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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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店の様子

「なるほど、そんなことがあって最近は魔力の修業をし始めているんですね」


「えぇ、やっぱり早く属性魔術を実戦投入したいですからね」


後日、康太は小百合の店に来ると精力的に魔力のコントロールの修業を行っていた。


無属性の魔力はもはや呼吸をするのと同様に操ることができるが他二つの属性はまだまだ完璧とは言えない。少しでも早く属性魔術をものにするためにはまず魔力のコントロールが必須だと今さらながらに理解したのである。


「確かに精霊と契約すれば属性魔力を補充することには事欠きませんね。あとはその魔力をいかにうまく操るかという問題ですし」


「そうなんですよ。なのでまずは魔力の生成と、生成した後の魔力を上手いこと操れるように頑張ってるんです」


「それは良いことです。火属性の魔術も比較的いいテンポで覚えられていますしそこまで時間もかからないと思いますよ」


真理のいうように康太は風属性の魔術に比べて火属性の魔術は覚えるのが早かった。風属性の時にコツをつかんだというのが大きかったのだろう。この調子で行けば年内にはそれぞれの属性を実戦投入できるのではないかと考えていた。


新しい術の訓練に属性魔力の操作、そして戦闘訓練、さらには今まで覚えた魔術の反復練習。日常的に行う訓練もだいぶ数が増えてきたために康太の一日はだいぶ忙しくなりつつあった。


日常生活のさなかに魔力の生成などをして修業を行っているが、やはり小百合の店に来て修業したほうが何倍もはかどるのである。


周りに自分よりも優秀な人間がいるというのはやはりいいものだなと実感しながら康太は集中し続けている。


「そう言えば今日師匠は?この前もいませんでしたけど・・・」


「最近出かけることが多いんですよ・・・協会に呼び出されてるみたいなんですけど・・・一体何をやらかしたんだか」


「また俺らに被害がこなきゃいいんですけどね」


小百合が呼び出されたという時点で小百合が被害者であるという可能性はほぼほぼ消滅していると言って良い。


となれば小百合が何かしらの厄介ごとあるいは面倒事を引き起こしたか引き寄せているかのどちらかだ。


小百合がいないと近接戦闘の訓練が真理相手になってしまうために思い切りやりにくいのだがと康太は少しだけこの場にいない師匠の事を考えていた。


「でも珍しいですね、師匠が協会の呼び出しに素直に応じるとか。ていうかこんなに何日も出かけるっていうのが珍しいです」


「そうですね・・・そう言われればそうです。あの人基本いつもここにいますからね」


「大抵パソコン使ったり書類作ってたりせんべい齧ってたりするのに・・・一体何が起こったのやら」


康太と真理は内心嫌な予感を隠せなかった。康太はまだ一年に満たない程度の付き合いしかないが小百合の性格と日常生活はある程度把握している。


このような状況になるというのはだいぶ異常事態であるというのは容易に想像することができた。


だからこそ嫌な予感が隠せないのだ。何かあるのだと思ってしまうのだ。


「まぁこうしてゆっくりと修業ができているという意味ではありがたいことですよ。師匠がいるとやれあれをやれだとかこれをやっておけだとか言ってきますから」


「それもそうですね。落ち着いてできるだけましってもんです」


こうして話しながらも康太と真理は自分の修業を続けている。集中が必要とはいえ話をする程度の余裕はあるのだ。


前に比べるとだいぶましになったなと思っていると店の扉が勢いよく開く。


この開け方は小百合ではないなと康太と真理は店の方に視線を向ける。


まさか客が来たのだろうかと二人は互いの顔を見合わせて首をかしげる。


まだ日が高いうちからこの店に人が来ることなんて数える程しかなかった。少なくとも片手で数えられる程度のものだ。


一体何者だろうかと康太と真理が物陰から店の様子をこっそりと伺うとそこには明らかに怪しい黒い外套を着こんだ男性がいた。


歳の程は三十後半くらいだろうか。若干ぼさぼさと乱雑になっている髪の毛に無造作に伸びた無精ひげ。そしてこれ見よがしにかけられたサングラス。そして真っ黒なコート。それが魔術師の外套に似ていると思ったのは気のせいではないだろう。


一言で言えば明らかに怪しいと言えるだけの風貌だった。八月が終わったとはいえまだまだ暑い。だというのにあの恰好、職務質問されてもおかしくないなと思いながら康太は声を小さくして真理の方に視線を向ける。


「姉さん、あれ同業者ですかね?」


「どうでしょう・・・とりあえず様子を窺うべきでしょうね・・・何が目的なのかもわかりませんし、下手に行動するのは厳禁でしょう」


もしこれで相手が魔術師であると高をくくってただの一般人の痛い人だったら目も当てられない。


とりあえず何が目的なのかを把握してからでも遅くはないだろう。


怪しい男性は店におかれた明らかに怪しい商品を眺めながら時折笑みを浮かべている。


あそこに置かれている商品はただのガラクタに等しいものだ。中には魔導書のレプリカがあるようなことを言っていたが普通の人間にとってはただの本でしかない。しかもその本は伝記だ。特に貴重でも何でもない本で値段程の価値があるわけではない。


