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ポンコツ魔術師の凶運  作者: 池金啓太
三話「新たな生活環境と出会い」
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魔術師としての戦い

康太と校舎三階にいる魔術師『ライリーベル』との視線の交換が終わったところで、康太はゆっくり校舎へと歩を進めていく。


校舎に入るための扉はすでに開かれている。この校舎の中が恐らくは戦いの場なのだろう。康太は気を引き締めてゆっくり深呼吸をしていた。


これからようやく魔術師としての戦いが始まるのだという期待と不安を胸に歩き出したのだが、ライリーベルが窓を開けてこちらに手をかざしているのが見える。


早く来いとジェスチャーで伝えるつもりなのだろうかと高をくくっていたが、それが自分の意図したものではないという事を康太はすぐに理解できた。


肌で感じる魔術の感覚、自分を狙っているのだという緊迫感が康太の足を急がせた。


何より相手の体が僅かに明滅しているのだ。いや正確にはその周囲に光る何かを纏っていると言ったほうがいいかもしれない。


康太が全力で走ると、夜の暗闇を切り裂くように光が走り先程まで自分がいた場所に大量の電撃が降り注いだ。


空気の破裂するような音が響く中電撃を浴びた地面は僅かに焦げている。これが相手の魔術だと理解するのに時間は必要なかった。


初撃は回避した。だがそれで安堵していられるような状況ではないのは康太自身理解していた。未だ肌で感じる威圧感と敵意、そして自分が攻撃の的になってしまっているという恐怖が康太を襲い続けている。


それを証明するかのように康太めがけて電撃が連続して襲い掛かる。


康太は全力で走り、校舎の中に入ろうとしていた。陸上部で鍛えたこの走りをまさか魔術師戦で活かすことになるとは夢にも思わなかったが、この時だけは陸上部でよかったと心の底から思ったものである。


電撃を間一髪で避けながら校舎の中に転がり込むと一旦電撃は止み、周囲に静寂が訪れていた。


とりあえず危機は脱した。そう実感して康太は安堵の息をつく。だがまだ安全な状態になったというわけでも戦いが終わったわけでもない。


康太は勘違いしていた。これから魔術師としての戦いが始まるのではない。もうすでに魔術師としての戦いは始まっているのだ。


ライリーベルはそれを理解している。やはり相手の方が魔術師としては上なのだろう。技術面でも心構えの上でも自分よりいくつも格上だ。


だがそれはわかっていたことだ。相手はAでこちらはC-。この格付けだけでもすでに相手が格上なのは百も承知していたことだ。


だが収穫もあった。まず相手の魔術の一つを確認できたこと。


電気を元にした攻撃だというのはすぐに理解できる。確実にこちらに狙いを定めてきたことからある程度操作することはできるようだが、恐らく精密な射撃には向かない魔術なのだろう。


もし精密射撃ができるのであれば康太の移動先を読んで狙いをつけることもできたはずである。


そしてライリーベルの体が発動前にわずかに発光していたという事は、恐らく体の周りに電気を発生させていたと考えるべきだろう。つまり自分の体から離れた場所に電気を発生させているのではなく、自分の体から電気を放って飛ばしていると考えるのが自然だろう。


恐らくあれは牽制、こちらが悠長に歩いているのを見てとりあえず先手を打とうという考えの下、当たらなくてもいいくらいのつもりで放たれた魔術だ。避けられて当然と思ったほうがいい。


相手の方が何枚も上手なのだ。考えすぎくらいの方が丁度いいのだ。


康太は校舎の中を見渡す。ここは下駄箱の置かれている玄関口のような場所、相手がいるのは三階、ここから階段を上る必要がある。


もちろん相手もそれを理解しているだろう。相手の方が先にこの場にたどり着いているという時点でトラップなどの類が仕掛けられていると思っていい。


周囲を警戒しながら康太は竹刀袋の中から一本の木刀を取り出す。


真理がかつて使っていたという木刀。柄の部分に方陣術のようなものが描かれているが、中身のないただの張りぼてだという。要するにただの木刀だ。


自分にできる事と言えば魔術が二つ、そしてこの木刀での攻撃くらいである。相手の魔術一つは理解した。だがそれだけでは勝てない。なにせ相手の魔術は自分の何倍何十倍もあると考えていいのだから。


