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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十一話「血の契約と口約束」

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やりたいこと、やるべきこと

「そう言った魔術は覚えておきます。調べればあると思うので・・・それで実際の対策としてはどうすれば?」


『せっかちなやつだ。前提条件を満たしていない奴に教えたところで実践できるはずがないだろう。また今度・・・と言いたいところだがまぁそうだな、とりあえずお前にでもできる基本的な立ち回りくらいは教えておいてやる』


まだ必要な技術があるだろうがこれだけならお前にもできることだといい、奏は一呼吸おいてからそれを口にした。


『やるべきことは一つ。敵の一人に張り付くようにしろ』


「・・・張り付くって、組み付くとかそう言う意味ですか?」


『意味合いとしては近い。ほぼ距離がゼロになるほど接近しつづけろという事だ。もちろんそれもなかなか容易なことではないがな』


奏の言っているのはつまり接近戦をしろと言っているのと同義だ。それなら今の康太にもできる。というか今の康太が一番得意としているのが接近戦だ。遠距離戦はまだ苦手な部類なのである。


「近づくだけでいいんですか?それじゃ今までとあんまり変わらないような」


『多対一の状況において最も警戒するべきは複数方向からの攻撃だ。相手の攻撃が四方八方から飛んでくるのはなかなかの脅威だ。それを防ぐ方法はいくつかあるが攻防一体の方法がこの相手への接近だ。何故だと思う?』


何故と聞かれて康太は先程の考えと同じように自分が同じ立場だったらそうするかという事を想定してみた。


例えば小百合が相手だとして文や真理、そして自分を含めた三人が小百合を攻撃するとして、小百合が自分に急接近してきた場合どうなるか。


「あぁそうか、フレンドリーファイアしないようにするために攻撃がしにくくなるってことですね」


『そう言う事だ。無論魔術によっては近くにいる味方を傷つけないようにすることも可能だが、それでも近接戦闘という状況の変化が早い戦い方で正確に狙いをつけるというのは至難の業だ。相手への攻撃もできて相手からの攻撃を抑制できる』


相手が攻撃しにくくなるには当然かなり肉薄しなければいけないがなと付け足しながら奏はさらに言葉を続ける。


『ついでに言えば肉弾戦を行う時に他の敵が常に接近している相手の向こう側になるように位置取ると効果は増す。大体の射撃系の攻撃は術者から目標に向かって真っすぐに飛ぶからな』


「なるほど、肉弾戦のターゲットを盾扱いするわけですね」


『その通りだ。もちろん肉弾戦を行いながら周囲に気を配り、相手との位置関係を調整するというのは地味に難しいだろうが、そのあたりは小百合との訓練で学んでいけ。あと一つだけお前にもできる立ち回りがある。しかも肉弾戦に比べるとだいぶ楽だ』


今回奏が提示してくれたのは複数相手の中の誰か一人に接近して他の敵からの攻撃を抑制するというものだった。


それ以外にもできることがあるのかと康太は携帯に耳を傾ける。


「どんなのですか?全方位攻撃とか?」


『そんなもの防がれて終わりだ。もっと簡単だ。逃げればいい』


逃げる。その回答に康太は眉をひそめた。仮にも小百合の兄弟子だ。逃げるという言葉が出てくるという事自体が信じられなかった。


そもそも相手がいたら真正面から叩き潰すのが奏の信条だと思っていただけに敵を目の前にして背を向けるという事があり得ないように思えたのだ。


「逃げるって・・・撤退するってことですよね?そう言うのもありなんですか?」


『・・・あぁ、その声だと何か勘違いをしているな。訂正しよう。逃げるふりをしろと言ったほうが正確だ。本当に逃げるなど私もそうだが小百合も許さんだろうからな』


自分の知っている師匠とその兄弟子ならそう言うだろうなという事は予想できただけに康太は少しだけ安堵の息を吐く。


もっとも逃げられないということが確定している時点で安堵していいものかは微妙なところなのだが。


「で、どういう事なんです?逃げるふりだなんて」


『ふむ。当然だろうが人間には得手不得手がある。走るのが速いのがいれば遅いものがいる。射程距離の長い魔術が得意なやつもいれば苦手なやつもいる。一方向に逃げれば当然相手は追ってくる。攻撃範囲や移動速度にもよるがその移動は個人差が出てくるだろう』


