評価と派閥
「そうか、学校が始まったか・・・そう言えば今日から九月だったな」
学校と部活が終わった康太はいつもの通り、いや一学期と同じように小百合の店にやってきていた。
年中無休であり年中休みである小百合にとって学校の有無というのはもはや曜日感覚程度のものでしかないのだろう。パソコンをいじりながらせんべいを口に咥え興味なさそうにそんなことを呟いていた。
「そう言えば高校生は九月からもう学校が始まるんでしたね。懐かしいなぁ」
「え?大学生って九月スタートじゃないんですか?」
「うちの学校は夏休みが始まるのが遅い代わりに九月の終わり辺りから始まるんですよ。年によっては土日の関係で十月から始まることもあるらしいですよ」
「なんですかそれ羨ましい」
高校と大学の授業の始まりの違いに少々ではあるが羨ましさを感じながらも、その分早めに夏休みが始まったのだから我慢するしかないと康太は諦めていた。
基本的に大学生は高校生と違って単位を選択していくことで自由時間が多い。理系の学生は比較的忙しい方だがそれでも高校生のように確実に拘束される時間というのは圧倒的に少ないのだ。
「時に師匠、九月の予定とかって決まってるんですか?この夏はめっちゃ忙しくてそれどころじゃなかったけど」
「ん・・・特にこれと言って急務は無い。商品の確認も終わっているし急な出荷がない限りは手伝ってもらう事もないだろう。その分お前の訓練に集中できるな」
「あはは・・・そりゃありがたいです」
八月は方々から面倒事がやってきたためにかなりハードスケジュールで延々と行動し続けていた。
魔術師としての活動が多くなればその分訓練の時間が削られてしまう。この夏は実戦が多くあった代わりにその分訓練の時間が少し削られてしまった。
修得した魔術はいくつかあるが、それでも実戦で使えるレベルになったのは数えられる程度である。
「でもそう言えば姉さん、協会内での俺の評価ってどんな感じなんですか?」
「どんな感じ・・・というと?」
「ほら、デビットの一件でちょっとごたごたした後にいろいろ面倒事解決とかしてたじゃないですか。結果的に俺の評価ってどんな感じになったのかなと」
康太は協会内での自分の評価はだいぶ不安定だったように記憶している。特にデビットの残滓であるDの慟哭に起因する危険視という意味合いでの評価が異様に高かったように思うのだ。
奏の心遣いで多少緩和され、八月中に面倒事をいくつも解決したことで多少はましになったと思いたい。
だが先日の京都の一件でまた不安定になっているのではないかと思ったのだ。
あれは小百合についていったからこそあのような展開になったとはいえ組織のデリケートな問題に介入したのだ。評価が極端にプラス側に偏るということはまずないだろう。
「えっとですね・・・ブライトビーの評価としては危険視するというのが四割、評価しているというのが五割、残りの一割はどうでもいいというものでした」
「・・・一応半分半分くらいなんですかね・・・危険視する理由とかはわかります?」
「半分くらいがデビットさんを理由にしていますが、それと同じくらい師匠の弟子だからというのがありますね。私と違ってまだ康太君は魔術師としての活動歴が浅いですからどんな魔術師なのか広まっていないんです。いくら活動の結果が公表されても人物像が見えなければ危険視されるのも仕方ないかと」
封印指定を内包したのと同じくらい小百合の弟子であることが危険であると判断される当たり小百合がどれだけ面倒な存在かがわかる。
弟子である時点で大きなマイナスを背負っているというのはあながち間違っていないだろう。
そして真理のいうように魔術協会内での活動内容を挙げられても康太が危険視されるという事は康太がどのような人間であるかを知っているものが少ないからというのが理由の一つだろう。
どんなに優秀でも思想や思考が危険であればどうしても危険視されてしまう。それが小百合の弟子ならばなおさらだ。
一部の人間は康太の人柄を知っているからそこまで邪険にはしないし、むしろ同情してくれたりするのだが、やはりまったく康太のことを知らない魔術師というのは勝手な想像をしてしまうのかもしれない。
真理のように精力的に魔術協会内での活動を増やして味方を増やすことも考えるべきなのだろうかと悩んでしまう。
