プールへ
後日、康太と文は駅前で待ち合わせをしていた。
日差しは強く、天気は快晴。気温も高く絶好のプール日和だと言えるだろう。
そう、今日は以前から計画していたプールに遊びに行く日なのだ。
「にしても晴れてよかったな。これで雨だったらテンションダダ下がりだったよ」
「台風とかちょっと心配だったけどね。さすがに幸彦さんまで巻き込んで天気が悪かったら笑えないわ」
「確かに。今回は本当にあの人に悪いことしたからなぁ・・・」
今回幸彦はこの日を空けるために仕事をだいぶ切り詰めていたのだとか。何気なく頼んだことで幸彦にかなりの負担を強いていたのは間違いない。
康太は自分の軽率な行動を猛省すると同時に、幸彦に何かごちそうでもしなければいけないなと思っていた。
「てか真理さんは?てっきりあんたが誘うと思ってたんだけど」
「いやそれが姉さんちょっと予定があるらしくてさ・・・行きたかったって悔しがってたけど」
プールの予定が決まった時点でもちろん真理の方にも話は通してある。だが運悪く私用が重なってしまい真理は今回来ることができなかったのだ。
ある意味康太の知り合いばかりが集まらなくてよかったというべきだろうか。ただでさえ魔術師が多くいるのだ。誤魔化すのも一苦労なのである。
「そう言えばあんた京都のお土産はあの人たちに渡したの?奏さんとか幸彦さんとか」
「ん、この前奏さんの所に行った時に一緒に渡してきた。土産と一緒に土産話もしてきたぞ。なかなかに喜ばれた」
先日京都に行ってきたその内容を知っている文からすれば、奏や幸彦がどのような理由で喜んだのかは不明だ。
相手を倒してきたから喜ばれたのか、ただ単に面白かったから喜ばれたのか、それとも康太が京都の土御門の家とつながりを持ったから喜ばれたのか。
理由はともかく、今回の京都への商談は康太にとって大きなプラスになったのは言うまでもないだろう。
「京都まで行って大乱闘してきたってんだからそりゃ喜ばれるでしょうよ。あの人そういうの好きそうだし」
「いやいや、奏さんは案外戦闘狂ってわけでもないんだぞ?勝てるようにあらかじめ根回しとかしてるから妙に好戦的に見えるだけであって」
「いやいや・・・あんたそれは間違ってるわよ。あの人は絶対」
「あ、いた!八篠君!文!」
康太と文がそんなことを話していると後ろから声が聞こえてきた。数人の女子がこちらに手を振ってやってくるのがわかる。
どうやら文のクラスメートが来たようだ。
「お待たせ、遅れちゃった?」
「いや、まだ時間はあるよ。青山と島村もまだ来てないし」
「そう言えば今回車出してくれるんでしょ?八篠君の知り合い?」
「あぁ、知り合いってか親戚。でかいけどいい人だから」
「お、いたいた。おーい八篠!」
康太たちが話していると今度は話に出ていた青山と島村がこちらに駆け寄ってくる。
これでとりあえず全員そろったことになるが、移動手段である幸彦はまだ到着していないようだった。
「それで?車は?まだ来てないのか?」
「まだ集合時間には早いぞ?今のうちに必要なものあれば買っておけばどうだ?飲み物とかお菓子とか」
「それもそうだな・・・近くにコンビ二あるしちょっくら行ってくるか」
「あ、私も行く!ごめん文、ちょっと荷物見てて」
「はいはい行ってらっしゃい」
青山を含めた数人がコンビニに行くのを眺めながら康太が荷物を一カ所にまとめていると康太たちの近くに一台の車が停車した。
おおきめのワゴン車だ。そして窓が開くとその中にはサングラスを着けた幸彦が座っていた。
「やぁ康太君。今日はいい天気になって何よりだよ。少し遅れちゃったかな?」
「幸彦さん、お疲れ様です。時間まで余裕ありますよ。今日はよろしくお願いします」
幸彦が現れたことで康太が頭を下げると、文の方に同時に視線を送る。思えば文は幸彦と仮面をつけていない状況で会うのは初めてだ。
ある程度説明をしておかなければいけない。だがこの場には自分たち以外にも一般人がいる。あまり声を大きくしての紹介は避けたほうがいいだろう。
「幸彦さん、こっちの鐘子文ってのが前に紹介したライリーベルです。あとのは全員一般人ですので」
「了解、彼女以外には込み入ったことは話さないでおこう。君と僕との関係性は?」
「親戚ってことにしてますので、口裏合わせお願いします」
「わかった。それじゃあ荷物積んじゃおうか」
幸彦は一旦運転席から降りるとおいてあった荷物を運ぶべくトランクの扉を開く。
全員分の荷物となるとたくさんあるが、それなりに大きな車であるために苦労はしなかった。
「あれ、車来てる。八篠!もう行くのか?」
「あぁ、あっと・・・とりあえず全員来たところで紹介しとく。俺の親戚の幸彦さんだ。今回車を出してくれる。今日はよろしくお願いします」
康太の礼に続いてその場の全員がよろしくお願いしますと幸彦に頭を下げる。
「はいよろしく。じゃあみんな手荷物だけ持って乗り込んでくれるかな?準備ができているならすぐに出発するよ」
返事をしてから全員が大きな荷物だけをトランクに放り込み、それぞれ車に乗り込んでいく。
康太は助手席に、文は康太のすぐ後ろ、他の全員が後部座席に乗りこむとプールへ向けて走り出した。
夏らしい、そして学生らしい一日の始まりである。
明日は一周年なのでちょっと多めに投稿する予定です