「なるほど、その個人差で一番前に出てきて浮いた駒を一人ずつ倒すってことですね」


『そう言う事だがもう一つ利点がある。お前が一方向に逃げれば当然ほとんどの相手は一方向に集まる。相手が自分よりも速く移動できない限りは回り込まれることもないだろう。肉体強化が万全ではない状態では完全とは言えないが、相手の位置の調整、攻撃相手の厳選など一つの行動でできることは多いぞ』


なるべく機動力のある相手を先に倒しておくのも複数戦闘における鉄則の一つだ。覚えておけと付け足しながら奏はとりあえず教えるべきことは教えたのか何か質問はあるかと康太に聞いてくる。


「相手に対して視界を奪う事は有利になりますか?煙幕とかそう言うので」


『有利にもなるが同時に不利にもなるぞ。相手の方が数が多い状況だと相手は同士討ちを防ぐために攻撃に消極的になるかもしれんが、その分味方同士で協力して回避しにくい範囲攻撃をしてくる可能性が高い。そうなると防御しか方法は無くなるからな。今のお前にはお勧めできる方法ではない』


康太はまだ防御という部門では未熟の域を出ない。肉弾戦ならさすがにまともになってきているが今覚えている防御系の魔術は一つだけ。肉体強化は耐久力を上げるが防御に使えるわけではないし蓄積の魔術もあくまで攻撃用の魔術で常に防御に使えるわけではない。


しかも唯一の防御魔術である炸裂障壁も破らせることを前提においているために比較的脆い。その為まともな防御手段は現状無いに等しいのだ。


『とりあえず先に言った索敵系の魔術を身に着けることを優先するといい。今覚えている魔術が実戦等に可能なレベルになったらの話だがな』


どっちつかずにならないように気を付けることだと伝えた後奏は別れの挨拶を述べてから通話を切る。


聞きたいことはすべて聞けた。康太としては満足なのだがこうして店の中で一人でいるというのも久しぶりだった。


魔術の修業を毎日している中でも大抵小百合か真理がいたから一人で何かをするということはとても希少なことだ。


だがこういう時だからこそ集中できることもある。康太はとりあえず練習中の魔術を実戦で使えるレベルまで引き上げようと躍起になっていた。


現在練習している魔術はいくつもあるが、その中でももうすぐ実戦レベルに達する魔術が三つほどある。


その中で既に解析の魔術はほぼ完璧と言って良い程だ。実戦で使えるだけの発動速度と発動率はあるのだが、まだ精度が低く精密な解析をするのに手間がかかることを考えるとまだ練度は足りないだろう。


構築の魔術も毎日練習しているおかげか使い慣れた槍であれば即座に発動できる。そう言う意味では実戦に耐えると言ってもいいかもしれない。


今回身につきそうなのは奏に教わった魔術だ。破壊中心ではなく、補助にも使えるある意味万能な魔術である。


もちろん何でもできるというわけではないし、使いどころも地味に限られているように見えるが康太にとってはかなり使い道があった。


自分の中で使える魔術は着々と増えている。もうすでに使える魔術は二ケタを超え、ある程度の状況でも乗り越えられるようになったと言っても過言ではないだろう。


だが当然まだまだ未熟であることに変わりはない。ようやく火の魔術を身に着けはじめ、風の魔術もある程度扱えるようになった程度だ。


文たちが当たり前のようにできることが自分はまだ意識して集中しないと行えない。


スポーツで競おうというのに手や足をまるでコントローラーを仲介して操っているかのようなものだ。実際に術を意のままに操れるような者たちと比べると段違いの練度の低さである。


もちろん今年の二月に比べれば見違えるほどの変化だ。康太だって魔術師になるまでの人生で自分がこんな風になるだなんて思ってもみなかった。


だがなってみれば何のことはない。結局練習しなければ何事もうまくはならない。日々の訓練あってのたまもの。実際に練習しなければ何も上達しないのだ。


こうやって毎日のように訓練していてわかるのは魔術の練度の上昇の仕方だ。毎日必ず一つの魔術をそれぞれ十回ずつ発動し、練習中の魔術はその何倍も発動して同じことを繰り返す。


何度かに一度ゲームをやりながら魔術の発動を試みては今の練度を確認して同じように魔術の発動を繰り返す。


覚え中の魔術もだいぶ練度が高まってきたことで康太はまた新しく別の魔術でも覚えようかと画策していた。


現在覚えている最中の魔術は解析と構築を除くと小百合に教えてもらったものが一つ、幸彦に教えてもらったものが一つ、文に教えてもらっている風魔術が一つ、真理に教えてもらった火の魔術が一つ、奏に教わった魔術が一つとなっている。