「でも一つ朗報ですよ、師匠を経由してではありますが京都の四法都連盟、その土御門の家の連絡係さんが教えてくれたんですが、私と康太君のことを支援すると言ってくれたんです」
「支援って・・・どうして?」
「この前いろいろとお手伝いしたからその借りを返したいという事ではないでしょうか?どの程度の支援をしてくれるかは正直わかりませんしあてにもできませんが、少なくとも敵にはならないと公言してくれたようなものです」
それのおかげで多少は協会内での見方も変わってくるでしょうと真理は嬉しそうに笑っていた。
あのような面倒事に巻き込まれたのも決して無駄ではなかったのだろう。康太としては味方が増えるのはありがたい限りである。
今度真理が協会に顔を出すときは一緒に行って手伝いをした方がいいのかもしれないなと康太は考えていた。
「四法都連盟が関わってきてくれたのは嬉しいけど、それで敵視されることもありそうですよね」
「あるでしょうね。でも支部長さんは喜んでましたよ?向こうとの良い感じのかけ橋ができそうだって。日本支部としてはそういう関係ができるのはむしろ歓迎ですからね」
「日本支部はそんな感じなんでしょうけど、本部の方はどうなんでしょうかね?」
日本支部は小百合の一件もあって支部長が基本的に康太に目をかけてくれている。そのおかげで康太の活躍が表に出やすくなっているのだが、それはあくまで日本支部内での話だ。
以前関わったデビットの一件、一番康太のことを、デビットの残滓であるDの慟哭を危険視していたのは本部の魔術師たちだ。
実際に多くの被害を受けているのが本部の近くなのだから仕方がないのかもしれないが、デビットを内包した康太のことを危険視している魔術師が最も多いのは本部なのだ。
「本部の方ですか・・・私もそっちの方はあまり情報を仕入れていないんですけど・・・あまりいいうわさは聞きませんね。康太君自身が日本支部の所属という事もあって積極的に干渉してくるようなことはありませんけど」
魔術協会という組織は各地域や国によって支部が存在する。その支部ごとに魔術師は所属して活動するわけだが、各支部の中で連絡や命令などが重複しないようにそれぞれ独自の指揮系統や派閥を有している。
他の支部が他の支部に直接干渉や命令ができないようにしているのだ。もっとも依頼などという形で外部の魔術師に協力を要請することは多々ある。
だが康太の場合は危険視されているだけなので基本的に遠ざけられるような形の関係を保っているのだ。
「危険視してる魔術師が俺を殺しにきたりとかしないですよね?」
「それはまずないでしょう。確かに康太君は危険視されていますが、同時に期待している魔術師も多いという事です。仮に危険視派が行動を起こそうとしても期待派がそれを止める動きをするでしょう」
「期待って・・・俺そんな期待されても何もできないですよ?大体その人達は何に期待してるんですか?」
「康太君がデビットさんの魔術を改良することを期待しているんですよ」
デビットの魔術を改良。それはつまり康太にしか扱えないような、いや康太ですら完全に扱えないような今の状況を変え、あらゆる人間がDの慟哭を扱えるようにするという事だ。
今の状況ではこの魔術はただ単に危険なだけ、勝手に動こうとする魔術など危険極まりない。
だからこそこの魔術には後世に残す前に改良が必要だと考えているのだろう。
実際に康太もこの魔術は改良したほうがいいと考えている。だが同時に改良してはいけないとも考えているのだ。
この魔術ははっきり言って危険だ。その効果範囲の広さもそうだが誰でも魔力を簡単に抜き出せるようになってしまっては多くの事件が起きるだろう。
「つまり、期待してる人たちはこいつの力のおこぼれにあやかりたくて、危険視している人たちはそう言った人たち含めてこの魔術の危険性を正確に理解できている人達ってことですか」
「まぁそうなるだろうな。お前にとってはちょっと便利な魔術程度にしか思われないことでも利用法は山ほどある。一人しか扱えないものから万人が扱えるようなものになれば魔術としての利便性は跳ね上がる」
その分危険性も相当上がるだろうがなと付け足しながら小百合は茶を口の中に含みゆっくりと飲みこんでいた。
「だがそうやっていくつもの思惑があるからこそ今はお前に対してのアプローチがほとんどないんだ。今は静観しているつもりだろうが、恐らくお前の持つ力だけを利用しようとしてくる奴は出てくるぞ」
