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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
十話「古き西のしきたり」

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蜂の毒針

康太と真理が戦っている中、小百合はミキクラを追っていた。


自らの魔術を使いながら相手を追い詰めていく中、自分の弟子である真理が言っていたようにどこか目的地へと向かうように逃げる相手を見ながら眉をひそめていた。


相手も当然のように攻撃してきている。射撃系の攻撃で的確に小百合の方を狙っているのがわかる。逃げながらこちらを的確に狙えているという事は実戦はある程度積んでいると思って間違いないだろう。


そろそろ終わらせた方がいいかもしれないなと小百合が刀を鞘から抜こうとすると、前方の廃屋に何かが衝突した。


土煙を巻き上げながらその廃屋に突っ込んだ何かを横目に小百合は目の前のミキクラを再び追おうとするが目の前のミキクラが唐突に止まったことで小百合は眉間にしわを寄せていた。


諦めたのか、それとも逃げる必要がないと思ったのか。どちらにしろ先程までの逃げ惑う姿とは打って変わり、こちらを真正面から見据えている。


一体なんのつもりだろうか。小百合がそう思いながら警戒していると背後から一つの気配を感じ大きく横に避けると、先程まで小百合がいた場所を大きな男が飛び蹴りをしながら通り過ぎていった。


「ち・・・避けられたか・・・」


「・・・なるほどそう言う事か。二対一なら勝てるとでも思ったのか」


目の前に現れたカツキチを見て小百合は悪態をつきながら先程廃屋の方に突っ込んだ一つの影を思い出す。


恐らくあれは康太だろう。真理があんなふうに無様に吹き飛ばされるとは考えにくい。康太が前衛として囮となり真理がフォローしていたのだろうが、康太がへまをしたのかそれともこのカツキチが康太たちが思っていた以上に上手だったのか。どちらにしろカツキチを押しとどめることはできなかったようだ。


「私の弟子達はどうした?」


「一人はぶっ飛ばしてやった。もう一人は片方がいなくなったら早々に逃げ出した。お前人望ないんやな」


「・・・そうだな・・・確かに私は弟子たちからはあまり敬われてはいないようだ」


仕方がないと小百合は刀を抜こうとしたが、その必要がないことを悟ると小さくため息を吐く。


「さて・・・とりあえずそこをどけ。私の相手はお前じゃない」


「あぁ?そないなこと聞くとでもおもっとんのか?」


「だろうな・・・まぁいい、勝手に行かせてもらう」


小百合がカツキチの横を通り過ぎようとするのを、その大きな巨体と腕が遮る。ここは通さないという明確なアピールだ。


「行かせんいうとるやろ。あんま舐めたこと言うなや」


「・・・そうだな・・・では私からも一言だけお前に言っておこう」


お前の相手は私ではない。私の相手はお前ではない。相手をしている暇はない。お前など眼中にない。


幾つか言いたいことはあったが小百合はこの一言に自分の感情を全てを凝縮することにした。


「私の弟子をなめるな?」


小百合がその言葉を言い終えた瞬間、康太がカツキチに襲い掛かった。


完全な不意打ちだった、未来予知をする暇も与えずに暗闇に紛れてその首を両腕で締め上げる。


「あぐ・・・!お・・・のぉお・・・!」


完全に首絞めが決まっている。だがカツキチもすでにこの男がまだ戦えることを理解したのか肉体強化を全開にして康太を振り払おうとする。


単純な力比べでは勝ち目はないとすでに理解している康太は相手が臨戦態勢に入ったことを悟るとすぐに首絞めを解いてカツキチの体を足場にしてほんのわずかに跳躍し前に躍り出ようとする。


だがその瞬間に苦し紛れに振り回したカツキチの拳が康太の左肩に直撃する。


肉体強化がかかっている状態での拳をまともに受けてしまった康太は肩から歪な音をさせた。激痛が脳内をかき乱す中、康太は自分の左腕が動かないことに気付く。


折れてはいない。これが肩が外れるというやつかと歯を食いしばりながら空中で回転しようとする体を、再現の魔術で足場を作り無理やり制動をかけながらカツキチの前に躍り出るとその腹部めがけて思い切り蹴りを叩き付ける。