奏に教わっているものがもうすぐ身につくことを考えると、今度は先程奏が言っていた索敵用の魔術を覚えてもいいかもしれない。


だが攻撃魔術もそうなのだが、防御系の魔術を覚えたいとも思うのだ。


幸彦に教わった防御用の被膜のようなものを展開する魔術は確かに便利だが、どれほどの強度になるのかもわかっていない。何より康太は防御魔術が圧倒的に少ない。


防御する気がないというわけではなく師匠である小百合がそう言う方針なのだろう。だがもう少し何かしらのアプローチが欲しいと思うところなのだ。


そして攻撃に関しても覚えたいものはある。特に遠距離攻撃だ。近接攻撃に関してはいくつも手段があるし、遠距離攻撃もやり方によっては問題なく行えるのだが射撃系の攻撃をそろそろ覚えたいなと思っていた。


普段他の魔術師が牽制で当たり前のように行う射撃系魔術を康太は覚えていないのだ。


大抵の魔術師相手には近接戦闘を行ってしまうために射撃などほとんど意味がないようなものなのだが、それでも牽制と攻撃の意志を見せることはできる。相手の位置取りを考えて立ち回るとなるとあって損はないように思えるのだ。


パッと思いつくのは文の持つ電撃、そして今まで何度か見てきた氷の礫を相手に当てる攻撃だ。近くの鉄を操って相手に射出する攻撃もあった。射撃系の攻撃は数多く存在するがどれも特定の物質や現象が一定法則をもって飛んで行っている。


無属性の魔術でそんなものがあるのだろうかと考えた時に自分の所有している遠隔動作の魔術を思い出す。


これは現在自分が行っている動作を念動力として発動することで疑似的に動きを再現しているだけの魔術だ。


射撃と違っていちいち座標を入力しなければいけないためにやや手間がかかってしまう。康太が求める射撃魔術はもっとお手軽に使える魔術なのだ。


もっと言えばこちらが攻撃しているのが見てわかる方がいい。無属性魔術は隠密性に優れ攻撃が見えにくいのが利点だが、それは同時に欠点でもある。相手に攻撃の脅威を視覚的に知らしめることができないのだ。


相手の誘導を考えた時、見えないという事は相手がこちらの攻撃を知覚しにくいという事でもある。そうなると誘導しにくくなってしまうために立ち回りが難しくなる。


その為目に見える形での射撃系の魔術が好ましかった。

























「というわけで、なんかいい魔術ないか?」


翌日、康太は文の修業場ともなっているエアリスの拠点に向かうと開口一番そう告げていた。


もちろん最低限の事情は話してある。だが魔術を探すという事で即座にこの場にやってくるという点が康太らしいというべきか。


「索敵用の魔術と目に見える射撃系魔術ねぇ・・・前者はまだわかるけど後者はどうなのよ?無属性で見えにくい射撃系魔術だってあるのになんでわざわざ見えるタイプ?」


「見えたほうが相手を威圧できるからってのがある。その方が相手をコントロールしやすいからな」


相手をコントロールする。それは戦いにおけるファクターの一つだ。


地形と自分の力量と相手の力量、そして戦力差などを考慮して作り上げるものであり、互いの戦況に大きく影響を及ぼす。


今まで康太はとにかく突っ込んで敵を倒すことを目的としてきたが、こういう発言をするあたり相手を倒すだけではなく別の方法を模索し始めているという事だろう。


師匠である小百合の教えだけではなく自分なりに魔術師として成長しようとしているその傾向を文は好意的にとらえていた。


「わかったわ。索敵魔術に関しては任せて。範囲はどれくらいがいい?」


「十メートルから三十メートルくらい。可能なら五十メートルあればうれしいな。索敵範囲を切り替えられて相手の位置とか地形とかがわかるようなやつなんだけど」


「それだと戦闘用の索敵?あんたらしいといえばらしいわね」


条件を聞いただけで瞬時に戦闘に用いる索敵であると察した文は苦笑しながら本棚の中からその条件に合致する魔術を記した魔導書を探し当てると康太に手渡す。


「で?問題は射撃魔術の方よ。見える魔術って言っても無属性系統だと難しいわよ?風属性も基本的には目に見えないし・・・」


「じゃあ火属性はどうだ?姉さんのおかげで結構ましになってきてるんだけど」


「へぇ・・・どれくらい?」


「このくらい」


康太はそう言って大きく深呼吸して人差し指を立てると、目を瞑り深く集中してから魔術を発動する。


すると人差し指の先に小さな火がともる。ライターほどの小さな火だ。だがそれは康太が火属性の魔術を身に着け始めた結果でもあった。


「へぇ、練習してるとは聞いてたけどできるようになってたんだ」


「あぁ。風属性の魔力を練る時と感覚は似てたからあの時よりは比較的身につけやすかったよ。まだ練度全然足りないけどな」


風属性の魔力を練る時康太はかなり苦戦していた。だが一度身に着けてしまえばあとは要領は同じ。


火属性の魔力を練るのも康太は今となってはだいぶ楽にできるようになってきている。もちろんまだ簡単に切り替えができるというわけでもないし、魔力を練るのが楽になったわけでもない。