怪しい男性は商品の一つをとってレジの近くにやってくると奥の方を覗いてくる。誰かいないか探しているのだろう。



「すまない、誰かいないか」


身を隠していた康太と真理だが、呼ばれたからには出ていかないわけにはいかないだろう。


どちらが出ていくか悩んだ結果康太と真理はその場で手を出して同時に振りかぶってから互いの目の前に自分の手を振り下ろす。


康太はチョキを、真理はパーを出していた。


これはもう仕方がないなと真理は少し残念そうにしながらおずおずと男性の前に出ていく。


康太はすぐ後ろで待機し、もし男が怪しい動きをしてもすぐに反応できるように備えていた。


「いらっしゃいませ。ご購入でしょうか?」


「あぁ、これを一つ。あとここの店主は君かい?」


「いえ、私はバイトです。店長は今出かけているんですよ」


そうなのかと残念そうに苦笑した後男性はそのまま商品を一つ購入したあと店内を少し眺めてから店を出ていった。


一体なんだったのだろうかと思いながらも康太と真理はその後ろ姿を最後まで眺めていた。


「なんですかね今の怪しい人・・・姉さん何かわかりました?」


「・・・一応探ってみましたが、魔力の反応もなかったですし一般人だとは思いますけど・・・それにしては怪しかったですね・・・武器の類は?」


「パッと見もってなかったです。隠してたら分かりませんけど」


康太は見える範囲で解析の魔術を使っていたが、あの怪しい人物は体に武器を仕込んでいるということはなさそうだった。


あれだけ魔術師っぽい外見をしていながら魔力が全くないことを考えると、ただ単にそれっぽい恰好をしているだけの一般人だろうか。


中高生や大学生が遊びでそういうことをするのならまだわかるが三十代の後半にもなろうという男性がするような事だろうかと康太と真理は首をかしげてしまっていた。


「ちなみにさっき何買っていったんですか?」


「ただのガラクタの水晶ですよ。ほら、あそこにあったちょっと欠けてた奴です」


「あぁ、この前掃除中に落とした奴ですか・・・なんだってあんなものを・・・」


「さぁ?あぁいったものを買うからには何か理由があるんでしょうけど・・・不思議な人もいるものですね・・・」


暑くなるとああいった人種も増えてしまうのだろうかと康太と真理が疑問符を飛ばしながら不思議そうにしていると店の電話が勢い良くなり始める。


今度は何だと康太が電話に出ると受話器の向こう側から店主である小百合の声が聞こえてきた。


『私だ。今そこに誰が居る?』


「あぁなんだ師匠ですか。康太です。一緒に姉さんもいますよ」


『好都合だ。お前たち二人とも今から協会に来い。すぐにだ』


「え?あの一応聞いておきたいんですけど」


何でですかと康太が聞くよりも早く小百合は通話を一方的に切ってしまった。


あの人は説明をしようという努力を全くしないつもりなのかと康太は眉間にしわを寄せながら受話器をゆっくりと降ろす。


「康太君どうしたんですか?師匠がまた何かやらかしましたか?」


「かもしれないです。今すぐに協会に来るようにと」


「・・・はぁ・・・それで用件は?まさかまた書類を押し付ける気じゃないでしょうね?」


「それも教えてくれませんでした。協会に来いって言ったらすぐに電話切っちゃったので・・・」


「・・・あの人らしいと言えばらしいですか・・・まぁ仕方ないですね。戸締りをしたら行きましょう」


協会の人たちにこれ以上迷惑をかけるのも気が引けますしねと言いながら真理は手際よく店の扉にクローズドの標識を付けて鍵をかける。


小百合が行っている協会に呼び出されていい予感がするはずがない。きっと小百合が面倒を起こしたのだ。そしてその後始末、あるいは小百合が現在進行形でやらかしている面倒事の対処として自分たちが呼ばれたと考えるのが妥当な線だろうか。


「一応装備とかも持ってった方がいいですよね・・・戦闘になるかもしれませんし」


「その方がいいでしょうね・・・あぁもうまた寝不足確定ですよ」


日常生活に加え魔術師としての仕事も入ってしまうとなれば真理の私生活で使える時間はかなり削られてしまう。


大学がまだ休みというのが彼女にとっては救いだろうが、それでも師匠である小百合の後始末というのはそれだけで気が滅入る。


なにせそれだけ多くの魔術師に迷惑をかけたという事でもあるのだから。


「準備できました。康太君、準備はいいですか?」


「いつでも行けます。早くいかないと師匠にどやされるかもですね」


「全くです。機嫌を損ねる前に早く行きましょう」


康太と真理は自分の私物に加え魔術師としての道具を持った状態で店を出ると不意に一つのことを思いつく。


それは自分たちの携帯を握った時だ。


小百合は何故自分たちの携帯ではなくわざわざ店の電話にかけてきたのだろうかと。


確かに大抵いつも暇なときは店にいるし店に電話をかければ事足りると思った可能性も否定しきれないが、確実に連絡を取りたいのであればそれぞれの携帯に連絡を取るはずだ。


なのに確実性のない店の方に連絡を取ったということに康太と真理は僅かながら違和感を覚える。


警戒するべき事項が一つ増えたなと、口に出すまでもなく互いにそう思いながら二人は最寄りの教会に急ぐことにした。



誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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