瞬間、康太は蓄積の魔術を解放した。


先程槍を掴まれたときに何度もたたき込んだ蹴り、康太はあの段階で既に仕込みを終えていた。


腹部の一点めがけて叩き込んだ蹴りは蓄積の魔術によって物理エネルギーを蓄えていたのである。


一撃に集約された攻撃はカツキチの巨体を後方へと吹き飛ばす。康太はそれを追うかのように飛び出した。


そして同時に康太めがけて一本の槍が飛翔してくる。それは先程放り出された康太の槍だった。


完全に見切ったうえでそれを受け取ると、吹き飛ばされたカツキチの体は巨大な土の塊に叩き付けられ身動きを封じられていた。深々と土にめり込み、その身を包む土は硬質化し、肉体強化をかけている状態でも上手く動くことができていないようだった。


槍を持った康太は肉体強化をかけるとその体めがけて槍を突き立てようとする。

だがカツキチもそのままやられるほど甘くはなかった。


手のひらにのみ光る装甲を展開すると康太の槍を掴みギリギリのところで押しとどめる。康太の槍はあと数センチもあればその肩口にめり込んだことだろう。


「あ・・・まいわ・・・この程度・・・!」


「・・・この程度で済ますわけないだろ」


康太は肉体強化の魔術をそのままに、分解の魔術を発動すると槍の何かが外れる音がする。それが一体なんなのかカツキチは理解できなかった。


そして今度は蓄積の魔術を解放する。それによって康太の槍『竹箒改』のギミックが発動した。


竹箒本体の先端部から杭、いや巨大な針が勢いよく射出されカツキチの肩に深々と突き刺さった。


これが康太の槍のギミック。槍本体に内蔵した一発限りのパイルバンカーもどき『大蜂針』である。


その肩に深々と突き刺さった巨大な針は、カツキチの体を背後にある土の塊に完全に打ち付けるような形となっていた。


もはやこの針を抜かなければカツキチは動くこともままならないだろう。


だがそれで終わらせるつもりはなかった。この男が頑丈であることは康太はよく理解している。


だからこそこの場を離れた。


瞬間、カツキチめがけて巨大な岩のハンマーが襲い掛かる。逃げることもできず、叫び声をあげることもできずにカツキチの体は巨大な岩のハンマーによって打ち据えられた。


寸でのところで防御するも、高威力の一撃の前には無力だった。


強力な一撃を前にカツキチは強く頭を揺さぶられ、脳震盪を起こしたのかそのまま意識を喪失してしまっていた。


「ナイスタイミングです姉さん、助かりました」


「肝が冷えましたよ。あんなことはもうなしですよ?」


康太がカツキチの攻撃を受けて何故無事なのか、その答えは単純だった。


一撃を受ける瞬間、康太の体を後方に運ぶように真理が念動力を使ってフォローしたのである。


衝撃を後ろに逃がされた康太は結果的に吹き飛ばされるがその体に負ったダメージ自体はそこまで多くなかった。


真理は一度康太がいなくなったことを確認すると康太が落とした槍を回収するため離脱。康太の体勢が整うまで準備を整えていたのである。


逃げろと言った康太の言葉、そして康太の言葉に呼応するかのようにその場から離れた真理はカツキチからすればその言葉の通り逃げたように見えたのだろう。


これでもしあの時何も言わずに真理が逃げたら、カツキチの脳裏には逃げたのではなく、一時離脱して機会をうかがうかのように見えたかもしれない。


だが康太の言葉により、相手が逃げたのだという認識が強まった。そのせいでこの二人が再び牙をむく可能性を考え切れなかった。


意識的に、いや無意識のうちにいつの間にか油断を強いられた。


この男の目には康太と真理がただやられ、ただ逃げたように見えただろう。


実際は、互いに互いをフォローしたうえで態勢を整えるためだったという事だ。


「ビー・・・その腕は?」