康太はゆっくり階段を上がり、三階にいると思われるライリーベルの元へと向かおうとする。


一応二階部分を覗いたのだが、夜の暗闇という事もあって何も見えなかった。ある一定から急に暗くなっておりその先を見ることができなかったのである。


向こう側を見ることもできないほどの暗闇、いや途中まで見えているかも怪しい。

夜の学校というのが怖く見えるのはこういった暗闇が原因の一つだろうなと康太は実感していた。


さすがに何の明かりもついていない状態ではこんなものかと康太はそのまま三階へと歩を進めていく。


トラップなどを警戒していたのだが、階段を上っている間はそれらしい干渉は全くと言っていいほどなかった。


康太に聞こえるのは自分の足音だけ、そう言えば上履きに履き替えてくるのを忘れたななどという学生らしいことを考えながらも自分が土足である現実を理解したうえで心の中で謝罪する。


アスファルトの上を歩いてきただけだからそこまで汚れてはいないはずだと自分に言い聞かせながら三階にたどり着くと、向こう側まで続く廊下の丁度中心辺りにその人物がいるのが見える。今日の相手、魔術師『ライリーベル』


康太は廊下をゆっくりと進みとりあえず話しかけることにした。


万が一にも相手が違うと困る。何より相手の事も何も知らないというのはこちらとしてもやりにくいのだ。


暗闇でよく見えないが、黒い外套と岩か金属のようなものを模した仮面。そしてその身長と体格から男性ではなく女性ではないかとあたりをつけていた。


「ライリーベル・・・で間違いないな?」


「・・・相違ないわ。そちらは?」


「・・・ブライトビーだ」


声を聴いて康太の考えは確信へと変わる。澄んだ声だ。目の前にいる魔術師が女性であるというのは確定的になった。


そして康太はその声をどこかで聞いたことがあると感じた。当然と言えば当然かもしれない。なにせ目の前にいるのは自分の同級生なのだ。


同じクラスかどうかは判断できないが正直言ってやりにくいことこの上ない。


ライリーベルが立っている位置を確認したうえで康太は歩みを止める。


廊下のほぼ中心、二階に比べて視界は悪くない。しっかりと向こう側まで見渡すことができる。


自分達が使っている校舎ではない。恐らく別の学年用のものだろう。それぞれの教室の扉は薄く開かれている。


普通この時間の教室はすべて鍵も閉められているのが普通なのだが、こうして開かれているところを見ると何かしら工作作業を行ったのだろう。


どのようにしたのかはわからないが、少なくとも選択肢が広がったのは確かである。


「私の師匠があなたを倒せとうるさくてね・・・悪いけどやられてくれるかしら?」


手をこちらに向けながらそう言うライリーベルの言葉に康太は眉をひそめる。そう言えば彼女の師匠と自分の師匠は変な対立をしているのだった。


相手側からの一方的な対抗心なのかどうかは知らないが、こうして敵対心を燃やされるというのは正直いい気はしない。


何より目の前にいるライリーベルはそこまで乗り気ではないように見えた。恐らく彼女の師匠程誰かに対して対抗心を燃やすという性格ではないのだろう。

こちらとしてはありがたい限りである。


「・・・こっちの師匠もお前を叩き潰せってうるさくてな。そうしないと俺が叩き潰されるらしい」


「そう・・・お互い師匠には苦労するみたいね」


「まったくだ・・・師匠同士のいさかいに弟子を巻き込まないでくれって感じだよ」


互いに乗り気ではない。この会話からはそう取れる。だがその場で対峙している二人は互いの感情を正しく理解していた。


乗り気ではない。確かに師匠の都合に巻き込まれるのは性に合わない。

だが負けるつもりは毛頭ない。


それは互いが思っていることだった。そして両者ともにそれを肌で感じている。


ライリーベルの体がわずかに発光しているのを康太は見逃さなかった。その発光が体に電気を纏っているのだということに気付けると、康太は即座に近くの教室の扉を開きその中に飛び込む。それと同時に、いやライリーベルの行動の方がほんの少し早かった。彼女の体から放たれた電撃は一直線に廊下を進み康太がいた場所までほぼ直進すると廊下の地面や壁に吸い込まれるように消えていった。