「魔力を吸うだけなのにそんな力を利用するとかありますか?」
「やりようはいくらでもある。逆に利用する振りをしてお前を潰そうとする奴だって出てくるだろうさ。そう言う見極めを今のうちにできるようにしておけ」
康太に対して個人的な依頼が入ってしまうと、師匠である小百合としてもあまり干渉するわけにはいかない。
師匠と弟子という関係を築き、未熟な弟子を導くという立場を利用しても個人的に依頼されたことに関して首を突っ込みすぎるのもよくないのだ。
あれやこれやと指示するよりも自分で考えさせた方がいいこともある。それで康太が何かマイナスな影響を受けたとしたら、その時は師匠としてフォローしてやればいいだけの話だ。
「ちなみに師匠も本部の方から危険視されてるんですよね?」
「・・・何故断定しているのかは分からんが・・・まぁそうだな。あまり良くは思われていないだろう」
「本部でなんかやらかしたりしたんですか?」
「・・・まぁな。依頼が来た時にいろいろと。だから私が本部に行くことはほとんどない。この前だって相当久しぶりに足を運んだ」
デビットの事件の時に協会本部には立ち寄ったが、あれが本当に久しぶりの本部入りだったのだろう。
小百合はいつでもどこでも敵を作る。もちろんその分多少は味方を作ることもあるのだが圧倒的に敵の方が多い。
本部の魔術師がどのようなタイプなのかはわからないが、それでも可能なら敵に回したくはないなと心底思う。
「まぁ本部から召集を受けることも依頼が来るなんてこともそうそうないですから。私も師匠についていった程度ですし」
「そうですね、それなら安心です」
本部に敵は作りたくない。日本支部と本部とはそれぞれ独立した組織のような形であるとはいえ一応は協会のトップなのだ。敵に回して得することなど何もないのだ。
学校が始まって数日、二学期ともなれば入学してだいぶ時間が経ったこともありほとんどの生徒は学校生活に慣れ始めている。
校内の構造もそうだがその周囲にある店や建物も把握し帰りにどこかによって遊ぶという事もできる。
特に周辺の喫茶店や本屋などを把握できてるのはかなり大きい。帰り道についでに寄り道というのは高校生の醍醐味だ。
そしてその慣れは何もただの生徒たちだけに適応されるものではない。
夜、生徒だけではなく教職員のほとんどが帰宅した二十二時頃、康太と文は呼び出しを受けて校舎の屋上にやってきていた。
三鳥高校の魔術師同盟。この会合も一体どれほど開いただろう。ほとんどの魔術師が互いを牽制し合っているためにまともに行動しているところは見たことがない。
少なくとも目の前にいる二、三年の魔術師が魔術師として活動しているところは協会内でも聞いたことも見たこともない。
それに反するように康太と文、ブライトビーとライリーベルは魔術師として活動ししかも結果を残している。
特に康太の功績は高校生の魔術師とは思えないほどだ。封印指定の事件を解決し、つい先日には京都の四法都連盟の一角にコネを作っている。
半分以上は師匠である小百合が原因なのだが、第三者からはそんなことはわかりようがない。この魔術師の中でそれを知っているのは当人である康太と、康太と同盟を組んでいる文くらいのものである。
「今日は集まってくれて何よりだ。皆夏休みの間は魔術師として充実した生活を送れたと思う。特に一年生の二人は協会で名前をよく耳にする。随分と活躍したようだね」
その言葉には若干の皮肉も含まれているのだろうか、三年生の魔術師が代表してあいさつと一緒にそんなことを言うと康太と文は同時に小さくため息を吐く。
「そんなことはありませんよ。偶然にすぎませんし何よりいろいろと面倒を抱えました。あまり良い夏休みとは言い難かったですね」
「実入りはありましたがそれ以上に大変でした。高校生ともなるといろいろ大変なんですね」
皆さんもそうだったんでしょうと今まで全く魔術師としての活動及び成果を上げられていないような二年、三年の魔術師への若干の皮肉を込めてそう言うとその場にいた魔術師たちは一瞬だがこちらに視線を向けて来た。
その視線に苛立ちのようなものが含まれているのに康太も文もすぐに気づいた。一年生が生意気なことをと思っているのだろうが実際康太と文はそれだけの功績を上げている。