「あはは・・・ちょっとやらかしました・・・避けきれればよかったんですけど・・・全然動かないっす」


「・・・肩が外れているだけですね。今のうちにいれちゃいましょう。痛いけど我慢してくださいね?」


軽くそんなことを言って真理が康太の左腕を掴むと、先程のとはまた違ういびつな音が康太の肩から聞こえ、その肩から激痛の信号を康太の脳へと届け始める。


「・・・んが!いってぇ・・・!・・・あ、あとは師匠がきっちり決めてくれるのを待つだけですか」


「えぇ、私達の仕事はほとんど終了です。少しくらい休んでも構いませんよ?」


「・・・はは・・・そう・・・ですね・・・ちょっとばかし・・・休みます・・・」


康太は肩から走る激痛に耐えながらその場に腰掛け大きくため息を吐く。肉体強化も併用してだましだましで動いていたが、康太が抱えたダメージは思ったより大きいのだ。


多少は真理のおかげで軽減されたとはいえ、相手の一撃を思い切り受けてしまった。しかも着地時にだいぶ派手に体を打ち付けた。もちろん受け身はとったつもりだし、吹き飛ばされた先が廃屋だったおかげで体にはそこまでダメージは入っていない。だがそれでも体には確実に痛みと疲労が蓄積されている。


「あぁ・・・そうだ・・・あとでこいつの針入れなおさないと」


「あの針ですか・・・なかなか大きな針ですね」


「えぇ・・・蜂の毒針というには、少々大きいです」


康太の槍、竹箒改の先端パーツに込められていた針。あの針は康太の蓄積の魔術によって物理エネルギーが蓄えられていた。そしてその針を止める金具を康太は分解の魔術によって外し射出できるようにした。


蜂の針というには確かに大きいかもしれない。だがそれでも康太にとっては大きな威力を持った武器だ。


一撃に込められた威力で言うなら今持つ中で一番攻撃力が高いだろう。貫通力も、その効果も今までの武器の中では随一だ。


これからこいつには世話になることになると思いながら、康太がため息をついていると近くから轟音が響いてくる。


「あっちもだいぶ派手にやってますね・・・」


「そうですね・・・とにかく少し休んでください。今治してあげますから」


「・・・ありがとうございます・・・でもこいつが動き出さないように見張っててください・・・生きてはいるみたいですけど・・・万が一ってこともありますから」


「・・・わかりました。もう少しの辛抱ですよ」


真理が今回これほどまでに無傷でいるのは偏に康太が前に出続けてくれたおかげだ。自らが未熟であると理解しながら、相手には敵わないと理解しながらそれでも前に出続けてくれた。


痛みの恐怖もあっただろう。格上と戦うという不安もあっただろう。そう言ったものをすべて押しとどめて康太は戦ってくれたのだ。


「ビーはもう一人前ですね」


「まさか・・・一人前なんて程遠いですよ・・・」


「いいえ、ビーはもう心構えだけは一人前です」


「ははは・・・まだ実力は足りてないってことですね・・・」


「はい、まだまだ精進が足りません。ですがとても素敵でしたよ?」


そう言って真理に頭を撫でられ、康太は苦笑してしまう。


真理のような女性に素敵だと言われるのはとても嬉しい。弟弟子として一人の男としてこれ程名誉なこともないだろう。


だが同時に、まだまだ子ども扱いなのだなと思ってしまうのだ。それが少しだけ残念で、少しだけ嬉しかったりもするのだ。


矛盾しているかもしれないが、そう思ってしまうのだから仕方がない。頼りにできる大人がいるというのは、嬉しくも恥ずかしく、また有難いものだなと思いながら康太は大きく息を吐く。


これで今回の自分たちの仕事はほぼ終了だなと、そう実感していた。


誤字報告を五件分受けたので二回分投稿


これからもお楽しみいただければ幸いです

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