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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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商談は終わり土産を

「・・・お前達は何をしているんだ?」


「あ、師匠お疲れ様です」


「もう商談は終わったんですか?」


小百合が昭利を引き連れてトラックに戻ってくると、そこには二人の弟子が中学生相手に組手をしているところだった。


組手と言ってもほとんど一方的なものだった。晴と明は肉弾戦に関しては良くも悪くも中学生程度の実力しか有していなかったのだ。


攻撃をするにしても隙だらけ、康太が何度攻撃をためらったかわからない。防御をするにも隙だらけ、真理が何度畳みかけるのを止めたかわからない。


康太と真理が意識を小百合の方に向け、話しながら戦ってもなお余裕がある程度の技量しか持ち合わせていないのだ。


「何をしていると聞いているんだがな・・・踊りでもしているのか?」


「いや、肉弾戦の手ほどきを・・・ていうかこいつら今までこういう訓練したことないでしょ?昔の俺みたいですよ?」


「言い得て妙ですね。ですが確かにお世辞にも良い動きとは言えません。昭利さん、土御門の家の人間に肉弾戦を得意とする魔術師はいらっしゃらないんですか?」


「そりゃ何人かいるけども・・・どうして?」


「この二人に肉弾戦の手ほどきをしてあげたほうが良いかと。少なくともこれでは魔術を使わなければ同い年の人間にも負けますよ」


魔術師というのは常に魔術を使っていられるわけではない。時には魔術が使えないような状況になる。


特に魔術を隠匿しなければならないため、そう言った機会は案外多いものだ。そう言う時に自衛手段として身を守る手段を有しておいて損はない。


本当に魔術師としての大成を望むのなら、魔術以外にも覚えることは山ほどあるのである。


康太と真理は軽く二人を組み伏せてから悠々と立ち上がる。


「それで、もう商談は済んだんですか?」


「あぁ、あとは商品の中身を確認してから引き揚げる。ホテルで一泊して、明日の朝一で戻るぞ」


「了解です。なかなかに疲れる商談でしたね」


もう組手の手ほどきは終わりだというかのように康太と真理は早々にトラックの方に向かって商品の中身と数を確認しに行った。


「くっそ・・・一度も勝てんとは・・・」


「あいつら相手じゃまだお前達では勝てんだろうな」


「に、肉弾戦だけだったからや。魔術も使えばこんなことには」


「同じだ。肉弾戦でまともに戦えない相手に勝てるわけがないだろう。魔術は使えても体捌きがひどすぎる。そんなんじゃそこらの雑魚にも負ける」


魔術師戦において重要なのは魔術もそうだが自らの体の動きそのものと言ってもいい。当然だが戦っている以上動き回るし走り回る。時には体を自由自在に動かせるようにならなければ相手の攻撃を避けることも、また有利な状況に運ぶことも難しくなる。


この双子は魔術を扱う技量はあるが、それを戦いに活かすだけの技量がまだないのだ。


魔術を教わるばかりで戦い方を教わっていない典型と言ってもいい。


「確かに、真理のいう事も間違いではなさそうだな・・・きちんと手ほどきをしてもらわないと本当に同い年の魔術師たちにも勝てないぞ」


「う・・・確かに私たちは弱いですけど・・・」


晴と違って明は自分の実力をしっかりと把握できているようだった。先程までの組手で康太と真理がどれだけ加減をしていたかも重々承知している。


自分達が土御門だから露骨に手を抜かれた。その事実が悔しく、情けなかった。


「ふむ・・・あんまりこの二人の教育に関しては口は出したくないんやけどなぁ・・・」


「ほう、それは何故?」


「一応この子らの親だけじゃなくて親戚一同でどういった教育をするかを決めとるんや。こっちが口出したくらいでそれを覆すとは思えんくてな」


「教育方針を決めるのが親や親戚だとしても、最終的に決めるのはこいつらでしょう。こいつらが望むのならそうしてやればいい。望めばの話ですが」


結局のところ、周りがそれを求めても最終的にそれをやるのは本人でしかないのだ。


周りが期待を寄せて多くの物事を学ばせようと、最終的に本人がやる気を出さなければ意味がない。


逆に本人がやる気を出していれば周りの意見など意に介さないだろう。本人にやる気があればの話ではあるが。


「ふむ・・・確かにそうかもしれんね・・・さてどうしたもんか・・・うちの知り合いで教えるのが上手いのは・・・」


「・・・あの・・・この人のところで勉強しちゃダメなんか?」


「・・・は?この人って・・・小百合ちゃんのとこで?」


晴の思わぬ一言に昭利は目を丸くしてしまっていた。一体何を言っているのだという表情でそれは小百合も同じだった。


「俺ら来年高校生や、俺らがそっちの高校に進学すれば、いろいろ教えてもらえるやろ?」


「・・・高校生で一人暮らしするのがどれだけ大変かわかって言っているのか?お前が思っている以上に大変だぞ」


「まぁ、経済的には大丈夫やろけど・・・他のみんながなんていうか・・・」


思わぬ意見が出たがこれ以上は土御門の家の問題だ。これ以上口出しするのは小百合としても本意ではない。


それにたとえ今回の件があったとしても土御門の家が小百合の所に二人を預けるとは思えなかった。


たぶん大丈夫だろうと思いながらも一抹の不安が拭えない小百合だった。


「それでは失礼します。件の情報に関してはまた連絡してください」


「あぁ、そっちも気を付けて」


商品の確認を終えた康太たちはトラックに乗り込むと早々に土御門昭利の家を後にしていた。


ようやく今回の商談が終わり、あとは地元に戻るだけとなった。トラックの荷を小百合の店の地下に運び込めばこの商談に関わる関係はすべて終了となる。


長かったと思いながら康太は大きくため息をついていた。


三日間の事だというのにこれ以上ない程に長く感じた。土地それぞれにある組織関係の事もそうなのだろうが、今まで関わった事件の中で最も多く戦闘をしたと言って良いだろう。


