状況説明
「ジョア・T・アモン、ブライトビー、入ります」
返答を待たずに真理と康太は扉を開けて支部長室の中に入ると、そこには山ほどの書類に囲まれて項垂れている支部長の姿がある。
「あれ?君たち・・・何でここに?」
「何でって・・・師匠からそのように指示があったからですけど・・・やはり偽物だったのでしょうか・・・」
先程までの呼び出しが師匠である小百合のものではない可能性が濃厚になってきた中、一番に考えられるのは自分達への攻撃か、あるいは店への攻撃だ。留守にした状態で空き巣もどきの事をしようとしているのかもわからない。
それならすぐに戻ったほうがいいかもしれないなと康太と真理が考えていると支部長が待ってくれと少し考えながらつぶやいた。
「君たちはクラリスに呼び出されたんだよね?どういうやり方だった?」
「・・・電話で端的に、そしてこっちに着た後はメモに書かれた文字でここに行くようにと」
「・・・あぁなるほど、そう言う風にしたのか。よし、あいつの思惑が理解できた。君らは間違いなく君らの師匠に呼ばれてきたんだよ。少なくとも偽物ではない」
偽物ではない。そして支部長は何故か康太たちでもわからない小百合の考えを今までの行動から理解できたようだ。
やはり小百合自身に問題があり、なおかつその問題はこの協会内で起こっているとみて間違いないだろう。
「一体何がどうなっているんですか?わかりやすく教えてくれるとありがたいんですけど」
「師匠はどこかで足止めを食っている・・・あるいは誰かを足止めしているというところですか?師匠程の人が足止めに時間を食うとなると・・・数えられる程度しか思い当たりませんが」
小百合の場合足止めをしようとすると大抵は相手を倒してしまうために足止めではなく殲滅という形になるだろう。
もしその状況が続いて結果的に足止めになっているということになると小百合と同じかそれ以上の戦闘能力を有した人間ということになる。
それほどの魔術師は真理の記憶の中にも数える程度しか存在しなかった。
「半分正解だね。そしてその人たちの目的は君たち・・・いや正確に言えばブライトビー、君なんだよ」
「俺ですか?どうしてまた」
疑問を投げかけた康太だがなんとなく理由はわかっていた。小百合でも真理でもなく自分に用があるということは間違いなく自身が内包しているDの慟哭関係の話だろう。
「君に依頼を持ってきたってことさ。しかもかなり大きな依頼だ。最近クラリスが協会にいたからそれで偶然その人たちと遭遇しちゃってね・・・まぁ本人としては珍しく止めたいらしいんだよ」
支部長のおかげでだいぶ話が分かってきた。どこかからやってきた魔術師、しかも支部長の台詞を鑑みるに数人が康太への依頼を目的として協会の方にやってきたのだ。
そしてその時運悪く協会にいた小百合がそのことを察知し康太たちを協会に呼び寄せたのだろう。何故そうしたのかはなんとなく想像はつく。協会にいないとわかれば拠点に足を運ぶ。康太は小百合の、デブリス・クラリスの弟子だ。彼女が経営している店が拠点だという事は調べればすぐにわかるだろう。
もし康太の方に向かった場合小百合が居なければどのような形で話が進むかもわからないから協会に呼んだのかと思ったが、小百合はどうやら康太が今回の依頼を受けるのをあまり快く思っていないらしい。
依頼内容に問題があるのか、それともただ単に依頼をしてきた人間が気に食わないのか。康太としては多分後者だろうなと思いながら状況を整理し始めた。
「師匠がどういう考えなのかはさておき、俺らをこの場に呼んだのはあの店にいられると困るからってことですよね?」
「今回は相手が相手だからね・・・他の場所になんて簡単に人を回せる。それだと君が勝手に依頼の件を了承しちゃうからそれを嫌がったんじゃないかな?」
足止めをしながらそんなことを考えて二人を呼んだということに若干驚きながら康太は眉をひそめて真理の方を見る。
「じゃあ何で姉さんまで?一緒に来る意味ありました?」
「人質にとられる可能性を考えたんじゃないかな?ジョアを人質に依頼を受けるように脅しをかけてくる可能性も否めないしね」
「また随分と乱暴な連中みたいですね・・・そんなに簡単に人質になるような間抜けではないつもりですが・・・」
真理は康太以上に優秀な魔術師だ。実戦経験も豊富で使える魔術も保有している技術も康太とは比べ物にならない。
その真理を人質に取るというのはあまり得策とは言えないだろう。まだ康太を人質にとったほうが現実的だ。どこの世界に特殊部隊に所属しているムキムキの人間を人質に銀行強盗をしようとする人間がいるだろうか。極端なことを行ってしまえば今回の件はそう言う事である。
「でもそれなら協会に足を運ばせた意味が分かりませんよ。それならこれから数日は家に引きこもってろとか言えたでしょうに」
「・・・それが言えない状況だったのでは?もしかしたら形だけでもビーと私がこの場所に来ることをアピールする必要があったとか・・・?」
真理の言葉に支部長はため息をついて頷く。そしてその様子を見て真理はなんとなく今回の依頼相手が誰なのか予想ができているようだった。
「一応聞いておきたいんですけど、ビーに依頼を持ってきた相手ってどこの誰なんですか?」
「・・・もう察しがついてると思うけどね・・・協会本部の魔術師だよ」