だがこれで形式康太は三つの属性の魔術を扱えるようになったことにもなる。どんどん上達していくのだなと文は同盟相手の成長を喜びながらそれならばと一つの魔導書を持ってくる。


「これなら比較的楽に覚えられるはずよ。火の射撃系魔術の中でも一番簡単なやつ」


「簡単って、どのレベル?」


「本当に簡単よ?火の球を作ってそれを一直線に飛ばすだけ。威力も低いけど火の性質もちゃんと持ってるから燃やすこともできるわ。たぶん牽制としては十分意味を持つはずよ」


「文も使えるのか?やってみてくれよ」


「私は火の魔術はあんまり得意じゃないんだけど・・・まぁいいわ」


文はそう言うと部屋の一部に魔術で水の壁を作り出すとそこに向けて人差し指を向ける。


親指を立てて人差し指を向けているその仕草は子供のやる銃の形によく似ている。


文が魔術を発動するとその指先から数センチの火の玉が連続して水の壁めがけて射出されていく。


水の壁に当たると同時に音を立てて消えてしまうが、それでも火の玉が飛んでいくという現象を目の前にするとなかなかに圧巻だ。


「こんな感じね。威力と射程、あと射出速度を調整できるわ。幾つかの数値が上がれば上がるほど魔力消費と処理が大きくなるから注意しなさい」


「今のだとどれくらいの消費だ?」


「それこそ微々たるものよ。あんたの使う再現の魔術よりも消費は少ないと思うわ。この魔術燃費いいのよ。火属性が得意な魔術師だったら大体覚えてる魔術ね」


たぶん真理さんも覚えてるんじゃない?と告げながら文は作り出していた水の壁を解除する。


文が得意としているのは雷、水、風、光の四種類だ。基本的に得意な属性ばかりを覚えているのだろうが文はそれ以外にもいろいろと魔術を覚えている。


自分が苦手な属性の魔術も覚えられないわけではない。ただ扱いにくいだけの話なのだ。


そう言う点ではこの魔術は真理に教わったほうがいいかもわからない。餅は餅屋ではないが得意としている人間に聞いた方が間違いなく上達するだろう。


「にしても驚いたわ。この間風属性の魔術をようやく使えるようになったかと思ったのにもう火属性も使えるようになったのね。見直したわ」


「ふふん。もっと見直していいんだぞ?っていうか使えるって言ってもまだまだライターレベルだぞ?しかもこれだって実戦じゃ使えないレベルの練度だ。火の魔力を練るのもまだ結構集中しないとできないし」


風の魔力はだいぶ集中しなくてもできるようになってきているが、まだ火の魔力を練ろうとすると集中が必要になる。そのあたりは練度の低さが浮き彫りになっている明確な違いだろう。


