帰る際に
「はぁ・・・ようやく終わった・・・」
康太たちは今回の実行犯全てを一塊に集めると、自分たちが乗ってきたトラックを動かしてその中に犯人のトラックの中に入っていた商品をすべて移し替えていた。
小百合が犯人のトラックを斬ってしまったせいでもう使い物にならないため、自分たちのトラックに運び込む以外に動かす方法が無くなってしまったのが原因である。
「これであとは帰るだけですかね。支払いとかはどうするんですか?」
「そのあたりは師匠が何とかするでしょうが・・・一応あの人の家に向かってからいろいろとやったほうがいいでしょうね。事後処理とかの関係もありますし」
「それもそうか・・・じゃあ俺が荷台に乗ることになりますね」
「私が乗ってもいいですよ?」
「いえ、さすがに姉さんを荷台に乗せるのはちょっと・・・」
康太たちが乗ってきたトラックの座席は三つしかない。さすがに土御門昭利を荷台に乗せるのは憚られるため必然的に誰か一人荷台に乗ることになってしまう。
そうなったら一番下っ端の康太が荷台に乗ることになるのは半ば自明の理だった。
「あ、そう言えばあの双子もどっかで拾っとかなきゃいけないんじゃないですか?この辺りで見てるんですよね?」
「えぇ、たぶんですけどね・・・でも家の人に誰かしら接触していると・・・あぁいや、知らない振りをする可能性もありますからどちらにしろ拾っていったほうがいいですね」
土御門と藤原の両家は今回の件を『知らない』という体で動いている。その為仮にこの辺りで土御門の双子を見つけても、何も見ていないという体を装う可能性があるのだ。
そうなるとこの夜遅くに中学生の双子を放置しておくなんてことになりかねない。さすがにそれは避けたいところだ。
「じゃあ双子君の相手は俺がしておきます。だいぶ狭くなりましたけどね」
「まぁ仕方有りませんね。あるだけの在庫を持っていってしまうわけですから」
「そう言えば姉さんのバイクは?どこに乗せるんです?」
「バイクは万が一の事も考えて最後に乗せます。また襲われるという可能性も否めませんからね」
ここに来るまでにやってきた妨害のような襲撃がないとも限らない。真理は一応いつでも迎撃に出られるように準備だけはしておくつもりのようだった。
康太としてもそうしたいが、今回の戦いでだいぶ魔力を消費した。だいぶ回復してきているとはいえあと三十分ほどたたないと魔力は全快にはならない。
こういう時は自分の素質のお粗末さが恨めしく思えてしまう。
「もう積み込みは終えたか?そろそろ戻るぞ」
「あと私のバイクだけです。ちょっと待っててくださいね」
「早くしろ。さっさと終わらせて帰りたいんだ」
なら少しは手伝ってくれてもいいのではないかと思ったが、そんなことを小百合に言っても仕方がないなと康太はあきらめ半分のため息をつきながら真理が運んできたバイクをトラックの荷台に乗せるべく中に入っている商品をずらして隙間を作る。
これだけ空いていればバイクも入るというだけの空間を作ると、真理が運んできたバイクを受け入れその場に軽く固定する。
「そう言えばあいつらどうするんです?一塊にはしておきましたけど・・・」
「なんでも土御門と藤原の人間がすぐに捕縛に来るらしいです。と言っても別件扱いらしいですけど・・・私たちがこの場からいなくなったら干渉を始めるのだとか・・・」
「・・・大きな組織になるとそのあたりは面倒ですね・・・」
今回の件は互いの家が不干渉を貫いている。今回の件がすでに終了し、小百合たちがいなくなった後なら互いに干渉しあえるという事らしい。
近くに土御門と藤原の両家の人間がいることはわかってはいたが、ここまで徹底しているとなると大組織に所属しているというのが不便に感じてしまう。
「結局のところ、それぞれの家から俺らに対する干渉は全くなし・・・他の家はどうかはわかりませんけど・・・京都っていつもこんな感じなんですか?」
「私もここまで妙な状況というのはちょっと記憶にありませんね。というか京都の事情に干渉したことが少ないですから・・・京都も一枚岩ではないという事なのでしょう。こちらとしてはありがたくもあり面倒でもありますが」
組織というのは大きくなれば当然派閥というものが存在してくる。良くも悪くもその派閥は組織の成長を促し、時には衰退を促す。
時には他の組織との連携に必要な潤滑剤ともなるし逆に阻害することだってあり得る。
一枚岩であることの堅牢さよりも、複数派閥である柔軟さが時として組織そのものの延命になることもある。
どちらが良いかというのは正直決めることはできない。どちらも利点があり欠点があるのだ。
「師匠、積み荷はオッケーです」
「わかった。ビー、お前は」
「後ろにいますよ。なんかあったら呼んでください。あと双子回収しておいた方がいいですよ?」
「わかっている。行くぞ。もうここに用はない」
小百合としても早々にこの場から離れたいと思っているのだろう。早々にエンジンをかけると昭利と真理を座席に座らせゆっくりと動き出した。
康太は積み荷と一緒にトラックの荷台で自分の装備の確認をしていた。
今回だいぶ装備を使ったためにまた補充をするのが大変そうだ。お手玉はすべて使い、盾に込められている鉄球のほとんどを使った。竹箒改に込められている針も消費してしまった。今回の戦いは連戦という事もあって大盤振る舞いだったと言える。
この装備は実戦でも使える。それを実感した康太は自分の装備を軽くなでながら小さく安堵のため息を吐いた。
「・・・えっと・・・何?」