連戦は康太の苦手とするところだ。そう何度もやりたいことではない。















康太たちはその日はホテルで休み、次の日トラックに乗って康太たちの住む町まで戻ってきていた。


朝早くに出たというのに戻ってきたのは昼をとうに過ぎていた。やはり夏休みという事もあってある程度高速道路も混んでいたのだ。


トラックを店の近くに停車し、店の中に荷物を運び、商品を棚に並べるところまで終わらせるとすでに完全に日は落ちていた。



結局三日間働きづめになってしまったなと思いながら康太は重い体を引きずるように地上に上がると、そこには夏らしい恰好の文がちゃぶ台の近くに座っていた。


「おかえり。お疲れ様っていうべきかしら?」


「・・・おぉ・・・あと四時間早く来てくれたら手伝ってもらえたのに・・・もう全部終わったよ畜生」


「そう、なら最高のタイミングで来たって事かしら?」


文としては手伝うつもり満々だったのだが、どうやら彼女が思っているよりもずっと早く康太たちはこちらに到着してしまったらしい。


文は少しだけ申し訳なく思いながらも康太に茶を淹れてやることにした。


「それで?京都はどうだった?初めて魔術師として行ったんでしょ?」


「ん・・・まぁ面倒くさいところだったよ。もう二度と行きたいとは思わないな。行くなら一般人を装っていく。魔術師関連で行くのはもうたくさんだ」


協会とは別の組織がいるという時点である程度お察しだったが、実際に向かって面倒に巻き込まれるとなるとその面倒事のレベルは桁違いだ。


今回は小百合が主導になって動いてくれたからまだよかったものの、これで自分だけで動けとなったら康太はきっとしり込みをしていたところだろう。


「で?お前何しに来たんだ?話に来ただけか?」


「え?・・・あー・・・その・・・」


商品があっては大変だろうから手伝いに来た、などとすべて終わった状態で来ておいて言えるはずがない。


どう答えたものかと迷っている中、文は近くにあった紙袋の方に目をやる。


「そう、お土産!せっかく京都まで行ってきたんだからお土産ないの?」


「お前なぁ・・・まぁ一応あるけど。お前の所っていうかエアリスさんとお前宛には生八つ橋買ってきたよ」


仲良く食べろよと言いながら康太は紙袋の中から買ってきておいた生八つ橋を取り出して文に渡す。


自分から催促しておいてなんだが本当にお土産を渡されるとどうすればいいか困ってしまう。これで自分がここに来た用件が終わったという事実を前にして文はどうしたものかと頭を悩ませていた。


疲れているのはわかっていたからこそ手伝いに来たつもりなのだが、これではただ単に土産物をよこせと来ただけになってしまう。ただのがめつい人間のように思われるだろう。


さすがにそれは文も本意ではなかった。


「それで?今回はどんな面倒に巻き込まれたわけ?」


とりあえず土産物を買ってきてもらったのだ、ついでに土産話を聞いておいて損はないだろう。


文自身京都でどのようなことがあったのか興味があるし、何より次の仕事を押し付けられるまでこうして話をさせておけば康太を休ませることができる。


小百合もこうして同盟間で話をしている間は無理に割り込むことはしないだろうと思っての行動だった。


「何で巻き込まれたこと前提なんだよ。順調に終わったかもしれないだろ」


「ないわね。あんたたち師弟が一緒に行動してて面倒事に巻き込まれないわけがないじゃない」


「・・・否定しきれないのが何か悲しいわ・・・」


良くも悪くもこの三人の師弟はトラブルを呼び寄せる。特に師匠である小百合と末弟である康太は面倒事に好かれる体質だ。


良くも悪くも面倒事を引き寄せるせいで敵が増えていく。小百合の場合は敵だけが増えていくが、康太はそれと同時に味方も増やしている。


真理が上手く味方だけを増やしているのに対して、康太は良くも悪くも師匠と兄弟子の良いところと悪いところを引き継いでいると言って良いだろう。


「で?今度はどこを敵にしたわけ?四法都連盟の中の四つの家のどこかじゃないかと私は睨んでるんだけど」


「・・・当たらずとも遠からずって感じだ。間違ってないけど微妙に面倒な事案だったから説明が難しくてな」


「一つずつ説明してくれればいいわ。順を追って話して」


康太はその日、遅くなるまで文に今回京都であったことを話していた。途中から真理が加わり、そして小百合も交えて京都での経験を文に話すことになった。


文はよくもまぁそんなに面倒なことに巻き込まれたもんねと呆れていたが、同時に楽しそうに笑っていた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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