教室の中に入り込むことで回避していた康太はその被害を受けることはなかったが、今の現象を見て僅かに眉をひそめていた。


先程自分にはなってきた魔術と同種のものであるというのは理解できるのだが、軌道に違和感を覚えたのだ。


先程自分を襲ってきた電撃は空中から地面に向けて直進していた。それこそしっかりと自分めがけて襲い掛かってきていたのだ。


だが今の電撃は自分が先程までいた場所から急に軌道を変えて壁や床などに吸い込まれるように着弾した。まるで野球の変化球のような軌道である。


今の軌道に一体どのような意味があるのかと考える暇もなく、ライリーベルも自分と同じ教室に入って再び魔術を放ってくる。


体は常に発光、というより電気を纏っている。彼女の主力の魔術が電撃であるのはまず間違いないだろう。彼女が手を抜いているのであれば話は別だが。


机や椅子が大量にある場所にもかかわらずその体から一気に電撃を放ってくる。これだけの魔術を連発できるあたりさすがとしか言いようがない。もし自分が同じ魔術を発動したらどれくらい連発できるかなど考えたくもなかった。


康太は近くにあった椅子を軽く投げて盾代わりにすると、電撃は椅子に直撃し放たれた電撃をすべて取り込んでしまう。


少しの間放電していた椅子は放物線を描いて地面に落ちると同時にその電撃は床に吸収されて行ってしまう。


この挙動から康太は小さくなるほどと呟いていた。


先程から放たれている電撃、康太は当初あれは普通の電気や雷と同じものだと思っていたがどうやら違うようだ。


アニメや漫画などでは電気が飛んでいくような光景はよく見られるかもしれないが、実際にそれを人間が知覚することは難しい。


仮にできたとしても一瞬光ったくらいにしか感じることはできないだろう。電気というのはそれだけ速く移動するのだ。


康太が相手の魔術の発動を察知してから行動しても十分に間に合うという事はつまり彼女が発生させているのは電気の性質に限りなく近い別物なのだろう。


空中での不規則な動きや、地面に流れていったという事を鑑みる限りある程度電気としての性質を備えているのだろうがその速度に関しては本物のそれとは比べ物にならないほどに劣化している。


あえて速度を落とすことで制御を容易にしているのかもしれないがどちらにせよ康太にとってはありがたいことだった。


椅子の一つを手に取って再び廊下に出ると、一気に走り出す。自分を追って再び廊下に飛び出してきたライリーベルめがけて椅子を一つ今度は全力で投擲して見せた。


そのまま椅子が直進すれば直撃する。そう言うつもりで投げた。


相手の電撃は確かに強力かもしれないが、物理的な衝撃などは全く存在しないのだ。


つまり物理的な攻撃に当てることはできても防ぐことができない。つまりは物体の投擲や射撃に対して弱いのである。


康太の考えが正しければあれは電撃では防ぐことはできない、急いで追ってきたという事もあってほぼ不意打ちに近い形で攻撃できた。緊急回避すれば康太は一気に懐に入ることができるだろう。


康太の思惑に反し、ライリーベルは冷静だった。


緊急回避すれば確かに魔術を晒すことなく攻撃することができるだろうが、彼女はあえてそうしなかった。


自身に襲い掛かる椅子に目を向け、小さく何かを呟くと彼女の周囲に風が巻き起こる。


その体から放たれる風は廊下を吹き抜け、康太が投げた椅子の軌道を変えるには十分すぎる威力だった。


電撃に加え風を扱う。これだけで既に相手の方がどれだけの魔術の種類を有しているかということがわかる。


だが防御に加え彼女は追撃も行って見せた。


風を巻き起こしながらその体にわずかながらの光を纏ったかと思うと、電撃が放たれようとしていた。


全力で走っているような状況では避けきれるはずもない。何より教室の扉と扉の間なのだ、教室の中に入って回避するということができない。


万事休すかと思ったその時、康太はその視線の先にあるものを確認して手を伸ばし魔術を発動する。


康太の持つ魔術の一つ『分解』


接合されたものを外し、文字通り分解することができる魔術。構造が複雑であればあるほど必要な魔力の量は多くなるその魔術を康太はそれを天井に存在する複数の蛍光灯に使用した。