途中で土御門の双子を回収し、来た時と同じように荷台に乗せ移動を始めると、康太はその双子から思い切り視線を送られていた。
同じ空間に居るのだから多少みられることは仕方がないと思っていたが、二人の視線は康太から全く離れない。
明らかにこちらを見続けている。睨んでいるとまではいわないが、なんというかずっと観察されているような瞳だ。
「・・・あの・・・ブライト・・・ビー?さんは学生ですよね?」
「あぁ。今高校一年。お前らより一つ上だな」
「い、今までどれくらい実戦をしてきたんすか?」
「え?えっと・・・どれくらいだろ・・・」
二人から向けられた唐突な質問に、別に隠すような事でもないなと思いながら康太は今までの戦いの記憶を頭の中で回想する。
初陣ともいえる文との戦闘。そして長野での小旅行、静岡での朝比奈との商談、精霊術師である倉敷との戦闘、奏の所に行った際に巻き込まれた急襲戦、ライブが終わった後に戦った魔術師一人、そして今回の一通りの戦闘。すべて合わせるとまだしっかりとした実戦経験は七回程度なのだ。
まだ二桁にも満たないという事実を口に出すと晴と明は顔を見合わせて何やら複雑そうにしていた。
「何でそんなことを?言っちゃなんだけど俺そこまで経験豊富ってわけじゃないぞ?」
「・・・その・・・俺ら魔術を習ってそれなりになるんやけど・・・今日のあんたたちみたいに戦える気がしなくて・・・」
「・・・私達とあなたたちでいったい何が違うのかな・・・と・・・」
何が違うのか。何とも抽象的な問いだが康太はなんとなく理解した。
この二人は実戦経験がないのだ。
土御門の家の未来と言ってもいい程の才能を有した双子だ。周りの大人たちが蝶よ花よと育てるのも無理はない。
所謂温室育ちというやつなのだろう。訓練はやってきても実戦を経験していないからどのようなものなのか、そしてどうしたらあのようになれるのかわからないのだ。
「俺らみたいにってことは、魔術で見てたんだろ?あれ見てれば分かると思うけど少なくとも俺らの戦い方って普通の魔術師のそれじゃないぞ?」
「でも二人がかりでもあのカツキチを倒して見せたやないですか。やっぱなんか特別な訓練とかしてるんですか?」
つい数刻前まではほぼため口に近かった晴は、何故か康太に慣れない敬語を使い始めている。
どういう心境の変化かはわからないが敬語を使われるというのは兄弟子である真理以外にはなかったために少しだけくすぐったかった。
「そうだな・・・少なくとも俺らのやる訓練は普通の魔術師のそれとは違うらしい。魔術をとにかく扱えるようにするっていうのとはちょっと違う」
「・・・じゃあどんな?」
「とにかく戦闘する。条件を変えて肉弾戦のみだったり、近接戦のみだったり、本番と同じような状況だったりととにかく戦う」
命の取り合いはしないけどなと言いながら康太がそんなことを言うと明が理解できないといったふうに首をかしげる。
「あの・・・さっきの見てても思ったんですけどなんでわざわざ近づくんですか?そんな危ないことしなくてもあなたたちだったら普通に勝てたんじゃ・・・」
明の言葉に康太は目を丸くしてしまう。どうやらどういうわけか康太はこの二人からかなり高い評価を受けているようだった。
もしかしたら真理と小百合の評価と混ざることで誤魔化されているのかもしれないが、あまり高い評価を受けるというのは康太としては嬉しいことではない。
特に自分自身の実力のことに関してはあまり高く評価されるのは望むところではなかった。
「・・・これは俺の師匠の考え方なんだけどさ、二人と同じくらい肉薄している状態で普通に殴るのと魔術で攻撃するの、どっちの方が早い?」
晴と明は肩を寄せ合うような形でほとんど距離はゼロに近い。そんな状態で拳か魔術かどちらが早いかと聞かれ、二人としても少し困っているようだった。
「魔術にもよりますけど・・・ギリギリ拳の方が早いです」
「私は・・・得意な魔術ならたぶん魔術の方が早いです」
どうやら双子と言っても互いの魔術師の性質は酷似しているというわけではないらしい。魔術師としての実力に血縁はほぼ関係ない。多少有利になるという事があってもあとは個人の素質と才能次第だ。
「思い切り殴られるとわかってれば、相手も反応せざるを得ない。しかもそう言う反応のせいで大抵の魔術師は一瞬怯んだりして相手の動作に遅れを生じさせることができる」
相手にプレッシャーを与えることができるんだよと言いながら康太は何度か自分の拳を前に突き出す。
実際ほとんどの魔術師は肉弾戦の心得なんてものはない。相手が必要以上に自分に肉薄してこようとすれば距離をとろうとするし、精神的に圧迫感を覚えるだろう。実際今までのほとんどの魔術師が近づかれることを嫌がっていた。
「しかもこっちは肉弾戦に加えて魔術も使える。そうなれば妨害と攻撃を同時に行えるし、肉弾戦と魔術を同時に扱えるようになれば手数もこっちのが多い。確かに危険ではあるけどそれだけのメリットはある戦い方だと思う」
相手が魔術のみに対してこちらは肉弾戦と魔術を同時に扱える。これだけで相手よりも手数の面では勝っていることになる。
無論相手の懐に入るまでだいぶ身を削ることになるが、それさえしてしまえば大抵の相手には勝つことができる。
しかも接近戦だけしかできないならまだしも康太たちは中距離戦における戦いも可能なのだ。戦いにおける選択肢を増やすという事はそれだけ自分の優位を作りやすくするという事でもある。
誤字報告を五件分受けたので二回分投稿
これからもお楽しみいただければ幸いです




