよね?ほぼ独立してるとかなんとか」


それはいつだったか康太が聞いたことだ。指揮系統を分けているのは命令が重複しないのを避けているという理由もあるらしい。今回の場合それがどのように影響を及ぼすのかは康太も想像できなかった。


「はい。そもそも本部が支部に干渉することってほとんどないんですよ。支部は大体国ごとに分かれてたりするんですが、国や地方によって考え方や常識は大きく異なります。他の国の人間がとやかく言っても理解されないからそれぞれの国の事はそれぞれで解決するようにという考えが根付いているんです」


「・・・でも今回は本部が直接やってきた」


「はい。支部にではなく、支部にいるビーという魔術師に干渉するためですからね。確かに他の支部が別の支部にいる魔術師に協力を要請することはあります。そう珍しいことではありませんが・・・本部が支部にいる魔術師に・・・となるとちょっと記憶にありません」


真理は恐らく今まで起きた魔術師関連の大きな事故や事件についてあらかた調べたことがあるだろう。


特に有名なものに関しては資料を読み漁っている。だがその真理でさえも記憶にないという事は本部の魔術師が支部の魔術師に何か頼みごとをするというのが相当珍しいことだという事はすぐに理解できた。


それだけのことを康太に頼みに来た。こうなるともはや確定的だ。


相手の目的はDの慟哭。つまりは康太が引き連れるデビットの残滓である。


その本部の魔術師たちがデビットの残滓を欲しがっているのか、それとも利用しようとしているのか、それは現段階では分からない。


だが相手がかなり強気に交渉しに来ているのは間違いない。これはかなり面倒な事象だ。一つ間違えば康太の魔術師としての未来を脅かされかねない。


そんなことを考えて康太は苦笑してしまう。


小百合の弟子になった時点でそんなものはないも同然だったなと本当に今さらながらに気付いたのだ。そう考えると今回の事もなんでもないように思えてくるから不思議なものである。


康太が以前使った応接室の前には二名の魔術師が立っていた。背が高く、魔術師の外套のフードを深くかぶっている。そしてそのフードの隙間から金色の髪が覗いていた。


あれが本部から来た魔術師かと康太と真理が顔を見合わせた後扉に向かい開けようとすると二人の手が康太と真理の行く手を遮った。


そして何やら流暢な英語で康太に話しかけてくる。少々訛りも強い独特なイギリス英語だ。ただの教科書英語しか知らないような康太に理解できるはずもなく、康太の頭上には幾つもの疑問符が飛び交っていた。


「姉さん、この人達なんて言ってるんですか?俺英語はあんまり得意じゃなくて」


「私もさすがにここまで早いと・・・とりあえず自己紹介すれば通してくれるのではないでしょうか?一応彼らの目的はビーなのですし」


それもそうだなと思い康太は一つ咳払いをしてから自分の胸に手を当てる。


「アイアム『ブライトビー』えっと・・・アイウォントトゥパススルーヒア」


あまりにもひどい発音だったがとりあえず康太がブライトビーで、ここを通りたいという意思は伝わったのだろうか、目の前にいた二人の魔術師は互いに視線を交わすと英語で何か言ってから一人の魔術師が康太の前に立ち、もう一人の魔術師が部屋の中へと入っていった。


恐らくいろいろと確認しに行ったのだろう。もう少し英語の勉強したほうがいいかなと康太は少しだけ思っていた。


こういう時すらすらと英語が出てくると格好いいのだろうが、先程のようなあまりにもお粗末な英語が飛び出すと恥ずかしさで顔から火が出そうになってしまう。


「姉さん、今度英語教えてくれませんか?」


「構いませんが・・・先程のだって悪くなかったと思いますが?」


「いや・・・なんて言うか後学のために覚えておいた方がいいかなと思って・・・もうちょっとましな英語をしゃべれるようになっておいた方が・・・」


「まぁ魔術師として生きるならその方がいいでしょうね。と言っても私もそこまで英語が得意というわけではないのですけれど・・・」


日本人に生まれて日本人として生活しているとどうしても英語というものに触れる機会は限られてきてしまう。


最近の教育では英語を教えるというのは半ば当然のように行っているが、それでも限界というものがあるのだ。


言葉がとっさに出てこないし何よりも発音や会話として言語を習っていない以上まともに話すことも難しい。


先程直に『本物の英語』というものを聞いたからこそ分かるが、リスニングだとかヒアリングだとかをいくらやったところで全く意味がない。こういうのは普段学校でやる勉強とはまた違うやり方が必要なのだなと実感してしまった。


小百合に聞かれていたらきっと失笑されていただろうなと考えていると、中に入っていた魔術師が出てきて康太たちに道を空けてくれる。どうやら通っていいということになったようだ。


小さくサンキューと伝えてから康太たちが中に入るとそこにはソファに座る小百合、そしてテーブルをはさんで彼女に対峙する形でソファに座る魔術師が一名。そしてその後ろに護衛としてついているだろう魔術師が二名立っている。


近くにあるデスクには魔術師が一人。これは記録要員だろう。そしてテーブルの近くにはもう一人魔術師がいる。あの人は何をしているのだろうかと疑問符を飛ばしながら康太たちは小百合の近くに歩み寄ることにした。


「お待たせしました師匠。遅くなって申し訳ありません。少し道が混んでいまして『回り道』してしまいました」


「そうか・・・まぁ到着したのならばいい。何か支障はあったか?」


「いいえ。なにも問題ありません」


康太は今の言葉にとりあえず小百合が意図したであろう状況の正確な把握はすでに済ませているという事を含めたつもりだった。


既に記録員が康太の会話も記録し始めている。この状況では迂闊な発言は後々の問題になりかねない。発言には注意したほうがいいだろう。


そして康太が先程気になっていたテーブルの近くにいる魔術師は、小百合と向かい合っている一人の魔術師に何やら英語で話しかけている。


一体何を話しているのだろうかと首をかしげているとその魔術師が唐突に話しはじめた。


声自体は男性のものだ。康太は外国人というものになれていないためにそれがどのくらいの年代の人間の声なのかを判別することはできなかったが、少なくとも相手が男だという事はわかった。そして康太の方を見て何か言っているという事も分かった。だが何を言いたいのかがわからない。これどうしようかと悩んでいるとテーブル脇にいた魔術師が康太に向けて声を放つ。


「突然現れたのにこうしてやってきてくれて感謝する。君がブライトビーかな?まずは自己紹介をしてくれるとありがたい」


ここでようやく康太はテーブル脇にいる魔術師が通訳としてこの場にいることを理解した。


なるほど魔術師だって多くの職業の者がいる。その中には通訳を生業としている者もいるだろう。


この状況では非常にありがたい人物だと康太は安堵の息を吐きながら少し肩を落として真理と一緒に小百合の後ろにつくとソファに座っている魔術師の方を見る


「初めまして。デブリス・クラリスの弟子、ブライトビーです」


これ以上余計なことを言う必要はない。康太はすでに話の内容を大体知っているが相手は康太が事情を知っているという事は知らないのだ。


余計な情報を教えて状況を不利にする必要はない。情報戦はすでに始まっているのだ。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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