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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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事件の裏にあるもの

「師匠お疲れ様です。あと四人連れてくるんでちょっと待っててください」


「まて、その前に紹介しておく。今回の商談相手の土御門テルリ、私の師匠の知己でもある。挨拶しておけ」


小百合が視線を向けた先にいる男性の方を見て康太はこの人がそうなのかと少し意外だったのか目を丸くする。


中肉中背、仮面もつけておらず一瞬ただの中年男性かと思ったほどだ。だがかつて会ったことのある朝比奈の件もある。見た目では魔術師の実力を測ることはできないだろう。


何より目の前にいる男性は自分の方をよく観察しているようだ。恐らく値踏みされているのだろうと理解しながら康太は姿勢を正す。


「初めまして。デブリス・クラリスの二番弟子、ブライトビーといいます。よろしくお願いします」


師匠である小百合が世話になったことのある人物。小百合の師匠でもある智代と関係があるというのなら自分が失礼な態度をとるわけにはいかない。


しっかりと頭を下げ、それが終わると真っ直ぐに目の前の男性の方を見た。


仮面を外すべきか迷ったが、自分は今魔術師として行動している。ここで仮面を外すのはまた少々事情が違うと思い、仮面はそのままにすることにした。


「・・・君の弟子は二人とも随分と礼儀正しいな。教育が行き届いていると見える。そのあたりはさすがというべきか?」


「いえ、まだまだこいつらが未熟なのは自分の教育の至らなさが原因でしょう。お恥ずかしい限りです」


思ってもないようなことを言う小百合に、あなたを反面教師にしているから礼儀正しくしているんですよとは口が裂けても言えない弟子二人だった。


これで目の前に土御門昭利が居なければ思う存分そう言ったことを言ったのだが、さすがに目の前に部外者がいる前で師匠を侮辱するというのは小百合に恥をかかせてしまうだろう。


弟子としてはある程度師匠に気を使うのだ。


「じゃあ俺は行ってきます。一塊にした方が楽でしょうし」


「そうだな、ジョア、お前も手伝ってやれ。ここは私だけで十分だ」


「そうですか?では私もいってきます」


弟子二人にはすでに引き合わせた。今回の商談の目的の一つを達成できたことで小百合は少しだけため息を吐いた後で昭利の方に目を向ける。


「それで?なぜこんな連中にわざわざ捕まっていたのですか?あなたほどの実力者なら一蹴できたでしょうに」


そう言って小百合は足元に転がっている藤原の二名を足で小突く。実際に戦った小百合からすれば、ミキクラなどは全く相手にならないレベルだ。実際に手合わせをしていないカツキチに関しては何も言えないがそれでも弟子二人にやられるようではこの男もその程度の実力だったとしか言いようがない。


「・・・こいつらを倒したのは君か?」


「こいつだけは私が。それ以外は私の弟子二人が仕留めました」


「・・・はっはっは、なかなか強敵だと思ったんだが、君の弟子二人はなかなかに強いらしい」


カツキチに関しては二対一の状況を作ってようやく互角、いやそれでもカツキチの方が実力としては上だっただろう。


二人が勝てたのは偏にカツキチに全力を出させなかったことと、相手の油断を誘ったからだ。


これで一対一や、相手が全力になっていたら結果はわからない。勝てる確率がゼロになるわけではないが、負ける可能性の方が圧倒的に多かったのは否めない。


「・・・こいつらがうちを襲撃してきた時な・・・あの子たちを人質にとったと言ってきた」


「・・・あの子たち・・・あの双子ですか?」


「あぁ・・・確証もなかったが、二人の子供を縛っている写真を見せつけて来てな・・・従わなければ殺すと」


「・・・随分とわかりやすい・・・それでその言葉を信じたんですか?」


「信じるわけないだろ。だが仲間もいるようやったし従うほかなかった。懐に入ってあの子たちの安否が確認できたら・・・あるいは同じ場所に収容でもされたら全員ぶちのめそうとおもっとったけど・・・君らのおかげで働かなくてよくなった」


ホントにありがとなと昭利は快活に笑っているが、小百合はその発言を聞いて眉をひそめていた。


あの双子を利用して昭利を誘拐しようとした。連絡手段を失わせ一方的に自分の要求を出すことで相手に考える余地をなくさせる。


誘拐などの常套手段だ。あの場で双子がやってきたタイミングがもしもう少し早ければこの計画は頓挫していただろう。


予め小百合との商談がばれていて、こちらのやってくるタイミングに合わせて双子を呼び寄せる。そうすれば他の家にいるよりは双子の安否確認のタイミングは遅れるだろう。


タイミングによっては双子と小百合たちを争わせ、小百合たちをこの襲撃の犯人に仕立て上げることだってできたかもしれない。


今回は小百合とあの双子が昔にあったことがあったからこそ話がスムーズに進んだが、もし商談相手が小百合以外であったらかなり面倒なことになっていた可能性がある。


双子がやってくるタイミング、そして小百合が来るタイミング。そして昭利の家を襲撃するタイミング。


どれも無計画なものとは思えない。無計画にしてはタイミングが絶妙すぎる。


この計画をこの連中が考えたとは思えない。そしてわざわざこんな場所に位置して、トラックに積んだままにしておくとは思えない。


誰か裏で手を引いている連中がいるなと小百合は睨んでいた。


「今回の件、こいつらが独断でやったことだと思いますか?」


「ん?んなわけないだろ。たぶんあれを売り払う相手がいたはず。そいつの依頼か、ただ単にそそのかされたか・・・」


どうやら昭利もこの男たちが計画した作戦であるとは思っていないようだった。盗み出す部分のタイミングや作戦などはほぼ完璧に近かったのに対し、小百合たちがやってきたときの迎撃の仕方があまりにもお粗末だったのだ。


