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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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土御門の財産

「なんだか妙なことしそうになってましたけど・・・大丈夫でしたか?」


「お疲れ様です姉さん・・・いやまぁこいつの若気の至りというやつでして・・・」


「思い切りが良いのはいいことですけど、向こう見ずなのは無謀なだけですよ?」


康太たちの方にやってきた真理は苦笑しながら晴を嗜めるように注意するが、晴はどうにも納得いかないという様子だった。


もうここなら仮面を外してもいいだろうと真理が仮面を外し、それに続いて康太も仮面を外すとようやく一息つくことができると思ったときに晴と明は二人の方を見る。


「でもあの人の戦い見てましたけど・・・その・・・あんたたちより強いとは思えなかったんすよ・・・あんたたちの方が強い印象を受けました」


「私もです。戦ってる数の問題かもしれませんけど・・・なんかあの人はこう・・・のんびりしすぎてるというか・・・」


戦いを見ていた二人にとって康太と真理の戦いはなかなかにスピード感のあるものだっただろう。


特に康太の動きは肉弾戦がメインであったために二人からすればかなりの速度だっただろう。もしかしたら気付いたら戦闘が終わっていたという風にも見えた場面があったかもしれない。


「ふふ・・・師匠は今回本気を出してないでしょうからね。あの人が本気になったら私たちが束になってもかないませんよ」


「本当ですか?そんなの凄いようには・・・」


「あの人基本的に実力は隠すタイプだしな。っていうか大体一撃で終わらせるタイプだから実力がわかりにくいんだよ・・・」


康太と真理は日常的に訓練しているために小百合の実力を大まかにではあるが把握している。


だが普段小百合と交戦する機会のないものからすれば彼女の実力を正確に測るというのは難しいだろう。


無駄に攻撃力が高い魔術を使うために大概の場合一撃で戦闘が終わってしまう。しかもほとんど不意打ちやだまし討ちに近い形での一撃が多いためになおさら実力が把握されにくいのだ。


「あの・・・私たちがあなたたちみたいに強くなるにはどうすればいいですか?」


「どうすればって・・・頑張って訓練をするほかありませんよ。聞けばお二人はなかなかの才能をお持ちとか。ならば努力をすれば自然と実力もついてきます」


「・・・そうは思えなくて・・・私達に魔術を教えてくれてる人はとにかく術を覚えることと使う事を優先していて戦う事を想定してない感じがするんです・・・さっきの・・・ブライトビーさんの話を聞いてより一層そう思いました」


戦う事を想定していない。その教育方法がどういうものであるか想像するに難くなかった。


要するに以前の文のようなものだ。実戦を想定していながらも戦闘のための訓練を行っていない。


戦闘で使う魔術の訓練は行うが実戦形式での総合的な訓練を行っていないのだ。

もっともそう言った行動をとるのにも理由があるのだろう。


一つはこの二人が土御門の中でも特別な存在だからというのがある。土御門の中で随一と言ってもいいほどの才能。下手な教育をしてしまってはよくないというのがあるのだろう。


そしてこの二人がまだ中学生だからというのも理由の一つだ。あまり幼いころから魔術師として戦うよりも、せめて高校生になるまで、あるいは高校を卒業するまでは魔術を多く修得することに集中しているのだろう。