口でどうこう言ったところで既にどちらの方が魔術師としての地位を築いているのかは言うまでもないことなのだ。
康太の功績が目立ちすぎて文の方はほとんど目立った功績がないように思えるかもしれないが、この夏文もかなり多くの面倒事を解決し協会での評価をしっかりと上げている。
同盟間では二番手のように落ち着いているかもしれないがむしろ彼女の方が安定した実力を持っているというべきだ。
もっともそのことに気付いているのはごく一部の人間にすぎないが。
「それで?今回集めた理由は何だ?用件は早く済ませてくれ」
「ん・・・用件は今度の学園祭についての事だ。ぶっちゃけただの連絡会だと思ってくれ」
学園祭。三鳥高校の学園祭は九月の末に行われる。それぞれの組が出し物をするタイプの学園祭だ。夜遅くまで残って作業をする者もいる。中にはそれぞれの部活動で遅くまで残るような生徒もいるだろう。
「例年通り、俺たちも生徒として学園祭に参加することになるだろうが、学園祭の開催中に他の魔術師が侵入してくる可能性がある」
三年生の言葉にそんなことあり得るのかと文の方を見るが、文は小さく小首をかしげる。
この夏休みであらゆる魔術的な要素を含んだ地形や建物、そして事件を見てきたがこの三鳥高校にはそう言ったアドバンテージは無いに等しい。
拠点とするにはあまりに人が多く、魔術の実験を行うにしては区画が別れすぎている。このような場所に訪れる理由なんてものはただ通うか学園祭などに参加する以外に理由はないように思えたのだ。
「そのため我々は参加しながら学園祭中に魔術師対策としての警護を行うことになる。各自自分たちの出し物などを優先してくれて構わないがどの場所にも駆けつけることができるようにある程度互いに距離を保ってくれるとありがたい」
敷地内に一定距離で魔術師を配置することで何か起こされてもすぐに対処できるようにするのが目的だろうが、その目的などを考えていない時点でどうしてもただの形だけの防衛のようにしか見えない。
元よりこの場所に魔術師的なアドバンテージがないために、奪われたところで特に問題はないように思えてしまうのだ。
だがそれを言ってしまったらそれこそこうして連絡会を持っていることの意味も無くなる。
この同盟の目的はあくまで同盟内にいる魔術師の相互監視と敵対組織からこの学校そのものを守ることだ。
例え魔術的なアドバンテージがなくともただ単に破壊活動を行う魔術師がいないとも限らない。
「今年は特に注意が必要だろう。特に一年生は良くも悪くも名が売れ始めている。興味半分でやってくる魔術師もいるかもしれないしな」
三年生の言葉でその場にいた魔術師の視線が康太と文に集中する。そこまで話を聞いてようやく二人はなるほどなとこの話の根幹を理解した。
学園祭という誰が参加しても不思議はない状況で他の魔術師が学校ではなく康太と文を目的にやってくることを想定したのだろう。康太も文も基本的に協会にあまり顔を出さない。実物を見てみたいという気持ちがあるならやってきても不思議はない。特に学園祭は土日で行われる。社会人が来ても何ら不思議はない。
その後、学園祭中の簡単な取り決めを行った後で康太たちはその場で解散することになっていた。
「ブライトビー、ライリーベル、少しいいだろうか」
さっさと帰って寝たいと思って屋上から去ろうとしたとき三年生の魔術師から声をかけられた。
三鳥高校の魔術師同盟の中の派閥の一つ。三年生一人に二年の魔術師二人を擁したチームだ。
この同盟の中で一番力を持っているだろうチームであり、現段階での同盟内のまとめ役と言っても過言ではない。
「なんですか?さっさと帰って寝たいんですけど」
「お話であれば手早くお願いします」
あからさまに嫌そうな声を出すことはなかったが、二人があまり良い感情は持っていないことはある程度察したのだろう。三年生の魔術師は自分の連れの二年生の魔術師も踏まえて何やら話をしたいようだった。
すでにもう一つの派閥の魔術師二名はこの場を去っている。現状三対二。このまま戦闘にでも持ち込むつもりだろうかと康太と文は若干警戒する。
康太は解析の魔術を使って三人の体を調べ上げる。見える範囲では武器の類は所有していないようだ。外套の内側に隠されているのなら解析しようがないが、とりあえず脅威となる大きな武器を所有していないというのは安堵するべき事実だろう。