恐らく奪取計画までは他の人間の計画で、その後は大まかなスケジュールしか決められていなかったのだろう。


もしかしたら襲撃時は別の勢力と協力していた可能性も否めない。


「こいつらを締めあげればある程度吐かせることもできるでしょう・・・ですがここまで周到に情報を集めていたとなると・・・」


「・・・たぶん、身内の問題になるな。それがうちの関係なのか、それとも連盟の関係なのかはちょっとまだわからんけど」


今回の裏側にいた人間が一体どこの誰で何をしている人間で何を目的としていたのかはわからない。


だがここまで情報が抜けていたという事を考えると少なくとも外部の人間である可能性はかなり低い。


それが土御門の家の人間なのか、それとも四法都連盟という組織の人間なのか。どちらにせよ、情報を流し今回の件を企んだものは必ずいる。


そうなってくると小百合たちの出番はない。今回の救出のように、商品の売買という商談によって繋ぎ止められていた小百合たちの立場は全く意味をなさなくなる。


本当に家同士の、組織間の話し合いになるだろう。そうなれば部外者は立ち入る隙が無くなる。身内の問題は身内が解決する。特に閉鎖的なここ京都ではなおさらのことだ。


昭利があえてその言葉を言ったのは、これ以上小百合を巻き込まないためでもあり、身内の恥をこれ以上晒したくないと考えたからだろう。


小百合としても面倒事に巻き込まれるのはごめんだし、昭利に恥をかかせたいとも思っていなかった。


商談を終えたらさっさと地元に戻る。そう言う事を考えていただけに彼の言葉に対し同意の言葉も添えるつもりだった。


「私達はこれ以上この件に首を突っ込むつもりはありませんよ。ですが今回我々が戦った相手・・・その黒幕だけははっきりさせて、私に教えてください」


だがこの背後関係だけははっきりさせておきたい。これだけの数の商品を扱おうとしたのだ。背後にいるのが一個人とは思えない。


もしかしたら複数人、いや小規模な組織である可能性もある。少なくとも京都の四法都連盟の一角に遠回しではあるが喧嘩を売るような真似をしているのだ。ただ一人のバカがやった行動にしてはあまりにも手際が良く、大規模の組織がやったにしてはあまりにも向こう見ずだ。


あれだけの数の商品を扱ったところで、四法都連盟を敵に回すほどのリターンが得られるとなると、大規模な組織よりも小規模な組織の方がまだ可能性がある。


「・・・それはこの件に干渉しようとしているってことか?こっちとしちゃそれはあまりいい顔はできないんだけども・・・」


「いえ、この件に干渉するというより、裏側にいるその黒幕が気がかりです。この商品を扱おうという事は私の『商売敵』である可能性があります。そう言う連中を野放しにしておくと後々面倒なことになりますから」


「・・・なるほど、情報提供してほしいってことか。随分回りくどいな」


「こっちも商売なので。今回かかった手間賃でチャラという事でどうでしょうか?」


今回面倒に巻き込まれたことで小百合たちが被った手間。小百合からすればさして苦労にもならなかったが昭利に、ひいては土御門や藤原の家に大小問わず貸しができたことになる。


件の背後関係の人物の情報提供でそのあたりの貸しを返済しろと言っているのだ。


首を突っ込むつもりは毛頭ない。それで更に面倒を抱え込むつもりもない。だがしっかりと欲しいものは貰っていく。


小百合のしたたかさを感じ取りながら昭利は快活に笑って見せる。


「何かおかしいことでも言いましたか?」


「いやいや・・・たくましくなったなと思ってな。年をとるわけだ、もうしっかり一人前の大人ってことか」


「師匠にくっついて歩いていたころの私ではないという事ですよ。むしろ私としてはあの双子があそこまで生意気に育っていたというのが意外です」


昔は可愛かったものですがとため息を吐きながら首を横に振る小百合を見て昭利は再び笑って見せる。


大人からすれば子供の成長は嬉しくもあり寂しくもある。何とも複雑なものなのだ。


この子もそう言う事を感じ取れる歳になったのかと、そう思って昭利は内心嬉しくもあり寂しくもあった。


小百合の昔を知っているからこそそう言う風に思ってしまうのだろう。今は一人の女の子が立派な商売相手になったという事を喜ぶべきなのかもしれない。


「いやはや・・・生意気に育ったもんやな」


「ほほう?それでは今回の手間賃は情報ではなく今回の商品を五割引きという事でも構わないんですよ?」


「アホ、それは吹っ掛け過ぎだ。せめて二割辺りからはじめんと交渉にならん。というかそれなら情報渡すわ」


「そうですか、それは残念」


「・・・ほんとにたくましくなったもんやな・・・良くも悪くも」


褒め言葉として受け取っておきますよと言いながら小百合は仮面の下で薄く笑みを作っていた。


形だけとはいえ、昔師匠が渡り合っていた人と対等に接している。小百合からすれば自分の成長を実感できる瞬間でもあるだけにほんの少しだけ嬉しかったのだ。


ブックマーク件数1400件突破したので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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