「まぁある程度できるようになったらあとは精霊に頼んじゃうってのもいいかもしれないけどね。その方が楽だし」


精霊に頼む。その言葉に康太は目を丸くしていた。


精霊は魔術師としての素質がない人間でも魔術が使えるようにマナを取り込み魔力を生成するのを手伝ってくれたりする存在だ。


素質のない人間が使うのは仕方がないとして、魔術師がそれを使えば追加で魔力を作り出す後付パーツのような役割になる。


その反面取り込む魔力の属性が限られてしまうというのもあるが、属性魔術を扱うだけならばむしろ好都合というものだ。


「そうか、そうだよ。この射撃魔術に関しては精霊に頼んで火の魔力を注いでもらえばいいんじゃんか。目から鱗だわ。完全に盲点だったわ」


「そもそも今まで精霊見たことないわけじゃないでしょうに。何でそんなことも思いつかなかったのよ」


「いや、こいつがいるから精霊とかは半分あきらめてたし、そもそも精霊との契約っていうのもなんかうまく想像できなかったし」


こいつというのが康太の体の中にいるデビットの事であると気づくのに時間はかからなかった。


確かに康太は精霊とも魔術そのものともいえない何とも奇妙な存在を体内に内包している。精霊との相性がわからないために判断がつかないのだ。


なにせ康太は今まで精霊の存在は目にしたことはあるが、実際に体の中に入れたことはないのだ。


そもそも精霊をどこから連れてくるのかとかそう言うことがわかっていない。

というか精霊が普段何処にいるのかもわかっていないのである。


「ちなみに精霊ってどうやって連れてきてどうやって契約するんだ?その辺詳しく教えてくれ」


「それはいいけど・・・いやいいのかな、私が教えても・・・」


文は康太の師匠ではない。康太にこんなことを教えてもいいのだろうかと一瞬迷ったが、あの小百合がわざわざそんなことを教えるとも思えなかったためまぁいいかという結論に至る。


「まず精霊がどこにいるのかっていうところから。精霊は基本何処にでもいるわ。精霊は自然がもつエネルギーを好んでいるから基本的にこの世界のどこにでもいる。私たちはそれを引っ張ってくるか、自分で探しに行くのよ」


「そんなに簡単に見つけられるものか?俺全然見つけられないんだけど」


「そう言う術式がちゃんとあるのよ。普段精霊は自然現象とほぼ一体化してるから見えないけど、それを見えるようにする術があるの。それもまぁ今度覚えるとして・・・問題は契約の方法ね」


契約


精霊と人間が交わす契約。精霊にも個体によって好き嫌いが存在し、好きなものを与えることで魔力を供給してもらうというものだ。


単純なものであれば良いのだがと康太は僅かにしり込みする。


「単純に言っちゃうと、精霊を体の中に入れて特定の術式をくみ上げると大抵の精霊は懐いてくれるわ。そう言う術式があるの」


「・・・なんかすっごく簡単じゃないか?拍子抜けなんだけど」


「そう言うけどね、懐いてくれるのはその最初だけよ。その後は自分の裁量でその精霊の良し悪しだとかを判断していろいろ工面しなきゃいけないんだから。術式はあくまできっかけ。その後は本人次第ね」


精霊との契約はそこまで難しくはない。問題は契約した後の話だ。


精霊には好き嫌いがあるというのは先程記したが、理性や知性のある人間などと違いほとんどの精霊にはそう言ったものがない。


感情がむき出しの子供かそれ以下の状態でしかない精霊に言う事を聞かせるのは至難の業だ。


好きなものを与え続け、言う事を聞かせるというともはや契約というより飼育の域に近いだろう。


どちらにしろ康太にとっては未体験の領域だ。


「でもあんたの場合精霊との契約は当分諦めたほうがいいと思うわよ?少なくともまだやめた方がいいわ」


「なんで?できるならすぐに契約して慣れておいた方がいいんじゃないのか?」


「その考えも間違ってはいないんだけどね・・・あんたまだ複数種類の魔力を同時に操れないでしょ」


文の言葉にそう言えばと康太は思い至る。康太はまだ複数の魔力を同時に操ることができない。


早い話風属性、炎属性、無属性の魔術を同時に扱えないという事だ。


大抵属性魔術を発動する場合、今存在する魔力を別属性の魔力に変換して発動している。


無属性、風属性、火属性三つの種類の魔力を同時に内包するという作業もできていないし、三つの魔力を別々に操るということもできていない。


「精霊と契約して臨戦態勢になると良くも悪くも魔力が強制的に入ってくるわ。体の中の魔力をしっかりとコントロールできないと普通に魔術を発動することもできなくなる。だからあんたはまだやめた方がいい」


「くっそ・・・いい案だと思ったんだけどな・・・まだまだ魔力の修業が必要か・・・」


「まぁあんたならコツ掴めばすぐでしょ。魔力の生成ができれば後はその魔力の置き場を変えたりするだけだし、イメージとしては作りやすいはずよ」


魔力の置き場。


康太の場合魔力のイメージの関係で心臓を魔力の貯蔵庫に近い形で設定している。だがそれは無属性の魔力だ。


体の中で他の属性の魔力を作る場合、他の部位に魔力を貯蔵するようなイメージを持つといいのだろう。


まだまだやるべきことが山積みだなと康太は口元に手を当てて悩み始める。新しい術もいいがやはり基本に立ち返るべきなのかもしれないなとそう思い始めていた。


日曜日と誤字報告を十件分受けたので四回分投稿


最近誤字が多いのでちょっと真面目にチェックしようと思います


これからもお楽しみいただければ幸いです

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