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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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師同士の対話

そんな様子を小百合と真理は少し離れた場所から観察していた。


場所は康太たちがいる校舎から少し離れた建物の屋根の上。康太の戦いを確認しながら小百合は堂々と、真理はハラハラしながらその様子を見つめている。


そしてその場にはもう一人仮面をつけた人物が立っていた。それは先程までライリーベルと共にいたもう一人の魔術師である。


一緒に観戦しているという意味では目的は同じだが、同じ場所にいるというだけでその空気が張りつめているのが傍から見ても分かる。互いから『お前とは絶対に仲良くしてやらない』という感情が湧き出ているのだ。


それなら別々の場所で観戦すればいいのにと思うかもしれないが、今のところここが一番観戦しやすい場所なのである。


互いにお前がどこか別の所に行けという空気を出しているために互いが全く動く気配がないのだ。


今動いたら自分の方がこの場を譲ったように思える。だからこそ両者ともにこの場から微塵も動こうとしないのである。


「師匠・・・ビーは大丈夫でしょうかね?あの子結構やりますよ?」


「確かに魔術の発動や魔力の装填は早い、そのあたりはさすがというべきか。素質Aは伊達ではないな」


見た限り複数の別の属性の魔術を同時に扱っている節さえある。それらを扱えるだけのセンスに加え、もともと持っている魔術師としての素質も十分以上のものがある。正しく育成し経験を積めば間違いなく一流の魔術師になれるだけのポテンシャルを持っているという事が覗えた。


だが同時に荒削りのようなものを感じた。


恐らく魔術師としての実戦経験が乏しい。訓練などでは魔術を使っているようだし、何より魔術師としての戦いは問題なくこなせるレベルなのだろう。


だが実際の戦いは教科書通りの展開になるわけではない。


今回のように相手がとにかく接近しようとして来たり、相手がほとんど魔術を使わずに自分の魔術を攻略してきたりするような相手に対してどのように対処すればいいのかわからなくなり始めているのだ。


何より相手が魔術を温存していると考えている状況で、徐々にではあるが焦りと動揺が見られ始めている。本来ならできるはずの精密な魔術のコントロールが少しずつではあるができなくなってきているように見えた。


こういう時に経験が豊富であれば冷静に対処できるのだろう。何より走り回っていることで体力を消耗して脳に酸素が行き渡らなくなってきているのだろう。使用される魔術がやや単調になり始めていた。


「ずいぶんと良い素質の魔術師だが・・・どうやら指導方法が良くないらしいな。あれではうちのポンコツにも勝てん」


近くで一緒に見ているライリーベルの師匠でもある魔術師に聞こえるようにわざとらしく大きめの声でそう言うと、隣の魔術師は仮面の奥の瞳で小百合を睨んでいた。


近くで見ている真理は康太を見ている時と同じくらいハラハラした視線を二人に向けていた。今ここでもう一戦魔術師同士の戦いが始まってもおかしくないくらいの剣幕である。


「自分の弟子をポンコツ呼ばわりとは程度が知れるな。そんな人間が師匠とは弟子たちが哀れで仕方がない。」


「あれだけの素質の人間をまともに育てることもできない人間には絶対に言われたくないセリフだな」


互いの言葉が癇に障ったのか、仮面越しに二人は睨み始める。もはや観戦よりもにらみ合う事を優先している節さえある。


この人達は一体何をしにここに来ているんだと近くで見ていた真理はため息をついてしまっていた。


「師匠もエアリス・ロゥも不毛な争いはやめてください、今はあの二人の戦いでしょう」


真理の注意を受けて二人はかなり大きく舌打ちをしたうえで視線を離し再び校舎の方に目を向けていた。


エアリス・ロゥ、それがライリーベルの師匠の魔術師としての名であり、小百合、つまりはデブリス・クラリスに毎度突っかかって来るという存在である。


この二人は何でこんなに仲が悪いんだと真理は辟易しながら大きくため息をついてしまっていた。


そもそも同学年に魔術師がいて優劣や序列を決めるにしてもここまで殺気立つ必要はないのだ。ただ単に話し合いで決めることだってできるし、何より得意分野が異なることだってある。


魔術師の中にも戦う事が苦手なものもいるのだ。例えば治癒に特化していたり、索敵に特化していたりと誰もかれもが戦えるというわけではない。


そんな中でいきなり戦いに展開させるというあたり、この二人がどれだけ互いを嫌っているかがよくわかる。


言ってしまえば康太は二人の喧嘩に巻き込まれたようなものだ。いや康太と相対しているライリーベルも同様だろう。


師匠に振り回されているという意味では彼女も康太と同様不憫だ。もちろんほぼ素人同然でありながら魔術師としての戦いを強要されている康太の方が圧倒的に不憫ではあるが。


これが終わったら精一杯労ってやろうと思いながら真理はため息をつき再び観戦を続ける。


校舎を移動しつづけながら雷光が目に届く中で、康太が徐々にライリーベルを追い詰めているように見えた。


少なくとももうすぐ行き止まりに差し掛かる。


あそこから逃げるためにはかなり強引に突破しなければならないだろう。彼女が普通の人間だったのなら。


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