蛍光灯というのは外すのは簡単だ。少しひねって下におろすだけで簡単に取り外せてしまう。


康太の魔術によって力を加えられた蛍光灯は何の抵抗もなく外され、ゆっくりと地面へと落下していく。


その瞬間、ライリーベルから電撃が放たれた。


電撃は廊下を直進し、そのままの軌道を描けば康太に直撃しただろう。


だが康太の進行方向にある蛍光灯が、丁度その電撃の進路を妨げた。康太の分解の魔術の干渉によるものか、それとも巻き起こっていた風によるものか、蛍光灯は康太を守るように、そして電撃の軌道を逸らすかのように落下していた。


電撃は蛍光灯に吸い込まれ、ほんの一瞬蛍光灯に光をつけたかと思うとそのまま地面に落下してしまっていた。


だが十分に電撃を防ぐことはできた。全力で移動している康太は自分の手に握っている木刀を思い切り振りあげた。


風か電気か、このゼロ距離の状態で扱える魔術はほとんどないだろう。


康太が木刀を思い切り振りおろすとライリーベルは後方に跳躍するような形でそれを回避して見せた。


さすがに木刀に対して無防備に攻撃を貰ってくれるほど甘くはないかと、先程投げた椅子を回収しながら康太は再接近しようと試みる。


だが相手としてもそれを許すはずがない。全力で康太から離れるべく廊下を一直線に走っていた。


この行動から恐らく彼女は近接戦闘は不向きなのだと確信していた。


訓練の時から教えられていたことではあるが、魔術師は基本的に近接戦を好まないらしい。


魔術で攻撃すればそもそも殴り合う必要などないというのが基本的な考えなのだろう。わざわざ射程の短い攻撃をするよりも長距離の攻撃ができるのだから当然の考えではある。


今まで訓練してきた小百合がバリバリの武闘派だったためにこの行動には非常に強い違和感を覚えていたが、今はそれが功を奏していると言えるだろう。


再び康太の方向に風が吹くと、康太はその風がわずかに湿っているように感じる。


風を操るにしてももう少し乾いた風を出してくれると涼しげでいいのだが、こうも湿っていると妙に不快感をあおる。


そしてその体がわずかに発光したのを確認してから康太は持っていた椅子を再びライリーベルめがけて投擲する。


康太の予想通り放たれた電撃を椅子が受け止めると、床に落下すると同時にその電撃は床に流れていってしまった。


先程からこの電撃の攻撃も妙だ。こちらを狙えるのであれば椅子が投擲されてもそれを避けることもできるだろうし貫通することだってできるはずだ。


それができないとしたら、あの電撃はあくまで電気の性質を保持したまま放たれているということになる。


そこまで考えたうえで康太は眉をひそめた。


先程の湿った空気。風が巻き起こることで意識できたが、自分の周りに妙に湿り気があるのは学校にたどり着いた時からではなかったかと。


あの電撃がもし電気としての性質を持ち続けているのであれば、もしかしたら厄介かもしれない。


つまり、ライリーベルは三種類の属性の魔術を扱えるのではないかという話になってくる。


雷、風、そして水。


電気というのは空気の中を通るにはとてつもない電圧が必要になる。空気自体が絶縁体であるゆえに、雷のような膨大な力でない限り空気を裂いて進行するというのは不可能なのだ。


そして電気は基本的に抵抗率の低い方へ低い方へと移動する。だからこそ雷は不規則な動きをしながら地面へと落下していくのだ。


だが今この状況であの電撃は少なくとも康太めがけて襲い掛かってきている。つまりある程度狙いを定めることができているという事だ。彼女の体の周りに電気が発生してから自分の元へと届かせる何かを、彼女は行っているのだろう。


誤字報告五件分、評価者人数が65人突破したので三回分投稿


こんだけ書いてようやく戦闘ですよ。ちょっとダラダラ書きすぎたかな・・・


これからもお楽しみいただければ幸いです

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