魔術師としての活動はそれこそ一生ものだ。中学生の段階で下手に戦う事を覚えるとそれだけ危険に身をさらすことになってしまう。


家の財産としてというのは少し嫌な言い方かもしれないが、土御門という一つの組織からすれば二人の将来を考えた教育方法であるというのは十分に理解できる。


「正直に言えば、あなた方の教育方法に関して私からどうこう言うことはできません。あなたたちは土御門の魔術師です。部外者が口を出すことでもありませんから」


どうしたらいいか、その答えは訓練すること。だがその訓練の内容に関して真理が何か言うつもりはなかった。


真理のいう通り部外者が口を出すような事ではないのだ。文のように互いにそれを望み、納得しているのであれば協力もできたのだろう。


だが土御門の家が部外者の特訓を受け入れるとは思えなかった。良くも悪くも古い家というのは体裁や面子というものにこだわりを持つものなのだ。


「でも姉さん、意地悪しないである程度手ほどきをしてやるくらいならいいんじゃないんですか?魔術なしの肉弾戦っていう形ならただの子供の喧嘩みたいなもんですし」


さすがに突き放すだけというのはかわいそうというものだ。向上心がありながら自らがどのように努力すればいいのかもわからないというのはなかなかにもどかしいものである。


「ですが手ほどきと言っても私たちが地元に帰るまでのわずかな時間ですよ?」


「いいじゃないですか。きっかけ程度にはなるかもしれませんよ?どうしたらいいかがわかれば、あとは自分なりに指導者を探すなりできるでしょ」


土御門の家は大きい。その中に所属している魔術師の数もかなりのものだ。中には肉弾戦を得意とする者もいるかもしれない。


せっかく魔術師として恵まれた家庭環境にいるのだからそれを利用しない手はない。今の指導者に不満があるのであればそれを踏まえたうえで自分で行動すればいいのだ。


だがそれは自分で行動しなければ意味はない。与えられたものだけを享受しているだけでは望むものは手に入らないのだ。


「どうする?お前らがやりたいっていうならの話だけど」


「・・・お願いします、やらせてください」


「私からもお願いします」


どうやら二人ともやる気満々のようだった。康太と真理は視線を合わせてから苦笑し、それぞれ指導をするべく軽く準備運動を始めていた。





















「さっきはすまんかったな、あの子がいきなりあんなことするとは思わなかったわ」


「あいつも思うところがあったんでしょう、気にはしていませんよ。何より私の弟子が上手く止めていましたから」


「あぁ、あれ彼のおかげだったのか。なんにせよ後でちゃんと詫びいれさせるから」


そう言いながら昭利は小百合を連れて奥の広間に向かうと、そこには負傷者を看護している昭利の妻詩織と他何人かの魔術師らしき人物がたむろしていた。


昭利が帰ってきたことに喜びの表情を浮かべながらも看護を続けているのはさすがというべきだろう。


「おかえりなさいあなた。お怪我はありませんか?」


「あぁ、この子のおかげで要らん運動しなくて済んだ。そいつらは無事か?」


「傷はすでに癒えています。意識が戻らないというだけですよ。それにしてもよかった・・・何事もなくて」


何事もなかったわけではないのだが、とりあえず昭利が無事に帰ってきたということが何よりの吉報だったのだろう、詩織の表情はとても穏やかなものになっている。


「あら?そう言えば晴ちゃんや明ちゃんは?」


「あの二人なら外におるよ」


「たぶんですが私の弟子達が相手をしているでしょう。お気になさらず」


それが話相手なのかそれとも別の何かなのかは小百合にも判断できなかった。


二人ともそこまで喧嘩っ早い方ではないと思うが、師匠である自分に手を出そうとしたのだ、ある程度お灸を添えていてもおかしくはないと内心思っていた。


「さて・・・こちらの話を終わらせてしまいましょう。こちらが商品の代金です。確認してください」


小百合は持っていたアタッシュケースを開くと中にある札束を二人に見せる。昭利はそれを一つ一つ確認していくと何度も頷いてよしよしと呟いた。


「あなた、今回この子たちに迷惑をかけたのだから少し位安くしてあげてもいいのではないの?」


「いや、助けてもらったことには感謝しているがそれと商売とはまた別問題だ。こういう金勘定はきっちりしないとな」


人情で商売をするべきではない。たとえ恩があったとしてもそれを理由に商売に手心を加えるのは商売人として、職人として許されるものではないのだ。


こういうことはきっちりと別の形で清算する。そうしないと恩を売ろうと躍起になる連中が現れるだろう。


これも一つの商売人の姿だ。間違っているとは言えない。


「でも・・・今回は本当にお世話になったし」


「構いません詩織さん。こちらとしても別の形で恩を返してもらうつもりですから。それにこの商談は今回の件とは関係のないことです」


「ん・・・小百合ちゃんがそう言うのなら・・・」


助けられた昭利が必要ないというのなら彼女も多少反論の余地があったのだろうが、助けた小百合がこういうのであればこれ以上どうこう言うことはできない。


今回の商談に関わっている二人がともに必要ないと言っているのだからこれ以上口を出すのは野暮というものだ。


「確かに確認した。これであの商品は君のもんや。売るなり焼くなり好きにしいや」


「ありがとうございます。商品の確認が済み次第ここを発ちます」


「もうすぐに帰るんか?」


「いえ、今日はゆっくりして明日戻ろうかと。弟子二人も多少疲れていますから。もう夜遅いですしね」


戦闘が終わって荷物を積んですぐにこちらにやってきたとはいえ、もうすでに二十三時を回っている。もうすぐ深夜になろうというこの時間にこれ以上無理に活動するのは悪手というべきだろう。


「あの二人もそろそろ家に帰した方がいいのでは?さすがに中学生がこの時間にうろついているというのは・・・」


「まぁあの子たちは今日うちで預かることにしとくわ。今からじゃさすがに危ないだろうし。もっともあの二人なら大抵の相手は自分たちで何とかするだろうけども」


まだ中学生とはいえあの二人は魔術師だ。たとえ変質者に出会ったとしてもある程度は自分の力で自衛行動くらいはとれるだろう。


だが魔術師とはいえ中学生であるのは事実だ。多感な時期である二人をそこまで危険な目に遭わせるというわけにもいかないのだろう。


「さて・・・今回は本当に世話になった。別の形で恩は返すが、それとは別にきちんと礼はする。特に家同士の問題を解決してくれたからな」


「それに関しては私よりも、むしろ私の弟子達に言ってやってください。今回主力で戦ったのはあの二人です。私は相手のトップを潰しただけの事。手足を潰したのはあいつらの功績です」


「ふむ・・・君がそう言うならあの二人にもまた後日きちんと礼をしておこう。本家から直接話が来るかもしれんが、土御門の家が君らと敵対することはないと思う。こっちからいろいろと言っておくから安心するといい」


「感謝します。あいつらにはまだまだ味方が必要ですから。未熟者ではありますがあの二人の力になってやっていただければと思います」


二人の前では決して見せない師匠としての小百合の顔。ぞんざいに扱っていながらも小百合は一応弟子二人の将来のことを考えているのだ。


特に店を継ぐのがあの二人のどちらかになるのだから、土御門昭利とのパイプは作っておいて損はない。


今回の商談、面倒に巻き込まれたとはいえ小百合を始めとし康太と真理が得たリターンはリスク以上のものとなっていたのは言うまでもない。


日曜日なので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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