「君たちはこれからもそのままの同盟としての形を維持するつもりなのか、それを確認したくてね」
「それは、私とビーの同盟の話でしょうか?」
三年生魔術師の言葉に文は怪訝な表情をしながら返す。仮面をつけているせいでその表情は相手には見えなかっただろうが一体何を言いたいのだろうかという疑問を抱いていることは相手にも伝わったようだ。
「そう、君たち二人の同盟のことに関して聞いているんだ」
「一応喧嘩とかしなければ高校卒業までは一緒に行動するつもりですけど・・・それがなにか?」
高校卒業まで。大学進学などによってこの同盟がどのような形になるかわからないが少なくとも康太も文も今現在同盟関係を解消するつもりはない。
いや、同盟を解消する理由がないのだ。現状康太と文の関係は良好だし、何より同盟を解消するメリットがない。むしろデメリットだらけだ。
ただの魔術師同士になると互いに研鑽するための修業場への出入りも難しくなるし、今さら互いに警戒するなんてことができるはずもない。
何より今さら互いを敵とみなすには康太も文も互いの情報を知りすぎているのだ。脅威度の高い敵を増やさないためにもこのまま同盟を続けておくに越したことはないのである。
何より信頼している相手との同盟を破棄するという考えがまずないのだ。
「俺たちの同盟が何か問題でも?まさかそちらの派閥に入れとかそう言う話ですか?」
「いや、君たちの派閥はすでにうちの中でも一大勢力になっている。それを引き込もうとはしないよ。そんなことになったらパワーバランスが崩れるからね」
この三鳥高校内での魔術師同盟の目的はあくまで相互監視による面倒事の事前防止だ。互いの派閥が互いに監視することでその均衡を保ち、もし何かあった場合にきちんと対処できるようにするのが目的である。
派閥を作り相互監視するという事はつまりそれぞれ敵の思惑を阻止できる程度の実力がなければいけないのだ。
つまりここで康太と文の勢力を取り込むと片方の派閥だけが強大になり相互監視と未然防止が不可能になる。
もちろん少数となっている片方の派閥を止めることはできるだろうが、その逆はまず不可能だ。
今は学校内での勢力が三分割されている。今対峙している三年生一人と二年生二人を擁する主要派閥。そして三年生一人と二年生一人を擁する少数派閥。そして康太と文を擁する一年生の派閥。
この三つの派閥が三すくみの状態だからこそ何も起こらないと言っても過言ではない。もっとも康太と文の場合この学校で何かしらのことを起こすつもりはさらさらないので気にするような事ではないのだが。
「じゃあ俺たちの同盟に一体何のようなんです?」
「うん、話というのはそのパワーバランスの話なんだよ。今度の生徒会選挙で三年生は事実上の引退になる。それと同時に魔術師としてこの同盟からも脱退という形になるんだ」
「・・・あぁ・・・そうするとパワーバランスが崩れると」
現在のパワーバランスは三年生の魔術師がいて成り立っている。もし三年生が抜けたらどうなるか。
二年生二人、二年生一人、そして康太と文という三派閥が出来上がるわけだが、そうなってくると現在の少数派閥が一人しかいなくなってしまうのである。
部活動じゃないんだからそんな律義に引退しなくてもいいのではないかと思うのだが、三年生としては受験も控えている。なるべく魔術師としての活動よりも受験勉強に時間を当てたいのだという考えが理解できるだけにそう言った発言をすることは憚られた。
「そう言う事だ。なので君らがそれを機にあちらの派閥に入るか、あるいは君らが派閥を解体して四つ、あるいは全員バラバラの派閥を形成するかで悩んでいてね。新一年生が入ってきたらその都度新しく考える必要があるんだけど・・・」
目的が相互監視である以上それぞれの派閥が拮抗した実力を持っていることが好まれる。その為にどこかに偏った派閥があるというのはあまり良い状況とは言えないのだろう。
三年生が事実上の引退をする前にこの同盟内での派閥に関しての問題を解決したかったのだろう。康太と文としてはどうでもいい話なのだが、高校内での安全を守るためには致し方ないことなのかもわからない。
誤字報告十件分、評価者人数が170人突破したので合計四回分投稿
大量投降した後は誤字が多くて泣けてきますね
これからもお楽しみいただければ幸いです




